「あれが…」
機体を待機モードへと移行させながら、コクピットのモニターに映るそれを見つめる。
その先には例の基地がポツンと立っている。
周囲を鬱蒼とした木々に囲われながらも物騒な砲台が見え隠れしており、言葉で言い表せない圧を放っていた。
『はい。今回キサラギ社の依頼で襲撃対象となる鉄血の砲台基地です。見た所、警戒態勢には入っている様子はなさそうですが、距離には十分に注意して下さい、レイヴン』
「ああ」
サイレントラインの時とは違い、このコクピット内にはエアの姿はない。
だが今回の一件にエア自らオペレーターとして立候補している。
とは言え、エアはサイレントラインで捕虜として捕まっていた事やサイレントラインから無事脱出した後も殆ど動きっぱなしだったので流石に負担になり過ぎると思い、基地のオペレーター頼ろうと思っていたのだが──
─私はレイヴンの専属オペレーター…その座を譲る気はありません─
と、周囲にコーラルの様な赤く発光する粒子みたいな幻覚を放ちながら毅然とした態度で言い放つものだから、誰もそれに逆らう事は出来なかった。
とは言え、何処かのタイミングでI.O.Pに行って貰わなくてはならないのは事実。
身分を作り上げる為とはいえ、エアはI.O.Pから出向している特殊人形という扱いだ。
基地の方に身を置いているのもその稼働データを収集及び提供。またその収集データを用いて今後の人形開発に役立てるという役目がある。
ある程度の自由は確保されているものの、長らく向こうに顔を出していない。
流石にそれでは今後の関係に響くので、この作戦が終えた後は向かってもらう事になっている。
『二人とも、作戦前の最後のブリーフィングを始めます。画面共有した後、ブリーフィングに参加して』
「了解した。そう言えば、別の基地の部隊は来ているのか?」
『はい。今しがた合流地点に到達したと連絡がありました。顔合わせはブリーフィングと同時に行います』
今回はフィオナ指揮官率いる部隊とは別に、隣の地区に存在する基地からも部隊が出ているらしい。
元々、この砲台基地はその地区の管轄内に存在していたらしく、その基地の戦力で行う作戦だったらしいが、あの巨大兵器の出現に加えて大型砲台が後に展開されるであろう作戦の要になる事を理由にフィオナは相手の指揮官に交渉を実施。
他の基地が首を突っ込む事になるにも関わらず向こうは快く受け入れ、共同作戦を展開する事となった。
そしてその基地の部隊が今、来たらしい。
『隣の基地から部隊…確かS10地区前線基地からの部隊でしたね』
ブリーフィングに参加する為にモニター画面を切り替えていると通信越しからエアがそんな事を口にした。
彼女が言った通り、今回の作戦で参加する隣の基地の部隊というのは、S10地区前線基地からの部隊だ。
「噂によれば、相当のやり手らしい。これまでにも幾つもの大規模作戦を完遂させている」
『それほどまでの実力を持っているのであれば、こちらからの提案を蹴っても良かったのではないのでしょうか』
それだけの実力があるのだ。エアが言っている事も分からないでもない。
だが、わざわざ作戦の参加を許可したには裏がある。
そしてその裏の一つであろうそれを察していた。
「…ACの力を見ておきたいと言えば、どう思う」
『…成る程』
S10地区前線基地もそれなりの戦力を保有していると聞く。
中には表に出せないものもあるらしく。本社…いや、あのクルーガーは黙認している他、上手いこと外部に漏れないように隠しているらしい。
その様なものも有している唯一の基地がある中、似たような基地が出てきた。
それがフィオナが統べるS09地区前線基地 第9支部の存在だ。
この基地もACという機動兵器に加えて、それを駆る傭兵らを自身の元に置いてある。
形だけの雇われとは言え、今の戦況をひっくり返そうと思えばひっくり返せる事が出来る戦力。
気にならない方が可笑しいとも言えるだろう。
『これより作戦の確認を行います』
若干、相手の基地の思惑に不信感を抱く中で画面が切り替わり、ブリーフィングが始まる。
『座標はXT45ポイント、目標は鉄血管理下にある大型砲台基地の襲撃及び、その占拠となります。周囲を大型砲台で固めたこの基地は以前から脅威とされていましたが、調査部隊からの報告で改良が施されたジュピター砲の存在が明らかになった事で脅威度AからSへ繰り上げ、今回の作戦に至りました』
依頼主であるルルリアからの情報からでも改良型ジュピターの存在は知っていたが、グリフィンも調査部隊を派遣してその存在を知ったのだろう。
迎撃用として配備された砲台を見ても、この改良型は一際異彩を放っている。
…どことなく、カーラが作った玩具『オーバードレールキャノン』にも見えなくないのは何故だろうか。
『本来であれば砲台基地の戦力を殲滅するのが一番なのですが、先般出現した巨大兵器、我々はこれを『違法建築物』と呼称…それへの対抗手段の一つとして、この改良型を損傷なく確保してほしいという指示が出ています。またこの指示は上から、及び我々S09地区前線基地 第9支部と独自に業務提携をしているキサラギ社からの要望でもあります』
この一件には企業が絡んでいる。
これを隠して、上からの指示だと言った所で余計な不信感を与えるだけでしかない。
こうして明かしている辺り、フィオナ自身も分かっているのだろう。
『また今回の作戦はS09地区前線基地 第9支部とS10地区前線基地との共同作戦です。部隊との連携が必須であり、これなくしては作戦の完遂は不可と見ています。此処からは作戦の展開を確認します。…シーナ指揮官、お願いします』
フィオナが、S10地区前線基地の指揮官『シーナ』と呼ばれる人物と通信を変わる。
その証拠にモニターにはS10地区前線基地のエンブレムが浮かび上がっていた。
…にしても少々凝ったデザインだな。不吉な象徴でもある筈の
珍しい事にその悪魔の目から涙が流れており、そこに銃や剣も描かれている。
悪魔すらも狩るといった意味合いだろうか…それとも
風変わりだが、これはこれで面白いエンブレムだ。
『初めまして、S09地区前線基地 第9支部の皆さん並びに独立傭兵レイヴン、そしてオペレーターのエアさん。私はS10地区前線基地で指揮官を務めています、シーナ・ナギサと言います。私の事はシーナと呼んで下さい』
若い。
その声を聞き、一番に思ったのがそれだった。
この作戦に出向く前にチャティに少し調べて貰った所、このシーナ・ナギサという人物は指揮官という立場にありながら19歳なのだと言う。
年端のいかない少女が血生臭い戦場に身を投じる。様々な理由でACを動かすだけの道具に成り果ててしまった子供達…いわゆる強化人間らの存在を知っている為か大して驚きはしなかった。
一方でグリフィンは万年人材不足なのだろうかとそう思わざる終えなかった。
或いは何らかの理由で、そうせざる終えなかったのか。
その真意は分からずともこの若い少女が指揮官をしている辺り、何らかの理由があるのは事実だ。
『事前の情報で知っての通り、この基地には複数の砲台が設置されており、それを守るかのように機甲部隊が配備されています。そこにイェーガータイプといった狙撃型、ストライカータイプといった火力型といった人形部隊も配備されており、一筋縄ではいかない戦力を保有しています。そこで──』
画面に映し出されるは、基地の立体図。
そこから左右から挟み込むように矢印が伸びていた。
どうやらS09地区前線基地 第9支部の部隊が後方から、S10地区前線基地の部隊が正面から攻め込む流れで行くらしい。
『こちらはMG、SG、RFといった人形で編成しており、特に火力及び耐久力に秀でた編成となっています。その特性を踏まえた上で我々は正面から敵の攻撃を引き付け、狙いを此方へと向けさせます。その内にフィオナ指揮官率いる部隊が手薄となった後方から基地へと突撃、背後から攻撃を仕掛けて下さい』
「こちらはどう動けばいい」
『そちらは私の部隊が基地に対して攻撃を仕掛ける直前に、ACの火力を用いて襲撃をかけてください。ACと部隊による襲撃。同時に起きれば敵の狙いは分散し、ある程度の損耗及び被害を抑えられると見ています。一応確認しますが、乗機であるRe:LOADER4には連装グレネードにミサイルを装備していると聞いています。それには間違いないですか?』
「ああ。それら以外にアサルトライフル、パルスブレード、エクステンションのアサルトアーマーを装備している。特にアサルトアーマー発動時は人形にどのような影響を及ぼすかは分からない。その際は遠くに離れるといった措置を取ってほしい」
『了解しました。そのアサルトアーマーとやらを発動する際は事前に一言お願いします。それが難しいようであれば、何らかの合図をください。それを見て、我々も後退します』
「了解した」
合図か…取り敢えずエアと事前に決めておくのが良さそうだ。
幸い強化人間であるからか、戦闘中だとしても通信は行える。
アサルトアーマーの発動が必要になった際は、エアを通じて伝えておくのが良いだろう。
『作戦前のブリーフィングは以上です。…基地の戦力は事前の知っての通り、被害は避けられないにしても全員無茶せずに帰ってくること。全員生還を以って作戦の成功とします』
『共同作戦とは言え、S10地区前線基地の部隊に無理を強いてしまっているのは事実。即座の対応が重視されます。私達も迅速かつ柔軟な動きで事に当たりましょう。シーナ指揮官と同じく、全員の生還を以て作戦の成功とします。…皆、気を付けてね』
二人の指揮官による言葉を最後にブリーフィングが終わる。
モニターが何時ものへと切り替わっていき、こちらも即座に準備を始めていく。
『S09地区前線基地 第9支部とS10地区前線基地による共同作戦。その成否の要はレイヴン、貴方にかかっていると言っていいでしょう。フィオナが言う様に迅速かつ柔軟な動きが求められます。両部隊に恥じない動きをしましょう。…何時もの様に、私が貴方をサポートします。貴方は戦闘に集中してください、レイヴン』
「ああ。サポートを頼む、エア」
『はい…!』
操縦桿を握り、神経をACと接続する。
《メインシステム──》
何時もの様に、COMボイスが淡々としゃべり出す。
機体全体に伝わる駆動音。網膜投影がACに関する全ての情報を映し出していく。
《戦闘モード起動》
「…!」
操縦桿を前に倒し、フットペダルを勢いよく踏む。
アサルトブーストの起動。同時に襲い掛かる何時ものG。
既に慣れ親しんだそれを身に受けながら、動き出したであろうS10地区前線基地の部隊とは別の方向から基地へと突撃していく。
木々の前を超高速で駆け抜けていく。既に基地の警戒網には入っている。
だが、妙な事にこちらに対する基地の動きはない。それどころか妙な静けさを保っていた。
それにあれは…黒煙だと?
『…ッ!?全部隊に通達!直ちに停止してください!』
既に起きていた異常事態を察知したエアが通信越しで叫ぶ。
突然の事に人形らの戸惑う声が通信越しから耳にしながらもそのまま基地内に侵入し、機体を降り立たせた。
着地の振動を体が揺れる中、そこに広がっていた光景を見つめる。
『…戦闘が既に終わっていて…!?』
破壊された砲台。破壊された人形。転がる残骸から浮かび上がる黒煙と炎。
それら全てがエアが言ったように既に戦いを終えた事を表していた。
「…夕暮れ時、か」
浮かぶ空は橙色に染まり、浮かぶ雲の隙間から陽の光が差し込んでいた。
何処かで見たような光景。…当然覚えがない訳ではない。
あの時は敵味方が全滅していた。違いはそれだけであり、この先の展開を薄っすらと読めた気がした。
ブーストを吹かして、機体を動かす。
何処かもかしこも派手にやられている。
それでこそACの様な巨大兵器を用いてではないと出来ない程のやられ方をしていた。
「…」
丁度、基地の中央に位置する辺りだろうか。
そこに例の砲台はあった。ただ他と違って目立った損傷は見受けられない。
どうやらこれ以外を残して、全て殲滅したと言うのだろう。あの時と同じように
そこでふと気づく。あの時と同じように、夕暮れ時の空の下で静かに佇むその存在に。
「…やはりな」
『…まさか』
今更驚かない。寧ろその予感はしていた。
一方でエアは僅かに驚いている様だが、無理もない。
あの場所で死んだ者達が何らかの形でこの世界に流れ着いている。ともすれば、それは奴も例外ではないのだ。
ただ強いて言うのであれば、あの傭兵の行動理由が分からないといった所だろうか。
突然現れて、まるで試すかのに挑んできた。あの時は辛うじて勝てたが…さて、今回はどうだろうか。
『…』
此方に気付いたのか、Re:LOADER4と同じ姿をしたACがゆっくりと振り向き此方を見下ろしていた。
あの時と変わらない。何もかも変わらない。此処から起きる事も含めて、変わらない。
だからこそだろうか。冷静を取り戻したエアが告げてきた。
『あの時は…借り物の翼でした』
──借り物の翼で、何処まで飛べるか──
思い出せば、あのACのオペレーターは確かにそんな事を言っていた気がする。
そんな事を思いながら操縦桿を軽く握り直すと同時に、此方と相手の機体の頭部のバイザーが下ろされた。
威圧する様にバイザーのセンサーが発光。そしてトリガーに指をかける。
『今度は私たちが見せてあげましょう、レイヴン』
「…ああ」
そして告げる。あの時とは立場が変わったと言わんばかりに。
『「この翼は、もう借り物ではないという事を」』
二機のAC。二羽の鴉。二つの翼。
世界を跨ぎ、再び夕暮れ時の空の下で、今それぞれの鴉が飛翔した。
お久しぶりです…いやはや、色々忙しくて投稿がこんなにも遅く。
本当に申し訳ない。
さぁて…この話では何処か見覚えのある名前や機体が出てきました。
お次は…戦闘かなぁ。
ではではノシ