人形ノ詩 鴉ノ詩   作:白黒モンブラン

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chapter 00-66

夕暮れの空へと向かって、断たれた腕が飛び、重油がまるで鮮血のように吹き出す。

弧を描いたパルス波の刃が消え去ると、その場には光が塵となってが微かに残る。

左腕を絶たれたナイトフォールは後ろへと吹き飛ばされながらも何とかして踏ん張るも片膝をついてしまい、対するRe:LOADER4は左腕に装備した武装を元の形へと戻しながら静かに下ろした。

微かな風、その中に炎と硝煙を交えながら両機の間を駆け抜けていく。

そして遠くから見ていた戦術人形達が、画面越しからその光景を見つめていた指揮官らが、その誰しもが知る。

戦いの音が消えたのだと。そう思えてしまう程に、先ほどの激しい戦闘の音が嘘の様に消えて去っていた。

 

「…」

 

陽が沈み、夜の帳が下り始めていく。

左腕を失い、片膝をついたまま動かないナイトフォールを見つめるレイヴン。

満身創痍とも言える程に装甲には無数の傷が刻まれ、コアの一部からは装甲が吹き飛び、黒煙と炎を吐き出していた。

だが動く気配がない。もしや死んだのか?

そうとも思えるほどに静寂を保つナイトフォール。この直後、それが間違いであることを知った。

 

「…!」

 

いつ爆発四散しても可笑しくない程のダメージを負ったにも関わらず、その身から火花や炎を吐き出しているにも関わらずナイトフォールが再起動。

下ろされたバイザーのセンサーが再び発行し、ナイトフォールがゆっくりと立ち上がった。

その見つめる先に居るのは先ほどまで戦闘を繰り広げていたRe:LOADER4の姿。

攻撃を仕掛ける様子もなく、只々見つめるのみ。その姿は何かを伝えようとしている様にも見える。

だが決して言葉を発することはない。あの時と同様に。

沈黙の一時。だがレイヴンには、何となくであるがナイトフォールのパイロット、本物のレイヴンが何かを伝えようしているのを微かに感じ取っていた。

だからこそ、思わず彼は聞いた。あの時に相対した時から抱いていた疑問を。

 

「お前は、何者なんだ…?」

 

アイビスの火で消失した筈のコーラル、その存在がルビコンで生きているという事をリークし、企業を呼び寄せた人物。

その理由も、あの時と同様にこうして戦う理由も定かではない。何より一番に疑問に感じていたのは──

 

「…あの場所で、倒れ伏していたのはお前だったのか?」

 

ルビコンに降り立って間もない時、封鎖機構のヘリと戦う前。

大破した輸送機の傍で倒れていたACの残骸から得た偽りの身分。

身分を得られたのは良い。ただそれだけの事。ウォルターさえも朽ちたACを気にする様子はなかった。

だがレイヴンはずっと、あの場にいたACが気になっていた。

バートラム旧宇宙港での相対した時、その疑問はより一層のものとなっていた。

あの時、あの場所で、出来上がったクレーターの地面に埋もれる様に倒れ伏すACもまた自身の目の前に立つナイトフォールと瓜二つだった。

違いを挙げるとするのであれば、一部武装が違っていたぐらいであろうがそれだけの話。

あの現場、まるで自らの死を偽装したかのような状況。

だがレイヴンにはそれだけではない何かがあるような気がしてならなかった。

 

「…だんまりか」

 

既に分かっていた事。ナイトフォールのパイロットが問いに答える筈もなかった。

であれば、交わす言葉などない。

レイヴンの目つきが鋭くなり、操縦桿のトリガーに指が掛かった。

同時に肩部に装備したグレネードキャノン『SONGBIRD』を展開、止めを刺そうとした時だった。

 

「ッ!?」

 

ナイトフォールの背部で稲妻が迸る。

それは先ほど見たアサルトアーマー発動の瞬間。

有効圏ではないもののレイヴンは即座に機体を後退。次の瞬間、ナイトフォールからパルスによる衝撃波が奔り、強烈な光が駆け抜けた。

 

(ラスティが使った手段と同じか…!)

 

攻撃ではなく、撤退する為の目くらまし。

加えて飛んでくる弾を打ち消す効果もあるのだから、逃げにも使える。

あの間はアサルトアーマーを再度発動可能にする為のクールタイムであったのを察するレイヴン。

アサルトアーマーが晴れる瞬間を突いて即座に追撃するが、既にナイトフォールの姿はそこにはなく、斬り落とされた左腕だけが残されていた。

 

「エア、相手の反応は?」

 

『…反応消失。既に撤退したみたいです』

 

だろうな、と答えながらもレイヴンはそっとほぼ沈みかけていた夕日を見つめる。

何のために現れたのか、何のために戦いを挑んできたのか。

レイヴンという独立傭兵。その本物の出現は同時に謎を呼び寄せていた。

 

『えっと…戦闘は終わりでいいのかな?何だが出番を全て取られた気もしなくはないけど』

 

『…ACが出てくるとはこちらの想定外でした。協力申請を出しておきながら、この始末…。大変申し訳ございません、シーナ指揮官』

 

『いいえ、大丈夫ですよ、フィオナ指揮官。お互いに損害なく基地の陥落に成功、加えて例の砲台も確保できたのだから結果オーライというやつです』

 

終わり良ければ総て良し。

そのほとんどをあのACが片付けてしまったのだから、仕方ない。

無駄足になったとも言えるが、それも仕方ないと言えよう。

 

『にしても…凄まじいね、AC同士の戦いって。現実として起きている事なのに、まるで映画を見ている気分だった。でも違う…それがコクピットの中であろうと、これは正真正銘の命のやり取りだって』

 

「…深く詮索はしないが、既にその手を汚していたみたいだな」

 

『14の頃にはべったりと汚れてた。丁度バレンタインデーの時だったかな。今も…必要であれば、そうするまでだよ』

 

「上の立場に就くと言う経験はないが、それもまた指揮官としての役目なのだろう。…椅子にふんぞり返って、雨風銃弾凌げる所で偉そうに指示を出す奴等とは違うという点においては、尊敬の意を示そう」

 

『ふふっ、有り難う』

 

そこで会話が途切れる。

気付けば空は暗く染まり、辺りが闇に包まれようとしていた。

 

『作戦終了。全員無事みたいだし、すぐに迎えを寄越すね。取り敢えず周囲の警戒を減にして現状維持。家に帰るまで少し掛かるけど…安心して。直ぐに迎えを行くから』

 

「こう言う時は…家に帰るまでが遠足だ、というやつらしいぞ」

 

『あははっ!確かにそうかもね。…よし、じゃあレイヴンの台詞を借りて、もう一度言うね?家に帰るまでが遠足だから、気を引き締める様に!…どうかなレイヴン、決まってたかな?』

 

どうかな、と肩を竦めながら答えるレイヴン。

しかし彼の頭の中には、自ら手をかけてしまった総長の声が響いていた。

 

─ただいまと手洗いうがいがセットだ!─

 

─それが出来て、ようやく愉快な遠足が終わる!覚えておけ!─

 

「…そんな遠足を出来ずにしてしまったのは俺だったな、総長…」

 

G13と言う名を与え、刺激を与えてくれた鬼軍曹。

そんな人物を手にかけてしまった事という後悔は、年月が過ぎようともレイヴンの胸の中で生きていた。




投稿が遅れて申し訳ねぇ…。
年末も近い事から仕事が大忙しで…執筆に時間を割く事が中々できなくて…。
短いですが、何卒お許しを。

次回は来年になるかもしれません。
ではでは次回ノシ
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