「オーライ、オーライ…よし、そのまま下ろせー」
「固定、急げよー!のんびりやってると朝を迎えてしまうからなー!」
行き交う重機の音と合図を出す作業員の声がその場で交わる。
空はとっくの前に暗くなっており、この場を照らしているのはキサラギ社から出向してきた作業員らが持ってきたスタンドライトのみ。
流石にACには投光器は備わっていないのか、レイヴンの機体『Re:LOADER4』は作業現場から少し離れた位置で片膝をついて待機していた。
S10地区前線基地の部隊は既に撤退。
この場に居るのはキサラギ社の作業員らと事後処理の為に留まっているS09地区前線基地 第9支部の部隊のみ。
姿こそはないものの基地と通信は繋いでいるらしく、フィオナも通信越しからではあるが事後処理の対応に当たっていた。
「にしても、凄まじかったわねぇ…、あのAC戦」
一応周囲の警戒に当たりながらも作業を見つめていたネゲヴは思い出したかのように話題に口にした。
以前の戦闘でもAC同士による戦闘はあり、ネゲヴもその現場にいたのだがその比ではない程に凄まじかったのをその目を通して感じていた。
感嘆した様なネゲヴの台詞に隣立っていたグローザはそうねと頷くも、ふと思った事を口にした。
「…そう言えば、何故あんな動きをしていたのかしら」
「あんな動きとは?」
「…跳躍を繰り返していたのよ。まるでステップを踏むみたいに」
思い出すはRe:LOADER4が時折見せる独特なステップ。
ブースターで移動しながら時折跳躍。そのまま着地し移動したと思えば再び跳躍。
その行動にどのような意味があるのか。
先ほどの戦闘を思い出しながら、何となく考えた時、ああ…とグローザは納得したような声を上げた。
「相手だって棒立ちしている訳じゃない。移動していている相手にACのFCSが偏差射撃を行うのは当然の事よ。ただ並行移動しているだけなら攻撃が当たる…けどそこに繰り返してジャンプしながら移動されたら…」
「FCSの偏差射撃も上手く追いつかない、か。よくもまぁ、そんな所に気が付いたものねぇ…」
「…寧ろそういった所にも気付かないと生き残れなかったかも知れないわ」
「それもそうね…」
スタンドライトに照らされながらも沈黙を保つRe:LOADER4を見つめる二人。
傷付いた装甲。剥げ落ちた塗装。何処か痛々しくあるそんな姿。
ナイトフォールとの戦闘以降、パイロットであるレイヴンは一向に姿を見せずにいる。
状況が状況だからか、姿を見せないのか。
とは言え、通信を繋げば何らかの返答はあるからかグローザもネゲヴもレイヴンが姿を見せない事を気にしてはいなかった。
そこでキサラギ社の作業員が持ち運ぼうとしている巨大砲台に関する話題へと切り替わった。
「あの違法建築物の対抗手段として運用するって話だけど…そもそもにしてアレをどう止めるかの算段はついてるのかしら」
鉄血が出したであろう『壁』。
それを違法建築物と呼称することになった兵器だが、今も尚その攻略法は判明していないのが現状だ。
そうにも関わらず、巨大砲台を持ち運ぼうとしている。
ネゲヴからすらば順序が違うのではと思わざる終えなかった。
「正直な所、その算段も付いていないのが現状ね。あれだけ巨大なものが動いてるのよ、下手に壊してしまえば周辺への被害も計り知れない」
「…破壊に至らずとも武装を破壊して無力化を図るとか?」
「それを行ったとしても決定打にはならないわ。敵味方巻き込んで自爆と言うのも考えられるでしょうし」
「でしょうねぇ…。そもそもにして、鉄血は何処からあんなものを持ち出してきたのかしら」
偵察ドローンによって撮影された巨大兵器の画像。
鉄血が様々な兵器を保有していたりするのはこれまでの戦闘でグリフィンの間では広く知れ渡っているのだが、ネゲヴはあの兵器を見た瞬間、ふと思った。
「…鉄血らしさがないというのよね、あの壁ってやつは。加えてそれだけの技術力とそれを生み出せるだけの資材が鉄血にはあるとは思えないわ」
「誰かが、或いは何かしらの組織が鉄血に協力していると言いたいの?」
「そう思えてしまう程に、壁の出現が不自然なのよ」
そう。サイレントラインの陥落した直後に『壁』は出現した。
そもそもにして『壁』が何処から出てきたのかすら明らかになっていない。
何もない所から出てきた、と思えてしまう程にその出現は突然だった。
「…情報も無しにやり合うのは得策じゃない。あれの内部構造を、或いは弱点となる部分の情報がいる」
「それも迅速に、ね…」
はぁ…と二人はため息をつく。
やっとこさサイレントラインを陥落させたというのに、今度は巨大兵器のお出まし。
一息つく間もなく、新たな問題が降ってくる。
─いい加減シャワーでサッパリして美味い食事でも取ってベッドに寝転がりたい─
未だに解決の兆しが見えない問題を前に、二人は胸の内でそんな思いを口にしていた。
人里から少し離れた場所にポツンと立つ小さな修道院。
その修道院には灯りが灯っており、中からは子供たちのはしゃぐ声が漏れ出していた。
世界は荒れ果ている。だがそこにはこの世界に負けないような暖かな空間を生み出していた。
そんな小さな修道院の傍には、この雰囲気には似合わないものが鎮座していた。
角張った頭部と足、丸みを帯びた腕と胴。そして人一人を簡単に塵に変える武器。
そんな危険極まりない10メートルはあるであろう巨大な人型兵器が鎮座していた。
起動していないのか頭部のモノアイは光を失っているが、状態は万全であり動けと命令されれば今にも動き出しそうな気配を放っていた。
そしてそれのパイロットであり、ACを駆る事を楽しみを見出す自由人こと、V.Ⅰフロイトは修道院の近くの置かれてあったベンチに腰かけて端末を見つめていた。
「…巨大兵器、か」
何処で、かつどうやって得たのか。
手に持った端末の画面には、鉄血の巨大兵器…またの名を『違法建築物』の画像が映し出されていた。
ACなど足元に集る虫にしか思えない程の巨体。そして巨体の装備された武装もまたACを軽々と吹き飛ばす事など難なくやってのけそうな程に巨大だ。
普通の人間であれば険しい顔の一つを見せるだろうが、彼は違った。
「…あの時はそこに居なかったからな」
「今回は楽しませてくれよ…?」
笑っていた。楽しみが増えたと言わんばかりに、彼は笑っていた。
仲間外れはごめんだ。こんな楽しい催し事は滅多にないのだから。
「あぁ…楽しみだ」
笑みが止まらない。
それを隠す事も無くフロイトはベンチから立ち上がり、愛機へと向かって歩き出す。
そんな時だった。
「フロイト兄ちゃん?」
後ろから彼を呼び止める子供の声が響いた。
その声にフロイトは足を止めて振り返る。
「よぉ、もう寝る時間じゃないのか?」
居たのは修道院で過ごしている子供であり、フロイトに懐いている子供だった。
「うん。でもフロイト兄ちゃんがどっかに行くの見えたから」
「ああ、それでか。なら、院長に伝えてくれ─」
歩き出す。
隠す事もない笑みを浮かべながら、フロイトは言う。
「少し散歩に行ってくるってな」
自由人、行動開始。向かう先は違法建築物。
この世界に流れ着いてのイベント会場へとフロイトは愛機『ロックスミス』へと乗り込むのだった。
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─上から命令はしてないだけマシよ。まぁ、やるけどさ─
─見た以上にデカいな。だが…退屈させてくれるなよ─
─狙撃であれば私の出番だ。あの時の様に外さないさ─
─まるでひっくり返ったみたいに…貴女は一体…─
─人の目をこっちへと向けなくてはならない…─
─あの時は虫だったが、今回は違う!─
─全員突撃しろッ!愉快な遠足の始まりだッ!!─
前話で今年最後と言ったな?アレは嘘だ。
という訳で次章予告も含めて、これが今年最後の投稿です。
多くのお気に入り登録、高評価、ここすきなど皆様の支えがあってこうやって続けることが出来ました。
来年もよろしくお願いいたします。来年は支援絵とかもらえるように頑張りたいです。
ではでは、皆様!よいお年をお迎えください。