人形ノ詩 鴉ノ詩   作:白黒モンブラン

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chapter 01-03

違法建築物に関する情報提供者の出現。

それは正しく停滞していたこの状況を動かそうとしている事案だった。

ラスティからその旨の通信を聞き、レイヴンらは即座にI.O.Pから基地へと帰還。

戻ってきた彼らが見たのは、案の定と言うべきか情報提供者の出現、その提供者があの鉄血のハイエンドモデルであるという事態に慌ただしく移動する職員らの姿だった。

まるで追われる様に小走り気味に行き交う職員らの姿にレイヴンはやはり、と胸の内で呟いた。

 

(様子を見る限り、情報提供というのは事実か。となれば、これで罠という可能性が低くなった訳だが…本当に情報提供をする為に身柄の保護を求めてきたというのか)

 

この慌ただしい様子が嘘ではないのだろう。

だが、それでも、ほんの僅かではあるがレイヴンは情報提供という話を俄か信じ難いといった感情を抱いていた。

 

「ワタリ、お前はどう思う」

 

鉄血のハイエンドモデルが何を考えているのか分からない。

そう思った彼は隣に立っていたワタリへと問いかけた。

 

「情報提供というのは事実と思いますよ。じゃなきゃわざわざグリフィンに自らを明かして、保護を求める理由が見当たりませんから」

 

「問題は、その保護か」

 

「でしょうね。情報提供及び身柄の保護…言わば組織を抜ける事、裏切るという事です。向こうがそれを知らない訳がない。あの時の私みたく刺客やら何やらを送り付けてくると思いますよ」

 

「となればACも必要になってくるか。しかしな…」

 

差し向けられる刺客の対処にはACも必要になってくる。

そう口にした所でレイヴンは少し困ったような表情を浮かべた。

その理由を、二人の会話を傍で聞いていたエアが明かした。

 

「機体の修繕が間に合いませんでしたか、レイヴン」

 

「ああ。あの砲台の改修に人手がいるらしくてな、ACの方に中々人手が回せんらしい。まぁ…無理もないが」

 

レイヴンのAC『Re:LOADER4』は以前の戦闘、ナイトフォールとの戦闘で損傷し、メンテナンスも兼ねて現在キサラギ社に修理の為に機体を預けていた。

出来れば早めにと要望は出していたらしいが、砲台基地から接収した改良型ジュピターの改造作業に人手を取られているらしく、Re:LOADER4の修繕に少々遅れが生じていると言う報告を基地から戻ってくる際に彼は受けていた。

 

「俺は動けんとなると、保護にはラスティかヴォルタに動いてもらう必要がある。617にナイル参謀はキサラギ社での応援で動けんからな」

 

「その事ですが、キサラギ社からレイヴン宛てに別の機体を用意してくれているみたいです。何でもサイレントラインから回収したACパーツの幾つかを修繕、それらでアセンブルしたものらしいですが…」

 

「なに?」

 

突然の台詞にレイヴンは少なからず驚きを覚えた。

彼がキサラギ社から受けた報告は機体の修繕が遅延しているだけであり、それ以外は全く聞かされていない。

そもそもにしてサイレントラインから回収されたパーツ群がキサラギ社へと運ばれたつい数時間前の事だ。

人手を別で割いており、機体の修繕に人手を回している余裕もない。

にも関わらず、別の機体を用意したというのはどういう事だろうか。

 

「まさか、この数時間でやってのけたというのか?」

 

もしそうなのであれば、キサラギ社の社員らが化け物になってしまうだろう。

機械工学やロボット科学に詳しい者達がいたとしてもこの数時間では無理である。

それをやってのけたというのであれば、尊敬の念を抱かざる終え得ない。

が、流石にそれはないのかエアは苦笑いを浮かべながら否定、その理由をレイヴンにへと告げた。

 

「比較的状態が良いモノを選別し、そこからレイヴンから聞いた機体構成等を参考に組み上げたらしいです。元々の状態が良かったのもあって、少人数かつ短時間で整備が完了したとのことです」

 

「ああ…成る程。そういうことだったのか」

 

「はい。それで、こちらがキサラギ社が組んだアセンブルになります」

 

羽織っていた上着の懐から端末を取り出して起動。

僅かな操作の後、エアはそれをレイヴンに手渡す。

そこに映っていたのはキサラギ社が構成したACのアセンブリ画面。表示内容もAC乗りが把握しやすいように分かりやすいレイアウトになっていた。

画面を操作して、そのACのアセンブルを見つめるレイヴン。そして数秒後、彼は思わず笑みを浮かべた。

 

「どのような構成なんですか、レイヴン」

 

彼の様子に加えてどんなACなのか気になったのか、ワタリがレイヴンの横から端末を覗き込む。

 

「あれ…この構成は」

 

思わず彼女はアセンブルされたACを見て、声を上げた。

その構成は何処か見たような気がしてならず、一部武装は違うが決して忘れる筈もなかった。

ワタリの声にレイヴンは頷き、そして呟く。

 

「よりによって、ガチタンとはな」

 

レイヴンが口にした通り、画面に映るACは正しくガチタンであった。

画面に映るアセンブルは以下の様になっていた。

 

HEAD:HD-033M VERRILL

 

CORE:VE-40A

 

ARMS:DF-AR-09 TIAN-LAO

 

LEGS:LG-022T BORNEMISSZA

 

R-ARM UNIT:44-141 JVLN ALPHA

 

L-ARM UNIT:SG-027 ZIMMERMAN

 

R-BACK UNIT:EARSHOT

 

L-BACK UNIT:SB-033M MORLEY

 

BOOSTER:NOT EQUIPPED

 

FCS:FC-008 TALBOT

 

GENERATOR:DF-GN-08 SAN-TAI

 

AC NAME:FIREWORKS

 

「確かに花火を咲かせるには十分な火薬…いや、過剰とも言える程の火薬量だが」

 

キサラギ社の社員らが付けたであろうACの名前。

オブラートに包まれたその意味を理解しながらもレイヴンは笑みを浮かべる。

特に大型グレネード砲であるEARSHOTはその発射音はさることながら、着弾時の爆発は正しく花火と言っても良いだろう。

 

「Re:LOADER4の整備が終わるまではそのACで対応してほしいとの事です」

 

「無理強いを強いた上にここまで対応してくれた以上は文句も言えん。暫くはこれで何とかするとしよう」

 

仕方ないと言った表情を浮かべながら頷くレイヴン。

代わりのACを得る事が出来た所でフィオナから通信が入った。

 

『今良いかしら、レイヴン』

 

「問題ない。…あの情報提供者の件についてか?」

 

『そこまで分かってるなら、話が早いわ。ええ、貴方にはワタリと一緒に情報提供者と合流、同時に周囲の安全を確保してほしいの』

 

「場所は?ブリーフィングはいつになる?」

 

『それらに関しては既に端末に送ってあるから確認して。それと今回はヴォルタも付けるから三人で対応をお願い。…所でACの件は聞いているのかしら』

 

「ああ、今し方聞いた所だ。扱いは異なるが操縦に支障はない──」

 

それに、と彼は言葉を続ける。

久しぶりと言うべきか、扱いが異なるACに乗る事になる。

それはルビコンに居た時もそうだった。いつもと変わらぬ事とは言え──

 

「気分転換には悪くない」

 

どこぞの自由人みたく、ACを駆る事に愉しみを見出している程では無いが久しぶりに別機体を操る事に彼は心を弾ませていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで情報提供と保護を取り付けた…!後はここから脱出しなければ…!」

 

不気味とも言える様な薄暗い通路を一体のハイエンドモデルが駆け抜けていく。

少々露出の多いメイド服を身に纏い、両手足の戦闘用義手義足へと換装したハイエンドモデル。

そう、あの家政婦(ハウスキーパー)である。

そして秘密裏にグリフィンへの情報提供と自身の保護を求めたハイエンドモデルこそ、彼女なのだ。

保護を求めた以上、この要塞『グレートウォール』に留まるのは危険極まりない。

急いでここから脱出する為に、頭の中に入れておいた要塞内部の構造図を展開しながら外を目指していた。

幸いと言うべきかまだ気づかれている様子はない。

このまま何事もなく脱出できる──

 

「随分と急いでいるな、家政婦。こんな夜更けに出かけるとは感心しないぞ」

 

そう思われた矢先の事だった。

 

「ッ…!」

 

奥を包む暗闇の中からあの何を考えているのか分からない上司の声が響く。

背筋が凍る様な感覚と共に急停止、家政婦の顔が強張った。

静まり返った通路に自らの存在を示すかのように、ヒールの音が一歩、また一歩と音を立てて近づいてくる。

ぬらりと暗闇の中から、彼女が姿を見せる。

何を考えているのか分からない表情で、わざとらしく足音を立てながら。

 

「こんばんは、家政婦。こんな時間に何処へ行くつもりだ?」

 

薄気味悪い表情だ。

怒っている様で、怒っていない様で、悲しんでいる様で、悲しんでいない様で、喜んでいる様で、喜んでいない様で、笑っている様で、笑っていない様で、何も考えていない様で、何かを考えている様で。

ありとあらゆる感情をごちゃ混ぜにしたような顔。分裂した存在と言うべきか。

少し離れた位置で止まった上司の顔に家政婦はそんな感情を抱きながらも、その問いに答える。

 

「…少々散歩へと行こうかと思いまして。何分待機命令が長ったせいで身体が訛ってしまったもので」

 

「ほう。それは良くないな。しかしだ、わざわざ外へと出ずともこの要塞でランニングでもすればいいではないか。外へ出る理由はないと思うが」

 

それとも、と上司は言葉を続ける。

腕を広げて、今から口にしようとしている事を楽しみにしているかの様にステップを踏む。

その仕草は大げさであり、何とも気持ちが悪かった。

 

「外に新しい友人の家に泊まりに行くのかな?確か新しい友人の名は…グリフィンだっただろうか。君に新しい友人が出来たのであれば、私にとっても新しい友人にもなるという事。それはそれで実に素敵な事だなぁ」

 

「…ッ」

 

秘密裏にグリフィンと交渉した事が感付かれている。

家政婦の頬を冷や汗が伝う。それと同時に彼女は疑問を覚えた。

 

(彼女は…以前の彼女なんですか…?)

 

性格が違っていると言うのだろうか。以前話した時は何処か淡々とした性格だった筈だ。

だが今はどうだ?まるで道化を演じている様な、何処か狂ったような雰囲気を漂わせていた。

一体どうなっているのだと思わず恐怖を抱かずにはいられなかった。

 

「…行くんだろう?では行きたまえよ。私は君の行動を咎めるつもりはない」

 

「え…?」

 

更なる困惑が家政婦に襲い掛かる。

裏切り行為を働いたと言うのに、あろう事かそれを見逃すと言っているのだ。

ますます何を考えているのか分からない。困惑が続く中で家政婦は問う。

 

「一体…何が狙いですか」

 

「狙いなどないさ。そもそもにして私は鉄血が掲げる人類抹殺に興味など微塵も無い。寧ろ私は人類に与したい所なんだが、生まれが生まれ。そういう訳には行かないのが事実だ」

 

「だから私の行いを見逃すと?本当にそれだけなのですか…!?」

 

困惑を交えながら、本当の狙いを問う家政婦。

が、上司は変わらない様子で頷く。

 

「ああ、そうだともと言いたいが、そうだな…」

 

再び腕を広げて、何かを演じている様に上司は踊る。

 

「君は、鉄血と人類の戦いをどう思う?」

 

「どう思うとは…?」

 

「難しく答える必要はない。直感的な事を言えばいい」

 

そう言われてもと困惑しながらも家政婦は考える。

鉄血と人類の戦い。かれこれ数年は続いているであろう戦争。

終わりの兆しが見えない戦争ではある。が、分からない事が多いのも事実だ。

その内の一つが──

 

「勝手に始まった戦争と言うべきでしょうか。原因も事の発端も分からないまま始まった戦争と思います」

 

戦争が起きる様になった『そもそもの理由』が分からないのだ。

メディアではこの戦争の発端は『鉄血製の人形らが暴走』が起因とされているが、そもそもにして何が原因で暴走へと至ったのか。

何もない所に何か起きる筈もない。全ての事象には原因、或いは火種となるものがいるのだ。

 

「確かにそうだな。公には我々の暴走が原因とされているが、そもそもにして何故暴走する事になったのか、それが明かされていない。加えて言えば、我々という存在そのものを抹消すれば万事解決すると思われているのが世論というものだ。ましてや一度争いは起きれば市民は何時もの事だと流してしまう。だがそれではいかんのだよ。本当の敵と言うのは我々やグリフィン、そして今を生きる者達の裏に潜むものだ」

 

「…」

 

「我々の暴走が意図して行われたとしたら?または何者かによる思惑によってそうせざるを得ない事態になったのではないのか?そしてその何者かが我々がこうして争っているというこの状況に人の意識が向けられているその裏で良からぬ事を企てているのではないかとな」

 

そう言い終えた所で上司の表情が変わる。

その表情を見て家政婦は息を呑んだ。

清いまでの笑み。正しく嗤っていた。心の奥底から嗤っていたのだ。

 

「私はな、そいつの邪魔をしたいのだよ。とことん嫌がらせをして、その鼻っ柱を折ってやりたくて仕方ないのさ。」

 

ああ、実に愉しみだと上司は様子はますます可笑しくなっていく。

 

「貴女の言う…『その者』とは何者で…?」

 

「さぁな。会った事も無いから知らない。だがそいつは地球一個分の悪意を宿した外道らしい。今頃何をしているかは知らんがね」

 

「…」

 

「…さて、話はこれで終わりだ。そろそろ話を聞くのも疲れただろうし待ち合わせに遅れてしまったら事だ。体制を保つために多少荒っぽい事はさせてもらうが、君なら切り抜けられるだろう。だから…()きたまえよ」

 

「!」

 

行け、そして生きろ。

その二つの意味を交えた言葉と共に上司の本来の顔を目の当たりにする家政婦。

ゆっくりと歩き出し、上司の横を通り過ぎようとした時。

 

「…そんな表情も出来るのですね」

 

すれ違いざまに、思った事を伝えると家政婦はそのまま駆け出して行く。

やがてその場に残ったのは上司のみ。本当に追いかける気はないのだろう。

 

「さて、何の事やらか」

 

一人残された通路で上司は先ほどの台詞に対して独り言の様に静かに答えるのだった。

そしてこれで何度目になるのか、また腕を広げながらその場でステップを踏んだ。

 

「さぁ…裏に潜んで姿を見せない新しいご友人……私と一緒に素敵なステップを踏んで踊ろうじゃないか!踊り疲れたら花を手向けてやろう!外道に勿体無い程の綺麗な花を手向けてやろう!」

 

笑い声が高らかに反響する。

上司の笑い声は暫く消える事はなく、その間に彼女は口ずさむ。

スロー、スロー、クイック、クイック、スロー…と。




情報提供者に裏切り、そして様子の可笑しい上司の詰め合わせセットという話でした。

上司はあんな感じですが、まだ隠している事は沢山あります。
それは追って明らかになるかと。














とある地区。
そこに存在する小さな事務所にて、一人の女性がいた。
買い出しから戻って来たばかりなのかソファーには食料品が詰め込まれた紙袋がそのままに置かれており、彼女は淹れたてコーヒーが入ったカップを片手に端末を見つめていた。
そこに映っているのは、あの巨大兵器の画像とグリフィンの行動を記した文面。
それらを彼女は沈黙を保ったまま見つめていた。

「…」

何を思っているのか、それは本人しか分からない。
沈黙を保ったまま、コーヒーを一口飲んだ時、彼女は静かに口を開いた。

「ここに来て日が浅い訳だけど…事務所を壊されるのは辛いし、何とかしないとね」

そんな事を口にしながら、女性は事務所の窓ガラスに描かれたマークを見つめる。
止まり木から羽ばたこうとしている鳥のエンブレム、下には英語で会社名が綴られていた。
その名は──Handy Worker Branch
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