─閉鎖した玩具工場にて待つ─
情報提供者がグリフィンに宛てたメッセージ。
グリフィンは閉鎖された玩具工場と言うたった一つの手がかりを元に提供者の現在地を即座に算出、割り当てフィオナにその保護を命じた。
その命を受けたフィオナがレイヴンとヴォルタ、そしてワタリの三名に出動を命じたのが約数時間の事だった。
『着いたな』
「ああ。…廃れた玩具工場とは聞いていたが、何だこれは…?」
既に外は暗闇に包まれた頃。
情報提供者が身を潜めているであろう廃れた工場が二機のACを迎えるのだが、その門構えにレイヴンは訝しげな声を上げた。
まるで積み木で組んだ家みたいな造りに加えてカラフルな塗装。
工場にしては凄まじく工場らしさがない。そんな印象を抱いていた。
「玩具工場なのは貴方も知っての通りだと思いますが、どうやらこの会社では工場見学も良く行われていたみたいです。玩具を製造するだけあって、訪れる子供達を喜ばせる為の造りなのでしょう」
「成る程…。だから積み木で積まれた家みたいな造りでカラフルなのか」
(今となっては、ただの不気味な場所にしか見えないが)
工場が閉鎖して早数年。
誰も寄り付かなくなったこの工場を管理する者など居る筈もなく、子供達を喜ばせる為だけの造りは経年劣化の一途を辿っていた。
塗装は所々が剥げ落ち、窓ガラスの殆どが割れ、そして雨風に晒された影響で錆に侵食される始末。
誰がどう見ても近寄りたくない、余りにも不気味過ぎる…そういった雰囲気を放っていた。
『んで?その情報提供者はこの中に隠れてんのか?』
「ええ。取り敢えず私が中に入って、情報提供者を探します。その間に二人は周辺の警戒を頼みます」
傍に置いてあった大太刀を手に取り、傍にいたレイヴンにへと視線と飛ばす。
それを合図に彼は機体のコクピットハッチを展開。開いたそこからワタリが外へと出ようとした時だった。
『G13、てめえもワタリと一緒に行ってこい。周辺の警戒は俺一人で十分だ』
「どういうつもりだ?G4」
『つもりもクソもねぇよ。こんだけ広い空間だ、一人で探すのは時間が掛かり過ぎる。なら手分けして探した方が早ぇ』
それはそうかも知れない、とレイヴンは胸の内で呟く。
稼ぎはあった方なのか、工場の規模はそれなりである。
ワタリ一人で例の情報提供者を探し出すのは時間もかかるであろう。
ヴォルタの言う通り、レイヴンも同行して、ワタリと手分けして探すのが効率的とも言えた。
「…良いんだな?」
とは言え、襲撃がないとも言い切れない。
情報提供者を探すのに人手を割くという事はAC一つ失うのと同義。
周囲の警戒に加え、突然の襲撃にも備えなくてはならず、また戦闘もこなす必要もある。
やる事が多すぎる上にヴォルタのAC『キャノンヘッド』は防御力や火力には優れるものの脚部がタンクという事もあって機動力が壊滅的に低い。
そのリスクを承知の上で構わないのか?とレイヴンはヴォルタにへと問う。
『とっと行ってこい。待たせたら承知しねぇぞ』
「分かった。…後で酒を振舞ってやる。何が良いか戻ってくるまで決めておけ」
『お前…そういうのは言うモンじゃねぇぞ、縁起が悪ぃからな。ただまぁ…奢ってくれるなら話はちげぇ。上等なモンを選んでも文句言うなよ?』
「上等だ」
これ以上の問答は無粋だ。
開いていたコクピットハッチを閉じて、レイヴンは機体を移動させ工場の近くまで寄せる事にした。
「良いのですか、レイヴン」
「効率を重視した上の判断だ」
彼がそう言うのであれば、何も言うまい。
工場へとゆっくりと向かっていくACのコクピットの中でワタリは静かに待つことにした。
数分後、AC『FIREWORKS』が工場の傍にて停止。二人はコクピットから外へと飛び出して工場の入り口前で足を止めた。
「ヴォルタ、今からワタリと共に内部に入って情報提供者を探す。制限時間は二時間…定時報告は30分置きに行う。今から時間合わせをするぞ」
『ああ。タイミングは任せた』
「了解。…5…4…3…2…1…行動開始」
制限時間はたったの二時間。
その僅かな時間で情報提供者を探さなければならない。
のんびりしている暇などない。施錠もされていないドアにレイヴンが手をかけた時、ふとワタリが口を開いた。
「施錠をしていない…?閉鎖された筈では?」
「或いは閉鎖は表向きの理由かもな。本当の所は閉鎖どころではない…とかな」
「…言うまでもないと思いますが警戒を。何だか嫌な予感がします」
「奇遇だな、俺もそう思っていた所だ」
ホルスターから銃を引き抜くとレイヴンはゆっくりと扉を開いた。
錆びついているのか扉の動きが悪く、ギィィ…と、まるで恐怖心を煽る様な音を立てながら開いた。
案の定、電気は通ってはおらず先が見えない程に酷く暗い。
しかし二人は臆することなく互いに頷くと内部へと足を踏み入れる。
「流石に暗いな」
ジャケットの懐に収めていたL型フラッシュライトを取り出し点灯させるレイヴン。
眩しいまでの光が辺りを照らすと、二人を迎えたのはエントランスホールだった。
古びた受付カウンターに、埃被ったパソコン。備え付けのスピーカーに動きもしない監視カメラ。
周囲に散乱した書類らしきもの、壁面に至っては経年劣化によって一部が欠け落ちていた。
長い間放置されていたのだ。この様な状態になっているのも無理もないと言えるだろう。
「レイヴン、こちらを」
周囲を見渡していたレイヴンの元にワタリが一枚の紙を持ってきた。
それはこの工場の見取り図。所々色褪せしているが見る分には状態は良い方であった。
差し出された見取り図を彼が受け取ろうとしたその時だった。
『…待っていました』
「ッ!」
電力が通っていないにも関わらずスピーカーから女の声が流れた。
それも二人が此処に来たのを知っているかのような口振りだった。
突然の声に臨戦態勢へと移行する二人だが、相手は慌てて諌め出した。
『お待ちください。私はあなた方の敵ではございません』
「それを口にするという事は…ここに逃げ込んだ情報提供者でしょうか」
『はい。初めまして、私は鉄血のハイエンドモデル家政婦と申します。此度は保護へのご助力、誠に感謝申し上げます』
「世辞は不要です。私たちが知りたいのは貴女がどこに居るのかを聞きたいのです。何分時間も限られている今、一分一秒が惜しいので」
少々辛辣な態度を見せるワタリ。
見かねたのかレイヴンはワタリの肩に手を置いて、小声で窘めた。
「少し落ち着け。感情的になっては話が進まん」
「そうは言いますがね…こんな場所を指名しておいて、何も無いとは思えないんですよ…!少なからず何かしらあると見た方が良いです…!」
確かにそうかもしれない。
レイヴンもワタリの意見には賛成だった。
だがここは落ち着いて行動しなくてはならない。相手にその気がなかったとしても感情的になるの不味い。
視野の狭小は余計な被害を生む。そこでレイヴンは、ワタリにおまじないをかける事にした。
「良いか、ワタリ。この状況下では、まず落ち着け。そして…不測を予測しろ」
「不測を…予測するですか…?」
「そうだ。何があるか分からない時は、落ち着いて不測を予測する事だ。そうすれば如何なる状況にも対応できる」
─不測を予測しろ─
解放戦線から依頼で受けた際のウォルターの声がレイヴンの頭の中で響く。
その言葉があったからこそ、あの依頼を遂行している最中の待ち伏せや襲撃に対応できたのだから。
故にその教えを説くべきだと思っての発言だった。
「家政婦と言ったな。今、何処にいる」
『私は今、監視ルームで身を潜めています。ですが此処を出るのは非常に危険で、あなた方に迎えに来てほしいのです』
「その理由は?」
ハイエンドモデルである筈の家政婦がそう言う程の危険がここにはある。
それを分かった上でレイヴンは尋ねる。
敵が居るのであれば、その情報を得られると思ったからだ。
『ここには違法改造された廃棄個体たちがこの工場内を闊歩しているのです。自身が狂っているとは気づかず、正常な人形を見つけたら、相手を狂っていると判断して襲う様になっているのです。一体だけなら私一人でどうにかなります…ですが』
「一体だけではない、と。知っている限りで良い、この工場内に何体いる?」
『私が知っているだけでも15体…この工場内に潜んでいます』
この大きな工場に15体、或いはそれ以上の数の違法改造された廃棄個体が居る。
最悪とも言える状況だが、レイヴンは狼狽えない。
「分かった。取り敢えず安全を確保しつつ、そちらまで向かおう。カメラで俺達を見ているのであればサポートを頼んだ」
行くぞ、とレイヴンは家政婦がいるであろう監視ルームへと向かって歩き出す。
突然の行動にワタリは少々慌てながらも彼の後を追いかける。
かくして暗闇広がる玩具工場での大捜索が始まる事となった。