「そう言えば、質問に答えなくてはいけませんね」
朝日が昇り切り、広がった青い空の下で戦術人形621は思い出した様にそう口にした。
確かに聞かなくてはならない事はある。だがその事よりも言わなければならない事がある。
「それよりも…その身体は治せるのか?」
アンドロイド…いや、戦術人形ではあるとは言え、傷付いたままなのはいかがなものかと思ってしまう。
額からは血が流れ、二の腕辺りは皮膚が削がれ、内部骨格が丸見えになっている。
そんな痛々しい姿を前にして質問をしようという気にすらなれない。
「ええ…まぁ。ここ、前哨基地に扮した整備基地みたいな感じですので。修復装置はありますし、一応ここの管理は任されていた身なので」
「そうか。ならば先に自身の体を労われ」
「しかし気になる事があるのではなくて?」
「それを言うのであれば、お互い様だ」
こちらと同じように、彼女も認識の食い違いを察している。
だが急いで知る必要性はない。どのみち、知る事になるのは違いない。
それにだ。
「今は休め。それがお前がすべき仕事だ」
──休め。今はそれがお前の仕事だ──
ウォルターが自分にそうしてくれた様に。
自分もまた、彼女にそうしてやりたいのだ。
「…そうまで言われたら、ご厚意を無下にするのも気が引けるというものです」
軽くため息を付きながら、座り込んでいた残骸の中から飛び降りる戦術人形621。
見るからにして満身創痍だと言うのに、動きに鈍さを感じさせる事無く着地。
普通であれば満足に動ける筈がないと思うのだが、どうやら戦術人形というには自分が思っている以上に高性能のようだ。
「一日ほどお時間をいただきますね、レイヴン。その間、基地内は自由にしておきますので時間潰しがてら探索でもしていて下さいな」
「ああ。そうさせて……待て、レイヴンだと?」
レイヴンと呼ばれていた事は確かに言ったが、こうも早くその名で呼ばれるとは。
「独立傭兵として動いていた時はそう名乗っていたのでしょう?でしたら、そう呼ぶのが良いと思ったのです」
それに、と前置きを口にし戦術人形621は僅かに笑みを浮かべながら言った。
「その名は貴方にあっていると、そんな気がしてならないんです」
「…借り物の名前だとしてもか」
「それでも私は呼びます。貴方がそうあり続ける限り」
──私は…変わらず貴方をそう呼びたいと思います──
「レイヴン、と」
──レイヴン──
違うと言うのに、ただ重なっただけだというのに。
何故だろうな。
彼女の台詞は懐かしさすら覚える様な台詞の気がしてならなかった。
「では、また後に」
「ああ」
施設内のある修復部屋にて、アームに囲まれた寝台に寝転がった戦術人形621は笑みを浮かべながら一時の別れを告げてきた。
その間は自分一人になる訳だが、さして寂しさはない。
星を焼き、全てを失い抜け殻に化したあの時と比べたら尚の事。
眠りについた彼女を見届け、修復が始まった部屋を出ていくと真っ先に前哨基地の探索を始める。
最初こそは認識の食い違いを知るために、情報を得ようと考えたがこの基地には食い違いを正してくれる資料はないらしく、彼女に頼る他なかったので断念した。
その後、適当に探索していた際に偶然見つけた一室にそれはあった。
「これは…フィーカか」
フィーカ。苦みのある飲み物だ。
ルビコンではフィーカと呼ばれていたが、別の惑星だとこの飲み物はフィーカではなく、コーヒーと呼ばれていたな。
如何やら自分が見つけたのはインスタントコーヒーというものだ。
ご丁寧に湯を沸かす道具に水まで揃っている。
「一休みするか」
沸かした湯をカップに注ぎ、粉を幾らか入れる。
そのままスプーンで混ぜて、自分は室内にあったベッドに腰かけた。
「…」
一口含めば、独特な香りと共に苦みが伝わる。
最初こそは慣れなかった味ではあったが、今は慣れた。
「そういえば…ウォルターも飲んでいたか」
レイヴンでありながら、C4-621だった時。
依頼を終え、休んでいた自分の傍でウォルターはPCの前に張り付きながらも飲んでいた。
コーラルを見つけて、得た大金で再手術し、彼と一緒に飲みたかった。
今となってはもう叶わぬ夢だと言うのにな…。
「……一緒に飲みたかったな」
分かっていたとしても、それでも叶わない夢を口にはせずに居られなかった。
という訳で、展開は大して進まず、前書きの通り、一休みです。
次回の投稿は来年になるかと…未定ですけどね。
ではでは次回ノシ