621を買ったのがウォルターでは無くスネイルだったら 作:宇迦之たま猫
───カツ…カツ…と暗い室内に靴音が響く
「さて、ようやく届きましたか…」
くすんだ金髪をオールバックにした、神経質そうなメガネの男性が呟く。
「起動しなさい、C4-621」
そう彼が言うと、カプセル型の入れ物が独りでに開き、中で眠っていた少女の目がゆっくりと開いた。
「……」
光を宿さぬ虚ろな瞳がぼんやりと宙を見つめ、その体は自由が利かないのか、動くことは無かった。
「ふむ、起動は成功したようですね。
さぁ、挨拶なさい」
虚ろな目をした少女はスネイルを見つめ、小さく口を動かすがそれは声にはならず、音にならない空気の漏れる音だけが漏れ出すだけだった。
「声は出せないようですね……まぁ、問題ありませんか」
「……」
「さて、私はたった今から貴女の上司となるアーキバス・コーポレーション所属、強化人間部隊ヴェスパー第2隊長のスネイルです。」
「……」
スネイルの問いかけに少女は何も答えず、虚ろな目のままスネイルを見つめるだけだった。
「ふむ……まぁいいでしょう、ゆっくり教えていきますよ」
そう言って、スネイルは少女の目を見る。
「貴女には、これから私の部下として働いてもらいます」
そう言って、彼はカプセルから"裸の"少女を抱き上げ……
「……まずは服や靴を買ってきましょうかね」
と独り呟き、少女を連れて部屋を出た。
ガチャリ、と音を立てドアが閉まる。
後に残ったのは静寂と、カプセルの横たわる無機質な部屋だけだった……。
───────────────────
「スネイル閣下!お疲れ様です!」
「えぇ、お疲れ様です」
すれ違う社員に挨拶を返しながら会社内を歩くスネイルの表情は晴れやかだった。
(良い買い物ができましたねぇ)
つい先日の事を思い出すように、彼は心の中で呟いた。
虚ろな瞳の少女、強化人間C4-621を買って数日。
性能テストの為にシュミレーションをやらせた所、なんとシュミレーション用のデータとはいえ、ヴェスパーが誇る文句無しの最強VIフロイトを意図も容易く打倒して見せたのだ。
これは嬉しい誤算だった、スネイルは嬉々として彼女に教育を施した。
数日間教育を行った結果、621は多少とは言え自我が芽生え始めていた。
車椅子でちょこちょこスネイルの後ろを着いて回る姿はまるでヒヨコの様で。
喋る事も出来るようになったが、口数が少ない上に声も小さく聞き取りづらい。
しかしそんな事は気にならない程にスネイルは喜んだ。
(ようやくここまで来た……後は実戦で使えるように鍛えるだけですね)
そう心の中で呟き、彼はほくそ笑んだ。
───その日の夜 小さな明かりのみが照らす薄暗い部屋の中で、スネイルは一人PCに向かっていた。画面に映し出されるのは、621の戦闘データだ。
(ふむ……どちらかと言えば機動力の高い機体の方がシュミレーションでより高い結果を出していますね…なら621のアセンブルはシュナイダー社の二脚フレームと…)
キーボードを叩きながら、彼は621の戦闘データを確認、彼女の最適なアセンブルを組み立てていく。
(後はそれに合わせた戦術プランの作成ですか……)
それから暫くの間、スネイルはブツブツと呟きながらPCを弄り続けた。
───更に数日後、 スネイルは621に初めての出撃を命じた。
任務内容はベリウス西部にあるグリッド135に常駐しているベイラム・インダストリーの系列企業、大豊のMT部隊の殲滅。
シュミレーションで好成績を残していても、実戦では何が起こるか分からない。
スネイルはこの任務を621の実力を測る試金石にするつもりだった。
シュミレーションの戦闘データを元にカスタマイズした専用ACを乗りこなし、結論から言えば意図も容易く大豊のMT部隊を殲滅して見せた。
実に素晴らしい戦果だとスネイルは思った。
(なるほど、やはりあの"目"は伊達ではないようですね……)
撃破したMTの残骸の上で佇む621の瞳には、かつての光を宿さぬ虚ろな瞳はなく……明確な意思が宿っていた。
(実に良い仕上がりだ……これなら問題なく実戦に出られそうですね)
そんな事を考えつつ、スネイルは621に帰還をする様に通信を入れるのだった。
621はその後、新たな任務の為に呼び出されるまでひたすらシュミレーションに明け暮れるのであった……
この後スネイルは621大好き教育パパになるしスウィンバーンは生徒想いの先生になるしメーテルリンクは面倒見のいいお姉ちゃんになるし、ラスティは曇るし、フロイトは変わらず対戦吹っ掛ける