独自解釈があります。
呪術界の御三家に於いて、最強の称号を生まれ持った。
呪術師として産まれ、生き、そして死ぬ。呪いの絶えない世で、それは自然の摂理ですらある。
最強ゆえに傅かれ、恐れられ、自身も己へ向けられる畏敬の念を当然のものとして甘受した。
そんな中、特に期待もしていなかった呪術高専へ進み、出会ったのだ。
生まれて初めて己に比肩する才能に。
彼と出会って以来、『最強』は『術師』ではなく『人』になった。
彼の思想や言葉を受けて、表面上は小馬鹿にしながらも影響を受けて。
彼を対等だと認めて以後は、唯一無二の親友だと――かけがえのない宝物だと受け入れた。
馬鹿をした。ふざけあった。喧嘩もした。
けれど根底にあったのは、どこまでも眩しい善性への憧れ。
呪術師としての価値観と世界しか持たなかった『最強』の生きる領域に、色彩を齎したのだ。
彼と、そしてもう一人の同級生と過ごした三年間は、きっと永遠に『最強』の中で生き続ける。
青春。
言葉にしたらたった二文字の時間が、何よりも大切で最高の宝で、尊いものだと理解した。
だから。
「……」
だから。
「……」
だから――五条悟は、親友である夏油傑の訃報を受け取って。
信じられなくても親友の死を理解し。
葬儀を行い、彼の父母が泣き崩れるのを見て。
同級生の少女が無表情のまま花を手向けるのを見て。
親友の死と葬儀の終わりと共に、自らの青春が終わったことを受け止めた。
「泣かないの?」
「はあ? バーカ、泣くわけねぇだろ」
呪術総監部は、特級術師たる夏油傑の遺体を引き渡せと通達していた。だが悟は上層部の指示を無視し独断で親友の父母が仕切る葬儀の流れに則って、非術師のように火葬するのを強行した。
棺に納められ、燃やし尽くされる親友を見送りながら、声を掛けてきた家入硝子へ即答する。
悟は涙を一滴も流さなかった。
親友の死が理解できず、受け止められず、実感が湧いていないから――ではない。親友の死を悲しむ心はある、怒りも、嘆きもある。それでも悟は涙を流さない。
「傑は死んだ。けど俺の中にアイツは生きてる」
「……ふーん。臭いこと言うじゃん」
「茶化すなよ」
「ごめん」
「謝んな」
「……臭いけど、いいんじゃない? 私は嫌いじゃないよ、そういうの」
「あっそ」
声に起伏のない、平坦な遣り取り。それにどこか物足りなさを感じるのは、いつもならいるはずの親友が加わっていないからだろうか。こういう物足りなさが喪失感というものなのだろう。
最低の気分だ。
悟は踵を返して、燃え尽きる親友の遺体を見届けることはせず外に出る。
なんとなしに硝子もその後へ続いた。
「傑を殺ったのは誰だ」
「一級呪霊」
「んなわけねぇだろ。んな雑魚に殺られる傑じゃねぇ」
「知ってる」
目的もなくただ歩く二人は、自分たちの青春を残酷に終わらせた輩について意見を交わした。
「式守か?」
「違うでしょ。アレに斬り殺されたら夏油の首は残ってないんじゃない」
「だよな」
硝子が煙草を咥える。しかし、火はつけなかった。
特級術師の夏油傑は、何者かに殺された。
しかし傑は自身を襲撃した者と激しく交戦し、赴いていた寒村を巻き添えで壊滅させてしまいながらも高専へ呪霊を遣わし、援軍を要請するという彼らしいクレバーな判断を下していた。
傑が援護を求めるほどの難敵に襲われている。夜峨学長はこれを受けて即座に動いた。
自身の権限で動かせる戦力を率いて即応し、傑の許へ急行したのだ。
しかし駆けつけた時には既に遅く、傑は殺されていたという。
死後数十秒。傑は自身の命を守れず、しかし体は死守した。
「……」
「……ねぇ」
「……なんだよ」
「仇、討つんでしょ」
「……」
答えるまでもない愚問であった。
悟は何も言わず、歩きながら硝子を一瞥する。
「もうついてくんな」
「なんで?」
「式守が来る」
「……マジ?」
「おう。巻き込まれて死なれたら気分悪ぃ。俺から離れとけよ」
「りょーかい」
悟らしくない気遣いに、硝子は素直に従った。
足を止めて、止まらずに歩いていく悟の背中を見ながら、硝子は言った。
「ねぇ、五条」
「なんだよ」
「死ぬなら私の前で死ねよ。絶対生き返らせてやるから」
「はっ、笑える」
悟は前を向く。
隣には、誰もいない。
「ん……?」
羂索は携帯電話の画面を見ながら首を捻った。
画面を注視し、目を擦り、ケータイを傾けたり叩いたりする。
協力者の様子を訝しんだのか、白髪のおかっぱに和装という出で立ちの呪詛師が近寄った。
「どうした羂索、そんな奇態を晒して」
「……裏梅、どうやら私の目がイカレてるらしい。代わりに読んで聞かせてくれないか?」
「何? ふざけるな、なんで私が貴様の小姓のような真似をしなければ……」
文句を言いつつ差し出されたケータイを受け取った裏梅は、性格的には律儀なのだろう。伝える気はなくとも一応目を通して――そして、固まった。
中性的な美人であり、性別不詳の裏梅は顔を引き攣らせる。その様子に、羂索は自身の目がおかしくなったわけではないと理解して、額を抑えると深々と嘆息した。
「なんでそうなったんだよ……」
「羂索……これは、なんだ? 噂のスパムとかいうものか?」
「残念ながら違う。なんでかあの娘は五条悟と結婚した気になってるらしい」
「……」
声もない様子の裏梅に羂索は肩を竦める。
メールが来たのだ。特級呪詛師にして世紀の災厄、式守薫子から。
私達、結婚することになりました! 羂索さんのお蔭です! と。
断言できるが羂索はそんな珍事に微塵も関わっていない。なのに羂索のお蔭とはどういうことだ。
考えてみようとするも、壊人の思考回路は理解できるはずもない。推理するのはやめておいた。
「しかし……夏油傑、彼は意外と手強かったね」
「……ふん。貴様のことだ、どうせ代案はあるのだろう?」
羂索は裏梅と二人掛かりで夏油傑を襲撃した。
呪術全盛の平安時代に於いても特級に分類される力量を誇る裏梅と、宿儺や五条悟、式守薫子のような世界のバグじみた例外を除けば、術師として頂点に君臨する羂索の二人に襲われたにも関わらず、夏油傑は予想以上に善戦した。薫子との戦いで覚醒したこと、現代の異常な呪霊発生率に伴い手札が強化増量されていたこと等、傑が強かった理由は幾つもある。それでもタイムアップまで粘られたのは非常に苦しい展開になったのは否定できない。
羂索の計画では呪霊操術という術式は必須なのだ。これがなくては天元との同化など不可能。故に羂索が夏油傑の肉体を奪えなかった以上、羂索の計画は頓挫したも同然だと言えた。
しかし、羂索はあっけらかんと言い放った。
「まあね。呪霊操術を持った肉体なら他にもあてがある」
「非術師か」
「その通り。夏油傑は一般家庭の出だ、御三家のような特異な血筋から排出された種じゃない。なら一億人いる日本人の中に、夏油傑と同じ術式の持ち主がいないとは言えないだろう?」
羂索が夏油傑の肉体を欲したのは、傑が呪霊操術を有し、特級クラスの才覚を持っていたからだ。傑の肉体を奪うだけで多くの手間を省略できるとなれば狙わない道理はない。
しかし丹念に計画を推し進め、千年も暗躍を続けた羂索が、一点物の術式が現れることを前提に計画を組むわけがなかった。天元と星漿体、六眼の因果を破壊する為に、禪院家の因果にある天与呪縛のフィジカルギフテッドを利用するという、他にどうにもならない運要素以外で準備を怠ってはいない。
羂索は努力家なのだ。非術師の中にも術式持ちがいるのは把握しているし、脳の
最善は夏油傑である。五条悟を封印するのに最適の器で、才能豊かだった。次の器としてこれ以上はないと断言できる。だがこれの確保は失敗した。高専の援軍が間に合ってしまったから。そんなものなど皆殺しにするのは容易だったが、五条悟に存在を認知されてしまったら殺されてしまう為、存在の隠匿を優先して撤収したのである。返す返すも惜しいことをした。
「非術師の体を乗っ取るのか。それで恙無く術式を扱えるのか?」
「扱えるとも。ただこの器の術式、
羂索には取り得る裏技が幾つもある。その内の一つに、肉体を乗り移る度に喪失するはずの、肉体に刻まれている術式を自身の脳に上書きして持ち越すというものがある。
しかしそれをしても、脳の容量の問題で三つまでが限度だ。
一つは羂索が元々持っていた肉体を奪う術式。後は反重力機構と呪霊操術という組み合わせがベストであったのだが……そうも言ってられない状況になりつつある。
裏梅は羂索の悩みを一刀両断した。
「欲を掻くな。貴様は宿儺様ではない、無駄に欲張れば早晩存在が露見する」
「確かに。仕方ない、呪霊操術との兼ね合いで、あんまり欲しくはなかったんだが、状況的にこれが最善になってしまったからね」
「
「ああ、そうしよう。裏梅、悪いが『浴』の用意をしてくれ」
「いいだろう。だが対価はもらうぞ」
「もちろんだとも。私達は同盟関係にある、対等な相手を便利使いして終わりにはしないさ」
羂索が術式を持ち越す為の手段は二つある。
一つは、乗っ取った体を長い時間を掛けて馴染ませ、自身の脳に上書きする手段。術式は本来脳に刻まれるものであり、肉体を奪ったところで術式は扱えないのが道理であるが――長年を掛けて術式と呪力に馴染んだ無機物が呪具化する現象のように、術師の肉体も術式に浸かり半ば呪具化している。だから羂索は肉体を奪えば術式を使えるのだ。そして奪った肉体に宿った術式が、羂索の脳を逆に侵すことで術式を持ち越せる仕組みになっている。
そしてもう一つが、肉体をあらかじめ完全に『呪具へ加工しておく』手段。
最初から呪具に加工した器なら、羂索が乗り移った後でも短期で術式を獲得できる。その手段こそが『浴』だ。羂索も単独で行えるが、これを世界最高水準で行えるのは裏梅である。
本来『浴』は家宝として秘蔵する器物を外敵から守る手段として、呪具化させる儀式を指す。方法は蠱毒の儀式を行い、厳選した生物を潰し濾すことで、得られた呪力の溶液に呪具化させたい器物を漬け込んで完成するのだ。裏梅の行う『浴』の具体的な内容は、呪霊を一体ずつ締めていき、主要器官を自身の術式で凍結する。羂索にも真似できない妙技であった。
「で、『浴』で浸からせるのはどちらだ」
「呪霊操術を持つ非術師の方にしよう。
これを持ち越して私は――
十種影法術を宿した器だ、才能は最低保証があるはずだからね」
悪は闇の中に蠢く。
彼らの暗躍を止められる者は、どこにもいない。
少なくとも今は。
「――や、悟くん! 刀持ってきたよ!」
「……。……よっし、そんじゃあ一つ、気合入れて稽古しようぜ!
呪力と術式の使用はなし、刀も寸止めしろよ?
稽古ってそういうもんだろ!」
「? なんかテンションが変だね……まあいっか!
稽古だしね、そういうルールでやったげる!」
妖刀と呪刀を有する呪詛師が現れ、『最強』に技を伝授する。
長い時間をなるべく掛けて、隙を見て殺すつもりではあった。
しかし『最強』は、焦らない。虎視眈々と、間近で絶好の機会を狙う。
少しでも確率を上げる為に。逃げる暇も与えず確殺する為に。宿敵とも言える呪詛師の技を盗み、更に強くなるのだ。自分だけが強くても意味はないと感じながらも――それはそれとして、己は更に強くなり続けることができると確信していた。
『最悪』が『最強』に微笑みかけ、名刀を渡す。
そして『最悪』は言った。
「悟くんの呪力と術式を、その刀に纏わせてみて?
今は上手くいかないだろうけど、いつかとても綺麗な斬撃を魅せられるようになるはずだから」
夏油傑
死亡。しかし尊厳は死守した
羂索
失敗。それはそれとして計画に支障はない
独自設定のオンパレード
羂索だけで資料集作れそうな勢い
五条悟
強化パッチがあてられる
しかし呪具化させ、無下限付きの刀は産廃にしかならない
六眼がないとね……
でもそれはそれとして使い道はあるかも
式守薫子
結婚指輪(刀)を貰ってきた(盗難)
渡せてご満悦
稽古しながら新婚旅行はどこにしようか悩み中
伏黒恵
本作最大の犠牲者
羂索に乗っ取られるの確実
原作だと宿儺に乗っ取られてるのであまり変わりはない…?