呪詛師カオルコの奇妙な廻戦   作:飴玉鉛

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お待たせ


蠢きを妨げる者なし

 

 

 

 

 

 決戦の時は決まった。

 

 10月31日。ハロウィン。

 

 それまでに高専生は呪術戦の力量を高め、五条悟に認められるまでになれば決戦へ参戦できる。

 

 最低条件は反転術式の会得だ。会得難易度を勘案すれば不可能に近いが、式守薫子へ有効だと見込まれる術式の持ち主『釘崎野薔薇』と、対抗戦術の択を広げられる京都校の『東堂葵』は、悟に連れられ全国の呪霊討伐ツアーへ強制参加させられることに相成った。この二人を重点的に鍛え、参加が決まっている乙骨憂太と秤金次、悟の三人を足した最低五人で決戦に臨むのである。

 

 残念ながら憂太を除く東京校の二年生組は見込みが薄い。真希は呪具を用いた近接戦能力が高いと言えるものの、同じ分野で頂点に君臨する薫子を相手にしたら瞬殺されるのは間違いない。狗巻棘の呪言も無効化されるだろうし、パンダも接近戦しかできないため論外だ。

 

 京都校でも禪院真依をはじめ実力不足で、期待できる者は東堂しかいない。実質参戦条件を満たし得るのは、東京校の教員である日下部と七海、限定状況下で京都校の歌姫、学長の楽厳寺ぐらいである。生徒の中では虎杖悠仁だけが参戦資格を得られる可能性があるかもしれないと目されていた。

 

 故に悠仁は一級術師の日下部と七海と共に呪霊討伐の実戦に繰り出して、彼らの指導の中で呪術の腕を磨いていたのだが――

 

 

「――やあ、久し振りだね宿儺。千年ぶりかな?」

 

 

 ある廃校に発生した呪霊を祓い、帰還する寸前に仕掛けてきた呪詛師によって日下部、七海、悠仁の三人は容易く撃破されてしまい、意識を失う事態に陥ってしまった。

 

 不甲斐ないとは言えない相手だ。なにせ襲撃者は額に縫い目がある少年の姿をした羂索と裏梅。共に特級術師相当の実力を有し、特に羂索は十種影法術を完璧に使いこなしている。遥か格上である彼らに奇襲を受けてしまえば、格下に過ぎない日下部たちが為す術なく敗北して当然である。

 

 羂索が気絶した悠仁に『宿儺の指』を二本呑み込ませると、一時的に悠仁の肉体の主導権を得た宿儺が表面化する。全身に呪詛の紋様を浮かび上がらせた宿儺は跳ね起きて、自身に接触してきた者達を見渡して貌を顰めた。

 

 

「貴様らは……ん? オマエは――裏梅か!」

 

「は。お久しぶりでございます、宿儺様」

 

「となれば小僧のガワを使っているのは羂索か? 貴様、よくも俺の前に面を出せたものだな」

 

 

 跪く側近の裏梅を見て、一瞬機嫌を上向かせた宿儺であったが、少年の正体に勘付いた途端に不快感を思い出したらしい。忌々しそうに羂索を睨みつけた宿儺にとうの本人は肩を竦めた。

 

 

「ん、なんで私に殺気を向けるのかな? 君に恨まれるようなことをした覚えはないんだけど」

 

「惚けるとはいい面の皮だ、今すぐ剥いでやろうか?」

 

「待て待て、待ってくれ。なんでそんなに怒ってる?

 せっかく危険を犯してまで会いに来たんだ、久闊を叙してもいいんじゃないかい?」

 

「……本当に心当たりがないとほざく気か?

 ()()()()を俺を閉じ込める『檻』にしたのは貴様だろう。

 お蔭で興の乗らん小芝居ばかり見せられてうんざりしていた」

 

 

 腕を組み、不愉快さを隠さず吐き捨てる宿儺に、羂索はようやく納得したように手を叩いた。

 

 

「檻? ……ああ、なるほど。そのことか。どうやら誤解されてしまったらしいね」

 

「誤解だと?」

 

「確かにその宿儺の器――虎杖悠仁を作ったのは私だ。

 だがその器は、私が君の為にオーダーメイドした特注品なんだよ」

 

「……どういうことだ」

 

 

 興味が湧いたらしい宿儺が殺気を消すと、羂索は種明かしをする。頼もしい協力者に睨まれ、下手なことを言えば殺すと言外に態度で示されるのは心臓に悪い。それに元々、()()()()()以上は隠す意味もないのだ。総てを彼に伝えておくべく羂索は言葉を連ねた。

 

 

「現代だと宿儺の指は日本全国にばら撒かれた状況にある。

 これを集めるのは容易いし、実際殆どは集め終わった。

 だが呪術高専の忌庫に納められたものまでは回収できていない。

 総ての指を集めるには、悠仁という器は必要だったんだよ」

 

「呪術師共が小僧の特性を知れば、自ずと俺の指を集めようとすると踏んだと?」

 

「その通り。宿儺を完全に抹殺する手段として、悠仁は有用だと勘違いさせられたら思う壺だ。

 なぜなら悠仁が『檻』として機能するのは、()()1()8()()()()()()()()だ。

 それまで完璧に君を抑え込めるが、18本も指を取り込んだら最後、君の言う『檻』は崩壊する」

 

「ほう」

 

 

 良いことを聞いたと、宿儺はニヤリと口角を歪める。

 

 ここまで聞いて宿儺は羂索の施した仕掛けに勘付いたのだ。

 

 羂索はそれでも続ける。

 

 

「そしてここからが私の秘蔵の仕掛けになる。悠仁の体の主導権を完全に君が握れば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のさ。

 おまけとしてなんらかの術式に目覚める可能性もある。そして宿儺が完全復活して受肉した状態でも身体能力の上げ幅と、新しい術式も君に付属したままになるはずだ。

 君が他で器に成り得る奴を見つけ、そっちに引っ越して悠仁が抜け殻になったら、私の施した仕掛けはそのまま悠仁に利す形として現れるだろうけどね。どうかな、納得してもらえた?」

 

「なるほどな。それが本当なら悪くない話だ。

 貴様の話を鵜呑みにするなら、18本で俺本来の状態に近い力を得られる。

 指を総て集めたら、実質2本分、余分に強くなる計算だな」

 

 

 クックック、と笑みを漏らす呪いの王。

 

 破格の話だ。流石に自身が認め、対等の協力者とした術者である。

 

 だが……。

 

 

「で? まさかこんな話をする為だけに来たわけではあるまい。

 何か俺に話があるのだろう? 今は機嫌が良い、聞いてやってもいいぞ」

 

「はいはい……ホントに気難しいんだから困った王様だよ、まったく」

 

 

 羂索としても宿儺を完全に信頼しているわけではない。宿儺にとって不快なら気紛れに殺そうとしてくる可能性があるのだ。普通に接する分には、とある女より遥かに穏健ではあるが。

 

 本題は、その女のこと。

 

 羂索は宿儺が目をつけている妖刀の所在と、憑かれている女、そしてその状態について伝えた。

 

 

「……獄門疆だと?」

 

「流石に想定外らしいね。態々危ない橋を渡ってきた甲斐はあったらしい。

 当代の妖刀使いの術式は監禁呪法で、それを極めた結果、そこに行き着いたと私は見ている。

 特に薫子ちゃんの力量は、剣士として古今無双と言っていい。呪術の力量も含めたら……」

 

「何も知らなかったら危なかっただろうな。

 他ならぬ貴様の見立てだ、誤りではないだろう。

 ……初見で獄門疆などを使われたら封印されていたかもしれん。感謝しておいてやる」

 

「貸し一、ってことでいいかい?」

 

「ああ……癪だがな。いいだろう、()()()()()()()()()()()()()

 

 

 見透かしたように宿儺が言うと、頭のキレは相変わらずなようで結構なことだと羂索は笑った。

 

 彼が目配せすると裏梅が懐から包みを取り出す。広げたそれの中には、宿儺の指が五本あった。

 

 

「今すぐそれを呑んでくれ。あんまり長居したくないんだ」

 

「構わんが、悟られると厄介だぞ?」

 

「宿儺なら大丈夫でしょ。頑張って呪力を抑えて、器にも五条悟にも気づかれないようにしてくれ」

 

「クハッ……まあいい」

 

 

 促されるがまま宿儺は自らの指を続け様に呑み込む。

 

 これで悠仁は12本の指を取り込んだ計算になる。残り6本で、羂索の話が正しければ宿儺は自由を得られるらしいが……問題はその6本をどうやって手に入れるかだ。

 

 しかしそれに関して羂索は心配していない。宿儺は高専の指集めに協力していないため、五条悟が当初期待していた『探知機』としては機能してないが、宿儺本人は自身の指の在り処が近ければ感じ取ることが出来る。高専の忌庫の位置など宿儺は把握しているだろう。

 

 

「というわけで、残り6本は10月31日までにそっちで手に入れてくれ」

 

「上手くいけば小僧の体を奪えるが、そうなってもその日まで潜んでいろというわけだ。

 俺に計画の当日まで大人しくさせておくことに貸しを使うのだな?」

 

「ああ。呪いの王なら容易いことだろう?

 薫子ちゃんを倒すのに、君が手を貸す縛りを五条悟と結んでもいい。

 どのみち本当のことになるだろうし」

 

「よかろう。だが……貴様と五条悟の話を合わせれば、

 あの刀がカオルコとかいう小娘と一体化したというのは真実らしいな。

 ……()()と思うか?」

 

 

 宿儺らしくない、些か不安視しているかのような問いに、羂索はやはり肩を竦めるばかり。千年を経た今、どのように変化しているか実際に確かめていないが故、彼に訊ねたのだろうが羂索にも確証はないのだ。故に憶測するしかなく、予想になるけどと断りを入れてから告げた。

 

 

「分からない。けど、そうだね――」

 

 

 ――告げられた予想に、宿儺は嗤った。

 

 

「仔細把握した。さっさと帰れ、もうそろそろで小僧が目覚める頃合いだ」

 

「早いな。ま、そういうわけだから気をつけてくれ」

 

「ああ。……裏梅、今暫く待てよ?」

 

「はっ」

 

 

 立ち去る二人を見送る真似はせず、宿儺は腕を組んだまま瞑目する。

 

 卓越した頭脳を併せ持つ宿儺は、今後どのように振る舞うかを思案しているのだ。

 

 一先ず、気絶している呪術師二人はそのまま生かしておこう。そして自分は悠仁が気絶している間に襲撃してきた呪詛師を撃退したことにする。

 

 いや、殺したことにしておこうか。羂索と裏梅は、奇襲の一発目で死角から三人を戦闘不能にしているのだ。顔を見ていないだろうし、特級呪霊が襲ってきたことにすればいい。

 

 宿儺は今まで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 単に興が乗らなかっただけだが、その事実を利用すれば騙せる。

 

 五条悟は薫子との戦いで宿儺を利用しようと目論んでいると、とうの宿儺は勘付いていた。そうでなければ悠仁如きの雑魚に期待するわけがない。

 

 ならば話をそちらに怪しまれない程度に擦り合わせて……悠仁と密かに縛りを結ぶか、あるいは進んで指を提供させるように謀るべきだ。

 

 

「む」

 

 

 悠仁が目覚める感覚。同時に肉体の主導権を失うのを察知して、宿儺は忌々しそうに眉を歪めた。

 

 だが、今だけだ。今だけ堪えてやる。

 

 早く来い。式守薫子。

 

 宿儺はその時を熱望していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※悠仁の器としての許容量、機能に関しては作者の予想を交えた独自設定となっております。

そろそろ完結が近い。次回は渋谷事変の導入になるかな。
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