元就から宮永一族が毛利の中枢から離れ、決別を意味したことで宮永照継は毛利の事を考え、宮永の膨張を行うことを一族の会議で決定した
混乱中の備前をまず攻め、美作を攻略することで三国を有する大名に成長し、三好弱体化と共に東へと侵食することを目指す
「私の残された時間は限りがある。なんとしてでも毛利が潰されぬように防波堤となるのが宮永の勤め」
照継はダンと軍配を床に叩きつける
「迦具照、憇、弘金、軍略に長けるお前達なら問題ないだろう。補給は磐石にする。存分に暴れてこい」
「「「はっ!」」」
「漫」
「ここに」
「将軍に毛利は大友の動きゆえに動けないため、備後守護代である宮永家が毛利に代わり三好討伐に動くと伝えよ」
「はっ!」
「よく聞け、宮永家は天下を支える一族ぞ! 最後の最後に毛利に天下を取らせる。たとえ数百年かかったとしても」
「「「はっ!!」」」
照継の号令に宮永家は軍事行動を開始
三好との緩衝国である備前を半年かからずに併合、そのまま美作も1年かからずに併合
そこらの国衆とは別次元の資金力で兵農分離を行い、常備兵を雇える故の荒業であり、照継は自衛隊時代の教育や食事改革を行い、兵達に十分の量とバランスの良い食事を与えることで体格を良くしていった
永禄8年(1565年)
幕府より三好討伐の命が下った直後に第13代将軍足利義輝が三好家臣達に暗殺される事件が発生
これを好機と見た照継は逆賊三好の討伐を理由に三好の勢力に攻撃を開始
因幡、但馬、播磨の国々に1万の兵で攻撃を仕掛けるが、播磨の赤松一族に抵抗され、播磨攻略は難航
但馬、因幡攻略が1年で行えたのに対して播磨平定には5年の歳月を有し、更に播磨では税率を大幅に下げているのにも関わらず一揆が多発し、統治は困難を極めた
播磨での軍事行動の失敗により中央が混乱している間に大きく拡張して織田に対抗できる兵力を有しておきたがった、時間切れ
織田は永禄11年第15代将軍の義昭を有して上洛、近畿周辺を平定し、三好の近畿勢力を織田の勢力に組み込んだ
ただまだ織田とは勢力がぶつかっておらず、緊張関係では無かった
……が
「時間切れか……織田が台頭する前に京を押さえるのは失敗か」
「父上は何を焦っていたのですか?」
「漫か。天下はこれこら織田信長を中心に動き出すからな。これからの事を考えると難しくてな」
「しかし、今宮永家も備後、備中、備前、美作、因幡、但馬を有する巨大勢力となりました。幾つもの良港や鉱山も押さえておりますし、東源郷も合わせれば100万石に達する勢力ですよ?」
「織田は尾張と美濃だけで100万石を超えている。堺や近畿の周辺地域も押さえたことで250万石程度の兵力を有し……何よりあそこは兵農分離とはいかずとも常備兵ができているからな。堺の鉄砲も加われば我ら以上の力を有している」
「ならば毛利に頼るのは」
「毛利を助けるための策謀。肥大化は見せ札。我々は最終的に備後、備中15万石程度に収まれば良い。今の膨張でも相当無理をしているのだ……播磨は誤算だったが、播磨が安定したらまた力を蓄える。来るべき織田との戦いに備えてな」
「それまでは」
「貿易を通じて友好的に見せておこう。早いうちから交渉をし、来るべき時に臣従をする。問題は織田は直接的な支配を望むことよ」
「直接的な支配……ですか?」
「……国人勢力を残さないのが織田のやり方だ。それ故に強いが……他家からしたらたまったものではないがな」
「播磨平定後は守りに入るでよろしくて」
「ああ、守りに入る」
永禄12年(1569年)
播磨がまだ混乱しているなか、将軍足利義昭の命令により宮永照継、宮永迦具照、宮永照石の3代当主は揃って京に上洛
流石に軍勢を率いて京に入るわけにもいかないので船で福山の町から堺に行き、堺から京に入った
京では明智光秀が信長の命によって京の再建に着手しており、路上に亡骸が転がっている光景は無くなっていた
将軍がいる二条城に案内されて入り臣下の礼を取る
「この度は義昭公の将軍ご就任おめでとうございます」
「よくもまぁ祖父(足利義澄)を苦しめ、京から追放した大内の陪臣……聞くところによると武家でもなく農民出身の成り上がり者がここに来れたものよ」
その場に居た全員が凍りつく
何をいっているんだコイツはと
照継は生ける伝説である
黄泉帰り、鬼の棟梁との一騎打ち、伊勢での百鬼夜行
それだけでなく毛利を盛り立て、毛利と宮永の一族で中国地方を制圧しているといってもよく、今では6ヵ国を有する巨大勢力
幕臣達は先代から宮永照継が伝説を残してきたことを語り、上京の機会を常に待っていた
信長も主に忠義を尽くして成り上がった下剋上はびこる戦国の時代に忠義と能力、優れた先見性、金の意味を理解する者として是非とも会って会話をしてみたかった
武士達にとってもスーパースターであり、武士の手本が宮永照継である
実際に目の前で将軍に罵倒されても平伏している宮永3代当主達に一切の乱れはない
「……この度の上洛は新たな時代の主を見定めるためでございます」
「ほう?」
「室町230年……常に歪みが大きく、安定しない時勢が続きました。本来農民で終わるハズの私がなぜこの場に居るか……それを問うということは室町は終わりということでしょう」
足利義昭は一瞬唖然とした後に顔を真っ赤にし
「ぶ、無礼な! 余は将軍ぞ! 将軍居る限り室町は続く」
「ならば宮永は逆賊となりましょう。室町が続く限り日ノ本に安定は無い、害でしかない。どこもかしこも飢えと戦乱で疲弊している。それを治め、飯と平和を与えるのが武士……いや、上に立つ者の務め、将軍だから偉いのではない。将軍足りうる器量と行いがあって初めて将軍になるのだ。私は足利将軍家に失望している。この度は備後の守護代の官位を返納させていただく」
「ぶ、無礼千万! 誰ぞこの者達を斬り捨てよ!」
誰も動けない
混乱する京で生き抜いてきた幕臣達も、歴戦の猛者である松永久秀や織田信長、明智光秀等のそうそうたる面々をもってしても
照継達の威圧に動けなくいる
将軍である義昭は誰ぞ誰ぞといい続けているが、義昭は僧であって武士ではない
兄である義輝が亡くなったから席が回ってきただけである
威圧も感じられない……いや威圧するにも値しないと言葉にしないが示されていた
ただ、照継はニコリと今度は笑うと
「いやはや失敬、年を取ると思った事を言ってしまってな。幕臣の皆さんや織田信長殿や松永久秀殿とは色々喋ってみたかったのですよ。茶でも点てましょう。大内仕込みですがな!」
ハッハッハッと笑いながら照継は退室し、迦具照や照石も一礼をした後に退室した
堺の町で改めて照継は織田信長と松永久秀、幕府代表の細川藤孝、信長に連れられた明智光秀が茶室で会合を開いていた
「いやはや、先日は無礼な振る舞い誠に申し訳ない。ただ一度本心を言っておかなければと思った次第で……散々大内義興様や毛利興元様を困らせていましたからな。色々と思うところがありもうして」
「忠義に厚い武士の鏡と言われた方の振る舞いには見えませんな」
「細川藤孝殿、私にとっての武士道とは武士に成り上がった方ができることが増える、ただの農民が声をあげても説得力が無いから武士になったまでであり、根っこはそこらの足軽と変わらぬ。ただ人より多くを経験し、妖怪と化かし合いや知恵比べ、それこそ鬼と組手をしたり、先人達から多くを学んだ故の事、忠義というが、我が忠義は毛利家に向けられた物で幕府ではござらんからな」
「面白いな。照継殿は」
「信長殿の噂は聞いていますぞ。桶狭間やうつけと呼ばれていたこととか」
「うつけの話か! 懐かしいな。今では誰もその頃の事を話さないからな。いや、犬(前田利家)や池田(恒興)はたまに話すか」
「私も元就様に仕える前はうつけうつけと呼ばれておりましたからな!」
「なんと照継殿もか!」
茶を飲みながら会話が弾む
迦具照は明智光秀と会話が弾んでおり、明智光秀の苦労話を父親が偉大すぎて苦労が絶えないとか話していた
照石も歳の近い信長と細川藤孝に気に入られて話している
茶菓子を食べながらせっかくだからと今後の話をし始める
「信長殿は天下布武を掲げている以上我々とぶつかるのは必然。それは仕方がないことだし、私も人である以上この歳だ。信長殿より死ぬのは早いだろう。……が、天下人足りうるか確認しておきたい。日ノ本を託すに足り得るか」
「ほう? ワシを試すか? 照継殿」
「あぁ、試す」
羊羹を頬張りながら照継は話を続ける
「正直宮永家は自身が天下を目指すことには興味は無い。迦具照も照石も武士をしているが商人の真似事をやっていた方が合っているからな……最初は大内を天下人にしようと画策したが、尼子に逆転されて潰え、では毛利を天下人にしようとしたが天下人足り得た嫡男が亡くなって、孫殿は天下を治める器は無い。三好は政権が歪すぎた。松永久秀殿ならわかるであろう。室町との二重政権など不可能よ」
「うむ、何度も殿(三好長慶)に言ったが聞き入れてもらえんかった」
「細川殿には悪いが室町が居続ける限り日ノ本は安定しない。戦を無くし、第二の元寇に備えねばならぬのに」
「第二の元寇? どういうことだ?」
「照石、地図を」
照継は自身が作った地球儀を見せた
「これが世界だ。日ノ本はここで、南蛮人はここから来ている」
「反対ではないか」
「そう。はるか遠方から海を渡りここに来ている。今大きな国はポルトガル、スペイン、イギリスという国があり、日ノ本よりも広大な領土を得ている。彼らは宗教を使い、その国に内乱を起こさせて領地を得る」
「キリスト教か」
「ええ、別に個人が信仰するのは良いのですが、大名がこれにのめり込むと終わりです。外国の尖兵にされてしまいますのでね。それに対抗するには日ノ本に強力な中央政権が無ければならないのです」
「照継殿はワシならそれに足り得ると?」
「だから試す。まぁ宮永を屈服させたら益になるように動きますよ。信長殿、我々宮永家は堺との貿易を増やし、織田が富むように動きます。日ノ本の天下に必要なのは強力な中央政権、宗教勢力の一掃、そして武力です。そうですなぁ、宮永家は織田に歯向かうので蝦夷にでも改易、毛利は巨大すぎるので本家を長門、周防、安芸3国に、小早川に備後を吉川に石見、河野に伊予に別れさせ、独立させ、本家との婚姻を5世代禁止にすれば勝手に分裂するでしょう」
「キリスト教にドップリ浸かってしまった大友は改易させて九州から遠ざけるか取り潰し、島津は3州与えておけば従順になるでしょう」
「また関東は乱世が終われば急速に成長する力を持っています。関東は小国を乱立させるか本拠地にしなければ間違えても大領を家臣や同盟者等に渡さないように。国が割れるので」
「照継殿はどこまで見据えているのだ?」
モグモグと羊羹を食べながら
「500年先を見据えている。間違っても明や朝鮮との戦争はしないように。日ノ本の人口が約1000万人に対して中華は10倍の人口が居るから。あと周期的に明も衰退期に入っているから50年~60年で滅ぶから攻めこんだらその混乱に巻き込まれて日ノ本が衰退するから」
照継が話す世界の話をその場に居た全員が照継がいかに異質であり、本質的に武士ではないことを理解した
信長はこの事を心に刻み、宣教師達からスペインやポルトガルの事を聞くと概ね照継の話が合っているということを理解し、その先進的な視点に感動を覚えた
この話を信長は酒を飲むと家臣や家康に話したと歴史書に残っている