「さてと、海上戦力は今はこっちが有利だけど、どうせそのうちお祖父様の話だと学習して対抗してくると思うから、今のうちに陣地を構築しないとかな……ああ、因幡と但馬のはどんな防衛策を取るか聞いとこう。連携しないと危ないし」
宮永健は暇している宮永扇と一緒に美作と因幡、播磨の国境沿いにある吉野城(美作北東部)という山城にて、因幡、但馬方面軍司令官である宮永義哩(照継と覚の息子)と副将である宮永媛氏(義哩の1つ下の弟)と面会した
「お久しゅうな健」
「ええ、お正月の集まり以来かしら?」
「要件は因幡と但馬の防衛のことちゃうんか?」
「そうです。私の計算では摂津の荒木討伐に明智が向かったと聞いたのでこの混乱もあと半年から1年で終息すると思いますが」
「兄上の予想とドンピシャですね! 流石兄上!」
「いやいや、予想が一致しただけやないか。誉めることちゃうで媛氏」
「相変わらず仲良いなお前ら兄弟は。聞くところによると同じ女を同時に抱くってこともしてるんだろ?」
「何かいかんのか?」
「女装癖の扇も変態やん。わてらとそう変わり無いと思うで」
「はいはい、性癖の話はここまで、せっかく司令官が3人も集まったんだしどうするか話さないと」
「そこよなー、扇の策はもう使えんし……となると普通の防衛戦になりそうよな」
「備前、美作、因幡、但馬の4国を入れて兵3万てところやさい、城に籠って時間稼ぐよりは野戦で撃退したほうがよかと進言します」
「まぁ今天正5年(1577年)で野戦で撃退できたとしても1~2年で復活してくるだろうな。上杉に裏崩れ起こした北陸の柴田軍が回復しているのを見るに……」
「しっかし織田は凄いねぇ、上杉、武田、本願寺、宮永と4方面作戦を行っているのに全然崩壊しないし」
「国力もそうだけど優秀な人材を上に上げる仕組みがしっかりしているんだと思うな」
「うちだってそうじゃん」
「まぁそうなんだけど……でも結局のところ宮永一族が一番上っていう体制は変えられてないじゃん。あとは戦の経験の差かも」
「健、どうことや?」
「宮永も多くの戦を経験しているけど、あっちはほぼ常に戦い続けているから戦闘経験が違うと思うんだよね」
「あぁ、そういうこと」
「……ただ、私らは本当の『武士』ではないからそれを考えた戦い方をすれば良いだけだよね」
「……健、もしかしてお前」
「領民の忠義を使った戦をしようかね。備前と美作は宮永一族への忠誠心が滅茶苦茶高いし」
「ならうちら(宮永義哩達)は逆に戦らしい戦で戦おうかね」
「サトリ妖怪……いや、うちらは交信ができるから離れていても繋がっとる。それを生かした戦いをみせたるけん!」
方針は固まった
彼らは準備を始めるのだった
「ふう、全く生きた心地がしなかったな」
「宮永扇でしたか。凄まじい策を打ってきましたな……ゲホゲホ」
「半兵衛、お前さんは寝ておれ」
「いや、黒田官兵衛に軍師の引き継ぎを行うまでは倒れません」
「……お前さんはやると決めたら曲げんからな。一揆10万人を各個撃破したが、こちらも大きな損害を受けたし、農民達に恨みを買ってしまった。恐らく当分の間は播磨は安定せんぞ」
「それでもまだこちらは3万の軍勢と信長様が援軍を了承し、追加で2万が来るので再び総勢5万、どちらを攻めるか」
「備前、美作、但馬か」
「但馬は武田が片付き次第明智殿と丹羽殿が向かう手筈になっている。狙うは宮永の連携を遮断できる美作ぞ」
「では兵糧攻めは残念ながら逆にこちらの被害が大きい事がわかりました。播磨と違い美作は宮永一族が長年治める地、更にえげつない策をとって来るかもしれませんな」
「となると普通の城攻めか?」
「いや、籠っている敵に疑心暗鬼へと陥らせましょうか。策はこちらに」
「……上手くいくのか?」
「普通の武士なら上手くいきますが、宮永は普通ではないので五分五分かと」
「五分あれば十分じゃな。やれ」
「はっ!」
羽柴秀吉による美作侵攻は天正6年(1578年)11月より開始
美作の宮永健は直ぐに美作に援軍1万を送り、策を実行した
ゲリラ戦
農民達に惜しみ無く火縄銃や刀や槍を渡し、領民全員が武装した状態と秀吉が侵攻してくる前から軍事訓練を行い、更に損害は宮永一族が補填を約束し、剥ぎ取った敵の装備や物質はそのまま村の物にして良いとすると宮永一族に忠誠心が強い美作の民は率先して協力
なぜここまで協力的かというと、美作は山岳地帯であり、米が取れる場所も3ヶ所の盆地が殆どで交通の便も悪く上国に指定されていたが、民からしたら困った土地であった
そんな土地をなんとかしようと宮永一族は棚田を導入したり、椎茸の栽培や茶畑、木綿、小麦、果樹園等米が作れないのなら水を多く必要としない作物を作らせ、また水路を多く作り、荒地だった場所を田畑にすることで民の収穫量を上げた
宮永一族が来てから豊かになっていく自分達の生活に自然と帰属意識が芽吹く
美作では宮永一族が信仰する東源神社の分社が10件近く建てられ、それだけ宮永の文化が芽吹いていた
それゆえに侵略者に対して村ぐるみで抵抗するのは当たり前であり、被害にあっても約束を守ってくれる宮永家が補填するといったのだから容赦はない
美作に入るや否や常に秀吉の軍は襲われ続け、街道を歩けば矢を放たれ、村に入れば襲われ、必死に集めた食料には毒が含まれ、補給部隊は集中的に狙われる
商人達は宮永からの取引停止を恐れて羽柴軍に協力するのは少数であり、やっとの思いで到着した城は既に破壊され尽くしており、休める場所もない
更に訓練された宮永の軍隊1万もゲリラに参加して秀吉の軍を苦しませ続ける
「これが宮永の戦い……武士ではなく宗教との戦いに近いな」
「厄介なのは宗教勢力のように狂信的でありつつも制御できている点でしょうな。教育が行き届いている」
「(黒田)官兵衛もそう思うか」
「ええ、倒した雑兵から指示書と思われる紙が出てきましたから、雑兵でも文字が読めるのでしょう」
「凄まじいな。ワシも文字を覚えるのには苦労したが」
「……国1つの人口そのものが敵と思った方が良いでしょう。三成も補給部隊が襲われ続け、損失額に頭を抱えております。一旦退くのも手かと」
「城が使えないのは痛いな。綺麗に燃やされ、井戸も埋められて使えんくなっとる。宮永は土地を奪還する気は無いのか?」
「わかりかねますが……」
すると陣に秀吉の弟の秀長が入ってきた
「どうした」
「家長の宮永照石からの書状にて……備後、備中、備前3国の所領を約束するなら臣従の表明ありとのこと」
「……できん」
「なぜです兄上」
「信長様から言われとる。宮永は蝦夷に飛ばすと。備後1国なら許すが、3国は近畿の防衛上近すぎる。ワシの権限ではこれを決めることはできん」
「ではこの無駄な戦を続けると!」
「無駄とはなんだ! 秀長! ワシらの軍は着実に美作を制圧しておる」
「しかし、民が付いてきません。制圧できても年貢は極端に減らさなければ民が付いてきません。ただでさえ播磨の民は羽柴に靡いていないのですから」
秀吉は自分が思っている以上に宮永の力が強いことをまざまざと見せつけられ、結局補給線が先に崩壊したことで美作からの撤退を余儀なくされる
雪の中の撤退中にも美作の民からの追撃は凄まじく、秀吉は多くの兵を失うこととなる
躍進続きであった秀吉の停滞、失態は織田家臣からも白い目で見られていた
信長は宮永の策謀に軍が崩壊していないことを高く評価していたが、その考えを理解できる者は少ない
なぜ城を落としているのに撤退するのか
美作を攻めるのではなく石山本願寺への補給を絶つ為に備前へ攻めいるべきであろう
これまで秀吉に手柄を取られてきた者達が陰口を言う
織田家としては石山本願寺を落とすのが直近の最重要課題であり、その為の新兵器として鉄甲船の開発を急いでいた
鉄甲船が完成するまでは織田水軍は軍艦の保全第一に動いており、宮永村上連合水軍との決戦は避け続けていた
「……宮永は後回しにする。先に武田を終わらせる」
秀吉には播磨防衛が命じられ、信長は甲州征伐に動き始めるのであった