皆様の暇つぶしになれれば幸いです
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東京都浅草、雷門前。
人混みの中に仮面の呪霊-青江と彼の弟子である呪詛師-吉野順平は居た。
「交流会の襲撃、僕も行くんですか?」
「あん?なんだよ、行きたくねぇのかよ」
雷おこしの詰まった徳用大袋を片手に片眉を上げる青江に対して、順平は腕を組んで「うーん」と唸りながら不安を口にする。
「僕、殺されませんか?」
「かかか。高専の連中にとって呪詛師は問答無用で死刑対象だ。殺されるかもな」
「あの、流石に殺されるって分かっている場所にノコノコと出て行きたくはないんですけど・・・」
「なんだよ、高専の連中をぶっ殺してやろうって気概はねぇのかよ」
「ないですよ。別に何の恨みもありませんし」
青江の突然の申し出に順平は乗り気ではない。当然だ。彼には高専と戦う理由がない。
寧ろ、呪術高専という組織が陰日向にこの国を呪霊から守っていると聞けば彼らのますますのご活躍をお祈り申し上げる立場だった。
しかも毎年開催されている東京校と京都校への交流会という晴れの日を狙った襲撃なんて、出来ることならご遠慮願いたい。
しかし、次に出た青江の言葉で順平の気持ちは僅かに揺らいだ。
「だが、奴らは恵まれている。テメェとは違ぇ。呪力っていう特別な力を持った仲間内で、楽しく愉快に暮らしてんだぜ。自分の惨めさと見比べて、呪いたくならねぇのか?」
「・・・なりませんよ」
揺らいだが、その程度で見ず知らずの誰かを呪える程に彼は狂っていない。
「良い子ちゃんだなぁ。クソが」
「・・・すみません」
「かかか、謝る必要はねぇよ。どうあれ連れて行くのは決定事項だからな。テメェは嫌々俺様についてきやがれ。言うこと聞かねぇなら、殺すだけだ」
「別に行かないとは言って無いじゃないですか。青江さんが来いって言うなら、行きますよ。乗り気ではないですけどね」
「・・・なあ、順平。テメェ、最近やけに聞き分けが良くてキショいぞ。なんかあったか?」
「ええ、酷いなぁ。僕はただ青江さんのことを信頼しているだけですよ。ようやく名前も教えて頂けましたし、青江さんも多少は僕の事を信頼してくれているんじゃないんですか?」
「かかかかかー!呪霊と術師が信頼関係なんざ、笑い話にもならねぇよ」
「確かに。でも、僕らは“特別”ですから」
何故か照れながら笑う順平に青江は何とも言えない表情を浮かべた後、顔を逸らして歩き出す。
その後を追う順平は思う。
(呪術高専の人たちに恨みはない。ただ青江さんが祓われたなら、僕は初めて
“伊藤翔太”。順平が初めて自分の手で殺した
(青江さんが居なければ、僕の母さんも危なかった。アイツは僕だけじゃなく、母さんまで害そうとしていた)
自分たち親子は青江に救われた。
と、順平は思っている。
(
送り主【伊藤翔太】の名で吉野家に届いた宅配便の中身は、一見すれば何処かの部族の土産物にも見えた。それが呪物だと気が付かずに母が触れようとしたのを、家に居た順平が止められたのは幸運だった。訝しんだ順平がワザと家を空ければ、伊藤翔太は直ぐに順平の友人を名乗り、母を騙して家に上がり込もうとしてきた。それを阻止して、順平は母親を守る為に伊藤翔太を
(今思えば、伊藤は馬鹿な奴だった。人を呪わば穴二つ。呪物を使って、自分の頭が狂った。僕はどうしてあんな
初めての殺しに動揺はなかった。寧ろ、スッキリした。
(呪力を持たない
思い出すのは廃ビルでの一件。順平の覚悟を確認する為に悪役を演じつつ、誘拐されていた少女を救った青江の姿。
(僕はこの人について行くんだ)
順平は心の中でそう決意して青江の後に続く。青江はそんな順平の勘違いにまみれた決意など知る由もなく、友人である花御からのお土産である特級呪物『メルキド四面』を使ったお遊びがあまり上手く行かなかったことを少しだけ悔いていた。
青江が順平への虐めの主犯である伊藤翔太と順平の母親にそれぞれ送った呪面。上手くいけば呪われた二人が殺し合う筈だったが、順平が偶々、居合わせたせいでそうはならなかった。
(まあ、結果的に順平に殺しを経験させられたから良いけどよ。呪面も残っている。かかか、次は失敗しないようにしねーとな)
思惑は外れた。だが、吉野順平は青江の思い通りに順調に呪詛師へと堕ちている。
それなら良いと笑いながら、青江は羂索が計画した東京と京都の姉妹校交流戦を狙った呪術高専への襲撃を思いながらに笑う。
「ちょっとだけ思いだしたぜクソ五条。テメェが漏瑚にヤッた分、お礼参りしねぇとなぁ」
「青江さん。なんか楽しそうですね」
「かかか、楽しいぜ。俺様は何時だって、クソがクソみてぇに生きて居られる今が、楽しくてたまんねぇのさ。かかかかかー!」
交流会襲撃の当日。
三日前まで、そんな風に笑っていた青江は現在―――片膝を着いていた。
「あれ?誰かと思えばその雑魚さ、やっぱり青江パイセンじゃん。こんな所で何やってんの?」
「・・・クソが」
交流戦の種目は毎年、決まっている。一日目は集団戦。二日目は個人戦。集団戦を狙っての襲撃は、羂索の作った“五条悟”の侵入のみを拒む代わりに、そのた“全ての者”が出入り可能な結界という
呪術高専の生徒たちが居る帳の中には既に羂索の連れてきた協力者である数名の呪詛師と花御が居る。
青江の役割は
その役割を聞いた時、漏瑚は「やめておけ」と忠告したが、青江は聞く耳も持たずに大笑した。
その結果、五条悟との会敵から僅かに三分。青江は片膝を着き、その側にはプスプスと白い煙を上げる順平が大の字で倒れていた。
「きゅ~」
「クソの役にも立たなかったな
「アッハッハッ!雑魚が群れた所で雑魚でしょ。未来ある若人を誑かした上に罵倒するとか、パイセンのクソ
五条はそんな風に笑いながらも、“
五条にとって“青江貞次”は唯一、
その
「僕さ。それなりにパイセンの事はリスペクトしていたけど、それは性根は腐っている癖に、芯があったからなんだよね。だから去年の傑の計画に協力してやったんでしょ。それなのに今は他の連中と馴れ合っているワケ?節操がないよねー。軽蔑するよ」
「かかか。悪ぃが言ってることの半分もわかんねぇなぁ。テメェがクソ五条だってのは思い出してんだが、まだ記憶にモヤがかかってんだ。スグルってだれだよ?」
「あっそ。覚えてないなら、別にいいよ。僕は僕で傑との約束を果たすだけだし。・・・つー訳で悪いけど、祓うよ。パイセン」
「かかかかかー!出来るかな!テメェに!俺様が!祓えるかぁあああ‼」
そう言いながら青江がとった行動は“逃げ出す”だった。
「・・・・・・・・・は?」
刀を投げ捨て、地面に転がる順平を拾い、青江は五条の足止めという役割を放棄。
クソだクソだと言ってみても、それなりにリスペクトしていた先輩のそんな行動を前にして、術式を発動する構えを見せていた五条は少しだけ呆然とした後、吹き出す様に小さく笑った。
「忘れてた。パイセンってば、マジもんのクソ野郎だった」
青江が逃げ出した先は五条悟の侵入のみを拒む漆黒の帳の中。五条は青江が現れる前と何も変わっていない現状を眺めながら、帳の解析を開始する。
「少し、急ごうか」
羂索の計算では三十分は持つ筈だった帳。青江の介入により、その時間を数分でも長くしようと考え、あわよくば五条に青江が祓われることを望んでいた羂索の思惑は、しかし、青江がいとも簡単に気に食わない
青江貞次。彼は計画に組み込んではいけないタイプの逸材だった。