一級呪詛師の青江さん   作:白白明け

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皆様の暇つぶしになれば幸いです
(^^)




クソみてぇなガキども

 

 

2018年10月31日。京急百貨店、東急東横点を中心に半径およそ400Mの“帳”が降ろされた。

“一般人のみを閉じ込める帳”。侵入者を取捨選択する高度な結界術を用いながら、水面の鏡面如くに揺るぎない(ソレ)に触れて、俺様は舌打ちを鳴らす。

後の歴史に残るだろう大事件は始まった。

その大事件の目的は五条悟の封印だ。

 

「クソが・・・」

 

呪霊の呪霊による呪霊のための世界を作る為に五条の消す事には賛成だ。生前の俺様にしても五条に対しては因縁しかない。だが、その手段が“封印”であるって点がクソだ。

視界から消すのならば“殺したい”。呪霊として当然の本能。

そうしてやるのが先輩の在り方としては()()()だろう。

 

五条悟。現代最強の術師。

俺様は知っている。あのクソは死にたがっている。勿論、只の自殺願望者じゃねぇ。最強である自分が、全力を出した上で、更なる最強に殺される事を望んでいる。

 

―――僕を殺すのは、時間や病でなく、僕より強い奴であって欲しい。だから、パイセン。もっと強くなってよ。

 

俺様が呪詛師に堕ちて初めて対峙した時、四肢をへし折った上で頭上から垂れた講釈には流石に背筋が凍った。

到底、現代人とは思えない思考。

だが、同時に安堵もした。

 

()()()()()()()()()

そう思えた。

 

「人間を人間たらしめるモノが何か知ってるか?」

 

俺様の問いに首を傾げる者は四人。

その四人が今の俺様の仲間である漏瑚たちで無いことが少しだけ悲しい。

東京メトロ渋谷駅七番出口前のファストフード店。帳が降りて事態が混沌とする前に購入しておいたハンバーガーを囓りながらの問いかけに一番初めに答えたのは順平だった。

 

順平は口に入っていたナゲットを飲み込んだ後、少し照れながらに言う。

 

「えっと、“心”ですよね」

「・・・その心は?」

「たとえ呪霊でも、人の心さえ持っていれば、それは人です」

 

―――青江()さん()みたいに。と続いた言葉。

純真な眼は馬鹿丸出しだ。答えるまでも無い不正解。

 

俺様は視線を菜々子と美々子(ポンコツシスターズ)に向ける。

二人は紙コップに刺さったストローから口を離しながら、ほぼ同時に答えた。

 

「“愛”よ」

「“愛”かな」

「・・・なんで?」

「愛は人を強くするのよ」

「そんな事も知らないなんて可哀想」

「処●の癖にクソ生意気なこと言ってんじゃねぇよ」

 

顔を真っ赤にした二人から、中身の入った紙コップが飛んでくる。

それを手で払いながら、最後の一人に視線を向ける。

順平よりも背が低く、美々子や菜々子達とさほど変わらない身長。黒髪を後ろで縛った顔に傷のあるチビは俺様の事を睨むばかりで口を開こうとしない。

 

「かかか、(むた)。テメェ、俺様の事をシカトできる立場じゃねぇだろーが」

 

()京都府立呪術高専所属、(むた)幸吉(こうきち)。通称、究極(アルティメット)メカ丸は頭に呪面を付けていた。

特級呪具【メルキド四面】。人間を呪霊化する四つひと組の面の一つを俺様が与えてやったから、生前に禍根を残して死んだコイツは呪霊として蘇った。

いや、幸いにして粉々に成っていた肉体には真人の残穢がこれでもかとふんだんに残って居たので半呪霊化と言っていいだろう。

今の(むた)を構成する肉体は人間の肉だが、魂は呪霊に近い。

 

そんな(サマ)に成ってまで、コイツは生きたいと願い、その(ザマ)がコレだ。

笑うしかないお粗末さ。俺様に人間は救えねぇ。だが、だからこそ、人間を人間たらしめているモノが何かをコイツは知っている。

さっさと答えろと促す俺様の視線に、(むた)は煩わしそうに口元を歪めた。

 

「“願い”、だ」

「そうだな。“夢”と言い換えてもいい」

 

(むた)の頭を無造作に撫でる。視線で俺様が殺せたのなら、三度は死んでいるだろう殺気のこもった視線を(むた)から向けられるが、それすらも愉悦に変わる。

チビをおちょくるのは何時だって愉快だ。

 

「人間と変わらず動物も生存を望むが、それは本能だ。だが、人間は夢が叶えば死んでも良いとすら言う。生きているから夢を見るんじゃねぇ。夢があるから生きられるのさ。言い換えりゃ、夢を無くした人間なんざ、動物と同じって訳だ」

 

俺様は席から立ち上がり、店を出る。四人はその後につづき、渋谷の地獄の様な光景を見る。

“帳”の中に閉じ込められた一般人達が、羂索の放った呪霊と真人の改造人間たちによって文字通り()()()()()()()()()

元々、非術師を猿と呼べる菜々子や美々子達と違い、順平や(むた)には、まだ善性がある。

哀れな非術師(サル)共を救いたいとは思うだろう。だが、俺様はそれを許可しない。

 

「テメェらの夢がヒーローなら、サル共を救って自慰し(シコッ)てろ。違ぇなら、奴らは無視だ。好みの女を見つけて片手間程度で助けるくらいは見逃すが、それ以外は見捨てろよ。自分の“夢”を忘れんな」

 

「言われなくても」と直ぐに返事が返ってきたのは菜々子と美々子だけだ。

あとの二人は曖昧に頷く事しかしない。まあ、それでもいい。邪魔になるなら、殺すだけだ。

 

「俺様の願いは、漏瑚の願いだ。呪霊(ヒト)の世を望む。だが、其処に宿儺は必要ねぇ。羂索のクソも気にくわねぇから殺す。シンプルだ。シンプルに行こう」

 

やるべき事は簡単だ。

たった三人、殺せばいいだけ。

 

五条悟。

羂索。

そして、宿儺の器である虎杖悠仁を“殺す”。

 

「かかかかかかー!」

 

笑い声を上げて、俺様の渋谷事変は始まった。

 

 

 

 

 

20時55分、東京メトロ明治神宮前駅と渋谷を繋ぐ地下鉄通路に俺様は居た。順平のみを伴い、他の美々・菜々・与(クソガキ連合)は別行動だ。

奴らにはそれぞれ、役割を与えてある。

漏瑚と筆頭とした特級呪霊や一級術師の坩堝と化した渋谷区一帯にクソガキ共だけを行かせるのには命の危険を伴うが、死んだら死んだでそれでも良いと言うのが俺様の考えだ。

一応の保険として美々・菜々の二人には【メルキド四面】をそれぞれに渡してある。

精々、後悔と残穢を残して死んでくれればと思う。

 

「呪霊として、生き返らせてやるってなぁ。かかか!」

「流石は青江さん!優しいですね!」

 

ニコニコと俺様の隣を歩く順平の頭にも【メルキド四面】は付けられている。

 

「かかか、そうさ。俺様は何時だって俺様に役立つ奴には優しいのさ。だから、順平。テメェにも存分働いてもらうぜ」

「は、はい!わかっていますよ」

 

順平は地下鉄通路を彷徨く異形-真人の術式によって改造された人間からあからさまに眼を逸らしていた。見なくもないモノを見ないようにするのは、人間として当然の行動だ。

虐め・横領・差別・貧困etc.。世界には眼を逸らしたくなるモノで溢れている。そう言ったモノを直視すると心が病む。だから、現代の精神医学に乗っ取り、心理カウンセラーやら、肩書きだけは立派な自称優しい人々は言うのだ。

 

“逃げることは負けじゃ無い”。

 

「クソみてぇな感性だよなぁ。俺様は心底、そういう奴らをクソだと思うぜ。テメェはどうだ?順平。逃げることは恥じゃねぇと思うか?」

「えっと・・・時と場合によるんじゃないですか?少なくとも僕は五条悟を前に逃げないで戦うなんて選択は出来ませんし」

「バーカ、テメェじゃ五条を前に逃げることすら出来ねぇよ。だが、その考えは正しい。勝てねぇ戦いに挑むのはバカのやることだからなぁ。でも、忘れんじゃねぇぞ。逃げることは“恥”だ」

 

俺様は通路を歩いて居る適当な改造人間の首を掴んで持ち上げる。

改造人間は口元から唾の泡を垂れ流しながら苦しみ、無様を晒している。

 

「逃げ続けると人は弱くなる。弱肉強食が世の理である以上、弱いってことは悪いってことだ。悪いことを取り繕う必要がねぇ。弱いことは、悪いことは、それだけで殺される理由になるのさ。好きに生きたきゃ、強者になるしかねぇのさ。だから、逃げんじゃねぇぞ。順平」

 

俺様は改造人間を順平の足下に放る。順平は驚き俺様の顔を見る。

笑いながらに、俺様は告げた。

 

「虫の息だが、まだそいつは生きてる。テメェが殺せ」

「ッ⁉」

「そいつは前にテメェが殺した同級生みてぇなクズじゃねぇ。真人の術式に変えられただけの只の普通の人だ。もしかしたら家族のために懸命に働く父親だったかも知れねぇ。もしくは結婚を間近に控えた女だったかも知れねぇ。あるいは青春を謳歌する未来が有る只の学生だったかもな」

「・・・真人さんの術式によって改造された人間は、助からないと聞いています。殺す必要は、ないじゃないですか」

「あるさ。テメェの為だ。テメェは呪術師じゃ無くて呪詛師だからなぁ。此処らで一つ、罪のない非術師(サル)の命を詰んでおけよ。良い経験になる」

「・・・・・・・・・やりたく、ありません」

「やりたくねぇことをやるのが、大人なんだぜ。テメェが()らねぇってんなら、俺様がテメェを()ってやる」

 

殺すという言葉を吐く時、俺様は何時だって本気(マジ)だ。

順平はそれを良く知っている。その筈なのに、順平は何時まで経っても首を縦には降らなかった。

 

「かか、かかか、かかかかかかー!」

 

笑いながらに改造人間の腹部を踏み潰す。血の泡を吐きながら、改造人間は呆気なく死んだ。

その死体から順平が眼を逸らしていれば、俺様は順平を殺す気だった。

自分のエゴで助けなかった命から眼を逸らす様なクソに用はねぇからだ。

だが、順平は眼を逸らさず非術師(サル)の死を見つめていた。

 

「なんで殺さなかった?俺様が殺そうがテメェが殺さなかろうが、改造人間共の寿命は短ぇ。どうせ明日の太陽は拝めねぇ。テメェの我が儘で、俺様の不興を買う意味はあったか?」

「僕には、彼らを救う力はありません。青江さんのやることを止める事も出来ない」

「ああ、そうだなぁ。雑魚だからなぁ」

「その通りです。僕には誰かを救う力はありません。だからせめて、誰を殺すかは自分で決めたいと思っています」

 

順平は俺様の眼を見てそう言った。それを聞いて俺様は仮面の下で思わずニヤける。

 

「かかか、悪かねぇ台詞だ。次はそれを震えずに言える様になりやがれ」

「は、はい!」

 

順平は良い具合に成長している。もう少しクソみてぇな社会の闇に触れれば良い呪詛師になれるだろう。将来が楽しみだと心底に思う。

その為に俺様は順平にもう少し試練を与えてやらなきゃならねぇ。

何しろ、俺様は順平の師匠だからなぁ。かかか!

 

「・・・さて、来るぜ。“帳”を払いに来た呪術師だ。俺様は予定通り、地下に降りる。テメェは此所で“帳”を守ってろ」

 

俺様は通路に突き刺さっていた巨大な杭を軽く蹴る。これは羂索が用意した“帳”を降ろし、維持する為の呪具。本来、これを守る役目を羂索から与えられていた呪霊は(こう)GAY(ガイ)という飛蝗(バッタ)の呪霊だったが、俺様が役目を代わると言えば嬉々として外に非術師(サル)を喰いに出かけていった。

 

通路に降りてきた呪術師は【宿儺の器】虎杖悠二。

俺様は驚き、目を見開いた。

 

「おい、順平」

「わかっています。無理はしませんし、()()()()()。宿儺が出てくれば、僕は即死ですから。青江さんが目的を果たすまで、のらりくらりと()りますよ」

「いや、予定変更だ。あの呪術師を二人で殺すぞ」

「え?あの・・・此所は僕が足止めして、青江さんは羂索のところに行く予定では?」

 

コソコソと耳打ちをしてくる順平の言うとおり、当初の予定ではそうだった。

だが、予定があくまで未定であるなんてことは日常茶飯事。俺様は何時だってその場のノリで生きている。

 

「かかか!ターゲットが尻尾振って来てんだぜ?立ち去る理由がどこにあるよ」

「あの、予定を崩したら、美々子さんや菜々子さんに迷惑がかかるんじゃ?」

「・・・確かに二人は俺様が羂索と()ってる間に不意を打つ予定だったが・・・まあ、アレだ。アイツらだって臨機応変に動く事くらいはできるだろ」

「ええぇ・・・あの、後で怒られませんか?青江さんじゃなくて、僕が」

 

乗り気で無い順平の尻を蹴飛ばし発破をかける。

 

「いいから行け。まずはテメェからだ!殺っちまえ!」

「わ、わかりましたよ。もう、本当に我が儘な人なんですから・・・」

 

順平が前に出て、俺様は後方師匠面で腕を組んで立つ。

理想的な二人組の陣形に不安を感じたのだろう虎杖は頭を掻きながら訪ねてきた。

 

「あー、話合いはもういいの?」

「あ?ああ、いいぞいいぞ。サッサと来いよ。テメェみてぇなガキ一人、順平が簡単に()ってやんよ」

「了解。でもさ、戦う前にこっちの話も聞いて欲しいんだけどいい?」

「ああ?なんでテメェの話なんか聞かなきゃなんねぇんだよ」

「俺もそっちの話が終るまで待ってたんだし、お願いします!このとーり!」

 

手を合せて拝んでくる虎杖に毒気を抜かれた。順平も視線で「どうします?」と問いかけてくる。俺様は悩んだ末、少しくらいは話を聞いてやることにした。

虎杖は喜びながら笑顔でお礼を言ってきた。

 

「ありがとう!」

 

呪霊と呪詛師にお礼をいう呪術師なんて俺様は初めて見た。

コイツは底抜けの根明で大馬鹿だと確信した。

 

「まずはそっちのえっと、ジュンペイって呼ばれてる人。あー、なんて呼べばいい?俺もジュンペイって呼んでいい?俺の事は虎杖でいいぞ」

「いや、いきなり名前呼びは嫌かな。吉野、僕の名前は吉野順平だよ」

「そっか。なら、吉野。交流戦で釘埼と禪院先輩、えっと茶髪と黒髪の女子と戦ったのって吉野であってる?」

「うん。それは僕だけど、それがどうかした?」

「よかった。実は伝言を預かっているんだよね。釘埼の奴、もし出会ったら絶対に伝えろって、しつこくってさ」

「・・・え、何?あの時の怖い女子だよね・・・。僕、なんかやったかな?」

「寧ろ何もしなかったから、眼を付けられたんじゃねーかな。釘埼、ボコられるより舐められる方がムカつくっぽいし」

「えぇ・・・嘘だろ・・・」

「ドンマイ!まあ、とりあえず伝言を伝えます!」

 

 

「『次に会ったら殺す』」

 

 

「怖っ⁉え・・・怖⁉僕、問答無用で殺されるの⁉」

「あー、ドンマイ!」

「ドンマイじゃないよぉ・・・」

 

ズーンと擬音が聞こえて来そうな程に落ち込んだ順平を見て、俺様はせせら笑う。

 

「かかか!モテモテじゃねぇか!そういやテメェ、ヤンキー女にモテそうな顔してるもんな!俺様、この間、そういう漫画読んだぜ。今はそういうのが流行ってんだろ?」

 

俺様は腹を抱えて笑う。順平は頭を抱えていた。

虎杖は順平に三度目の「ドンマイ」を伝えた後、次は俺様の方を見て言う。

 

「それから青江、さん?にも五条先生から伝言があるんだけどさ」

「ああ?あのクソが俺様への伝言ねぇ。かかか!なんだ?今更、命乞いしたって遅えんだぜ?あのクソは絶対に俺様がぶっ殺してやるって決めてるからなぁ!」

「あー、えーと、五条先生からの伝言はですね・・・」

 

 

「『こか―――「あー、やっぱクソどうでもいいわ」

 

 

刀を指先で摘まんでの一閃。只、柄を握るよりずっとリーチの長い一閃は、生前の俺のピンチ力じゃ出来なかった芸当だが、特級呪霊となってからは用意に行える秘技。

突然、喉仏を裂かれた虎杖悠二は驚きの表情を顔に貼り付けながら絶命した。

 

「あ、青江さん・・・どうして、いきなり・・・何も殺さなくても」

「あぁ?何を寝ぼけた事を言ってんだよ。初めっから、宿儺の器である虎杖悠二は殺すって言ってあっただろーがよ」

「・・・でも、少しだけですけど、話して分かりました。彼は善い人だった」

「かか、かかか!だろーなぁ、俺様に比べれば呪術師なんて良い奴ばかりだよ。だが、それでも俺様たちは殺すんだ。善人を、聖人を、胸を張って殺すのさ。俺たちにも正義はあるって顔でなぁ」

 

順平は納得のいっていない表情を浮かべていた。俺様はそれでいいと思う。

苦悩する事は若者の特権だ。存分に悩み、考え、そして、俺様と袂を分かちたいと思ったのならそれでもいい。その時はその時、存分に呪い合うだけだ。

 

「だが、それは今じゃねぇ。構えろ、順平。“出てくるぞ”」

「え?なにがですか?虎杖悠二はもう・・・」

 

それ以上、順平の言葉は続かなかった。喉仏を裂かれ絶命した筈の虎杖悠二の身体が、何時までも立ち続けて居たからだ。それを見て、順平の顔色が変わる。

そうだ。呪いの王【両面宿儺】。

その器が殺したくらいで死ぬとは、俺様だって考えちゃいねぇ。

 

「虎杖悠二への不意打ちはゲームに言うならチュートリアルをスキップしたに過ぎねぇ。かか、かかか、かかかかかー!」

 

虎杖悠二の身体から湧き上がる呪力。そして、身体に刻まれる呪印。

そして、虎杖悠二が目覚めた時、その目は四つに増えていた。

 

 

「さあッ‼呪い合おうかー‼両面宿儺‼」

 

 

ここからが、本番だ。

 

 

 

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