一級呪詛師の青江さん   作:白白明け

16 / 20

※注意※
作品内に登場人物の大きな改変があります。
苦手な方はご注意ください。

皆様の暇つぶしになれば、幸いです
\(^o^)/




クソな幸福

 

 

 

21時00分 東京メトロ渋谷駅地下(B)(F)副都心線ホーム。

五条悟VS漏瑚&花御&張相の戦いは開始から十分で戦いの(てい)を成していなかった。

五条悟が“最強”に過ぎたからだ。

地下鉄ホームという閉鎖空間。其処に集めた一般人という人質。

五条悟は単独で特級呪霊の攻略と非術師の救出を成し遂げねばならない。

 

「・・・正直、驚いたよ。この程度で僕に勝てると思っている脳みそに」

 

それが問題になり得ない実力差が、彼らの間には有った。

 

「まずはそこの雑草」

 

五条悟が花御を指さす。

その顔にいつもの軽薄さはない。

 

「まずはオマエから祓う(ころす)

 

その言葉の通り、五条悟は基本的な呪力操作と体術()()で花御を圧倒し、その命の芽吹きに手をかけた。

 

「まずは一人―――ッ⁉」

 

その刹那、五条悟の【六眼】が【両面宿儺(圧倒的邪悪)】な呪力が遠くない場所で現れたのを感知し、同時に慣れ親しんだ呪力が掻き消されたのを感じ取った。

五条悟は花御に掛けていた手を思わず外し、その方向を見ながらに呟いた。

 

「パイセンの霊圧(呪力)が・・・消えた・・・?」

 

突然、隙を晒した五条悟に対して漏瑚は攻撃を行い、花御は距離を取った。

その判断が両者の命運を覆す。

呪術廻戦という物語の正史において雑草の様に刈り取られる筈だった花御は一命を取り留め、副都心線のホームに電車が到着した。

ホーム内に鳴り響く電車のブレーキ音。五条悟VS漏瑚&花御&張相(怪獣大決戦)に巻き込まれた一般人(パンピー)がやって来た電車に殺到する。

 

「電車だ!どけや‼俺が乗る‼」

 

生き残る為に他人を押しのける醜い人々。

聞くに堪(「痛っでぇ」)えない(「どけっ」)雑音(「待って‼」)と生命の危機に瀕して尚も自ら選択をする事のできない生物としての欠落としか言えない他責思考を嘲笑い、満員電車から改造人間と三人目の特級呪霊-真人が降りてくる。

 

「漏瑚~、花御~。お待たせ~」

 

スキップをしながら電車から降りた真人は改造人間から逃げ惑う人間たちを見渡しながら、その恐怖の声に快楽を感じていた。

 

「いやー、空気が美味しいね。恐怖が満ちてる。やっぱり人間少しは残そうよ。終末には森に放して狩りをするんだ」

 

真人の軽口に漏瑚は五条悟に捥がれた左腕を押さえながらも、口角を上げながらに答えた。

花御もまたそれに追随する。

 

「森ごと焼いていいのか?」

「(漏瑚、それは私が許しませんよ)」

「冗談だ」

 

三人揃った特級呪霊。

此所にあと二人がいないのが残念だと嘲笑(わら)う彼らを前に五条悟の顔が初めて歪む。

 

「・・・・・・(なに)(かんが)えてやがる」

 

三対一でも勝負にはならなかった。それが一人増えたところで、何も変わらないと五条悟は考える。

真人と共に電車に乗ってやって来た改造人間たちから逃げ惑う人々を横目で見ながら、五条悟は冷静に分析する

 

「ヤケになったのか?人間が減って困るのは、呪霊(オマエら)の方だろ?」

 

十分とはいえ、呪霊側(彼ら)五条悟(最強)と戦いの(てい)を成せていたのは、人質が居たからだ。

五条悟は戦いに巻き込まれて死ぬ人間は許容するが、呪術師として出来る限り救おうとする。

その枷を、自ら破壊する真人を前に五条悟の判断が一瞬、鈍る。

それを嘲笑(わら)い、真人は言う。

 

「人間のキッショい(ところ)、一つ教えてやるよ。いーっぱい、いる所」

 

瞬間、花御の植物(能力)によって塞がれていた天井の吹き抜けから大量の人間が地下(B)(F)から落ちてくる。

集合体恐怖症(トライポフォビア)。それは小さな穴や斑点などの集合体に対する恐怖症であり、症状によっては魚卵や蟻の大群にも恐怖と嫌悪感を持つことがあるという。

 

それを人間に対して発症していたなら、なるほど確かに呪霊たち(彼ら)にとってのこの世界は地獄だろう。

それを正す為。

()真人(呪い)呪霊(呪い)として、本能のまま人間を殺す。

 

(上の階にも呪霊か呪霊と組んでいる呪詛師がいる。渋谷に閉じ込めている一般人を次々に投入するつもりか‼)

 

五条悟は考える。

改造人間たちに襲われる人々。

殺される度に増え続ける人質。

三人の特級呪霊。

一級相当の実力を持つと思われる呪詛師(張相)

そして、先ほど感じた呪力(青江)消滅()

 

五条悟の動きが、止まった。

 

その隙を見逃す筈もなく、張相と真人の二人が動いた。

 

赤血(せつけつ)繰術(そうじゅつ)百斂(びゃくれん)】。

無為転変(むいてんぺん)多重魂(たじゅうこん)

 

「【超新星(ちょうしんせい)】」

「【撥体(ばったい)】」

 

五条悟の両側で血と人が爆ぜた。

それを防げど、頭上から迫る漏瑚の拳。

それを掴めど、漏瑚は自らの腕を自切する。

そして襲い掛かる、花御の地下茎が身体を縛る。

 

「―――ッ」

 

四対一を、三対一と何も変わらないと評した五条悟の自己評価は正しい。

本来の彼であるなら、勝負になどならなかった。

“領域展開”さえ使えたのなら、最初から勝負にはならなかったのだ。

 

五条悟は冷酷さを持ち合わせている。ある程度の一般人の犠牲を前提として、全ての特級呪霊をこの場で祓う(殺す)つもりでいた。しかし、死者も増え、生者(人質)も増え続けるこの状況では、その“ある程度”の天秤はもう機能しない。

 

地下茎に縛り上げられた五条悟に降り注ぐ拳。

術式によりダメージは無いが、それも永遠に続く訳じゃない。

五条悟は選択しなければならない。

(すなわ)ち、“領域展開”。【無量空処】を展開することで領域(ホーム)内の呪霊(彼ら)と人間を(みなごろし)にして、領域外の人間たちを救うことを。

しかし、それは五条悟が想定していた“犠牲”ではない。

彼が前提としたのは呪霊に殺される人間であって、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

その迷い。思考時間。集中を待っていた呪霊たち(彼ら)とは裏腹に、五条悟の六眼()に映っていたのは―――消えそうに揺らぐ緑青(ろくしょう)霊圧(呪力)だった。

 

「―――カッハッ」

 

五条悟から漏れた笑い声に、呪霊たち(彼ら)の背筋は凍り付く。

唯一、人から生まれた呪いである真人だけが、その表情(かお)を知っていた。

 

誰もみな、人が自ら作った、虚飾の枷に縛られている。

倫理。常識。地位。名誉。

あるいは憎悪でさえも、魂が外的刺激を受けることで代謝しただけの機械的な動きだと知る真人だからこそ、脂汗を吹き出しながら、口元を引きつらせていた。

 

「マジか?」

 

彼はこの戦いの後に“魂”が畏れていたのかもしれないと自己分析をすることとなる。

“最強”である五条悟。

彼がそんなもの(倫理や常識)に身体を支配(からだ)され、他者の視線(地位や名誉)を恐れ、世界(物語)の評価に媚び、自由さを手放して生きている―――()()()()()()

 

「領域展開【無量空処】」

 

瞬間、五条悟を除くその場に居る全員が無下限の内側に飲み込まれた。

その間、()()

“知覚”。“伝達”。生きるという行為に無限回の作業を強制する領域内に飲み込まれた者たちの脳に時間にして約十年分の情報が流し込まれ、非術師(一般人)の約半数の脳は情報処理が追いつかずに沸騰し機能を停止、残る半数も社会復帰が叶わないレベルの後遺症を残す結果となる。

 

しかし、その代償に副都心線B5Fに放たれた改造人間およそ1000体及び―――三体の特級呪霊と呪詛師一人を99秒で鏖殺する快挙を遂げた。

 

訪れた静寂。

積み上げた死体の山を前に五条悟は溜息を吐く。

 

「ハァ・・・これで僕も傑と同じ、か。嫌になっちゃうよねー。ホント、もっと・・・」

「かかか、もっと早くこの決断をしていれば、テメェは■■とまだ(つる)んでられたのかも知れねぇなあ」

 

五条悟が口にできなかった言葉を吐き捨てながら、最悪の呪霊がやってきた。

 

 

 

 

百九十八センチの長身。緑髪のオールバック。付けた仮面を剥がさずとも分かる邪悪な面構えの特級呪霊-青江は大切な仲間たちが祓われたと言うのに、その現状を嘲笑(わら)いながら、悠々とした態度で五条悟の前に立っていた。

その態度に五条悟は違和感を覚えていた。

 

「パイセン、モノホン?」

「かか、俺様みてぇな奴が何人も居る訳ねぇだろ」

「そうか、そうかも。パイセンみたいなのが何人も居たら、人間社会が成り立たないもんね」

「かかか!そうさ、それ程の脅威さ俺様は!」

「いや、実力な意味じゃなくて、すげークソ野郎だし。パイセン、一人で買い物とかできない人でしょ?」

「出来るわ!馬鹿にしてんのか⁉」

「うん」

「かか、かかかかかー!!殺す!犯す!クソ五条!ゴング鳴らしたのはテメェだからな‼クソが‼」

 

二十秒後、()した青江を長い足で踏みつけながら、五条悟は彼が本物である事を実感していた。

 

「うん。この踏み心地はモノホンのパイセンだ」

「か、かか、テメェ。この俺様にこんな真似をしやがって・・・どうなるか、分かってんだろうなあ」

「そっちこそ、状況わかってんの?そんな呪力を消費した状態で僕の前に現れてさ。・・・まさか、パイセン。自分が祓われ(殺され)ないとでも思ってるわけ?」

 

五条悟の六眼が青江を見る。

その殺意()が見たかったと青江は嗤った。

 

「確かに今のテメェなら、俺様を躊躇なく殺せるだろうよ」

 

青江は仰向けで倒れたまま、視線を倒れる一般人の死体に向ける。

 

「だが、同時にテメェは俺様を殺さねぇっていう選択肢も得てんだぜ?そこんとこ、よろしく」

「ハァ?(なに)()ってんだ」

「罪もねぇ非術師(サル共)を殺した時、テメエ、なんか感じたか?かかか、言わなくてもいいぜ。感じなかったろ。どころか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

青江の仮面が、割れる。

笑顔の仮面の下から現れた表情(かお)は、あの頃(学生時代)から何も変わらない顔だった。

青江は最悪の呪霊(呪い)である。

生前の青江貞次もまた最悪の呪詛師(呪い)であった。

だから、彼は何も変わらずに最悪(呪い)の言葉を口にする。

 

「■■に置いて行かれた時に、同じ事が出来ていたなら、そう考えなかったとは・・・言わせねぇぞ」

「・・・俺たちの前から逃げ出したくせに、知ったような口を利いてんじゃねぇぞ」

「かかか、なんだぁ?俺様に側に居て欲しかったのか?卒業後もッ、俺様に助けて欲しかったのかあ?かかか!確かになあッ、テメエらが最悪な一年を過ごした時に、俺様がいれば色々と変わっていたかもなあ!」

 

 

 

「星漿体の小娘(ガキ)が死ぬ事はなかったかもなあ!可愛がっていた後輩も助けてやれたかもなあ!■■の変化をテメェに教えてやったかもなあ!幸福(しあわせ)になれたかもなあァアアア‼」

 

 

 

五条悟は青江の腹部を踏み抜いた。

 

「フーッ、フーッ」

 

広がる血溜まりの中で青江は尚も笑顔を消す事はなかった。

 

「かかか、でもなあ、そうはならなかった。そうはならなかったんだぜ、五条。■■は死んだ。テメェが大好きだった奴らは、大勢死んだなあ。なあ、“最強”。教えてくれよ。テメエ一人も幸福(しあわせ)に出来ねぇ力に、意味って有るのか?」

「・・・何だってんだよ。勝手に生き返って、俺に言いたかった言葉がそれかよ‼」

「言葉遣いが昔に戻ってんぞ。かか、良いねぇ。良いねぇ。良いねぇ。俺様は、そんなテメェが、嫌いじゃあ、なかったんだぜ。■■と馬鹿やってる頃のテメェが、大好きだった」

「・・・キモ」

「かかか、安心しろ。自覚はある。だが、こればっかりは、死んでも消えなかった“感情(ホンモノ)”だ。だから、ずっと・・・考えていた。どうすれば、俺様が幸福(しあわせ)になれるのか、寝ても覚めても、そればかりを考えていた」

 

呪術師の為の世界を作る為、■■を王にしたかった生前の青江貞次。

その死後、呪霊(呪い)となった彼は再び王にしたい呪霊(ニンゲン)に出会った。

だが、漏瑚は自らではなく真人を自分達の頭に据えていた。

彼の考えを青江はよく理解している。

人から生まれた呪いである真人は、人の世が続く限り強く成り続けるだろう。

何時の日にか、“最強”の呪霊になるかも知れない。

 

だが、違う。

青江は死後()生前()も、“最強”を王にしたかった訳じゃない。

“最強”に焦がれるのなら、史上最強の呪いである両面宿儺にでも仕えていればいい。

 

そうじゃ、ない。

彼が見たかった景色は(いただき)ではなく―――

 

「五条。ひとつ、提案があるんだ」

「これだけ煽っておいて命乞いとか、マジで萎えんだけど」

「かかか、まあ、聞くだけ聞けよ。俺様もテメェも、幸福(しあわせ)に成れる最高にハッピーエンドな結末なんだぜ?」

 

―――ただ善人(いい奴)には、幸福(しあわせ)になって欲しいだけだった。

 

「俺とテメエで、“夏油傑”を受肉させよう」

 

それは彼が今まで吐いた中で、一番の呪いだった。

 





感想ありがとうございます(^^)
この場を借りて、お礼をさせていただきます!
とても励みになっております!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。