一級呪詛師の青江さん   作:白白明け

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皆様の暇つぶしになれれば幸いです。
m(_ _)m





クソのジレンマ

 

PM21:45。松濤文化村ストリート。

羂索が自ら解いた“帳”の外に吉野順平は居た。

その身体は血塗れだったが、息は上がっていない。顔色も良い。付着した血は全て返り血だった。

東京メトロ明治神宮前駅と渋谷を繋ぐ地下鉄通路で青江と別れた際、彼が順平に命じた指令は二つ。返り血はその内の一つを熟す際に被ったものだった。

 

「・・・臭うな」

 

衣服への血液の付着は、非日常だ。平穏に暮らす人々がワイシャツを血塗れにする量の血を被る事なんてない。

呪詛師として青江に見いだされて以降、血生臭い場所に度々連れ回せている順平だったが、()()()血をここまで多く被ったのは初めての経験だった。

青江との修行。五条悟との戦い。常に弱者の側にあり、血を流すのは己だった。

だから、知らなかった。

他人の血の匂い。

それに比べれば自分の血がどれ程に清廉だったかを知る。

 

気分は憂鬱。正直、足を止めてしまいたかった。

それでも地面に続く血痕を追って歩く。

何故なら、彼は―――

 

「女子を虐めるのって、そんなに楽しいですか」

「おん?ああ、なんだ。びっくりさせないでくれよ~。君かよ」

 

血痕を追っていた順平は新宿東急店内で釘埼野薔薇と補助監督-新田(にった)(あかり)を甚振っていた呪詛師-重面(しげも)春太(はるた)を発見する。

刀の柄が手の形をしている呪具刀を握る重面と、彼の前で膝を付く釘埼野薔薇。

二人の側に倒れる新田明は足を負傷していた。

 

「勝ち確なのに、甚振る意味って有るんでしょうか?」

「わかってないなー。せっかくの女の子なんだよ?お楽しみは、これからでしょ」

 

楽しげに笑う重面から視線を外して、順平は膝を付く釘埼を見た。

師匠である青江から「クソも良く観察しろ!」と叩きこまれた順平は釘埼野薔薇の下顎に有る青あざを見逃さず、彼女が軽い脳しんとう状態である事を看破する。

 

(高専の時も思ったけど、あの子は運がないな)

 

釘埼野薔薇が高専襲撃(あの時)より強くなっていることは見れば分かる。新田明という足手まといが居らず、実力を発揮できる状態であったなら、彼女が重面に勝てる可能性は十分にあっただろう。

しかし、現実は重面に敗北を喫し、其処にやって来たのも呪術師(味方)ではなく呪詛師(敵側)の人間という運の無さには、幸運の術式を持つ重面でなくても溜息を吐きたくなる。

 

「此所に来る途中に何人も高専の関係者が殺されていましたけど、貴方がやったんですか?」

「うん。それが俺の仕事でさあ。男ばっかに飽き飽きしていたんだけど、最後の最後に女の子が残っててやっぱり俺って運がいい~って思うんだあ」

「そうですか・・・」

「どしたの~。暗い顔じゃん。君も運がいいんだからさ、喜びなよ~。」

「僕も、運がいい?」

「女の子は二人いるんだからさ。俺は勿論、独り占めなんてしないよ~。お裾分けしてあげる」

「お裾分け、ですか」

「うん。好みのタイプを譲ってあげるよ~。どっちにする?」

「そうですか・・・、じゃあ・・・」

 

順平はゆっくりとした足取りで重面たちの方へ近づいていく。

膝をつく釘埼野薔薇の胡乱な眼が順平に突き刺さる。

其処に込められた殺意を肌で感じながら、順平は彼女を指さした。

 

「へえ~。趣味悪いね~。じゃあ、俺はもう一人の子で遊ぼっと。ああ、あとこれ、貸しだよ。だから、今度、青江を紹介してね~。初対面の時は喧嘩しちゃったけど、俺と彼の相性って其処まで悪くないと思うんだ~。だって俺と彼って結構似てる所あるでしょ。楽しいことがだ~い好きなとこ―――

 

「・・・似てませんよ」

 

「あ?何か言った?」

()()()()()()、言ったんですよ」

 

順平は釘埼野薔薇に向けていた視線を重面に向ける。

そして、彼を見下ろして笑った。

 

「鏡みたらどうですか?()()

「なになになに、喧嘩売っちゃってるの?あはは、やば~。・・・殺すよ」

「出来ますかね。()()()()()に」

「あ、マジなやつ?あはは、なら女の子は・・・俺の独り占めだ~!」

 

重面は順平を敵と認識して行動を開始する。手に持つ呪具刀を振り下ろしての袈裟切り。

順平はそれを避けたが、重面の攻撃は彼に向けられたモノでは無かった。

すっぽ抜けた呪具刀がこの場で一番の弱者である新田明に飛んで行く。

 

「新田ッ、ちゃん!」

 

釘埼は叫び、重面は笑う。

弱いものイジメこそが重面のやり方。

特に弱者を守ろうとしている者に対しては、それが有効であることを彼は熟知していた。

 

「“澱月(おりづき)”!」

 

順平の式神が新田明を守る。

しかし、それは式神使いから式神が離れた事を意味していて―――

 

「ほおら!ボディガラ空き!」

 

重面の肝臓打撃(レバーブロー)が順平に叩きこまれる。

 

「・・・え、固ッ⁉」

「貴方みたいな人が、考えそうなことですね」

 

順平は脇腹に呪力を集中させレバーブローをガード。そして、カウンターを恐れて距離を取った重面を尻目に釘埼野薔薇の襟首を掴んで式神(澱月)の所へと投げ飛ばした。

 

「これで遠慮なくやれます」

「え、マジ?式神使いが式神ナシでやるつもり?」

「式神使いに一番必要な能力について、僕は青江さんから叩きこまれていますから」

「あっそ!」

 

重面の呪具刀は手放しても勝手に戻ってくる上、遠隔捜査も可能な組屋鞣造の傑作。

既に重面の手には呪具刀が握られている。

その一撃を順平は靴底で受けた。次いで繰り出す蹴撃(キック)が重面を襲う。

 

「ちょ、ま、タンマ⁉」

 

順平の近接戦闘スタイル-“サバット”。

入門書を片手にレクチャーする青江から、順平はそれを叩きこまれていた。

 

『かかか!いいか、式神使いにとって一番重要な能力は近接戦闘能力だ!俺様の知る最強の呪霊繰術使いがそう言っていたからなあ、間違いねえ。・・・だが、天才である俺様は其処で満足しねえ。更に踏み込み検討を重ねた結果、極めるならサバットにしやがれ!』

 

サバットはあらゆる格闘技の中でも異端。

外靴での戦闘を前提とした現代社会において、恐ろしく現実的な格闘技。

キック力はパンチ力の約三倍。線の細い順平には其処もあっていた。

 

『昔に読んだ漫画にそう書いてあった!』

 

青江(バカ)の思いつきが奇跡を起こす。

吉野順平の才能が、開花する。

 

フェイントを用いた三段蹴り。

内の一つが重面の肝臓(レバー)を撃ち抜いた。

 

「ゲエッ⁉⁉⁉」

 

潰れた蛙のような悲鳴を上げて、重面は吹き飛ばされた。

順平は大きく息を吐いた後、釘埼野薔薇たちの方へと向かった。

 

「大丈夫?」

「・・・なんで、助けたのよ。あんたら、仲間じゃなかったの」

 

助けた相手に睨み付けられながら、順平は頬を掻く。

 

「色々あって、今の僕らは君たちの敵じゃないんだ。重面さんに襲われた人たちの中でまだ息があった人も、近くのコンビニまで運んであるから、あとはよろしくお願いします」

 

そう言って立ち去ろうとする順平の肩を釘埼野薔薇が掴んだ。

脳しんとうは治まり、万全ではないが立てる程度に回復した彼女をみて順平は安堵する。

 

(この調子なら、放っておいてももう大丈夫だよね。この女子、怖いし)

「あ、いま失礼なこと考えたわね。ちょっとコッチに来なさいよ」

「ええ~。嫌ですよ。・・・殺されたくないし」

「あ、虎杖からの伝言、聞いてたのね。しょうがないわね。新田ちゃんも助けて貰って感謝してるし、殺すのはナシにしてあげるわよ」

「・・・すごい理不尽なことを言われている気がする」

「なに、文句あるわけ?」

「イエ、ダイジョウブデス・・・」

 

順平は釘埼野薔薇から視線を外す。

B級映画オタクである彼には新宿のスカウトに自分から売り込みを掛ける様な強き女子を相手取れるスキルはなかった。

 

「ジャア、ボクハコレデ・・・」

「だから待ちなさいって。聞きたいことがあんの!」

「はあ、何ですか?それに答えたら、僕はまだやることがあるので邪魔しないでくださいね」

「なんかカチンとくる言い方ね。まあ、いいわ。虎杖よ。虎杖。アイツと会ったんなら、アイツが今どこにいるか知らない?新田ちゃんも怪我しちゃったし、一度合流したいのよ」

 

なんだ、そんな事かと順平は溜息を吐いた。

 

「“宿儺の器”。虎杖悠二なら・・・殺しましたよ」

 

順平は釘埼野薔薇を見下ろしながら「貴方の伝言が彼の遺言になりました」と冗談なんかも言ってみる。

彼なりの精一杯のジョークだったが、釘埼野薔薇には伝わらなかった様で彼女は固まっていた。

 

「・・・は?」

 

ようやく絞り出された言葉。釘埼野薔薇は順平の血塗れのワイシャツを見る。

その返り血が誰のモノかを考えて、全身が震えた。

 

「僕もいきなり殺すのには反対だったんですけど、青江さんがそうしたいって言うなら、仕方ないですよね。彼自身は良い人なんだなあって言うのが少し話しただけでも分かったけど、“宿儺の器”である事にかわりありませんし、羂索さんが彼を使って良からぬ事を考えていたみたいですし、それを思えば青江さんの即断即決は本当に流石だと今は思えます」

 

釘埼野薔薇は順平の言葉の半分も理解ができなかった。

()()()()()()

()()()

その言葉が、頭の中をグルグルと回る。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()呪術師(貴方たち)には出来なかった選択を、僕たちはしたんだ。そのことに関しても感謝してくれていいですよ」

「ふざッけんな‼」

 

釘埼野薔薇は気が付けば命の恩人に金槌(かなづち)を振っていた。

 

「良い奴だと思ったのに!イカれてんのね!」

「師曰く、呪術師も呪詛師(どっちも)イカれてるに決まってんだろクソが!ですよ」

 

金槌を振るえたのは一回だけだった。その一回も途中で金槌が地面に落ちるお粗末さ。

釘埼野薔薇は手の痺れに驚きながら、順平を睨んだ。

 

「・・・なにしたのよ」

「貴方が何もしなければ何もしなかったですよ。僕の術式は【毒】。“澱月”に守られて、()()()()()、なんともないわけないじゃないですか」

「・・・クソ、野郎・・・」

 

神経毒に蝕まれ、釘埼野薔薇は意識を失った。

順平は何度目になるかわからない溜息を吐いた。

 

「守るべき人がいるのに意識を失っちゃ駄目じゃないですか。新田さん、でしたよね」

「・・・はいっス」

 

順平の視線が成り行きを見ているしかなかった新田明に向けられる。

順平は青江から“高専のスーツは呪術師くずれ”だと聞いていた。

だから、彼は希望を込めて彼女に尋ねた。

 

「この人と、あとコンビニに置いてきた男性。二人を抱えて逃げられますか?その足の怪我で」

「・・・無理っスね」

「ですよね。ハァ、本当に、何度も溜息が出ちゃうな。やっぱり無理言ってでも青江さんと一緒にいれば良かった」

 

順平は深い関わりの無い人間に価値を見いださない。無関係な人間を青江(呪霊)が殺そうと眼を瞑れる。それでも手負いの女性二人を見捨てるのは気が引けた。更にせっかく助けて応急処置を施した人が死んでしまうのも、なんか嫌だった。

 

結局、澱月で釘埼野薔薇と新田明。そして、コンビニにおいてきた男性-伊地知(いちじ)潔高(きよたか)の三人を運ぶことにした。

 

「貴方達の仲間の所まで案内してください。・・・流石にこの女子みたいに、いきなり襲い掛かって来ませんよね?」

「大丈夫っス。自分が説明するんで。あの・・・ありがとうございます」

「どういたしまして」

「・・・」

「・・・」

「・・・あの、一つ聞いていいっスか?」

「なんですか?」

「本当に、虎杖クンを殺したんスか?」

 

順平は釘埼野薔薇の意識が戻っていないことを確認してから、真実を語る。

 

「・・・僕は弱いから、誰かを助けることなんて出来ない。だからせめて、誰を殺すかは自分で決める。虎杖が宿儺に“成った”時、殺すべきだと思いましたよ。でも、力が及ばず殺せませんでした。気が付いた時には全てが終っていました。青江さんが何かしたんでしょう。流石ですよね。虎杖は今、僕らの仲間が捕らえています。生きていますよ」

 

新田明は驚きながら、彼に尋ねた。

 

「・・・どうして釘埼サンに嘘ついたんスか?」

 

順平は頬を掻きながら、言い辛そうに言った。

 

「助けたのに生意気だったから、ちょっとムカついちゃって」

 

順平が見た目に似合わずイイ性格をしている事に新田明は驚くのだった。

 

(一見おとなしそうなのに中身は度胸のある生意気な年下。ギャップ萌えっスね。ちょっと良いかもっス)

 

 

 





ちょっと強くし過ぎた感がありますが、順平が幸せになるところを見たいのです。
(^O^)

あと新田ちゃんのキャラが好きなので書きたかった。
後悔はない。




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