皆様の暇つぶしになれば、幸いですm(__)m
『有名進学校の闇!続出する自殺者たち!』『京都で続く連続投身自殺の裏にある巨大な陰謀!』『いじめ加害者の自殺!加害者保護の人権団体設立!』『自殺STOP!悩む前にまず相談をしてみよう!』『駅での自殺を止めた方がいい理由。遺族に請求される損害賠償』
静岡県城ヶ崎市の某所。海岸線沿いを走るバイパスの側にあるラブホテルの一室で欠伸を噛み殺しみていたテレビのニュースは暗い話題ばかりだ。
「相も変わらず世の中クソだな」
前世で好きだったゲームのキャラクターの台詞で世間の暗さを嘆いてみるが、世間様だってその暗さの元である“闇”を作り出す側の俺様に嘆かれたくなど無いだろう。
先ほどからニュースで流れて居る話題の殆どに俺様は関わっている。
自分より成績の良い人間を蹴落としたい優等生。
利権絡みの巨大企業同士のいがみ合い。
いじめっ子に復讐したいいじめられっ子。
世の中には人を呪いたい人間で溢れている。お陰で俺様の商売はウハウハだ。一件、百万円という激安価格で請け負う呪殺。薄利多売も良いところだが、競合相手が居ないのならば、売り上げは伸びていく一方だ。需要が途絶える事も無いだろう。
呪霊が蛆の様に沸き、蠅頭が死体に集る様に、人間の負の感情には際限が無い。
周知の醜悪。誰もが知り、目を背ける。背けた先にあるゴミ山と生ゴミが、俺様の金に換わる。
「クソみてぇな世の中で、クソみてぇにマジメに、術師がクソ処理の仕事をする理由が有るのか?“弱者生存”?結構だ。“弱きを助け、強気をくじく”?大事大事。そりゃあ、大事さ。俺様のスペシャルディナーを作ってるのは
ラブホテルのセキュリティはザルだ。女ってだけで受付を素通りできる。そりゃあ、ラブホテルの活用法を考えたらそうだって話だが、こんな異様な女を素通りさせるのはクソだろ。
一発いくらだよ、クソが。百や二百じゃ足りねぇぞ。
欠伸をしながら見ていたテレビニュース。突如として開いた鍵をかけていた筈の扉。扉を開けて入ってきた“良い女”を見て、俺は欠伸を噛み殺すしか無くなった。
「良いね、良いね。痺れるぜ。いつからデリヘルで働き始めたんだ?
「さんを付けなよ、青江くん。君は私の後輩だろう?高専時代、君は上下関係に五月蠅かったと五条くんから聞いているよ。そんな君がそれでは、示しが付かないじゃないか」
「かか、年齢不詳がかますじゃねぇか」
長い白髪を
男が一人で泊まっていたラブホテルの一室に堂々と入ってきていながら、コイツは風俗嬢なんかじゃねぇ。手を出したら最後、預金残高の全てが奪われる上、結局、素肌にも触れられないまま路地裏に転がされるだろう。そういう
一級呪術師、
金額次第でどんな仕事も請け負う、クソ面倒な女。
「今回は、どんな依頼だ?」
「前と同じさ。一級呪阻師、青江貞次の処刑執行」
「いくらつまれた?」
「一千万だね」
「倍だそう。見逃せ」
「流石に呪詛師を金で見逃すのは無理だよ。私の仕事での信用に関わる」
「なら、五倍だ。五千出す」
「・・・ダメだよ」
「ちょっと迷ってんじゃねぇか。クソが」
頭を掻きながら、冥冥を見る。冥冥に命を狙われるのは、これで三度目だ。二度あることは三度ある。しかし、二度、殺されずに逃げられているのだから、今回も無事だろうなんて驕らない。
一度目は外部勢力の横槍。二度目は幸運。それら二つを今回も期待するのは、厳しい。
そして、何よりもクソなのは“金”だ。一度目は三百万。二度目は五百。今回で遂に一千万の大台に乗った。
冥冥の眼に宿る殺意が、金額に比例して爛々と輝いている様に見える。
「クソが、冥冥!聞いてくれ!俺は嘆いているんだ!金を貰って人を呪う俺様とテメェ!そこに何の違いがある?同じだろ?いや、
善悪の定義に一石を投じる俺様の演説を冥冥は聞いてもいなかった。部屋に置いてあった冷蔵庫から、ペットボトルの紅茶を勝手に取り出して飲んでいた。
自分の額に青筋が立つのが分かる。
「・・・知ってっか?こういう所の冷蔵庫に入ってる飲み物はなぁ、
「知っているよ。定価より随分と高いよね。自腹なら、絶対に飲まない」
「知ってて飲んでんのか、クソが!いいぜ、ぶっ殺してやる!テメェの死因は、二百三十円だ‼」
呪力を練り、全身に纏わせる。踏みだしで部屋の床がひび割れた。眼前にある綺麗な顔に拳を叩き込むが、避けられる。舌打ちをしながら放った回し蹴りは、冥冥がずっと肩に担いでいた巨大な斧で防がれる。蹴り抜こうにも威力が足りず、ぶつかり合った衝撃で周囲のものが吹き飛んだ。
「クソが・・・」
「フフフ」
クソみてぇな話だが、この女は強い。クソそのものである五条や夏油ほどに強くはねぇが、俺様を殺せる程度には強い。俺様は冥冥にバレない様にベッドの下へと視線を向けた。
「君の獲物は其処かい?」
秒でバレた。
「クソが‼」
俺様の獲物。
「拾いには行かせないよ?」
ベッドに向かおうとする俺様を邪魔する為、常に冥冥はベッドと俺様の間の位置に立っている。流石という他にない戦闘センス。普通に戦っているはずなのに、俺様の動きが誘導されている。俺様には出来ない器用な立ち回り。呪術界を牽引する一級の名は伊達ではなく、舌打ち混じりに睨み付けるが、冥冥はどこ吹く風だ。
「チッ、クソが。相変わらずクソ可愛くねぇ女だな」
「君の言う可愛さが、弱さなら私とは無縁だよ。そうなれるように鍛えて来たからね」
「・・・自信家だな。嫌になるぜ。俺様は一度だって、自分が強えって思えたことがねぇってのに」
「それは君が五条くんや夏油くんを
「かか、かかか!テメェに言わせりゃ、男のプライドも
踏み込み、蹴撃。斧とぶつかり、周囲の物が吹き飛ぶ。蹴り抜くことは叶わない。なら、“
「
一瞬、冥冥の膂力が弱る。その隙を突き、蹴り抜いた。吹き飛ぶ冥冥。俺様はベッドを蹴り上げて、ベッド下に隠していた竹刀袋に手を伸ばす。瞬間、冷蔵庫が俺様の頭上を通り過ぎて言った。
ギリギリだが、間に合った。竹刀袋から取り出した大脇差『にっかり青江』を引き抜いて、“
「呵呵、呵呵、呵呵呵呵呵ァーーー‼」
「呵呵、呵呵、呵呵呵呵呵ァーーー‼」
部屋に響く笑い声。それは呪術的な意味を持つ。冥冥は聞きながら、目の前で獲物を手にしてしまった呪詛師を見る。
(一級呪詛師、青江貞次。五条くんがいる今の呪術界で、夏油くん以外に名と顔を出しながら活動する唯一と言って良い呪詛師。フフ、流石だね)
青江の術式を冥冥は知っている。呪術高専関係者なら、誰でも知っている。青江の術式は『幻覚』。それを知った時、冥冥は思った。
冥冥は自らの術式『黒鳥繰術』を強いとは思っていない。カラスを操るだけの術式だ。弱い部類に入るだろうと思っている。故に彼女は研鑽し、術式に頼らない強さを身につけ、その天井を仰ぎ見て再び自らの術式と向き合い、強者と成った。
「青江一門相伝術式、『幻術
術式の開示。手に持つ特級呪具。万全だ。しかし、青江の口元は弧を描けど、眼には欠片の油断もない。
青江の術式は、
冥冥は青江に見せられた“地獄”。銀行口座凍結に一瞬だけ怯んだが、次は無い。
「獲物を持ったね。ようやく対等と言ったところかな」
「どこがだ?どうせ時間制限有りのクソゲーだろ。あと何分でテメェの増援が来るんだ?」
「卑怯とは言わないだろう?集団に属さない個の弱さ。呪詛師の弱点は其処にある」
「言わねぇよ、クソが。だからテメェも、これを卑怯とは言わねぇよなぁ」
青江は大脇差を部屋の床へと突き立てた。柄を握り、叫ぶ様はまるで
「まさか・・・」
冥冥は駆け出すが、少し遅い。青江は幻覚を見せる為の口上を謳う。
「呵呵呵呵呵―‼」
大脇差の特級呪具『にっかり青江』。それを触媒にしてラブホテル全体に青江の術式が発動する。昼前という時間。ラブホテルの利用客は少ない。しかし、九名の利用客と五名の従業員が『幻術
その内の窓側に居た六名が自ら窓を割り、身を投げた。
青江と冥冥が居た部屋の窓から、落ちて行く人が見えた、冥冥はそれを冷めた目で見ながら、
非術師の命を見捨てた。訳では無い。部屋の窓から見えた、落ちて行った人影。次はその人影がカラスの大群に咥えられながら屋上へと上がって行くのが窓から見えた。
「かか、助けるよなぁ。一応。それが、呪術師の弱さだよなぁ」
「それで、上手くカラスを遠ざけた君は、次はどうするのかな?」
「勿論、逃げんだよ」
冥冥が振り抜いた斧の一撃を、柄を握り
「一級呪具『
「良いモノを買ったじゃないか。いくらだい?」
「一億じゃく」
「私にくれないかな」
「
青江は窓から飛んで逃げた。それを見送る冥冥は斧の斧頭を床に付けると、深く長く息を吐く。
「今回も、前金だけの安い仕事に成ってしまったね。襲撃を気取られない様にホテル内に一般客を残したのが仇となったか、次からは気を付けよう」
静岡県城ヶ崎市某所にて起きた一級案件についての報告。
一級呪阻師、青江貞次の処刑執行を一級呪術師、冥冥が実行するも失敗。
青江貞次は建物内に居た一般人十四名に対し呪術を用いた殺害を実行するも、冥冥が内の六名を救出。
他、八名が死亡。