灰星のフィーネ   作:日向ヒノデ

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活動報告で第2話の予告をしているので、もしよければ確認してください。


第2話 マルドゥーク ①

 ──青空をみたの。

 生まれて初めて、蒼い……広い空を、みたの。

 大きな木が、日差しをちらちらと踊らせて……きれいだった。

 

 ──優しい人に、会ったの。

 お腹が空いたわたしに、ごはんをくれた人がいたの。

 わたしを心配してくれる、女の人がとなりにいたの。

 それは、きっと幸福な風景。わたしはなれない、微笑みの風景。

 終焉の世界では手に入れない、尊いものを……わたしは見たの。

 

 だから、わたしは──戦うことを、選んだよ。

 ……おとうさま。

 

◆◆◆

 

 イナンナ級潜空艦(エアキャリア)アマテラス。

 空飛ぶ鋼のクジラ、と形容される巨大な飛行要塞。人類を怪獣という巨大な脅威から守るべく、人類のありとあらゆる技術を集結させた飛行要塞である。

 国際防衛組織マルドゥークはこれと同規模の潜空艦を7隻運用することで地上における怪獣災害をいち早く察知して対応に当たっている。

 

 そんなハイテク戦艦の端っこに、冷たい鉄の部屋があった。

 怪獣犯罪の犯人を尋問するための部屋、刑事ドラマさながらの部屋に俺はいた。

「……で、なんで母さんがここにいるのさ」

「それは私がこの艦の司令だからよ」

 机の向かい、鋼鉄を思わせる女性がいた。

 というか、母さんだった。ぺらぺら資料を捲りながら淡々と応える。

 司令、つまりここじゃ一番エライ人ってことか。……母さんってそんなにすごい人だったのか。知らなかった。

 

「じゃあ、なんでここに母さんが来ているのさ」

「それは私があんたの母親だからよ」

 母さんはため息混じりにこちらを一瞥する。

 当然のことを何故聞くのか、そういった感情の混じる瞳。……嫌いな眼だ。

 母親なら、そんなことをするより先にすること……右手の傷を心配するとか、そういう姿を見せるべきだろうに。

 

「……尋問、しないのかよ」

「必要ないわ。だって、あんた嘘がつけないもの」

 そう教育したのは、私よ? そう答えて母さんは資料を机に放り投げる。

 見ろ、ということだろう。俺は資料の束を手に取り流し読む。

 内容は、俺と優河の情報。住所や通学先は無論のこと、身体情報や学校の成績、趣味嗜好だのプライベートをいったい幾つ侵害しているのか分からないほどの内容が記されている。そして、最後の一枚。俺と優河の充実した内容に比べてあまりにも少ない紙面に彼女……フィーネの情報が記されていた。

 内容は、スカスカだった。確かな情報は身長と体重くらいで、住所欄どころか年齢や血液型すら空欄。ほかは俺の証言……未来から来たとか、ヤタガラスを創り変えたこととか……そんなことが備考欄に小さく記されていた。

 

「2人は……優河とフィーネは無事なのか?」

「ええ。優河ちゃんはまったくの健康体よ。さっき目を覚まして事情を聞いているけど、受け答えがきちんと出来るくらいには精神的にも安定しているわ」

「そっか……なら」

「けど、もうひとりの……フィーネって女の子はまだ分からないわね」

「え……」

 最後に見たフィーネの姿を思い起こす。

 荒い息、青い顔、ぐっしょりと汗に濡れた姿……優河と共に医務室に運ばれていく様子。

 確かに、安らかな寝顔だった優河に比べて、随分と酷い様子だった。

 

「それって、いったいどういう……」

「──それについては、ワタシが説明するわよォ!」

 自動ドアを勢いよく開けながら、白衣を靡かせて颯爽と女性が現れる。

 その人物もまた、自分のよく知る人間だった。

 

「やっほー光チャン☆ 元気にしてるぅ?」

「……倉田さん。あなたもやっぱりいたんですか」

「そんなエンリョしいに呼ばなくていいのよぉ光チャン! もっと気軽にタマチャンとか呼んでいいのよぉ☆」

 ハイテンション&マッドネス。メガネと白衣がこの上なく似合う美人さん、そして俺がマルドゥークを奇人変人の巣窟と思うようになった元凶で、はっきり言えば苦手な人。

 倉田(くらだ)玉枝(たまえ)……母さんの友人にして同僚である研究者である。

 

「あんた、職務はどうしたのよ。フィールドジェネレーターがぶっ壊れたって聞いたのだけど?」

「きゅーけー時間よぉ、きゅーけーじ・か・ん! 作業の手順はしっかり伝えたし、10分もすれば戻るわよぉ! ケド、まさかジェネレーターが駆動系から何まで完全にオシャカになったら流石のワタシもため息つきたくなるものよぉ……これ、完全修復するには一回セリオンをバラさなくちゃだめねー。ま、半日あればすっかり元通りってところかしら……っと、そんで彼女、フィーネチャンの症状はいわゆる過労ねぇ。彼女、かなり無理してたんじゃないのぉ?」

「過労……ですか」

 倉田さんは幾つかのプリントを母さんに手渡しながら、俺の言葉に頷く。

 

「あのオーバースーツ……カルヴォスだったかしらぁ? よくもまあ無人戦闘機(ヤタガラス)をあんなモンスターマシンに創り変えたものねぇ。部品単位ではなく素材単位でみなくちゃ原型が全然見えないものぉ……葛籠クンが泣いて転がる大惨事☆ ソレに加えて空間干渉に怪獣を人間に直して……ま、どう考えたって先刻の戦いで限界近くまで体力気力を使ったのは間違いナシナシ! 倒れちゃってもしかたのないことね☆ 今は点滴うたれながらすやすや眠っているわぁ」

 倉田さんは机に腰掛けながら指折り数えてフィーネの状態を伝える。

 問うまでもない、と。キミの言いたいことはもう分かっているゾ。……そういう、こちらを見透かすような瞳で俺を見下ろす。

 

「それで、光チャン。キミ、聞きたいことがたっくさぁんあるんでしょ?」

「……ありますよ、そりゃあ」

「マルドゥークのオーバースーツ、セリオンシリーズが一体何なのか、セリオン・ソルがどうしてあんな危険な空間で戦っているのかーとか、あの怪獣“ギルタブリル”について何かわかったことはないか……そもそも、怪獣とは何者なのか、とかぁ?」

 俺は答えない。ただ、倉田さんは一方的にそうかそうかと頷いて、母さんの方を向く。

 

「光チャン連れ出すけど、良いでしょお? 彼、功罪の差し引きはゼロどころかプラスでしょ、違う?」

「……良いわよ。好きにすればいい」

 母さんはその言葉だけを口にして、部屋を出ていく。振り返ることもなく、それ以上何も言わず……出ていく。

 

「さて、許可ももらえたしぃ? お手軽艦内ツアーに行きましょっか、光チャン。目覚めたハニーにも出会いたくて堪んないでしょ?」

「……そうですね」

 差し出された手を無視して、立ち上がる。指輪だのネイルだのでゴテゴテした手なんか掴まなくたって俺は立てる。

 ……語弊ありまくりの言葉にどれだけ不愉快を覚えても、そんなことに俺は一々苛立ったりしないのだ。

 

「……お子様ねぇ」

 だから、その言葉は聞こえないフリをした。……どうせ、口答えしたってこの人はヘラヘラ笑いながら愉しむのだから。

 

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