2044年5月21日17時──越後山脈。
冬季はスキーで賑わう山中だが、5月の半分も超えれば人の気配はそう多くない。ましてや、怪獣警報のサイレンが響いているのだ。半径20キロメートル圏内の市町村では緊急の避難が行われており、住民のほとんどが地下シェルターに避難している。
──アマテラスから射出されたセリオン・ソルは気流を操作し音速の10倍の速度で大気圏内を飛行する。
インナーブロック内では通信機を介して今回の怪獣退治の作戦が練られていた。
『──以上が今回の作戦です、分かりましたか?』
「了解した。なら、子どもたちにカッコいい姿を見せねぇとな」
インナーブロック内でアクター(オーバースーツの操縦者を意味する)……結城大護は強く笑う。
だが、その目元は少しも笑っていなかった。油断なく、モニターに表示される目標地点やタイムリミットを確認し、作戦の工程を脳内でシミュレートさせている。
──今回は、普段とは違うミッションだ。
“出現した怪獣を討伐する”──これが普段の任務。
しかし、今回の任務──“怪獣の卵を孵化前に破壊する”というタイムリミットの厳しい作戦であった。
怪獣というモノは卵から出現する。
サイズは多くの場合1メートルから10メートル、例外に15メートル。殻は固く、1メートルサイズでも戦車の砲弾くらいなら傷ひとつ負わない。
卵は最初から“そこ”に存在していたかのように、自然に受胎するように出現する。出現からおおよそ10分以内に怪獣が孵り、急激に成長……5メートルから10メートルほどに成長し人類に対して襲いかかるのである。
だが、この程度の怪獣であれば自衛隊や米軍といった現地の軍隊で十分討伐可能な脅威である。対獣戦に特化したオーバースーツと軍事ヘリやドローン兵器などの火力支援を行えば10分そこいらで倒せるものだ。
『……なら、失敗しないよう油断しないでください。今回の作戦は特殊ですから』
「分かっている。油断なんてしないさ。……俺は結城大護、セリオン・ソルのアクターだ。ムシュマッヘの強さと恐ろしさ、そしてセリオンの強さを一番知っているのは俺だぜ」
知ってる。と、石宮美衣は大護を勇気づけるように、強く頷く。不安を隠すように、頷く。
……現れたのが15メートルの卵の場合、それは最凶の予兆であることを意味する。
15メートルを超える卵からはほぼ確実にムシュマッヘが産まれてくる。大陸殺し、最強最悪にして最大の怪獣──こうなると米軍でさえ足止めが精一杯となる。
だが、結城大護が今操縦しているセリオン・ソルを始めセリオンシリーズには確実にムシュマッヘを討伐できるだけの機能と装備が備わっている。中米の消滅以降、そのような大災害が起きていないことから分かるように、7機存在するセリオンによってムシュマッヘはすべて討伐されている。
しかし、今回ばかりは話が違った。結城大護が乗るセリオン・ソルは修理が未だ終わっていないのだ。
フィールドジェネレーター……セリオン各機に設定されている理想環境を限定的に再現するパーツ。それが先の戦いでショートし、破損していたのだ。こうなるとフィールドジェネレーターは使えない、現実世界のまま戦うしかなく……大地を蹂躙し沈めるほどの怪物を真っ向から迎え撃つことになるのだ。
飛車角落ち、なんて話ではない。いくら強力な駒を持っていようと、それを並べるための盤がないようなものだ。
──故に、今回の作戦は先手必勝。セリオン・ソルの最大出力の一撃で、孵化前の卵を破壊しムシュマッヘが出現を阻止することだ。
『卵にヒビが確認されました。──タイムリミットまであと30秒』
「了解……作戦通り、ソルのプロミネンス・アローで蒸発させる!」
超音速で飛行するセリオン・ソルが空中で静止する。そこが狙撃ポイントであった。
山中深く、木々に抱かれるように胎動する卵が球形モニターに拡大されて表示される。その隅に28秒とカウントダウンが示される。
……間に合わせるッ!
「──アプロォオオオン・ボルトォオオオオ、セェエエエット!」
セリオン・ソルは両腕を高く掲げ、両腕に備わる双刀を接続し──三日月の如き巨大刃へと変形させる。
銘をアポロン・ボルト、ギリシア神話の太陽神の名を持つセリオン・ソルの必殺武器たる剛弓だ。
セリオン・ソルの特殊機能──大気の支配。アポロン・ボルトはその力を存分に発揮し膨大な空気をこぶし大にまで圧縮していき──深紅のプラズマの矢へと変えていく。
それは太陽風であった。地球を照らし、様々な恵みをもたらし……そして破滅を齎す太陽の力……その一端を鏃として兵器へと錬成する。
「
続けて左腕を引き絞り、アポロン・ボルトと怪獣の卵の間に真空のレールを敷く。
物理学の仮定の上でしか存在しない完全無抵抗の銃身を一瞬で構築し、強大故に繊細なプラズマの矢を保護する。
「いくぞッ!! ──プロミネェエエエンス・アロォオオオオオ!!!!」
その声と共に、静寂に羽ばたく深紅の矢が射出される!
卵に着弾した瞬間、プラズマの矢がその熱量と爆風によって卵を完全に粉砕し、蒸発させる。周囲の被害はセリオンの能力で十分に抑えられる。
モニター映されるカウントは10秒。失敗は、もはやありえない。
「──ダメじゃん、怪獣を生まれる前に殺しちゃったらさァあ!」
──少年、だと!? 結城大護は介入者の出現に顔を歪ませた。
そう、イレギュラーさえ存在しなければ──この作戦は成功していた。
射線上、巨大な卵の前で黒色の少年が鎖の巻き付く左腕を掲げて嘲笑う。
「我が食卓に黒き食器を! 我が皿に腐った
──刻源提示。その言葉を引き金に、少年の左手に終焉の箱庭が現れる。
あらゆる繁栄を栄養とし、あらゆる資源を吸い尽くす木々が茂る涸渇の庭園──涸渇樹園の終焉風景、それを少年……ネロ・ロストグリーンはプラズマの矢に向けて叩きつけた。
空間が歪む。正と負、矛と盾、太陽と樹林──2つのエネルギーがぶつかりその余波で現実世界の大気……世界そのものがたわんで軋み、そして臨界点に到達する。
──ガラスが割れるような爆音が山を揺らす。
爆炎が巻き起こり……マルドゥークが想定したものよりずっと小規模な爆発を、結城大護はセリオン・ソルの力で抑え込む。
大気の壁に抑え込まれた爆炎は山肌のほんの一部を焦がすだけで留まり、爆煙は気流によって瞬く間に押し流された。
『モンスターノイズ、増大! ムシュマッヘが孵化するわ!』
「クソっ、やはりか!」
だから、結果なんてものは直ぐにわかった。
晴れた山肌、木々が吹き飛んだ爆心地……表面を僅かに焦げただけで、怪獣の卵はなおも健在。激しく明滅を繰り返すのは孵る直前のサインである。
その傍らには少年……千切れかけの左腕を抑え、なおも嗤う闇の如き少年。犠牲になった左腕も時間が経つに連れて修復されていく。
終焉風景は完全に破壊したが、そこで矢は失墜した。少年の左腕を奪い、卵へのダメージはほんの僅か。──作戦は失敗した。
──ピシリ、とそいつは産声を挙げた。卵を砕き、踏み潰し、山に断層を創りながら咆哮する。
さながら、目覚めを妨げられた怒りを訴えるように、そいつは叫ぶ。
ムシュマッヘ──色は茶色、種別は
『これより作戦は第二プランに移行します。セリオンはカルヴォスを守ってください!』
「……了解した!」
作戦は失敗。
だが、それはあくまで第一プラン──万が一のサブプランは並行して実行されている。
「頼むぞ、光少年! フィーネ少女!」
『──わかった!』『わかったよ』
通信機からノイズ混じりに少年と少女の返答が聞こえる。振り返れば、白いミサイルが飛翔し、剥がれた外装から灰色のオーバースーツ……カルヴォスが空中に躍り出た。
8分前、アマテラス艦内にて怪獣出現の警報を聞いて、結城さんと石宮さんがメディカルルームを飛び出したその後のことだ。
「──おはよう。ひかる、それと……ゆうか」
「フィーネ……おまえ、目を覚ましたのか!?」
不意に、儚い声が呆然とする俺と優河を呼ぶ。
振り向けば、フィーネが白い指先で目元をこすりながら、起き上がるところだった。……なんとも気の抜けた目覚め、こちらの驚く様子が面白いのかくすりと顔を綻ばせてすらいる。
「えっと、フィーネちゃん大丈夫? 体、つらくない?」
「大丈夫……そっか、2人ともわたしのこと、心配してくれてたんだ」
ありがとう、と小さく頷いてフィーネはベッドから降り、点滴の針を自分から外す。
「ダメだよフィーネちゃん! まだ安静にしていないとまた倒れちゃうかもしれないんだよ?」
「……そうだね。だけど、今とても大変なんでしょ? なら、なにか手伝うことがあるかもしれない……それがひかる、あなたの思いだよね」
「それは……」
蒼い瞳が俺を見つめる。心の内を……無意識に焦る俺の心を写していた。
「わたし、わかるよ。どこにいけばいいのか……あなたが振るう力の在り処が、わかるよ」
フィーネは歩いてメディカルルームの扉に触れ、開ける。そして、俺に振り返って無言で問いかける。
「ヒカル……」
優河が俺の手を握る。引き止める、ような冷たさではない。
「……必ず、帰ってきてね」
それは優しさだった。一人の救われた人間として、言うべき激励を優河は強い眼差しと共に言い切る。
「……ああ、待っていてくれ!」
俺は走り出す。フィーネの手を取り、彼女の言葉に従ってアマテラスの階段や廊下を駆け抜けていく。
3つ階段を登って降りて、途中息切れしてきたフィーネをおんぶして、明るい通路から鉄のように冷たい通路……あの尋問室よりなお冷たい道を走り……そして、その場所についた。
──そこは格納庫であった。絶え絶えな息を落ち着かせようと、俺はフィーネを背中から優しく降ろし、呼吸を整える。
「君! いったいどこからここに入ってきた!? ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ!」
「俺たちも戦えます! カルヴォス……俺たちのオーバースーツはどこにありますか!?」
「戦うって……子どもがぁ!?」
おじさんは困った様子で頭をかき、俺たち2人を見る。
「……その心意気は良いが、しかし君たちを守るのは我々大人の責務。大人しく部屋に戻ってくれないか」
「っ、でも……」
「──あらぁ☆ よく来たわね光チャン! どったしたのぉ?」
ハイテンション&マッドネス。白衣を靡かせ、倉田さんが俺たちの前に現れる。
……この人、持ち場でさえこんなテンションなのか。
「……俺たちも、戦いに来ました」
「──ふぅん、そう。あなたたちも戦いに参加したいのねぇ……良いわよ、案内してあげる」
「正気ですか倉田さん!?」
おじさんの悲鳴。この人に最初から正気なんてものを期待するほうが間違っている気がするが、当の俺も困惑せざるを得ない。
フィーネはじいっと、瞬き1つせず倉田さんを見つめている。……謎のナマモノを観察しているのだろう。
「正気も正気、大正気よ。セリオンの不調は葛籠の知っての通りでしょ? フィールドジェネレーターの破損に伴うフィールド形成能力の喪失。今行っている作戦はその状態で掴める僅かな勝機を狙うもの。ま、普段であれば十分勝ち目のある作戦だけど……今は違うのよねぇ」
「違う……どういうことですか?」
「そういうことは彼女がよく知っているでしょ。ねーフィーネちゃんっ!」
倉田さんのにっこりスマイル、その問いに対しフィーネはそうだね、と小さく頷く。
「たぶん、
「んじゃ、1つ質問。これがセリオン・ソルのデータ、それと怪獣の卵の情報。こいつを見て、そのワルモンの介入込みでの成功確率はいくらだと思う?」
倉田さんがデバイスを取り出し、幾つもの複雑な文章と数式が洪水のように次々に映し出される。
「見なくても、わかるよ。──ゼロ、ぜったいに成功しない。だれが来ても、そのセリオンってマシンの切り札を最低一度は無効にできるから。時間があれば話は変わるけど……」
「そんなものはない、か」
俺の言葉にフィーネと倉田さんは同時に頷く。
「卵が孵ればいよいよサイアク。中身はほぼ確実にムシュマッヘ、被害は……最低でも越後山脈一帯は壊滅でしょーねぇ。本領の発揮できないセリオンで倒せるほどムシュマッヘは弱くない──そこで、ワタシはあなた達の力を借りようと思うのデス! ね、聞いてるんでしょ琴葉チャン!」
『……つまり、そこのフィーネという少女の力を使うということか。倉田』
スピーカーから聞こえる母さんの言葉に倉田さんはそーよ、と肯定する。
「保険はいくらあっても足りないモノよ、琴葉チャン。──どうか、決断を」
『良いだろう。ただし、こちらの指示には必ず従え。それが絶対条件だ』
「……了解」「いいよ、わかった」
許可が降りると同時に、フィーネは格納庫の隅……幾つかの器具で固定されたカルヴォスに向かって駆け寄る。俺はその後を追おうとし──
「ちょい待ち、光チャン」
「なんですか、倉田さん!?」
倉田さんが俺を呼び止める。振り返って文句を言おうと口を開くと同時に、黒い長方形型の箱が投げ渡される。
……トランシーバーだ、裏には2つの数列が記されたメモがテープで貼り付けられている。
「通信機、必要でしょ? そいつでこっちが指示するから、チャンネルは全開でお願いね☆」
「……分かりました、ありがとうございます」
「気張んなさい! サポートはこっちでやるから、どーんとやってきな☆」
サムズアップと満点の笑顔の倉田さん。通信機をポケットに突っ込んで、俺はフィーネに続いてカルヴォスへ向かう。
「──ひかる、早く」
「分かっている、少し待て」
フィーネは既に包帯を円盤に繋げて宙吊りになっている。
俺はインナーブロックに飛び込み、四肢をアームに繋げる。
モニターに映像が映る。見れば、カルヴォスを固定する器具はレールに沿って下降……エレベーターのようにカルヴォスを移動させていく。
『テステス。聞こえるか、カルヴォス』
「き、聞こえています!」「……通信機、いつのまに」
胸元から不意に男の人の声がした。この人が俺たちの指揮を取る人なのだろうか。
『ならヨシだ。これより俺、
「よろしく、お願いします」「お願い、するの」
会釈。連動してカルヴォスの頭も少し動く。その様子を遠隔で見ているのか、ハハハと面白がる笑い声が聞こえる。……少し恥ずかしい。
『時間がないから手短にいくぞ。カルヴォスはこれよりミサイルに搭乗して現場に急行してもらう』
「ミサイル……つまり、ロケットみたいに飛ばされるってことですか」
『そうだ。作業は1分で終わる。レーンを下降している間にミサイルの外装で包んで、カタパルトに到達したら即射出。あとは現場まで3分で着く。ここまではいいか?』
「はい」
頷く。モニターにはロボットアームがせわしなく動き、俺たちを中心にミサイルがどんどん組み上がっていく。プラモデルの作成風景を内側からみたらこんな感じなのだろう。自分がちょっと小人になったような気分だ。
『カルヴォスに任せられた任務はサブプラン、怪獣が産まれた場合のバトルフィールドの形成のみだ。怪獣との戦闘含め、それ以外の活動は危機的状況を除き許可できない』
「それは、どうしてなの?」
『そりゃ嬢ちゃんの体を守るためさ』
フィーネの質問を、さも当然だと阿部という人は言い切った。
『詳しいことは不明だが、光くんの言葉が真実であればそのオーバースーツは嬢ちゃんの体力をエネルギーに動かされている。当然、動けば動くほどに嬢ちゃんは疲弊して倒れちまう。ちょうど、今朝の戦いのようにな』
……確かに、そうだ。眼の前で突然フィーネが倒れる姿は、できれば二度と見たくない。あんな、肝が冷えるような光景は。
『というわけだ、嬢ちゃんの消耗を極力抑えるためにカルヴォスの働きは最小限。怪獣との戦闘はセリオンが担当する。空間形成後はその通信機ではこちらかの通信は困難であるため、大護隊長に指示に従ってくれ。また、仮に卵が孵る前に破壊できた場合、カルヴォスはその場で停止し迎えが来るまで待機してもらう。異論は?』
「分かりました。フィーネも、それでいいだろ?」
フィーネも頷く。不服そうな表情だが納得はしているようだ。
ガコン、と大きな音を立てて、下降が止まり、梱包も終わる。
カルヴォスは90度、縦に回転して静止する。……装填されたのだ。
『──カルヴォス、発進準備完了。5秒後に射出する!』
息を吸って、吐く。暗く、狭い弾倉の中──灰色の烏は翼を畳んで時を待つ。
『カルヴォス、射出開始ッ!!』
ゴォオオオッ!!! 轟音、そして全身に襲いかかる重圧!
カルヴォス……否、俺たちは一発の弾丸となって夕暮れの空へ放たれたのだ。
──グゥウウウウウ……ッ!!
役目を終えたミサイルの残骸はムシュマッヘに直撃し爆発するが、爆煙から現れるムシュマッヘに傷はついていない。ただ煩わしそうに喉を鳴らすだけだ。
……核兵器を用いてようやく倒せる相手だ。効くとは欠片も思っていなかったが、これほどとは。
「……あれが、かいじゅう……あんなもの、だったんだ」
怪獣を目してフィーネはその威容に言葉を漏らす。
『──カルヴォスは規定位置にまで移動し、バトルフィールドを形成してくれ』
「わかった……フィーネ、いいな?」
「あ、うん。お願い。……わたしの“終わり”を、開くよ」
俺はカルヴォスを操作し、阿部さんに指示された座標まで移動する。
続けて背中の八翼のマントを広げて鳥かごのように周囲を取り囲む。
──俺の役割はここまで、あとはフィーネに任せるだけだ。
「いくよ──全ての命は我が手に還れ」
モニターに俯瞰される地表の風景、そこでは怪獣……ムシュマッヘとセリオン・ソルが戦っていた。
ムシュマッヘは俺たちのことを脅威と思っているのか、何度もジャンプしてこちらに攻撃してこようとしているが、しかしセリオン・ソルはその行動を双刀の連撃で尽く阻止する。
なんて強さ。これが今日まで日本を怪獣という脅威から守ってきた戦士の力か。
「微睡む星は我が手に願え」
セリオン・ソルの攻撃に業を煮やしたムシュマッヘは、大地を砕いて山を鳴らす。噴火めいた土砂崩れ──しかしセリオン・ソルは数千トンの暴雨すら大気の傘を振り下ろしてねじ伏せる。
おかげでこちらには塵1つ飛んでこない。フィーネの世界は順調に隔絶を始め、鳥かごの内と外で陽炎のような揺らめきが見え始める。
「濡れた光は我が手に眠れ──刻源提示っ」
土砂の煙が暴風で吹き飛ばされる。爆心地から現れるのは砲門──尾と両腕を大地に突き刺して巨体を固定し、背びれから大顎にかけて赤々と発光し……超音波を束ね地殻を粉砕する“地震”の砲撃──クェイク・カノンが上空……俺たちに狙いを定めている。
俺は思わず眼を閉じる。恐怖、逃避……確かな死を目前に、臆す。
世界が切り替わる。灰に黄昏れる終の世界と現実世界の境界線上、閉じる瞳に超音波の砲弾とセリオン・ソルの影が重なり──
俺たちは、フィーネの世界に飲まれた。