瓦礫に埋もれた道を踏み越えながら、一人進む男がいた。
齢20になったであろう年若いその男、
緑に覆われた崩れかけの建造物の中を手慣れた動作で走り続ける。
その片手に握る黒い箱型の機械から鳴り続ける不規則な音も、
彼は特に気にする様子もなく
行くてを阻む瓦礫の壁、山の数々は、時には目敏く見つけた足元の隙間から突破し、時には僅かな足場を見つけ出し空高く飛び越える。
そうして目指す先はどこだろう?
幾重の廃墟を超えて目指す先で、彼の足はやっと止まった。
行き止まりだ。
そこは円状に大きく開けた空間だった。
きっとここだ。ここが目的の場所だ。
彼はそう強く感じた、
彼の感覚は今日この時以上に冴えわたったことはないだろう。
空間の中央に、巨大なカプセルが鎮座する。
多数のチューブのようなものが地面から伸びて、そのカプセルに繋がっている。
表面は経年劣化によってボロボロであったが、
カプセル自体の機能は生きているようだった。
時に赤く点滅し、その次には青く点滅し、また赤く点滅した。
その光が一体何を示しているのかは青年には分からないが、ここまで来たのだ。
自身の目的を果たす。
青年はカプセルに近づいた。
特に警戒するようなこともなく、散歩にでもきたような気軽な足取りだ。
訳の分からない端末がカプセルの傍に設置してあった。
どういった用途なのか、どういう操作を行うものなのかは皆目検討もつかない。
だけど、こんなものは必要ない。
彼はカプセルに触れた。
ゆっくりと、壊れ物を扱うかのような優しい手付きで
触れると同時に黒い箱型の機械が一際大きな光が放たれた。
一瞬で視界を白で埋めつくすような光、それも瞬く間に収まると
眼の前のカプセルから音が鳴る。
カプセルに繋がっていたチューブが火花を散らしながら外れていく。
カプセルの正面が開く、二重の殻で覆われていたそれらが全て取り除かれると、男はカプセルに近づいた。
ゆっくりと、中を覗き込む。
「……そうか、これがそうなんだな」
男はカプセルの中に身を乗り出すと
中で眠っていた少女を両手で抱き上げた。
足元まで無造作に伸び切った黒髪が、少女の表情を隠す。
注射跡の様な傷を身体中に残し、その姿は生まれたままの様に何も纏っていない。
「今更、この子供を起こして何をしようとするのかは分からんが…」
我が身はただの傭兵だ。
依頼を受け、承諾し、それを遂行した。
あちらの事情を把握しているからこそ、己へともたらされた仕事だ。
ならば彼がこの仕事に対して余計な詮索を行う事は望まれていない。
「……んぅ…」
少女は腕の中で小さく身じろぐ
そろそろ目覚めるだろう。
そして意識を覚醒し、これからこの世界を知る事となる。
その先に幸があるか不幸があるかは彼女と彼女を取り巻く世界次第だろう。
「せめて、少しはマシだと思えるような今生になる事を祈っているよ」
この男は、心無い言葉を目覚めかけの子供に掛けるのみだ。