霧深き領域を超えて(旧)   作:バンリ

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第15話

「グレイ号は万全を期する為に、これより最終調整を行います!道中でエンストなんてしようものならわたくしの人生が終了すること請け合いでございますので!」

 

「そうか……わざわざ俺が呼び出された意味ってあったかこれ」

 

「見て欲しかったので!それと褒めてくれましたね!うれしかったです!」

 

「いや純粋か。俺はあんたが本当に年上なのか疑わしくなってきたよ…」

 

 その人懐っこさというか犬っぽさは我が家の居候と通じる所があるかもしれない。

 

 二人はそんな気の抜けたやり取りの後、

 グレイは研究所敷地内までグレイ号のメンテナンスを始め、アラタはその間に他の準備をしておくことにした。

 

 当初の予定通りに、食料などの道中で必要な物資の調達である。

 

 グレイ曰く、移動自体は半日もあればグレイ号で目的地へ着く事も可能なそうだ。

 馬車のように馬の休憩はいらず、その上速いと来たものだから性能は誰もが認める所ではある。

 動力炉心という心臓部に必要な燃料作成に関して、これまたコストが段違いであると愚痴るグレイの姿には、やはり哀愁が漂っていたが

 

 燃料作成が手軽に出来ない以上、長期間に渡る遠征に向かないということらしい。

 生産が認められなかった理由の一つとしてはまあ、充分な内容であった。

 

 とはいえ、今回のような戻る拠点在りきであれば燃費の悪さも多少は気にならない筈だ。

 

「念の為二日…いや、三日分か。道中のトラブルもだが、調査拠点内の探索に手間取った場合のことも考えないと」

 

 ひとりごちながらも手慣れた様子で幾つかの道具屋や露店を回っていく。

 やはり第三生産区域の市場通り、一通りのものは簡単に揃えられる。

 

 干し肉、ローブ、ランプ、寝袋などの探索必需品はとにかく確認だ。

 二回でも三回でも確認はやっておいた方がいい。

 

「………ふぅ、よし。こんなものかな」

 

 多くの道具を詰め込む為の道具袋は見てくれから分かるようにパンパンとなった。

 すぐに必要とならない分に関してはグレイ号で保管しておく事も可能なので、ストックはあればあるほど心配が減るというものだ。

 

(さて、こいつをグレイ号に詰め込む必要もあるからまた研究所に戻る必要があるんだけど……)

 

 やる事は終えた。

 

 移動が短時間で済む事が前提であるが、事前準備も通常の遠征よりも少なく済んだ。

 

「明日かぁ…さて、どうなる事やらってね」

 

 日を跨いだ早朝に、出発する。

 

 遮断膜の効果、是非とも上手くいって欲しいものである。

 

 

 

 

 本を読み、そして後は家でぼけーっとしている。

 

 暇だった。

 

 暇だったから、ついやってしまった。

 

(偶然にもばったり会えたらいいなぁとか思っただけ…思っただけだから…っ!)

 

 アラタから少し離れた建物の影、そこから覗くように少しだけ顔を出した仮面の少女は今やただのストーカーとなっていた。

 

(いやいや、だってであるよ?アラタ殿の仕事中?の様子とか気にならぬか?もちろん気になるよなあ?!)

 

 今の彼女の脳内では一体何人のリリィがやり取りをしているのだろう。

 誰にも聞かれない言い訳を繰り返しながらもアラタにばかり集中している彼女は、普段着《白いローブ姿に仮面》と相まって余りにも悪目立ちしている。

 

 ここは人通りの多い大通りなのだが、今の彼女にそこまで気にする余裕もないようだ。

 

「ふむ……しかし、手慣れておるなぁ。何を買うべきか、何が置いてあるのかをよく把握しておる」

 

「なるほど、それでリリィさんは彼を見て何を思うのでしょうか」

 

「それはもちろん、素敵だなー仕事出来る人ってかっこいいなー………ってやーねー!全くなんであるかもう、そんな事言わせ……――――」

 

 物陰に隠れいているリリィの後ろから一緒にアラタを見ている誰かがいた。

 

「……ぇ」

 

 一瞬固まったリリィはすぐに再起動すると、ゆっくりと後ろを振り向く。

 

「やっと見つけたと思ったらこれだ、マイシスター」

 

 聞き慣れた声、自身と瓜二つの顔、同じように長く伸ばされた髪。

 

 違いを探すとすれば、彼はあまりにも白かった。

 

 髪の色も、瞳も、肌も何もかも白く繊細で、総じてみれば儚げな美少女である。

 

 しかしそれは、あくまで外見上の話だ。

 

「あ、あ、あ…あにうえ……だと…?」

 

「うわぁっはっは、凄く嫌そうな声なつかしー!」

 

 リリィの反応にケラケラと可笑しそうに笑っている。

 

 性別上は男である彼こそが、リリィ・ホワイトが嫌う身内

 

 その彼の名こそ、サレナ・ブラック。

 

 迂闊だったと今更ながらリリィは後悔した。

 今一番見つかりたくなかった相手に見つかってしまったと―――。

 

 

 

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