「お部屋は1Kか1DKでお探し……と、それでおいくつですか?それからお仕事は?」
そう言う不動産屋に俺は答えた。
「はい。18歳の大学生です。今年の春から通うんで早いとこ近辺の部屋を見つけたいんですけど……」
「はいはい。18歳の大学生……」
俺はそう言うと、不動産屋はパソコンを操作する。
「18歳の大学生なら大学はどちらに?」
不動産屋の質問に、俺は自分の通う大学名を言う。すると……
「……ああ!○○大ですか!それならちょっと郊外になりますが、ここはいい物件ですよ」
そう言って、プリントアウトされた紙を俺の前に広げる。
その紙には、1LDKの物件とそれに附属する家具・電化製品付きの賃貸物件の写真がいくつか載っている。家賃もそこそこだ。
いや……これはかなりいいかもしれないな。そう思っていると、不動産屋は
「ああ、しまった。そういえばお名前、なんと読むのですか?」
と聞いてくる。ああ、いけない。どうやら履歴書に振り仮名を入れ忘れていたようだ。
「すみません。藤丸立香(ふじまる りつか)と言います」
と改めて俺は名乗る。すると不動産屋は固まったかと思うと、
「ふじまる、りつか……」
と呟く。?どうしたのだろうか。俺は不動産屋に尋ねようとする。
「申し訳ありません……。言い忘れていましたが実は、ある新居で学生さんを募集している物件がございまして……ちょっとそこを覗いてみませんか?」
と不動産屋が言ってくる。
「新居?」
と俺は聞き返す。不動産屋は
「はい。○○大学にも近いので是非ともチェックしていただけますでしょうか?」
と言う。新居か……いくら近くても余り家賃が高いようだと住むに住めないけど、まあ一回行ってみようか……。
◇ ◇ ◇
「ここですか?」
「はい。此処ですよ」
不動産屋に連れられて来たのは、物凄くでかいマンションの前だった。……無茶苦茶家賃が高そうなんですけど。はい!ここは駄目だ。確かに立地は大学に近いけど、こんな高級そうなマンションは俺には不相応だ。
「あのー、すみませんけど……」
俺が断ろうとした時、
「ふふふっ。お待ちしていたよ」
1人の人物が俺達の前に姿を現す。その人物を見た時俺は、
「……モナリザ?」
と思わず呟いていた。そう、その人物はかの人類史でもトップクラスの知名度を誇る絵画にそっくりな美女だったのだ。まさかとは思うがかの名画は彼女をモデルにしたのではないかと疑ってしまうくらいである。
「やあ。私がこのコーポ・カルデアの管理人、レオナルド・ダ・ヴィンチだよ“はじめまして”」
と彼女は名乗ってくる。レオナルド・ダ・ヴィンチ?かの名画の作者の名前の筈だが、あだ名か何かだろうか?ちょっと情報の多さに混乱していると、
「ダ・ヴィンチちゃん。こちら藤丸立香さん。今年から大学生だそうです」
と不動産が親し気に管理人と名乗った美女に俺を紹介する。
「よ、よろしくお願いします……」
と、言う俺にダ・ヴィンチちゃん(仮)はニコニコしながら、
「そうかあ……。大学生かあ。うん」
と何かこちらを見てくる。歓迎ムードだが、バイトもまだ決まってない俺にこんな所の家賃を払えるはずがない……。不動産屋に助け船を出してもらおうと視線を彼に送るが、
「それでは、後は管理人さんに任せますので私は失礼させていただきます」
「あ!?ちょっと!」
と不動産屋は帰ってしまった。こうして俺は自称レオナルド・ダ・ヴィンチの美女と二人きりになってしまった。
俺は、
「あの、レオナルドさん?」
と管理人さんに話しかける。すると、
「やだなあ、立香君。私の事はダ・ヴィンチちゃんと呼んでくれたまえ」
とダ・ヴィンチちゃんは言ってくる。
「自分達、初対面ですよね……?」
と俺。するとダ・ヴィンチちゃんは悲し気な顔をして、
「……これから長い付き合いになるのに他人行儀じゃ寂しいじゃないか」
と言う。長い付き合い?彼女の中では俺の入居が決定しているのだろうか。俺は
「すみませんけど俺もう帰りますから……」
と言うが、ダ・ヴィンチちゃんは俺の手を握り、
「まあまあ……。下見だけでもしていって欲しいな」
と手を引いてくる。結構強引だな!?俺は断ろうとしたが、結局下見だけならとマンションの内部に入ることになったのだ。
「ようこそ。コーポ・カルデアへ」
◇ ◇ ◇
俺はマンション、コーポ・カルデアのロビーに来たのだが、なるほど。新築らしく内部も部屋も綺麗だ。
「どうだい?気に入ってくれたかな?」
とダ・ヴィンチちゃんが聞いてくる。俺は
「はい……」
と言うが、まだ此処に住むと決めたわけではない。ただ、どう考えても家賃が高そうなのだ……。しかしダ・ヴィンチちゃんは、
「そうかいそうかい!いやあ、立香君に気に入ってもらえて何よりだよ」
と笑顔だ。さっきから歓迎ムードなのだが、払えないものは払えないのだ。俺は意を決して、
「すみませんけど、家賃の方はどうなんですか?」
と尋ねる。するとダ・ヴィンチちゃんは
「ああ、家賃だね。そう言えば言ってなかったね」
と電卓を取り出し操作する。そして
「まあ、こんな所かな?」
と電卓の数値を俺に見せる。
「……え?」
そこに出された数字はとてもこのマンションの家賃とは思えない低価格だった。思わず呆然とする俺。
「…………」
「あれ?これでもかなりサービスしたつもりだったけど、立香君の懐事情には厳しかったかな?」
と首をかしげるダ・ヴィンチちゃん。俺は
「失礼ですが、ここは事故物件か何かで?」
と言う。それに対しダ・ヴィンチちゃんは
「本当に失礼だね!?ここはピッカピカの新築だよ?」
と頬を膨らませて言う。まあ、そりゃそうだろう。
「じゃあなんでこんな安いんですか?」
と俺が改めて尋ねると、ダ・ヴィンチちゃんは言う。
「なに簡単なことさ。私は君にここに住んで欲しいんだよ」
それは確かに家賃が安くなるから嬉しいのだが……どういうことなんだ?おかしくないかこのマンション?
「あの、それは一体どういう……」
と言いかけた時、
「さっきから騒がしいわね。何なのよ?」
廊下の方からガチャリという音と声がした。廊下の方へ出てみると、ピンク色の髪をした何というかフリフリした服装の少女が居た。俺は、
「あっ、すいません……。此処の住人さんですか?」
と言う。するとその少女は俺の顔を見て、
「…………!?」
一瞬惚けた顔をしていたと思いきや、小走りで俺の元に駆け寄って来てこう言った。
「子イヌ!子イヌじゃない!!」
「……はい?」
今度は何だ!?子イヌって俺のこと?初対面で人にイヌよばわりされるとかどういうことだ?またも俺が混乱していると、
「なんだなんだ」
「どうしたんですかエリザベートさん」
と、次々に廊下の扉が開き中から住人が出てくる。住人達は年齢も性別も人種も様々だ。随分国際色豊かなマンションだなと他人事の様に思っていると、皆がこちらを見て一瞬驚いた表情になったかと思うとそれはすぐさま嬉しそうな表情に変わった。
「なんだマスターじゃねえか」
「ずっと待ってたわ!」
「ダ・ヴィンチ!今日だとは聞いて無かったぞ!」
「おかあさん!!」
「やけに騒がしいと思ったら今日がその日か」
「バーゲスト、直ぐに支度を」
「はっ」
「今こそ今日という日の為に寝かせておいた特製キュケオーンを……」
「何じゃ何の騒ぎぜよ?こっちは二日酔いだ言うに……」
ざわざわがやがやと口々に流れる言葉。ちょ、ちょっと待て!?ほとんど聞き取れなかったが、歓迎……されているのか?なんか断りづらい雰囲気じゃないか……。
とりあえず部屋の中に戻って鍵をかける。ダ・ヴィンチちゃんは
「はははっ、ごめんね驚かせて。でも、面白い人ばかりでお喋りもはずむよ?」
と言ってくる。俺は
「何なんですかこのマンション……」
と呟く。
ダ・ヴィンチちゃんは
「お気に召さないなら仕方ないけど、こんなマンション他に無いし退屈もしないよ?」
と言う。退屈か……。まあ確かに、しなさそうだけど……。
「ところで、立香君はこれからどうしたい?」
とダ・ヴィンチちゃん。
「どうしたいとは?」
と聞き返す俺。ダ・ヴィンチちゃんは
「君はこれから大学に上がって新生活を送るんだろう?どんな新生活が理想かなーって」
「新生活ですか……。そうですね、俺は」
何がしたいとかは、まだ特に決まってない。けど、
「できれば、平和で、でも楽しい生活を送りたいな」
そんな言葉が出ていた。それを聞いたダ・ヴィンチちゃんは
「私達は、コーポ・カルデアは君の新生活を応援するよ。きっと君の求めるものもここにあるからね」
と嬉しそうな顔をする。
「俺の、求めるもの……?」
そんなもの自分でも分からないのに、あるのだろうか?
俺は……
「借り……ます……」
◇ ◇ ◇
●●●●●● コーポ・カルデア
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今忙しいので、続きは気長にお待ちください……。