ぐだ男とコーポ・カルデア   作:クォーターシェル

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第1話 食堂、バイト

「はーい!という訳で絶対に守ってほしいルールはこれだよ」

 

「1つ目は、彼をマスターと呼ばない事。今の立香君にとっては不自然極まりないと思うからね、極力彼の事は名前で呼んであげるように」

 

「2つ目は、“過去”に関することは彼の前で話題に出さない事。これも、私達が言うべきことではないからね」

 

「3つ目、立香君を無理矢理襲わない事。まあ、これに関しては多くは言わないよ。まあ段階を踏むことと同意は大事だね!」

 

「他にも色々あるけど、取り敢えずこのコーポ・カルデアで順守するべき事はこれくらいかな。それではこの話題は一旦終わろうか」

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

「藤丸、結局大学に先延ばしか?」

 

まあそうなるかな。どうも決めかねてるんだよ。

 

「ふーん。でも大学もあっという間に過ぎちまうと思うぜ」

 

でも、夢って中々見つからないしなあ。まあ今のところは単なる会社員が妥当かな。

 

「まあ、友達としていい道が開けるよう祈ってるよ」

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

ん……。夢か……、目覚まし時計が鳴っている。俺はアラームをオフにして身を起こした。

 

さて、朝食でも作るか……。

その時、インターホンが鳴って来客を告げる。誰だ?新聞の勧誘やNH○の集金はお断りだぞ? ドアを開けると、そこには一人の女性が立っていた。年齢は中学生くらいといったところか。緑色の髪をした少女で、人が良さそうな笑みを浮かべている。

 

「あの、どちら様でしょうか?」

 

と俺は少女に尋ねる。少女は一瞬何か残念そうな表情をしたが、直ぐに笑顔に戻って。

 

「○○○号室の清姫と申しますわ。おはようございます立香さん」

 

と言う。俺は

 

「ああ、住人の方でしたか。おはようございます。朝から俺に何か用事ですか?」

 

と返す。それに対し

 

「朝食の用意が出来ましたので、是非食堂にいらしてくださいませ」

 

と清姫さん。食堂?このマンションにはそんなものがあるのか。

 

「賄い付きなんですか?そりゃ嬉しいですけど……」

 

と俺。清姫さんは

 

「ええ、そうなのです。食事は皆で食べた方が美味しいですから」

 

と笑顔で言う。俺は頭を掻きながら

 

「じゃ、遠慮なく頂いてきます。ありがとうございました」

 

と言い、清姫さんの後をついて行くのだった。

 

食堂に入ると、そこには大勢の人が居た。ていうかこの食堂、かなり広い。そもそも此処自体が巨大なマンションだし、それ相応に人が利用できるようになっているのか。

 

清姫さんが

 

「ささ、空いている席に座りましょう」

 

と手を引いてくる。空席の方に向かっていると、

 

「やあ立香君。昨日はぐっすり眠れたかい?」

 

と声を掛けてくる人が居た。誰かと思えばコーポ・カルデアの管理人さんのダ・ヴィンチちゃんだ。

 

「ええ、まあ」

 

と俺は答える。するとダ・ヴィンチちゃんは

 

「それは良かった」

 

と言い、俺の隣に立つと

 

「改めてご紹介しよう。本日から○○○号室を利用することになる、藤丸立香君だ」

 

と食堂の皆に言った。転校生の挨拶かよ……。と内心思いながら俺は

 

「よ、よろしくお願いします……」

 

と皆に挨拶をする。皆の視線がこちらに注がれる。なんか、緊張するな……。

 

「おう、よろしく」

 

「Bonjour。ふふ、よろしく」

 

等と返事が返ってくる。そんな時だ、ガタッという音がしたかと思うと、

 

「ッ!?」

 

俺の背中は床につき、気づけば俺を黒髪の凛々しい顔立ちの少女が俺を見下ろしていた。

 

「むっ?反応が遅いですね。戦場なら2、3度首を討ち取られていますよ?」

 

と言う少女。

 

「はああ!?」

 

と俺。清姫さんは

 

「う、牛若丸さん!」

 

と少女の名らしきものを言う。牛若丸と呼ばれた少女は俺を起こすと、

 

「申し訳ありません……立香殿の今の力量がどれ程のものか確かめたかったのですが」

 

と言った。言っている意味が分からない。この子は中二病か何かに罹っているのだろうか?

その時牛若丸さんが

 

「あいた!」

 

と後頭部を押さえる。彼女の後ろを見れば、赤い外套を羽織った褐色肌で白髪の青年が握り拳を作っていた。青年は

 

「食堂では静かにしたまえ」

 

と言った。牛若丸さんは頬を膨らませて何かを言おうとしたが、

 

「遮那王。取り敢えずお仕置きだ」

 

と白髪の女性と僧形の男性に引きずられていってしまった。俺がポカンとしていると、白髪の青年が、

 

「いや、すまなかった。まさか彼女があんな行動にでるとは思わなかったよ……」

 

と頭を下げてくる。俺は

 

「貴方が頭を下げることはないと思いますが……」

 

とそれをやめさせる。白髪の青年は自らをエミヤと名乗り、この食堂でシェフの真似事をしていると語った。

 

「では、お詫びと言っては何だが、朝食をご馳走しよう。席にかけたまえ」

 

とエミヤさんは言った。俺は

 

「ありがとうございます」

 

と言い席に着く。清姫さんが

 

「さ、あちらが厨房で、あちらのカウンターが飲食用のテーブルです」

 

と教えてくれたので俺はそちらに向かう。席に着くと、朝食が運ばれてきた。ご飯に味噌汁に焼魚と言った朝食らしいシンプルな献立だった。

 

「いただきます」

 

と言って俺は箸をつける。うん、美味しい。ほぼ毎日賄いでこれを食べられるのは破格ではないだろうか。俺が食事をしている間、俺の近くや厨房などでちょっとした騒ぎが起こっていたが、俺はほとんど気にも留めなかった。

 

食事の後、俺は食器を洗い場に出して、再び自室に戻ってきていた。ベッドに倒れこんで

 

「ふわあ」

 

とあくびをする。今日はゆっくりとしよう。そう思った瞬間、扉がノックされて声がかかる。玄関の扉を開けると髪をツインテールにした美しい少女が立っていた。食堂でも彼女をちらりと見かけたような。

 

「さっきぶりね、立香さん。私はマリー・アントワネット。○○○号室に住んでいるわ。食後のお茶会にお誘いに来たのだけれど、ご都合は如何かしら?」

 

と彼女は言ってくる。今度はマリー・アントワネット……、このマンションでは歴史上の有名人の名で呼び合うのが流行っているのか?いや、そんな事は無いと思うが。

 

「俺、作法とかそういうの分からないんですけど……」

 

と、俺が言うとマリーさんは

 

「作法なんて気にしなくてもいいわ。私がしたいから誘っているだけなのだもの」

 

と言い、俺の手を引くと歩き始める。俺は、これからお茶会を始めるという○○○号室に足を踏み入れる。

 

そして、俺はマリーさんやデオン、アマデウス、サンソンと名乗る人物達と他愛のない話をするのだった。

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

このコーポ・カルデアに引っ越してきて数週間が経ち、大学も始まった。あれから、毎日の様に住人が俺の所を訪ねて来た。この数週間で分かり始めたことがある。

 

1つ目は、ここの住人達は何故だか分からないが歴史上の偉人や神話・伝説上の人物の名前で呼び合っている。あだ名なのか本名なのかは聞いて無いが、不思議とその人達に合っているような気もする。エミヤさんやイリヤちゃん達の様にそれらとは関係ない名前の人も居ることは居るようだ。

 

2つ目は、同じ顔をした住人が何人もいる。世の中に同じ顔をした人間は3人ほどいるとか言われているが、それにしても多い。ペンドラゴンさん家の人達とネロさんや沖田さんのような血縁関係でもないのに似たような顔をしている例もある。

 

3つ目は住人達はやたらと俺にかまってくる人が多い、こちらが1歩下がれば2歩進んでくるかのようにぐいぐい来る。

朝には毎日入れ替わり立ち替わり誰かが食堂に誘いに来るし、そうでなくとも遊びやらなんやらの誘いが来る。なんかやけにフレンドリーなのだ。

そんなこともあり、ここのマンションの住人との関わりも増えてきた。

 

そんな中俺は1つの問題に直面していた。

 

「バイトが決まらない……」

 

そう、中々バイトに採用されないのだ。別にコミュ力が低いとか面接が苦手と言うわけではない、単にバイト先が決まらないだけなのだ。

 

「こうなれば少し時給は安くなるけど飲食店やコンビニにしようかな……」

 

そんなことを呟いている時だった。玄関からチャイムの音が聞こえた。どうやら誰かが訪ねてきたらしい。俺は玄関に向かい、扉を開けるとそこには、

 

「やあ、立香君」

 

ダ・ヴィンチちゃんがいた。俺は

 

「ダ・ヴィンチちゃん。家賃ですけどもうちょっと待ってもらえませんか?バイトが中々決まらなくて……」

 

と訪ねるが、ダ・ヴィンチちゃんは

 

「ああ、そのことなら大丈夫だよ。今日はその話ではなくてね」

 

と俺の質問を遮り続けて来た。

 

「実は君にある提案をしに来たのさ」

 

どうやら家賃の話で来たわけではなさそうだ。とりあえず俺はダ・ヴィンチちゃんを部屋に招き話を聞くことにした。

2人でテーブルを挟んで椅子に座ると早速ダ・ヴィンチちゃんが切り出してきた。

 

「まずは君がバイトに苦戦している件だね。それに関して君の働き先を皆で相談したんだ。中にはお小遣いを出すって人もいたけど、それよりももっといい案が出揃ってね。私や、他の皆は君にその案を提示しに来たのさ」

 

なるほど。他の住人達やダ・ヴィンチちゃんが俺のバイト先を提案してくれるらしい。ありがたい話だ。俺は早速どんなバイトなのか尋ねることにした。すると、

 

「ロビーの掲示板に住人達がバイトの事を貼りだしているから取り敢えずそこを見に行ってみると良いよ。面接とかは必要ないからね、君も大体顔を合わせているだろうし」

 

とダ・ヴィンチちゃんは言った。俺はダ・ヴィンチちゃんに礼を言い、ロビーに向かった。掲示板には確かにバイト内容が書かれた紙が複数貼られていた。

 

「ふむ……」

 

俺はバイトの内容を見ていく。まずかなり高い時給・日給のものが目についたが、なんか怪しい……。レンタル恋人だの聞いたことのない植物の栽培だのだ。他にも明らかにブラック臭のするものや、かなり危険そうな仕事なんかもある。

 

「こういうものは却下だな」

 

俺は他の物も見るが、どれもこれも変なものばかりで迷ってしまう。悩んだ結果、俺はガネーシャさんが掲示した、部屋の掃除の仕事に行ってみる事にした。俺は早速マンション内のガネーシャさんが入居している部屋を訪ねる。

 

ベルを鳴らすと、

 

「あ、立香さんスか?バイトのチラシを見て来たんだね」

 

とゾウを模した被り物をしたふくよかな体型をして眼鏡をかけた女性。ガネーシャさんが出て来た。俺は

 

「はい。バイトを申し込みに来ました。部屋の掃除でいいんですよね?」

 

と尋ねる。ガネーシャさんは

 

「うん、そうだよ。じゃあとりあえず中に入って」

 

と言い、俺を招き入れてくれた。俺はガネーシャさんの部屋に入るが、そこは物が散乱し足の踏み場もない程に散らかっていた。俺は部屋の惨状に驚きつつ

 

「うわっ……これは……」

 

と言うがガネーシャさんは

 

「いや〜掃除が面倒くさくて後回しにしてたらいつの間にかこうなってて……。このままだとパールヴァティーママに怒られるんで、よろしくお願いするっス」

 

と頭を掻きながら言った。俺は

 

「は、はい」

 

と答えつつガネーシャさんの部屋の片付けに取り掛かる。部屋が散らかっているが掃除は結構簡単だった。俺は掃除をしながら、ガネーシャさんと話すことにした。

 

「ガネーシャさんって……食堂の方には顔を出しますけど、所謂引きこもり……なんですか?違っていたら謝りますけど」

 

と俺は思い切って切り込む。ガネーシャさんはゲームをしながら、俺の方をちらと見て、

 

「あーまあそんな感じかな。ボクはあんまり外とか好きじゃないんだよね。でもカルナさんとかがうるさいから食堂には顔を出してるの」

 

と答えた。俺は失礼な事を言ったと思い慌てて

 

「す、すいません!」

 

と謝るがガネーシャさんは気に留めた様子もなく続ける。

 

「いや別にいいよ。ボクも別に気にしてないし」

 

ガネーシャさんはそれだけ言うとゲームに戻ってしまった。俺は気まずくなりつつ部屋の片付けに戻った。部屋を片付け終わりそうな時、不意にガネーシャさんが、

 

「立香さん。何かをしようと足掻いてるみたいスけど、ガネーシャさん的には何もしないのも1つの選択だと思うんスよ」

 

と言ってきた。俺は

 

「何もしない?」

 

と返事をする。ガネーシャさんは

 

「ほら、外に出れば――」

 

と続ける。すると、俺はいつの間にか横断歩道の真ん中に立っていた。

 

「え?」

 

前を見ると自動車が突っ込んでくる。

 

「車に轢かれるかも」

 

とガネーシャさんの声。それと共に俺の視界に映っているものはガネーシャさんの部屋に戻った。

 

「なっ、?。?」

 

と混乱する俺。今のは何だ?幻覚か?ガネーシャさんが続ける。

 

「それにほら、最近は何かと物騒じゃないスか」

 

次は俺の近くで、たくさんのコーポ・カルデアの住人の1人である信長さんをデフォルメしたような生き物が火縄銃を構えていた。

 

「ノッブ!」

 

「銃で、撃ち殺されるかもしれない」

 

俺に向けて弾丸が発射される……。と思った瞬間。その生き物たちの姿は消えていた。

 

「だから」

 

次は俺は暗闇の中に居た。

 

「何もしないのもいいんじゃないかって」

 

4方から何かにぎゅうぎゅうと押される。息苦しい。

 

「うう……」

 

上を仰ぐと、何処かで見た天井があった。あれは、電車の天井?

 

『嫌だ……このまま死にたくない……』

 

『嫌なんだよ……!』

 

「立香さん?」

 

はっと気づくと俺はガネーシャさんの部屋に居た。

 

「どうかしたんスか?」

 

とガネーシャさんは尋ねてくる。俺は辺りを見まわして、

 

「いや、何でもないです……」

 

と掃除に取り掛かった。

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

掃除が終わり、ガネーシャさんが給料を手渡して来た。

 

「いやー、今日は助かったっスよ立香さん。これで刑部姫さんや巴さんを呼べるってものっス」

 

俺は給料をポケットにしまいつつ、

 

「ガネーシャさん。さっきのは一体……」

 

と尋ねる。するとガネーシャさんは

 

「あー」

 

と言い、ばつが悪そうにする。

 

「忘れてくださいっス」

 

と言うが、俺はどうしても気になってしまったため、後日ダ・ヴィンチちゃんに相談しようと思った。

 




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