カレぴっぴ「女になっちゃったッピ……このままじゃカノぴっぴに気付いてもらえなくてそのままフラれるかもしれないッピ……」
カノぴっぴ「あ? 別れるわけねえだろ犯すぞッピ」
カレぴっぴ「ピ!??!?!?!?!?」

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TSカレぴっぴわからせカノぴっぴ

 不可逆的性差逆転病。1000万人に1人という、極めて稀な難病がある。難病、と書いたが、いわゆる「不治の病」に対して社会通念として用いられてきた言葉であるのは間違いない。しかし、赤痢、コレラ、結核などの伝染病ではなく、そもそも直接的に人命を奪う危険性もない。つまり、死には至らない。それに当人の()()()()次第では社会復帰も不可能ではない。

 

 では、何をもって「病」とするのか。

 

 症状を端的に言えば突発的な性転換だ。今まで男であった者が、ある朝目が覚めると、かつての自分の面影が残る女になる。そして逆もまた然り。

 そうすると何が起きるか。身体は逆の性別になっても、精神構造は以前のまま。つまるところ強制的に性同一障害となる。マジョリティとマイノリティの逆転。病による尊厳陵辱。それがこの難病の症状である。

 先述したように発症者の例がごく稀であり、治療法はない。発症すれば最後、現状は死ぬまで元の性別ではいられない。

 こうした中での患者の社会適応についての法整備などが加えられるなどしたが、詳細は割愛する。

 

 けれども、基本的に大多数にとっては他人事でしかない。テレビやインターネットでその存在を周知されたとして、1000万人に1人、つまり0.00001%という、宝くじに当たるか、雷に打たれるかというような確率で発症する病など、いったい誰が我が事のようには思うだろうか。

 つまるところ、半分フィクションのようなものでしかない病のことなど一周回って都市伝説か、陰謀論か、そういう何かだと思い込む者もいるだろう。それどころか、まるでフィクションに憧れるように、性転換病とかTS病などと呼称して、自分がなりたいなどと嘯く者だって少なくはない。

 

 少なくとも、昨夜までの僕もその存在を半分信じていない側だった。

 

 ……さて、賢明な方々にはそろそろお察し頂けたかも知れない。

 そもそも、何故このような話をはじめたのか。それはまあ。その。次の文章から読み解いて頂きたい。

 

 日本のとあるアパート。その一室。間取りは小さなワンルーム。インテリアは全体的に男性的なイメージのカラー。タンスを開ければ男性用の衣服やファッションアイテムが収められ、冷蔵庫の中にはほとんど何も入っていない。家主は一人暮らしの一般男性。

 けれどもそこにいたのは、肩にまで伸びた黒髪に、ごつごつとしていない、なだらかな体つき。胸は膨らみ、手足はしなやかで、腰回りは細い。傍目から見ると、ただの一般女性。それが、鏡を見つめて、ぽかんと呆然としている。

 

「……は?」

 

 思わず口に出た声は高く、それを聴くと女は違和感を覚えたかのように思わず口を手で塞ぐ。まるでそれが自らの声ではないかのように。すると鏡に写った女もそのようにした。続いて女は顔を洗って、目を擦って、さらには夢と現実を確かめるように頬を思いっきり引っ張るなどした。

 

「んぐっ……!」

 

 当然のようにやってくる痛みにうめくと、やはり鏡に映った女もそのようになっていた。女は、朝から嫌な汗が流れるのを感じつつ、顔をひくつかせ、震える手でそっと自分の股間に手を当てる。そこには女が()()()()と思い込んでいたモノはなく。履いていた寝巻きのズボンを引っ張って、中をのぞき込むと、当然女性らしい肌が見えて、その奥もまた────。

 

「─────」

 

 ふらり、と女は力が抜けたようにへたり込んだ。その様は大きなショックを受けたようで、顔色も今にも気を失いそうなほど蒼白であった。

 ……ああ、白状しよう。この部屋の家主という一般男性とは僕のことで、そしてこの場にいる女もまた僕だ。比喩ではない。訂正はない。

 何故1000万人に1人の確率で性転換する病の話をしたのか。それはつまり。

 

 ある日突然、僕はその病の当事者となっていたからだ。

 

 

 

 ###

 

 

 

「ど、どうしよ」

 

 女になってから1時間ほど経ったが、未だに現状を受け入れられていなかった。とりあえず救急車を呼ぶべきなのか、その足で病院に行くべきなのか、行ったとして何科に受診すればいいのか、大学とかバ先とかに連絡するべきなのか、などなどと悩み事が次から次へと浮上していく。

 というか、知るわけがないじゃないか。ある日突然性転換したときの対処法なんか、テレビでもSNSでも、大学の講義でも履修したことなどない。

 現にブラウザアプリを開いて『TS病 なってしまったら』などとカスみたいなキーワードで検索しているが、そのほとんどが嘘か本当かわからないようなブログだのまとめサイトだの掲示板だので淘汰されている。こうしろああしろという今必要な情報があまりにも見つからない。

 せめて誰かに相談したい気持ちに駆られながらも、一人暮らししている関係上家族をそう簡単に呼べるはずもないし、友人や知人にこのようなことを相談しても困らせるだけだろうし。というかそもそも今の僕を今までの僕として認識してくれるかどうかさえ定かではない。そうして思考が堂々巡りしていると、はたと気づく。

 

「瑠華になんて言おう……」

 

 口をついて出たのは恋人の名前だった。瑠華。僕の愛しい人。相談するにせよしないにせよ、いずれ彼女に知られるのは時間の問題だった。けれどもこの現状を正直に話すべきか? それともいずれ来るその時まで口を噤むべきか? 如何ようにして彼女に伝えるべきなのか。そして事の次第を知った彼女がどのように受け止めるのか。こんな姿になった自分を受け入れてくれるのか。それとも。前者ならばまだいい。色々良くはないが。何年も続いたこの関係が続くのならそれに越したことはない。だが後者なら? 他でもない彼女がこの真実を知ったとき僕を拒絶したのなら? そのような未来は想像したくもなかった。

 

「どうすりゃいいんだよ……」

 

 頭を抱えて、思わずそんな言葉を口に出していた。こんな姿を彼女に知られたらどうなるか。もしかしたら存在しない浮気相手だと誤解されるかもしれない。もしかしなくてもその可能性の方が高いだろう。いっそこのまま消えてしまいたい。そう思っていても、鏡の中の女は悲壮感漂う表情のままこちらを見つめ返しているだけだった。

 そのとき、ピンポンとドアホンが鳴って、一瞬心臓が飛び上がった。時計を見るともう正午になっていた。焦りながらもかろうじてわかったのは、今日は休日で、こんな日に知らせもなく来るのは瑠華以外におらず、そして彼女はいつものように合鍵を使って入ってくるはずで、つまるところこのままでは鉢合わせになるのは間違いないということだった。

 

(けい)! 入るわよ!」

 

 聞こえてきたのは案の定彼女の声だった。もはや隠すことはできない。そう悟った僕は覚悟を決めて玄関に向かう。胃も痛ければ頭痛もする。最悪な顔色で僕は彼女を出迎える。

 

「おはよう、け……い」

「瑠華……たすけて」

 

 玄関の扉を開けた彼女が凍ったように固まった。無理もない。僕に似た顔の女が僕のいない部屋にいるのだから。そして僕に出来ることはそんな彼女に引きつった顔で助けを求めることだけだった。

 

 

 ###

 

 

「もう。そんなことになっちゃったならせめて私に連絡しなよ」

「ご、ごめん」

 

 それからというものの、とりあえず部屋に招き入れた僕はことの経緯を説明していた。幸いにもというか、意外にもというか、彼女はこの状況をあっさりと受け入れた。いくらなんでも順応が早すぎる。僕の言うことを疑わないのかと問うてみると、

 

「疑って欲しいの?」

「いやそういうわけじゃないけどさ」

「じゃあいいじゃない。何年の付き合いだと思ってるわけ? 元の面影も感じるし、恵が一人っ子なのも知ってるし。それともお互いにしか知らない質問でもする? 私たちが出会ったのって何歳のころだっけ?」

「5歳の頃から」

「ほらね」

 

 幼馴染みなめんな、と得意げに言う瑠華を見て、僕は彼女が本当にこの馬鹿げた状況を信じてくれていることがわかり、ようやく安堵した。少なくとも彼女だけは僕のことを信用してくれているということが、このときの僕にとっては救いだった。

 とりあえず、と瑠華は話を続けた。「当面の生活をどうにかしないと。あんた、これからどうするわけ?」

 

「どうって?」

「大学とか、バイト先とかに連絡しないといけないでしょ。色々手続き必要なんじゃない?」

「……だよね。あと一応病院に行った方がいいかなあとは思ってる。まあどうにかなるとは思えないけどさ」

 

 実際、治療法が現在存在しないと言われている奇病だが、ニュースで一時期散々法整備のことが流れていた。そのため、ほとんどの人にとっては関係なくとも意外と存在自体は知られているから、まあ、各方面にはあ~そういうのあるらしいね~おけおけドンマイドンマイ、という感じで理解してもらえるらしい。尤も、情報源は先ほどのサイト群なので信用性はないが。

 

「あと、身の回りのもの。特に服ね。いつも通りってわけにはいかないでしょ」

「……。それは今持ってる服じゃ、だめか?」

「駄目に決まってるでしょっ」瑠華はぴしゃりと言った。「第一、仮に今ある服そのまま使うとして、下着とかどうすんのよ」

「……女性用下着を着ないといけない、と?」

「よくわかってるじゃない」

 

 僕は彼女の当たり前でしょ、という顔を見て頭を抱えた。いくらなんでももう少し待って欲しい。突然女になったとしても性自認は未だに男な訳で、いやもちろん順当な話を瑠華がしているのはわかるしいずれそうしないといけないのは本当に正論なのも承知しているが本当に待って欲しい。

 

「流石に女装は抵抗あるんだけど! 流石に恥ずかしいって!」

「身体は女なんだから女装じゃないでしょ。というか何よ恥ずかしいって。私のやつ見慣れてるでしょ」

「……~~~~っ! それを言うのは反則だろ……っ!?」

「何よ。容赦なく鳴かしてくる床弁慶(ベッドヤクザ)の癖に今更恥じらうわけ?」

 

 アカン僕の恋人強すぎる。誰が勝てんだよ。この女によ。

 付いてってあげるから買いに行くわよ、という瑠華の無慈悲な説得によって、僕は首根っこ捕まれて泣く泣く女性用下着を買いに行かされるのであった。無論、本日が今後人生最大の屈辱の日となることが確定したのは想像に難くないだろう。

 

 

 ###

 

 

 それから僕は瑠華に連れられて自宅の最寄り駅から3駅ほど移動したところにある駅前の大きなショッピングモールに来ていた。ここなら何でも揃うし、という瑠華の鶴の一声だった。

 今日の彼女はベージュを基調としたパンツルックで纏められていた。スタイルの良い彼女に良く似合っている。そしてその隣にいる僕はと言えば、せめて服装は男性風にさせてほしいという懇願のもと、ユニセックスなスウェットにスキニージーンズとキャップで瑠華閣下には許して頂いた。

 なお、化粧は容赦なく施された。とはいえあまり目立たないような控えめな化粧で済まして頂く配慮を賜るなどしたのでその辺りは、まあいい。「女の子になっても顔は良いままでよかったわね」というのはその時の閣下のお言葉であった。

 

 ……そんなことを考えているのは余裕があるからというわけではなく、こういう所に目を向けてないとこの後自分が着る羽目になる下着を買いに行かされているという事実を直視してしまうからである。

 

「ちょっと、そんな絶望的な顔しないでよ。この前私が買いに行くのついて行ったんだから慣れてるでしょ?」

「エグいこと言うね」

 

 僕は真顔で答えた。この前買い物に行くついでに女性用下着ショップに連れて行かれた挙げ句にどっちが好きかなどと店員が見てる前で僕に尋ねてくるなどしておいて慣れるはずがない。

 

「っていうかあれは瑠華が無理やり引っ張っていっただけだろ……」

「でもその夜あのブラ着てる私に興奮してたじゃん。弁明ある?」

「ないです……」

 

 マジでさあ。幼馴染みとはいえ恋人に自分の性癖しっかり把握されてるのってさ。シンプル終わってるんだよね。僕の尊厳が。

 こうしている間に件の下着ショップにたどり着いた。中に入ると、そこはいかにもなピンク色の世界だった。店内で散布しているらしい、ラベンダーの香りが混ざり合って、鼻をくすぐった。店内の棚には、多種多様な下着が整然と並んでいる。キャミソール、ブラジャー、ショーツ、ガーターベルトなど、様々なタイプの下着が揃っている。当然のように女性用下着のコーナーであった。

 いらっしゃいませ~、と店員が声をかけてくるのを愛想笑いでやりすごしながら、手慣れたようにずんずんと進む彼女についていった。

「サイズは来る前測ったからいいとして。デザインに好みとかある? 私のと一緒?」

 

 言い忘れていたが、性転換してから初めての共同作業はスリーサイズの計測であった。自分のスリーサイズなんぞ知りとうなかった。

 

「勘弁してくれ……。とりあえず着れたらなんでもいいから……」

「はいはい。一応試着はしときなさいよ」

「はぁ……。わかったよ」

 

 そう言いながら、瑠華はテキパキといくつかの下着を選び、僕にそれを押しつけ、そのまま試着室に押し込んだ。え、マジでこれ履くの? 今からこれを?  

 しかし、いつまでもここに留まって瑠華を待たせるわけにもいかないので渋々ながらも、意を決して、というよりヤケクソ気味で僕は着替えを始めた。意外とサイズがぴったりなのはびっくりしたが、それ以上に自分の下半身にあるものがなくなっていることに再び軽いショックを受けた。

 数分後、僕は死にたい気持ちを堪えつつ、カーテンを開けた。無論元の服装に戻っている。

 スマホを見ながら待っていたらしい瑠華は、姿を現わした僕を見て、「ん、どうだった?」と尋ねた。僕はさっさと逃げ出したい気持ちでいっぱいだったので、「さっさと会計してくるよ」と早足でレジに向かった。クレジットカードの指紋認証はちゃんと本人として機能してくれていたのは不幸中の幸いであった。

 

「はー……疲れた……」

「んふふ、だいぶグロッキーじゃん。そんなに緊張したんだ」

「そりゃそうだろ……。もう二度と行きたくないからな」

「だーめ。消耗品なんだからいずれ行くことになるわよ」

「う。やっぱり?」

「あ、今度行く頃には着るのも慣れてるようになってるかもね?」

「勘弁してくれ……」

 

 僕は辟易しながら、買ってきた下着の入った袋を鞄の中にしまった。これで用事は終わりなので、僕たちは帰路につこうとした。

 

「きゃっ……!」

「瑠華っ?」

 

 不意にパキッ、という音が聞こえると同時に、瑠華が足を止めた。

 振り返ると、瑠華がしゃがみ込んでいて、見れば履いていたヒールの片方のかかとが後ろで転がっていた。僕は咄嗟に彼女の身体を支えて一緒にその場にしゃがんだ。

 

「瑠華、大丈夫? 怪我してないか?」

「うん、そっちは大丈夫。ちょっとこけただけだから」

 

 瑠華は少しバツの悪い顔をしていた。ヒールが折れてバランスを崩したのだろう。何ともベタな展開であるが、実際に起こるとは思わなかった。

 

「歩ける?」

「うーん、怪我はしてないと思うけど、バランス悪くてちょっと歩きづらいかも」

「なら、僕のでいいなら履く?」

「そんなことしたら恵が裸足になるじゃない。それは流石に嫌よ」

「そっか。……ならとりあえず、そこのタクシーに乗って帰ろっか」

 

 ほら、乗って。僕はかかとを回収した後、そう言って彼女に背を向けてしゃがんだ。え? と不思議そうな声が背中越しに聞こえたが、ほら、乗りなよ。と再び言うと、彼女はおずおずと僕の背中に体重を預けた。瑠華は少し不満そうに言った。

 

「もう。普通に支えてくれるだけでいいのに。これじゃこっちが恥ずかしいじゃない」

「さっきまでの僕の方が恥ずかしかったからさ。これでお返しだよ」

「……もう」

 

 それっきり彼女は黙ってしまった。もしかしたら拗ねてしまったのかもしれないと思い、不安になってちらと見ると、耳まで真っ赤にして俯いている彼女がいた。僕は思わずふっ、笑ってしまい、瑠華閣下から「何笑ってるのよ」というお咎めを頂戴するなどした。 

 

「……ありがとね」

「うん」

「……ふふ、最初から疑ってたわけじゃないけどさ。やっぱり女の子になっても恵は恵だ」

 

 私の好きな、恵のままだね。彼女はそう言って微笑んだ。

 

 

 ###

 

 

 タクシーで家についたときにはもう日はとっくに沈んでいた。僕の下宿しているアパートの階段を上って、鍵を開けて、部屋の中に入る。

 

「えいっ」

「うわ、ちょっ瑠華っ?」

 

 すると、僕の背にいた瑠華はするりと降りて、僕に向かって飛びついてきた。突然のことで受け止めきれず、二人そろって後ろのベッドに倒れてしまった。

 

「もう、危ないだろ」

「んふふ、ごめんって」

 

 そう言いながらも彼女は悪びれた様子を見せなかった。それどころか、僕の上に跨った瑠華はその場を退くことなく、じいと僕を見つめていた。

 

「な、なに見てんの」

「え? 恵の顔」

「いやなんで?」

「女の子になったのにちゃんと私の好きな顔なのずるいなーって」

「左様ですか」

 

 閣下は僕の頬をつんつんとつつきながらそんなことを言った。そんな彼女に対して、僕は呆れながら答えた。

 しばらく、お互い何も言わずにじっと見つめ合っていた。部屋の中には沈黙だけが流れていく。静寂が支配していた空間を先に破ったのは瑠華だった。

 彼女の右手がそっと僕に触れる。

 

「恵はさ。本当に女の子になっちゃったのね」

「……まあ、そうだね」

「不安?」

 

 瑠華はじっと僕の目を見て、端的に聞いた。その問いには単なる性転換そのものではなく、僕が心のどこかで頂いていたものを指していた。

 それは女になったことに気づいたときからあった不安。十数年間連れ添ってきた彼女が僕を拒絶してしまうのではないかという、関係が破綻することへの恐怖。瑠華は僕が抱いていたそれを見抜いていたらしい。彼女はやっぱり、と言った。

 

「幼馴染みなんだから。それくらいわかるわよ。……そもそも、そんぐらいであんたを捨てると思ってんの? ばかね」

「……ごめん」

「駄目、許さない」

 

 そう言うと、瑠華は両手を伸ばして、僕をぎゅうと抱きしめた。そのまま僕をベッドに押し倒すように力を込める。僕はされるがままで、抵抗しなかった。

 彼女は僕を離すと、今度は僕が仰向けに寝転がっている上に覆い被さる形を取った。そして、僕の胸元に顔をうずめて、さらに力を込めて強く抱き締めてくる。

 瑠華の吐息が少し荒くなっているような気がした。彼女はぽつりと呟いた。

 

「恵、ってさ。私のこと大切にしてくれるし、見た目もタイプなくせにさ。変なところで怖がるよね。そんなこと絶対無いのに」

 

 そんなに私がいなくなりそうで、怖い? 気がつけば彼女はやや嗜虐的な瞳をしていて、僕の目をじいと見つめていた。そして次の瞬間、彼女の顔が眼前に迫り、柔らかな唇に触れる感触に襲われた。突然のことに混乱している間に離れたそれは、しかしもう一度重なる。今度は触れるだけでなく、口の中に侵入され、舌で蹂躙される。ぬるりとした感覚が身体中に伝わっていき、脳がじんわりと痺れる。

 そして何分にも何時間にも思える時間が経ち、ようやく彼女が離れた。ぷはあ、と酸素を求めて荒い呼吸を強いられる。そんな僕のことなど気にもとめない様子の彼女に、思わず声を掛けると、彼女はにんまりとした嗜虐的な笑顔を浮かべていた。

 

「る、るか?」

「さっき言わなかったんだけどね? あそこで買った下着、全部私があんたが着たらエロいと思ってたやつなのよね」

「え」

「ほら、脱ぎなさいよ。私が恵を捨てないってわかるまで、めちゃくちゃにしてやるから」

 

 これからは私が床弁慶(ベッドヤクザ)ね。そんな彼女の声を聴きながら、僕は彼女にわからせられるのであった。

 




 気が向いたら続くかもしれない

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