ベルとシドがヘスティア・ファミリアに所属することになってから約一週間。
担当アドバイザーのハーフエルフのエイナ・チュールさんからダンジョンについての個人講義を受けた。
最初はダンジョン上層にいるモンスターの生態、能力、戦い方を色々学んだ。
ベルもシドも座学は苦手ではないので、そんなに苦ではなかった。
「よしっ、合格。今までたくさんの冒険者を見てきたけど、ベル君とシド君は飲み込みがすごく早いよ。」
「いやそれほどでも」
「昔、勉強ができる友達が多かったので、その子たちとよく一緒に勉強してましたから。」
「へ~。その子たちは今学区にいるのかな?」
「いいえ。皆、職に就いています。」
ベルとシドは座学のテストを受け終え無事に合格点を取った。
「これなら二人とも4層までの探索は大丈夫だね」
担当アドバイザーから許可を貰った二人は次の探索ができるとテンションが上がった。
二人はダンジョンを4階層まで攻略した。
シドの提案で5階層がどんなものか見てみたいと少しだけ近づいてみた。
5階層以降のモンスターと戦わず、様子見で済ますつもりだった筈だが…
「な、なんで!5階層にミノタウロスが居るんだよ!!」
「イレギュラーにしても早すぎるよ!!」
興味本位で5階層へ降りたベルとシドは上層にいる筈のない強いモンスターの姿を見たとたん一目散に走り出した。
通常レベル1の冒険者は中層のミノタウロスに勝てない。
ステイタスの地力もそうだが、ミノタウロスの咆哮(ハウル)はレベルが低い相手を強制停止させる効果がある。
余程の例外が無いと逆立ちしても勝てないだろう。
故に自称モブ冒険者の二人は逃げ出す選択をした。
ダンジョンの中を考えなしに走り回った結果行き止まりの通路に向かってしまった。
行き止まりの壁を背にして二人は後から追いついたミノタウロスを見る。
「シド下がって。僕がやる。」
「この場所なら他の冒険者に見られる心配ないな」
ミノタウロスが追い詰めた獲物に襲い掛かる。
ベルはスライムボディスーツを瞬時に展開し、ミノタウロスの攻撃を防いだ。
硬い壁にぶつかった痛みがミノタウロスを怯ませ、その隙にベルはスライムソードの刀身を伸ばす。
ベルのスライムソードはシドや七陰のと比べると短く、ナイフ程の長さである。
精神力を練り込み、制御することで刀身の長さを自在に操り、中遠距離戦でも対応できるのが強みである。
その刀はミノタウロスの肩を貫き、斜め上から下まで袈裟斬りにし、ミノタウロスを真っ二つにした。
「やっぱりダンジョンにいるモンスターはオラリオ外で戦ったモンスターよりは強い。」
「スライムボディスーツの性能はダンジョンのモンスターに通用するって分かっただけでも十分な成果だ。」
ベルは展開したスライムボディスーツを瞬時に解除して、元の衣装に戻す。
ベルとシドのスライムボディスーツは基本的に人前では展開しない。
白昼堂々、黒い衣装で覆われた二人組なんて目立つし。
普段は駆け出しが身に着ける装備や武器で挑んでいる。
この一週間、オラリオに来てからもスライムボディスーツによる戦闘の修行は欠かしていない。
人気のいない場所を見つけてはシドと特訓したり、ダンジョンで初めて見るモンスターとの戦いにどこまで戦っていけるか、オラリオ周辺にいる盗賊、犯罪集団を見つけては性能実験、金品を頂戴したりと。
とにかく日々のトレーニングは大事だ。
すると何者かがすぐこちらに近づく気配を感じた。
「すいません!!ここにミノタウロスが来てないですか!!」
金髪ロングの細剣を持った人形のような美しさの少女だった。
確かロキ・ファミリアの第一級冒険者の【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインさんだったけ。
オラリオ内のネームドは一通り覚えたつもりだ。
「見てないよ。」
シドは僕が倒したことを隠し、嘘を付く。
駆け出しがミノタウロスを瞬殺できるなんて誰も信じないだろうし、信じていたら不正を疑われる。
正直あまり目立ちたくない。
「僕たちはこれで失礼します!!それじゃ!!」
金髪の女剣士に一言言って、すぐさま二人はこの場を離れるべく、駆け足で去った。
「ちょっと待っ...「おいアイズ、クソ牛はそっちに逃げたか!」」
少女の呼び止める声を遮る、強い声が響く。
「なんだあのガキども!助けてやったのにビビッて、礼の一つも無しかよ」
狼人の男が遠方へ去る少年らを見て、顔を顰める。
「ち…違いま…」
「まぁいい。行くぞ。」
狼人は用事は終わったと分かり、アイズの返事を無視し、本体に合流しようとする。
「(本当にミノタウロスを見ていなかったのかな?)」
確かに自分たちが取り逃がしたミノタウロスは5階層へ向かっていたのだ。
あの黒髪の男の子は見ていないと言った。
ではミノタウロスは一体誰が倒したのか?
この階層にいる冒険者は自分たち以外レベル1が殆どで、ミノタウロスに勝てる冒険者はいない。
考えるとすれば白髪と黒髪の少年が倒したのか?
だとしたらなぜわざわざ嘘を付いたのか?
アイズは疑問を解消しきれないまま仲間のもとへ戻った。
「君たち〜。私は4階層まで探索してもいい許可を出したのになんで5階層に行っているのかな〜?」
ダンジョンを出て、ギルド受付へ換金を済ませた二人だが、ミノタウロス騒動で僕たちが5階層へ降りたことがバレた。
エイナさんの笑顔で話しているが、心の中では心配と怒りが混じりあっている。
「「すみませんでしたー!」」
ベルとシドは自分たちの軽率さを謝罪。
「迂闊なことして、亡くなった冒険者は何度も見てきたから、だから君たちにはそんなことしてほしくないの。」
せっかく個人的な講義をしてもらったのにそれを無駄にしてしまったことを申し訳なく思う。
エイナが担当についた二人の冒険者のベル・クラネルとシド・カゲノー。
エイナからみれば手のかかる弟のようで、目を離したら勝手に動き出して、世話を焼かせる。
そんな印象だった。
エイナ自身はそんな頼りない冴えない年下の男性を放っておけない気持ちになる。
「これからもっと厳しくやるから覚悟しといてね。」
その後二人は罰として次の個人講義は今までの2倍の量を受けることになった。
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「ということがあったのさ」
ヘスティア・ファミリア拠点。古い教会で今日まであった事を話して、三人は夕食を支度を済ませる。
今日の食事当番はシドだ。シドは異世界の記憶をもとにメニューを振る舞う。
ご飯に、味噌汁にトンカツ。
「自信作だけど味はどうかな?ヘスティア様。」
「おいしい~。こんな料理食べたことないや。もぐもぐ。」
「シドは昔から料理が上手いんだ。」
ヘスティアはあまりの美味しさに頬が緩む。
シドの言う陰の叡智によって、作られた料理。
昔は皆と一緒によく食べてたのを思いだす。
ザルド叔父さんも料理のレシピをシドから聞いていたのを見たなぁ
料理のレパートリーも増えて皆喜んでいた。
七陰の女の子たちは打倒ディアボロス教団に向けて、各地で活動している。労力も並大抵のものじゃない。
今日まで続けられたのは美味しい料理があったおかげなのかもしれない。
シドの陰の叡智により作られた料理は最高のエネルギー源となっていた。
あの頃は皆笑顔で幸せだったなぁ。今度皆と食事しようかな。
「(こうして見ると普通の男の子なんだねぇ)」
ヘスティアはベルとシドを見る。
陰の実力者になると意気込んでいたベルとシドがヘスティア・ファミリアに入ってからは奇想天外なことは起きなかった。
ごく普通にダンジョンを攻略し、ごく普通にご飯を食べているだけだった。
「(こんな日がずっと続くといいんだけどね。)」
アポロン・ファミリアと戦争遊戯することになったら助っ人は誰にするか
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