「シルさんどこに行ったんだろう?」
豊穣の女主人の近くを通り掛かったとき、茶髪の猫人のウェイトレスさんに声を掛けられた。
なんでも怪物祭に出かけたシルさんに忘れた財布を届けてほしいと頼まれた。
怪物祭は、年に一回開かれるギルドと【ガネーシャ・ファミリア】主催の調教したダンジョンのモンスターを闘技場で戦わせて、見世物にする催しだ。
毎年大勢の観光客で溢れているので、その中から一人の人間を見つけ出すのは難しい。
なので僕とベルは別々で行動して、彼女を見つけたら、事前に決めた待合場所で落ち合う手筈だ。
「とは言っても手がかりがないよな」
闇雲に探し回っても見つからないので、シドはモブらしくせっかくの祭りの醍醐味を味わう機会だと考えを切り替え、露店の賑やかな雰囲気を観察しながら散策した。
運良く彼女を見つければ問題無いだろう。
そんなことを考えながらふと長蛇の列が並んでいる本屋を見つけた。
本屋でそんなに行列ができるのは珍しい。
そういやヘスティア様が言ったけ。冒険者の都とされるオラリオに有名な作家が来訪して、サイン会を開いているのだと。怪物祭に合わせて実施したのは有名作家のネームバリューによる集客力を求めたギルド長の判断でもあるらしい。
作家の名前は『ナツメ・カフカ』。
ここ数年で、数々の物語を世に広めて、多くのファンを虜にした女性作家。
ファンいわく壮大な発想力と新鮮な価値観を持ち、恋愛、ミステリ、アクション、童話、そして純文学、すべてのジャンルに精通し、まるで全く別人が書いているかのような物語を構築していく。その多様性こそが多くの人々の心を掴んでいるのだと。オラリオでは娯楽好きな神々を始め、読書好きな冒険者にも人気である。
ちなみに英雄譚好きなベルも彼女の大ファンを自称している。
「ベルが喜ぶかもしれないし、サイン貰うか。」
シドは店頭に置いてあるナツメ・カフカ先生シリーズの本の数々を眺める。
『吾輩はドラゴンである』、『シンデレーラ』、『紅ずきん』、『ロメオとジュリエッタ』。
なんか響き似ているな。偶然か?
極めつけは某週刊少年誌で連載したことのある作品のタイトルと似たようなタイトルの本が続々と出ていた。
どれもシドの前世で聞いた事があるタイトルである。というか丸パクリである。
僕以外に転生者が存在する可能性も考え、顔だけでも見ようと、適当な本を一冊取り、シドは長蛇の行列に並んだ。
「次の方どうぞ」
そして、シドの番が回ると、件の『ナツメ・カフカ』の顔を見た。
銀髪青目の泣き黒子のエルフの女性だった。
着ている服装は上品なブラウスで、胸元がい開いており、女性から見たら羨む抜群の谷間が拝める。気さくでファン一人一人真摯に対応する姿は男性ファンが簡単に惚れてしまうのは想像がつく。
男性のファンが多いのは本目当てより、美人な作家さん目当てな気もする。
こんな美人は中々お目にかかれないだろう。
「本をこちらへ」
ただ、その美人作家さんは僕の昔の知り合いであった。
「ベータだよね。結構稼いでいるの?」
「はい。授けてもらった陰の叡智の一端をシャドウ様のために役立てています。」
意外な所で知り合いと再会したのだ。いやベータがこんな事をしているなんて思いもしなかったけど。
「とりあえず二つサインをお願い。残りはベルに渡そうと考えているよ。」
「アルバス様へですか!!それは光栄です!!」
ちなみにベータはベルと物語好きという意味では気が合う。
よくゼウスの集めた英雄譚を二人で読み漁って、楽しく感想を語り合うぐらい仲が良い。
ベルがナツメ・カフカの大ファンと言ったのはこういうことか。
名が売れる前の昔馴染みの書いた自作小説を読んでいたし、ある意味間違っていない。
ナツメ・カフカことベータは敬愛する主たちに自分の執筆した作品を認めてもらえて、満面の笑みで直筆サインを贈る。
「(これだけは言っておこう。ベータ君、君には失望したよ。)」
自分が授けた陰の叡智で黙って、丸儲けだなんてずるい。僕はこんなことのために教えたはずではなかった。
僕は冷めた目でベータを見下ろし、二冊のサイン本を受け取った。
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サイン会が終了し、自由時間に入ったベータはシドと一緒に怪物祭を見回った。
シドは先ほどのベータの行いについては一旦忘れ、当初の目的でもあるシル探しと並行して、ベータの取材もといオラリオ観光に付き合い、市内を歩き回った。
小腹が空き、ベンチに座って、露店で買ったクレープを食べている。
「シャドウ様。はい、あーん」
「もぐもぐ。美味しいね。」
ベータは自分のクレープをシドの口元に近づき、シドはそれを食べる。
「へへへ……一度、やってみたかったんです。」
ベータは恋する乙女のようにあざとく発言した。
シャドウ様とデートをしているのだ。
現在執筆中のシャドウ様戦記にこのシチュエーションは絶対書いてやると意気込む。
「じゃあ僕のも食べていいよ」
「えええ!そんな!恐れ多いことを!」
「いいよ気にしなくて」
シドは友達感覚の距離感で言っているのだが、ベータは恥ずかしさのあまり顔が熱くなる。
「では…いただきます。」
覚悟を決めて、あーん。とベータは口一杯に一心不乱にシドのクレープを頬張った。
主の口を付けた跡が残っている。わずかな唾液が付いている。わずかな微熱が伝わってくる。そんなことを作家の妄想力を働かせながら味わう。
そして、七陰で初めてシャドウ様に間接キスをもらった事実を再認識する。
勢いよく食ったばかりかベータの頬についたクリームに付いた。
「ほっぺにクリームが付いているよ。」
ベータが気づくより先にシドがベータの頬に付いているクリームを指で拭い、それをペロリと舐めとった。
「!!??」
「大丈夫。もう付いていないよ。」
ベータは嬉しさのあまり昇天しそうだった。
久しぶりの主との再会で、デートで喜びを隠せなかったベータだが、ほどなくして、彼女が所属している組織の近況報告と業務連絡を行う。
「アルファ様の命により近場の動かせる人員は全てオラリオに集結させました。その数114名」
「(エキストラでも雇ったのかな……?)」
シャドウガーデンのメンバーが増えていることに驚くシド。
「ゼータは世界各地で情報収集、イータは主様の陰の叡智の再現に没頭中。オラリオに来るのはまだ先になります。ザルド様とアルフィア様は古都アレクサンドリアにてラムダとともに新兵を育成しております。」
「みんな頑張っているね。」
「さらにアルフィア様のご紹介でシャドウガーデンに恩恵を授けてくれる神様がやっと見つかりました。これでディアボロス教団の主力部隊と本格的な戦闘に臨めます。」
僕が知らない間に、アルファたちはここまで力を付けて、成長していることに驚く。
「(僕のごっこ遊びにここまで本気になってくれるのはなんか嬉しいな)」
大人になって現実を見たアルファたちがわざわざここまでしてくれているんだ。陰の実力者プレイは妥協せずに、張り切ってやろうと決心する。
その時だった。
「大変だ!モンスターが脱走したぞ!」
「逃げ出したのはシルバーバックだ!今白い髪の少年とツインテールの女神様を追いかけている!」
「急いでガネーシャ・ファミリアに連絡しないと!」
突如慌ただしくなる一般市民と冒険者たち。
「シャドウ様。白い髪の少年ってもしかして....」
「うん。ベルとヘスティア様だね。」
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街中でモンスターが暴れる中、一柱の女神が高い建物からその様子を見下ろす。
(あの子がどう変わるか楽しみだわ。)
美の女神はある日、偶々二人組の少年たちを見た。
兎のように白髪で赤目の一人はわずかだが一瞬、無色透明の輝きを持つ魂を持っていた。
最高の伴侶を求め続けたフレイヤにとって、今まで見たこと無い魂の輝きだった。
目を離した隙にその輝きは消えていき、有象無象が持つ魂の色に擬態していく。
まるで何か自己主張を抑えるかのように周囲と同化していくような動きだった。
英雄の資質を秘めながら彼自身が目立つことを嫌っているような印象だった。
あの輝きは忘れない。もう一度見てみたい。
あの魂がこれからどう変わっていくか気になる。
「ヘスティアには悪いけどあの子は頂くわ。」
連れの黒髪のもう一人は、特に感じることは無い。
フレイヤが見惚れる珍しい魂の色と形は持っていない。
一言で言えばどこからどう見ても凡人が持つ魂となんら変わらない。
障害にはならないが、もしも白髪の少年の成長を邪魔するなら排除することも視野に入れている。
それが人間どころか神々ですら見通せない理解しがたい何かであることに気づくことは無かった。
フレイヤ様最大の勘違い
アポロン・ファミリアと戦争遊戯することになったら助っ人は誰にするか
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ジミナ・セーネン
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ジョン・スミス
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スタイリッシュ・盗賊・スレイヤー
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アルフィア
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リュー・リオン
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七陰の誰か一人