校舎三階の渡り廊下、流れる景色の中で『廊下を走るな』と書かれた貼り紙がやけに目に付く。
「詩乃崎くん、もう怒ってないから少しお話をしようよ」
「そうだぞ、少なくとも私は怒ってなどいない。少し話したい事があるだけだ」
いつもなら建物内に入った時点でISを展開したシャルロットとラウラは振り切っている筈なのに今回はまだ追っかけている。
「別に後日でも良いんじゃないですかね!?」
2人はISを部分展開してPICを使って俺について来ている。その細やかな操縦は是非とも一夏に見習ってほしいモノだ。
「僕は今すぐがいいな。ほら、鉄は熱い内に打てって日本では言うし」
「私も今なら何でも出来そうな気がするんだ」
ダメだ、2人とも話をする気なんて全然ない。
だが、2人は気付いていない。今、自分達がどれほど危険な行為をしているのか。
「ここだぁっ!!」
気合い一発で再び窓から外へとダイブする。
コレなら2人は窓を壊さない様にISを一回解除しなければならないので隙が出来る。
落下中にそんな事を考えていると着地点が少し違和感を感じて嫌な予感がするが既に身体は地面に着地して理解した。
「あ、足が動かない。ラウラの『AIC』・・・・そんなバカな『AIC』でのトラップだと・・・・」
ラウラは今まで自分の周囲か近距離でしか『AIC』を使えなかった筈だが、今は明らかに距離が離れた状態で直接身体を捕えていないにも関わらずに俺を捕えた。
「まさか、何度も追いかけている内に成長したとでも言うのか?」
しかも2人は窓を打ち抜いて俺の目の前に降り立った。
「ナイスだよラウラ。初めてじゃないかな?捕まえられたのは」
「ああ、我々の初勝利だ。そして覚悟はいいな?四季」
2人は俺を捕えた事による勝利の余韻に浸りながら笑みを浮かべている。
「あの、二人とも・・・・学園内でのISの私的利用は禁止されてるって知ってるよね?」
そして俺も勝利を確信して生徒手帳に載っている学園規則について聞いた。
「あはは、それくらい専用機持ちなら誰でも知っている事だよ」
「うむ、それにISの私的利用は既に終わっているしな」
「ほほぅ、現行犯でなければいいと・・・・」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」
声が一つ増えている。
その声には何も無かった。
虚無のようで何もないが故に悪魔ですら裸足で逃げ出してしまうモノだった。
悪魔でない憐れな少女達は理解したが故に足が竦んでしまい逃げ出す事が出来なかった。
・・・・まあ、逃げだせる訳もないのだが・・・・
「さてと、生徒会長に用事があるのでコレで失礼します」
バカみたいに丁寧なお辞儀をしてから俺は職員室の窓から離れる事を選択した。
『AIC』が解けていない訳がない。それどころか俺が離れる事に誰も反応しない。
結果、今回も俺の勝ちである。何に対してかはハッキリしていないが・・・・
心の中で俺はガッツポーズしていると絶叫の二重奏が聞こえ手を合わせて合掌していた。
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生徒会室とディスプレイに書かれた重厚な扉を四回ノックした。
「はい、どうぞ」
扉越しから真面目そうな返事が返ってきてから俺は扉を開けた。
「すみません、少し襲われた所為で遅れました」
「君は、なるほど確かに仕方ないですね」
室内には眼鏡を掛けた真面目そうな人が俺を見て納得していた。
「生徒会長とは別件なんですけどね・・・・」
そう言いながら頬を掻いていると机に突っ伏しているクラスメイトを見つけた。
「あれ、のほほんさん?此処に居るって事は生徒会役員の1人なの?」
俺が持つのほほんさんの印象だと生徒会の一員とはとてもじゃないが考えられなかった。
「むぅ~、しののんもそんな事言うんだぁ~。・・・・まさかとは思うけど、しののんも私の名前知らないとか言わないよね~?」
「布仏本音でしょ?そりゃクラスメイトだし知ってるよ」
「えへへ~、大正解~。おりむ~は知らないって言ったんだよ。酷いよね~」
「まあ、一夏だし。予定調和だと思ってくれ。つかぬ事をお聞きしますがお二人は御姉妹では?」
何も言ってないのに俺の分のお茶を用意し始めた眼鏡を掛けた先輩に訊ねた。
「はい、私は布仏虚、布仏本音の姉です。正反対な性格なので気付かれない方が多いのですが・・・・」
先輩は俺の言葉に少し驚きながらも目の前に紅茶を置いた。
「そうですか?顔立ちは勿論ですが纏っている空気が何処か似ていますから見れば気付く人が居ても・・・・」
「その気付く人がそうそう居ないのですよ」
先輩は少し笑みを浮かべながら切り分けたケーキを俺の前に置いた。
「ありがとうございます。・・・・紅茶を淹れるのがお上手ですね、とても美味しいです」
そして、ケーキを一口食べてから紅茶を上品にだが一瞬で飲み干した。
「すみません、少し立て込んでおりまして今すぐ更識会長の所に行かないといけませんのでコレで失礼します」
「そうでしたか、こちらこそ用も聞かずに時間をお取りして申し訳ありません。会長なら織斑君と一緒に保健室にいるかと」
俺は席を立ち、先輩と互いにお辞儀をしてから部屋から出ていく前にこっそりと手を伸ばしている下手人へと話しかけた。
「のほほんさん、最初っから狙っていたケーキはあげるから泥棒みたいな事は止めてね」
「うっ・・・・」
その声に先輩は無表情のまま、今まさに手を伸ばして身体を強張らせたのほほんさんを見た。
「本音・・・・今のは流石に怒るわよ・・・・」
「し、しののんの意地悪~!絶対にわざと言ったでしょ~!」
俺は聞こえてない振りをしながら何気なく扉を開けて部屋から出た。
その言葉に先輩は更に怒り、俺が扉を閉める音に被せるようにゲンコツが落される音がした。