百面相を見た。
「・・・・その方はどなたですの?」
アリーナで訓練していたセシリアさんに声を掛けると一番最初に想い人である一夏が目に入り表情が華やかになり、次に俺を認識して少し気まずいモノになり、そして更識会長を見て浮気相手を見た様な顔をしている。
「ど、どうしたセシリア?生徒会長だよ」
「ああ・・・・そういえば何処かで見たような顔ですわね」
セシリアさんが放つ不機嫌オーラに一夏が驚きながらも何とか取り繕うとしている。
「まあ、そう邪険にしないで。これから一夏くんの専属コーチをすることになったから今後ともよろしくね」
「なっ・・・・!?ど、どういうことですの一夏さん!!」
更識会長の言葉にセシリアさんは驚きながらも一夏に問い詰めた。
「コレはその・・・・勝負の結果と四季の策略で・・・・」
「おい一夏、サラッと俺を巻き込むなよ」
「どういうことですの四季さん!?まさか、あの方にも一夏さんのコーチをお願いしたんですか!?」
一夏の言葉を聞いてセシリアさんの矛先が俺の方に向いた。
「そうなの。あまりに四季くんの情熱的なお願いにお姉さん胸を撃たれちゃったのよ」
明らかに面白がって火に油を注いだ更識会長の言葉に一夏とセシリアさんは固まってしまった。
「今の言葉、全て録音してますけど簪さんに聞かせてみましょうか?」
「今の冗談だから気にしないで。でも、お願いされたのはホントだからね」
2人が固まってる間に注いだ油は回収され話が戻った。
「今、一夏のコーチをしている箒、鈴、シャルロット、ラウラ、セシリアさん。この中の誰よりも優秀な人だからだよ」
「っ・・・・そんな事___」
セシリアさんの顔が一瞬歪んで否定を口にしようとしたが俺はソレを遮る。
「あるよ。不思議に思わなかった?一夏が夏休み前と後の実力の違いとか・・・・」
昨日の鈴と一夏の模擬戦を見てセシリアさんの顔がハッとした。
「ま、まさか夏休み中に一夏さんは特訓していてあの方がコーチを・・・・」
「それは違うわよ、これからって言ったわよね?まだ私は一夏くんに何も教えてないもの」
「な、なら一体誰が・・・・」
更識会長の言葉にセシリアさんはまた考えを巡らしている。
「何言ってるの、目の前に一夏くんと仲が良くて君達の誰よりも強い。全ての条件を満たした人がいるじゃない」
「あ・・・・まさか、四季さんがコーチを・・・・?」
「まあね。でも夏休み中ずっと教えていた訳じゃない。俺だって忙しかったから特訓方法を教えて週一で模擬戦を2、3回やっただけだけど」
「そ、そんな・・・・それだけ?あそこまでの成長がソレだけで・・・・?」
剣道を一緒にやっていた箒は一夏の目を見て覚悟の違いが分かっているから此処までショックを受けないだろう。けど、まだ一夏との付き合いが浅いセシリアさんは予想通りショックを受けている。
「気にする必要ないよ。誰でも適切な思いとやる気が出た時に適切な特訓方法と少し厳し目な模擬戦を繰り返したら誰でもこの位は出来るよ」
セシリアさんは理解しきれないのか黙ったままでいる。
「そして更識会長はその適切な方法が分かる人だからコーチを頼んだ。人に何かを教えるのは俺より上手な人だよ」
セシリアさんの視線が俺から更識会長の方に向かった。
「更識会長も適切な方法が分かるだけ。その前にある適切な思いとやる気は自分で出すモノだから勘違いしないでね」
セシリアさんにだけ聞こえるように小さく呟いた言葉を聞いて再び視線が俺の方に向いて空気が張り詰める。
「や、やる気ならありますわ!だからこそ__」
その目には動揺と怒りが混じっていて会ったばかりの時を思い出す。
「まあまあ、セシリアちゃんのやる気も分かったから。一夏くん、セシリアちゃんと一緒でもいい?」
「え・・・・あ、はい。もちろん俺は何でも・・・・」
「・・・・すみません、一夏さん。よろしくお願いしますわ」
見かねた更識会長が仲裁に入り張り詰めた空気が和らいだ。
「それじゃ、よろしくお願いしますね」
俺は更識会長にそれだけ言ってアリーナから出て行った。
_______________
地球温暖化が原因なのか、まだ残暑が厳しく日差しが強い中だが俺は屋上でベンチに座って買ったパンを食べていた。
「ったく、こんな暑い中でよく平然としてられるわね」
パンを早々に食べ終わりベンチに寝転んでボンヤリと流れる雲を眺めていると誰かの影が掛かった。
「おはよう鈴、どうかしたのか?」
「おはよう、どうかしたのかって・・・・そのセリフそっくりそのままアンタに返すわ。一体セシリアと何があったのよ?」
あれから数日後、俺とセシリアさんは一言も交わさない冷戦状態を続けていた。
元から俺とセシリアさんとの接点は少ない。
俺にとってセシリアさんは一夏に好意を寄せている有象無象の1人でしかなかったからだ。
事実、始めはクラスの誰も気が付かなかった。
だが、徐々にクラスの空気が淀んでいった・・・・一夏があまりにも分かりやす過ぎた所為だ。
何とかして2人の仲を取り持とうとして一緒に昼食を取ろうとしたり、俺と話している時にセシリアさんに声を掛けたりしていたが2人の間に会話もない状態を何度も見れば誰だって気が付いてしまう。
「違うクラスなのによく知ってたな。人の話を聞かないのに珍しい事を」
「後でキッチリ怒るから誤魔化さないで答えなさいよ」
鈴は額に青筋を浮かべながらも怒りを押さえた。
「あー、分かりやすく言うと___いつも通りだ。いつも通り優しくするのが面倒くさくて、いつも通りやったら、いつも通り嫌われたって所だ」
「・・・・そっか。なんか久しぶりに目の当たりにしたけど・・・・アンタ何も思わないの?」
「その答えは決まっている__何も思ってない__だ。正確には何も思った事がないなんだけどな」
寝転んでいるので鈴の顔は見えないが俺の言葉を聞いて沈黙している。
「それにしても、何で鈴は俺が此処に居るって分かったんだ?一応誰にも気付かれずに此処に来た筈なのに」
気を使っているシャルロットとお構いなしと言わんばかりのラウラを撒いてから来ている。
「・・・・ふぅ、よく言うでしょ?バカと何とかは高い所が好きって」
鈴が短くて深いため息を吐いてから声色を戻した。
「ああ、バカと猫はだったっけ?」
「今、誰を頭に思い浮かべたのか答えなさいよ」
静かな怒りを含んだ鈴の声が予鈴に掻き消されて俺は席を立った。
「悪いけど構って遅刻はしたくないんだ。次は織斑先生の授業だから遅刻したら後が怖い」
騒いでいる鈴を置いて行き俺は教室へと走った。