「和ァァァァァッ!?」
「どうしたんですか?いきなり人様の部屋に入り込んで来て叫ぶなんて非常識じゃないですか?」
夜、シャワーも既に浴びて自室で休んでいるとドアが開き更識会長が部屋を見て叫び声を上げた。
「いや、だって、ええええっ!?此処って確か物置き部屋じゃなかったっけ!?それなのに何この部屋!?」
「何って物を片づけただけですよ」
「嘘言わないで!キッチリ玄関があって一段上の部屋には畳が敷き詰められている訳ないじゃない!?」
「ですから元からですって」
「百歩譲ってそうだとしても物置き部屋に涼しげで趣のある縁側なんて絶対にない!!っていうかこの部屋には窓1つなかった筈よ!!」
「何言ってるんですか?他の部屋には全部大きな窓とベランダが付いているんですから此処にもあって当たり前じゃないですか」
「だから此処は物置き部屋だった筈でしょ!?」
「だから物置き部屋だったんです」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」
あれだけ騒がしかった更識会長が黙ったので部屋は沈黙に包まれた。
「とりあえず上がって下さい。お茶は熱いのと冷たいのどっちがいいですか?」
固まっている更識会長に声を掛けながら立ちあがりテーブルの上にお煎餅を出してお茶の用意を始めた。
「・・・・ビフォーアフターか・・・・」
更識会長は夢遊病みたくフラフラしながら部屋に上がりテーブルの近くに座った。
「お茶はどうしますか?」
「つ、冷たいので・・・・」
これまた趣のある戸棚からガラスのコップを取り出して小さめの冷蔵庫から氷と麦茶を注いで更識会長の目の前に置いた。
「・・・・この部屋には水道が通っていたかしら?」
更識会長はお茶を一口飲んで部屋を見回してから少しズレた事を聞いてきた。
「ああ、水ならあそこの井戸から汲み上げたモノを使っています」
視線を縁側へと向けると木で造られた屋根のある井戸が見えた。
「・・・・・・・・水質とかはどうなのかしら?」
ほとんど反応しなくなった更識会長はまたズレた質問をしてきた。
「大丈夫です。きっちり検査して水道の水よりも綺麗だと証明してますから」
「そう。お茶が美味しい理由の1つかしら?」
「かもしれませんね」
「「・・・・・・・・・・・・」」
会話が途切れて部屋にはお煎餅を食べる音とお茶を飲む音だけ。
非情にゆっくりした時間が流れていく。
「・・・・・・壁・・・・・・」
「はい?熱いお茶も欲しいですか?」
「「・・・・・・・・・・・・」」
更識会長は縁側に目を向けながら何かを呟いた。
「・・・・壁どうしたの?」
「どうしたのって元からこうでしたよ」
しれっと答えると更識会長の身体が小刻みに震えだした。
「・・・・い・い・か・げ・ん・に・・・・」
「ほら、この部屋の見取り図にも、この寮の設計図にも、IS学園の設計図にも、全てに此処に大きな窓と縁側が書かれてますよ」
空中に投影されたディスプレイには様々な設計図が映し出されており更識会長は身を乗り出して食い入るように目を通している。
「え?なっ・・・・どうして・・・・?」
更識会長は懐から小さな端末を出して何かを打ち込むと空中に映し出されたディスプレイには同じ設計図が並んでいた。
「ホントに書かれている・・・・まったく同じ。私の記憶違い?そんなバカなことが、でも設計図にも・・・・設計図?」
自分の前に映し出されている二つのディスプレイを交互に何度も何度も視線を往復させた。
「・・・・まったく同じ・・・・こんな極秘の中の極秘であるIS学園の設計図が目の前に二つ?」
真実に辿り着こうとしている更識会長を目の前に俺は熱いお茶を啜っていた。
「まさか・・・・そういえば前にも痕跡をまったく残さずアリーナのシールドの設定を変えた事が・・・・」
再び湯呑にお茶を注いでいると更識会長が俺を見つめていた。
「納得して頂きましたか?」
「ええ、まさか既に手回しが済んでるとは思いもしなかったわ。確かに此処は始めから大きな窓と縁側がある部屋ということね」
更識会長は笑いながら答えているが気配と目は笑っていなかった。
「心配ありませんよ。この情報は何処にも洩らしたり教えたりしてませんから」
「そういう問題じゃないんだけどなぁ、後学の為にどうやったか聞いてもいいかしら?」
更識会長の言葉に俺は可笑しくなって少し笑ってしまった。
「真面目に答えてくれたらお姉さん的にはポイント高いんだけどなぁ」
「真面目に答えても何も変わりませんよ。束さん、篠ノ之博士の技術を口頭で伝えただけで理解出来るんですか?」
俺の言葉に更識会長は何も返せず黙ってしまった。
「心を落ち着かせてゆっくりと深呼吸して下さい」
沈黙していた更識会長は戸惑いながらも深呼吸した。
静かになった部屋には縁側に釣らされた風鈴の音が良く響いた。
「この部屋は心地よくないですか?」
静かになった部屋と心には風鈴の音が心地よく染み込んでくる。
「・・・・そうね、なんだか懐かしさに浸れて酷く心が落ち着くわ」
「なら疲れた時には来て下さい。精一杯もてなしますから」
グラスに水滴が浮かび上がっているお茶を飲み干すと随分と柔らかい笑顔をした。
「今度は熱いお茶を頂いてもいいかしら?」
「もちろん」
そう言って再び熱いお茶を用意して湯呑にお茶を注いだ。
「ったく、私も何を目くじら立てていたのかしら?四季くんなら悪いようにしないだろうし、実質得をしている筈なのに・・・・」
落ち着いた更識会長は熱いお茶を啜りながら軽い自己嫌悪に陥っていた。
「気にする必要ないですよ。それより部屋に来たのは何か用があったのでは?」
「そうそう、あまりに驚いていた所為で忘れていたけど此処が心地良いなら問題ないわね」
更識会長はニヤニヤしながら周囲を見回している。
「何が問題ないんですか?」
「今日から私もこの部屋に住む事が」
「何が問題ないんですか?」
大事なことなので二回言いましたよ。