同志召集(Re)
「タケルには一度、わが御剣の本家に来てほしいのだ」
「御剣の本家に?」
11月終わりの頃、悠陽と冥夜が突然こんなことを言いだした。
「いや、月詠さんから聞いたけど今年いっぱいは帰れないんじゃなったのか?」
「確かに。ですが武様が約束を覚えて下さっていたのなら話は別です。先日おじいさまのほうは説得しておきました」
「それはまた……でも行くっつっても本家となるといろいろあるだろ? みんなを連れて行くわけにもいかんし……」
「それは心配には及ばん」
「もうすぐ12月16日。私たち姉妹と武様の誕生日です。例年は本家で盛大なパーティーを行うのですが、今年は武様のこともあるので私たちだけでできればなと」
毎年財閥関係者やその関連企業の重役たちが集まって盛大なパーティを行うそうなのだが、今年は俺のこともあったためスケジュールを組んでいないんだとか。
「まぁ毎年、誕生会と言いながらあわよくば我々と婚約をと話を持ち掛けてくるものが大半なのですが……」
「あぁ……」
逆玉の輿を狙ってのことだろう。あるいは財閥内での発言力強化のためか。まぁ心から誕生日を祝ってもらった経験があまりないのかもしれない。
「よし! そうときまれば盛大な誕生日会にしようぜ?」
「「そなたに感謝を」」
「大袈裟だって。じゃあみんなには俺から伝えとく」
今では遠い記憶となった「元の世界」での誕生会を思い出しながら、武はいろいろと思案するのだった。
「朝からなんですか~……あれ、まりもちゃんも?」
「あっ、来たわね」
翌日の早朝、学校に投降した俺は早々に校内放送で呼び出された。
「わざわざ放送で伝えんでもいいでしょうに……。それで今回はどういう要件で?」
「同志を集めなさい」
「は?」
何ってんだこの人。
「旅行に行かない?」
「ん?」
どっかで聞いたなこのセリフ。
「あのね、実は昨日商店街の福引で温泉旅行当てたの」
「あぁ~」
思い出した!たしかみんなで温泉旅行に行ったんだよ!
「なんか反応が薄いわね」
「いやぁ、ゴニョゴニョ(元の世界で同じようなことがあったんで……)」
「ゴニョゴニョ(あーなるほどね)」
「二人してなに話してるのよ?」
「いや、まりもが福引ではしゃぐ子供みたいだって」
「なんですって! 白銀君!?」
「なんてこと言うんだアンタは!」
まぁ違うといったらほんとは何を言ったのかと聞かれそうだからごまかしておくしかない。そこを逆手に取ったな夕呼先生め……。
「まりもも戯れるのは後でにしなさい。まあでも、まりもが彼氏にフラれずラブラブだったらアタシいけなくなるところだったわ」
ズドーン!
あ~あ~まりもちゃんが沈んだ……
「それよりも白銀~。まりもったらど~しても白銀を連れていけっていうのよ、私のおごりで」
「はぁ……」
「いい加減教師と教え子の関係を越えたいとか、卒業まで待てないとか言うから協力することにしたんだけどね……」
「ちょっと夕呼! 馬鹿なこと言ってんじゃないわよ!」
相変わらずどっかで見た誘い文句だな……なんかまりもちゃんの顔が赤い気がするけど風邪かな?
「まぁとりあえず球技大会の時のメンツ集めればいいですよね?」
「そういうこと」
「あっそうだ! ついでにみちるさんとか祷子さんとか呼んでいいですか?」
「……伊隅さんと風間さん? 人数に余裕はあるからいいけど……どうしてその二人を?」
「えっと、実は今一緒に住んでるんですよ」
「白銀、あたしそれ初耳なんだけど?」
「えっ? 夕呼先生には言ってませんでしたっけ?」
「いいえ?」
すると夕呼の顔がにやりと笑った。
しまった! あれはよからぬことを思いついた時の顔だッ!
「まぁ同棲の件についてはまた後にするわ。ほかのメンバーによろしく」
「分かりましたよ……」
何されるのかな~……胃がいてぇ……
「あっ忘れてた! 実はなんですけど……」
誕生日会のことをすっかり忘れてた。やっぱり世話になってる二人には来てほしい。
「御剣の本家に?」
「やっぱりすごい豪華な食事とか出るのかしら?」
「出ると思いますよ。普段は客人とか呼ぶらしいんですけど、今年は身内だけでやるっぽいんで固くならなくても大丈夫です」
「そうねぇ、ここで御剣財閥と新たなコネクションを手に入れれば私の研究も……」
「夕呼ったら……。なら私も参加するわ。その代わり旅行の件はお願いね?」
「任せといてください」
夕呼先生がまたよからぬことを考えてそうだが、御剣のおひざ元ではさすがに何かしたりはしないだろう……多分……
「ってことでみんなどうだ?」
教室に戻った俺は球技大会メンバー+茜、築地を呼んでパーティーと旅行の件を話した。
「私は特に予定もないからいけるわ」
「……私もおけ」
「ミキも大丈夫です~」
「ボクもオーケーだよ」
「今年は合宿がなくなったらしいから私もいけるよ」
「おぉ」
ハルーは前はいけなかったからなぁ。
「私もいけるよ」
「あ、茜ちゃんが行くならワダシも!」
今回は夕呼先生に何も言われなかったから二人も連れてっていいらしい。
「……私も行きます」
「霞はもちろんだ。よし、これで全員決定だな!」
「わ、私は?」
「ん? あぁ純夏は聞くまでもない。強制連行だ」
「ひどッ!」
どちらにせよ霞が行くんだら嫌でも純夏はセットだ。
「いや~しっかし全員来れるみたいだな! よかったよかった!」
「なんか安堵してるって感じだけどどうして?」
「なんでって、これ夕呼先生命令だからさ? 断られたら何されるかわからん」
「あぁ……」
皆の目がちょっと同情的になった
「白銀君、旅行って言ってもどこに行くの?」
「箱根に温泉旅行だ」
「温泉かぁ~、掘るのかな? それとも秘湯を探したり? それとも……」
美琴よ、普通箱根と温泉と聞いたら温泉旅館が思い浮かばんかね?
「まぁ美琴はちょっと置いといて……。あっそうだ茜、遙さんもぜひ誘っといてくれよ。夕呼先生が呼んでもオーケーだって」
「うん分かった」
これで学校組は一通り誘い終わったかな。夕呼先生がピアティフ先生たちも誘うとか言ってたからかなりの大所帯になりそうだよなぁ……
学校が終わったあと俺は、みちるさん達にも話を振った。
「えッ!? 祷子さんは御剣の本家に行ったことがあるんですか!?」
「えぇ。前に私の所属するオーケストラに演奏の依頼があってパーティーにお呼ばれしたことがあるわ」
みちるさんと祷子さんを誘ってみたところ、祷子さんは一度御剣本家に立ち寄ったことがあったらしい。祷子さんの所属するみちるさんの親の音楽団は世界的に有名なためため、VIPからの依頼も多々あるんだとか。
「とても大きな場所で、よく見る富豪の豪邸と言われるものとはまた一線を画した場所でした」
「さすがに私はないな……うむ、わたしはどちらの予定も空いているからぜひとも参加しよう」
「私もお願いしますわ」
「ありがとうございます」
「あっそうですわ! 美冴さんも呼んでいいかしら?」
「……いいですよ」
「……今の一瞬の間は何だ?」
「いや、なんでも」
あの人は苦手だが、せっかくみんなが来るなら省くわけにもいかない。
──ドンドンドンドン
「ん? なんだ?」
「玄関からですわ」
「来客か?こんな時間に」
「でもインターホンではなくなぜノックだけなんでしょう?」
「……ちょっと見てきます」
インターホンを使わずわざわざノックで呼び出す来訪人。純夏なら「タケルちゃ~ん!」と騒ぐため、純夏ではないだろう……
───いや、もう一人いたぞ。力任せに扉をたたく奴が!
「──やっぱりッ!?」
「遅いッ!」
「速瀬!?」
「速瀬先輩!?」
訪ね人は水月であった。
「今日よ~やく合宿から解放されたのよ。いや~しんどいしんどい」
「家には帰ったんですか?」
「いやまだよ?」
「いや、先に自分家に帰ってから来てくださいよ……」
「何言ってんのよ? 今日から私の家はここよ」
「「「……は?」」」
来て早々、この人は何を言ってるんだ?
「何呆けてんのよ。今日から私もここに住むって言ってんの!」
「「「はぁ~!?」」」
なんですと~!?
「い、いや、住むって言っても親の許可とか……」
「それなら安心しなさい! ほら」
そういって水月が見せたのはスマホのメール画面。
「どれどれ……[バカ息子をよろしく頼んだわね、水月ちゃん]。なにぃ~!?」
「これは本物なのか速瀬!?」
「アドレスも武のお母さんのですよ~。まぎれもない本物です!」
「確かに武君のお母様のものですわ……」
そのメールは確かに俺の母さんのアドレスだった。
──プルルル
「ん? 電話だ……って母さんからだ!──もしもし?……あぁ今来たよ……でももうみちるさんと祷子さんもいて、御剣家侍従一同もいて……男冥利に尽きる? 何言ってんだおばさん………あぁすんませんつい口が……はいすいませんはい……了解しました──」
「どうだった?」
「……えーっと、とりあえず寝室はみちるさん達のところはいっぱいなんで和室を使ってください」
「やり~!」
「くっ……」
「また敵が増えましたわ……」
「?」
二人がなんだか苦虫を嚙み潰したような顔をしていたがまあ大丈夫だろう。
「それじゃあ早速──」
──ドンドンドンドン!
──ピンポンピンポンピンポンピンポン!
「うるさッ!」
今度は何なんだ一体!?
「夜中に近所迷惑な奴だな」
「もう周りに家はありませんけどね」
「意外と響くわね……それよりもインターホン確認したほうがいいんじゃない?」
「誰なんだまったく……うおッ!」
インターホンのカメラを確認すると、そこに映っていたのは何かに怯えた様子の男。
「……もしかして、孝之さん?」
「武! 頼むッ! 中に入れてくれッ!」
男の正体は鳴海孝之であった。しかし彼は何にそんなに怯えているのだろうか。
「……風間、塩もってきなさい」
「え?」
「はやく!」
「わ、分かりました!」
水月も何かに慌てた様子で、祷子になぜか塩を要求する。
「ひぃッ! わ、悪かったッ! 落ち着け愛美! 俺が悪かったからッ! クソッ……慎二ィー! なんでこんなヤt──……」
「!?」
扉の向こう側にとてつもない邪悪なオーラを感じると孝之の声が聞こえなくなった。しばらくしてドアスコープを覗くとそこには誰もいなかった。
すると水月は玄関を開けて塩をまきはじめた。まるで何かをお払いをするかのように……
「孝之の尊い犠牲で私たちは救われたのよ……」
「鳴海に感謝しなくてはな……」
「そうですわね……」
「あーめん……」
何教なのか分からないが、手を合わせる4人であった……
「あれが孝之さんかぁ……」
昨晩あった出来事を思い返す。あの愛美さんって人、たしか横浜基地の衛生課にいた人だよな? 向こうの世界で見たときは普通だったんだけどな……。世界が違うとこうも変わるのか。
「どうしたのタケルちゃん?」
「いや、世の中には知らないほうがいいもんもあるんだなって」
「?」
「そういえばタケル。昨晩月詠から玄関前で不審な人物を見かけたとの報告があったのだが、大丈夫であったか?」
「あぁ……
───一人の男の勇敢な活躍によって我が家の平穏は保たれたよ……」
「「「「?」」」」
「まぁ何もなかったのならよいが……念のため月詠には警備の強化を伝えておこう」
「あっそうだタケルちゃん!……水月さんまで一緒に住むってどういうこと?」
低めのトーンで純夏が問い詰めてくる。これは下手にでればドリルでミルキィなあれが飛んでくるッ!
「そうだ! 忘れていたぞタケル!」
「是非にも事情をお伺いしたいものですわ」
「……ぶー」
みんなの視線が痛い。っていうか霞よ、その反応は何だ?純夏の奴に毒されたのか!?
「タケルちゃん今失礼なこと考えてたでしょ」
「い、いや別に……その水月さんの件は母さんに言われたからどうしようもなかったんだよ……」
「おばさんが?」
「ご丁寧にメールと電話でな。こればっかりは不可抗力だから許せ」
「……はぁ、あと何人増えるのかな……(ボソッ)」
「ヒソヒソ(姉上)」
「ヒソヒソ(これは早急に手を打たねばなりませんわ)」
「……」
「……あんまり目の前で内緒話をされるのは感心しないぞー」
「なんでもないよ」
「いや、なんでも」
「なんでもありませんわ」
「……」
まあいいか。
次回御剣本家編ですが舞台は京都になります。京都ということはあのキャラたちが出ます。
それとチャプター1の「開始」でチラッと出てきた「敵対的な視線」について若干掘られます。ていうかそもそも影薄すぎて忘れられてるかな?笑