「失礼します」
「どうぞ」
HRが終わって早速やって来た物理準備室。目の前にいるは夕呼先生。
「で……アンタ誰?」
「!?」
来て早々夕呼先生から告げられた衝撃の一言。あれだけで事情をなんとなく察せるとはやはり夕呼先生だ。
「白銀武ですよ。……まぁ『因果導体』になって並行世界を渡り歩いて、今日ようやく帰ってきた白銀武ですけどね。」
「!?」
隠す必要もないので俺は自分の正体を正直に話した。
「……白銀、そこに座りなさい」
「え?あ、はい」
俺は言われるがまま椅子に腰を下ろした。すると夕呼先生は立ち上がって俺の後ろに回るとそこから俺を抱きしめた。
「えっ……ちょ、先生?」
「…お帰りなさい……そう言えばいいのかしら?……」
「え? あぁ……ただいま?…」
夕呼先生らしからぬ珍しい行動に思わず素直に返答してしまった。
「……何があったの? よかったら話しなさい」
「分かりました……」
それから俺は元の世界のこと、向こうの世界のことを一通り話した。
「へぇ、向こうでは軍人なんてやってたの? 道理で……」
「前も元の世界に一時的に戻ってきたとき変だとか言われたんですけど、やっぱり変なんですか?」
「変も何も、いつものあんたと比べたら一目瞭然よ。へぇ〜……なによ、あんたでもこんなに一丁前に男の顔に慣れるじゃないの。年上かと思ったわ」
「まぁ主観だけでも3年くらい経過してますからねぇ」
「主観ってことはそれ以上もあるの?」
「さっき言った1回目の世界群を何回も繰り返してますからね。合計したらそりゃとんでもない年なんじゃないですかね? 記憶はほとんどないですけど」
「なるほど……ふ~ん……」
「?」
「年上?……いや……でも白銀よね……」
「あのー……先生?」
「──! あー何でもないわよ?」
何か夕呼先生がぶつぶつと言っているような気がしたが・・・・・・
「まぁそれはそうとして……この世界のこととか、こっちの俺について色々教えてくれませんか?」
「そんなもの自分で調べればいいじゃない」
「今の俺はただの学生ですよ? それにこの……スマホ?って機械も元の世界や向こうの世界にはないものですから」
「へぇ〜、じゃあ使い方も分からないのね?」
「はい」
「いいわ。じゃあ貸しなさい」
そうして俺はこの世界の自分のことや交友関係などを一通り聞いていく。
「なんかこの世界の俺、めちゃくちゃじゃないですか?」
「そうよ。だから分かりやすいって言ったでしょ?」
聞くに、この世界の俺は近所でもかなり有名なガキ大将だったらしい。それこそオレが白陵柊に入ったと知って教師陣の一部が騒いだとか。何より一番驚いたのは夕呼先生が口喧嘩しても勝てない程なんだとか。夕呼先生に口喧嘩で勝つとはまるで想像がつかん……
それとこのスマホという機械。正式名をスマートフォンと言い、ここ近年で爆発的に普及した持ち運びできる電話機なんだとか。しかもそれだけでなく、メールやインターネット、ゲームなんかもこれ一つでできてしまう優れもの。お陰で俺ご愛用の『ゲームガイ』はこの世界ではあまり売れていないらしい。
「あーそれでなんですけど、なんか今日の朝にメールが何通か届いてですね。でも連絡先の名前が全部あだ名で、誰が誰なのか分かんないんですよ。」
「そんなの私に聞かないでよ」
「頼みますって〜」
「はぁ〜仕方ないわねぇ。……でもこれ、一つ貸しよ?」
「……ハイ」
「ふふ……白銀に貸しを作ってやったわよ!」
一つ貸しを作られたが、俺と夕呼先生は連絡先の炙り出しを行うことにした。
というか、貸しが作れて夕呼先生が喜ぶって……この世界の俺おそるべし……
[1人目]
「あんたと私も連絡先を交換してるから、今かけてみるわ」
「はい、お願いします」
そういうと俺のスマホは着信音を鳴らし始めた。……その着信音はまるで警告音のようだった。
「……」
「……ねぇ白銀、宛先のとこなんて書いてある?」
んーっと、どれどれ……[Dr.Hentai]……なんちゅー名前や…
「……えーと、俺学校しばらく通ってなくて英語わかんないんですけど……」
「……あんたさっき国連軍って言ってたじゃないの。言い訳は良いからさっさと見せなさい」
そう言うと夕呼先生は俺のスマホを奪い取って画面を確認した。
「……白銀、土に埋めるか、海に沈めるか、火に放り込むかどれがいい?」
「それを書いたのは今の俺じゃないです」
「チッ……」
この世界の俺はなんてことをしてくれたんだ……
[2人目]
「[オグラグッディメン]……これは純夏か?」
「合ってるわね……あんた、ほんと酷いあだ名つけてるわね」
「今の俺じゃないんですよ……」
[3人目]
「[ゲジ眉]……これは榊かしら?」
「その名前で分かる先生も先生ですよ……」
[4人目]
「[焼きそば]……これは多分彩峰だな。……そういえばこの世界の榊と彩峰ってどういう関係なんですか? 今朝すごい仲良さそうだったんですけど……」
「あぁ、あの二人? 体育祭のときに何かあったのかしらね? 昔はよく喧嘩してたけど、それ以来すっかり二人でよく過ごしてるわね」
「あの二人が!? 聞いた感じ昔は不仲っぽいけど……分からん……」
[5人目]
「[タマ猫]……これはたまか。そのままだ」
「普通ねぇ、面白くない」
「別に宛名に面白さはいらんでしょうが」
[6人目]
「[天邪鬼]……誰だこれ?」
「その番号は……鎧衣ね」
「なるほど、人の話を聞かないからってことか」
「……普通ね」
[7人目]
「[ハルー]……柏木か?」
「何よその可愛い名前は! 優遇しすぎなんじゃないの!?」
「あぁもう、そんなに暴れないでくださいよ! 子供かあんたは!?」
[8人目]
「[ヘアバンド]……ヘアバンド付けてる奴って……涼宮か?」
「番号は合ってるわ。あんたの仲良い涼宮はヘアバンドが本体か何かと思ってるわけ?」
「なんで?……てか仲良いってなんですか?」
「あら違うの? この世界のあんたと涼宮は高校前からの知り合いみたいよ? 幼馴染ってやつかしら?」
「えっ! そうなんですか?」
これはあとで把握しとかなきゃな。
[9人目]
「[田舎]……誰だこれ?」
「その番号は……築地ね」
「築地?……確か猫にされた……この世界の俺は知り合いなのか」
[10人目]
「[狂犬]……まりもちゃんか」
「……あんた『狂犬』って知ってるの?」
「そう言うってことはまりもちゃんの狂犬伝説はこの世界でも健在なんですね……」
「ええ……」
俺と先生は心の中で互いに仲間の印に拳を合わせた(?)
[11人目]
「[突撃隊長]……あっ、これ今朝気になったやつ」
「それは……速瀬ね、速瀬水月。水泳の女子日本代表って言ったら分かる?」
「速瀬中尉!? いや今は水月さんか。突撃隊長ってのはそういことか……(確か元の世界でも卒業生に温水プール導入のきっかけになったすごい水泳選手がいたとか言ってたから……あれは水月さんだったのか……)で、この世界では代表選手にまでなってるのと。てかそんな大物となぜ知り合い?」
「速瀬が在学中に夏休みとかはよくあんたもこの学校のプールに遊びにきてたわよ? こっちじゃよく知った仲なんじゃない?」
「へぇ〜……」
[12人目]
「[初心]……これも分かんないな」
「その番号は……宗像ね、宗像美冴」
「うげっ」
「あら苦手? でも初心って……フフ、確かに言い得て妙ねこのあだ名」
「どういうことですか?」
「あの子よくそういう話で人のことからかう癖して、経験ないから自分が言われると照れるのよ」
「へぇ〜(この話は使えるかも)」
見てろよ宗像中尉。あの世界で散々からかわれたこの恨み、今この世界で晴らす!
[13人目]
「[ヴァイオリン]……これは風間少尉か?」
「あんたの知ってる風間もヴァイオリン弾いてるのね。……番号は合ってるわ。そういえば前のあんた、風間によくヴァイオリン教えてもらってたわね。今のあんたも弾けるの?」
「まぁ、向こうでもちょっと教えてもらって一通り音は出せるようになりましたけど……せいぜい簡単な曲一個ギリギリ弾けるかな〜くらいです」
「それでも弾けるのね。私も昔習わされたことあったけどあれ難しいでしょ?」
「ええ。だから俺には弾くよりも聴くほうが合いますね」
[14人目]
「[般若]……なんだこれ」
「その番号は……涼宮姉ね」
「あの温厚な人が『般若』って……ほんとに合ってます?」
「えぇ、合ってるわよ」
──後日、俺はこの異名の訳を知ることになるのだが、それはまだ少し先の話。
[15人目]
「[家庭教師]……俺って家庭教師なんて雇ってたんですか?」
「その番号は伊隅ね。確かアンタの高校受験のときに家庭教師やってたって言ってたわね」
「この世界の俺もあの人の教えを受けてのか……」
「向こうの伊隅はあんたの部隊の上官だったんだっけ?」
「はい。部隊名も"伊隅ヴァルキリーズ"っていうくらいですからね」
「……なんだかその顔腹が立つわね」
「なんでや」
[16人目]
「[熱血]……これは?」
「その番号は……剛田ね。あいつが涼宮に言い寄ってたときにあんたたち、よくやり合ってたわよ」
「そういえば剛田、そんなことしてたな……」
[17人目]
「[ヘタレ]……可哀想なあだ名だな……」
「その番号は……あった、鳴海ね。鳴海孝之。速瀬達と同い年の」
「鳴海さん……あーえっと確か、水月さんと遙さんの思い人の……」
「想い人? あんたの世界ではそうだったのね。まぁ確かに女を泣かせそうな奴だけど、ここじゃ二人と鳴海はそういう関係じゃなかったわ。確か穂村って奴と付き合ってたかしら」
「この世界だと違うのか……」
「これで全部かしらね」
出てきた宛先(50音順)
・[天邪鬼] ・・・鎧衣美琴
・[田舎] ・・・築地多恵
・[初心] ・・・宗像美冴
・[ヴァイオリン] ・・・風間祷子
・[オグラグッディメン] ・・・鑑純夏
・[家庭教師] ・・・伊隅みちる
・[狂犬] ・・・神宮寺まりも
・[ゲジ眉] ・・・榊千鶴
・[タマ猫] ・・・珠世壬姫
・[突撃隊長] ・・・速瀬水月
・[Dr.Hentai] ・・・香月夕呼
・[熱血] ・・・剛田城ニ
・[ハルー] ・・・柏木晴子
・[般若] ・・・涼宮遙
・[ヘタレ] ・・・鳴海孝之
・[焼きそば] ・・・彩峰慧
「はぁ……なんかこうしてみると酷いですね」
こりゃあとで普通に変えといたほうがいいな。なんにせよ見にくい。
「まぁあだ名も酷いけどね……もっと思うところあるでしょ?」
「あだ名以外に?……なんだ?」
「あんたこれほとんど女の連絡先ばっかじゃないの。男はどこにいるのよ? 2人しかいないじゃない」
「あー、確かに」
「確かにってあんた……」
そりゃ鑑も浮かばれないわね、とよく分からないことを言われたが、これ以上は頭痛くなるからと話しを切られた。
解せぬ……
「そういえば……俺って男友達いたっけ……」
ここでふと思い返す。そう、俺には男友達がいないのだ。クラスで連むやつはいるが、放課後一緒に遊ぶような男友達が俺にはいたことがない。それこそ元の世界の尊人くらいだ。
「よく考えたら俺、男友達いないですね……」
「流石は恋愛原子核ね」
「んがっ!」
こうして俺はこの世界でも恋愛原子核という称号を授かることになった。
「あーそれと……一応聞いておきたいんですけど、この世界の俺ってどうなるんですかね? 記憶の流入とか起きたりしないですかね?」
俺が懸念していたこと、それは以前俺が元の世界に逃げたときに起こった記憶の流出や因果の持ち込み現象である。また起こってしまってはと不安だった俺は一応聞いてみることにした。
「そうね……あんたはもう因果導体じゃないんでしょ? ならそういうことは起こらないはずよ。あんたが関わってる世界は今やこの世界しかない訳だし」
「良かった……」
「ただ、問題はこの世界の白銀ね。前に聞いたのかは知らないけど、あんたはそのうちこの世界の白銀の意思と融合して第三の白銀になると考えられるわ」
確か元の世界に逃げたときにそんな説明をされたな。
でもそれって……
「ってことは俺の意思はなくなるってことですか!?」
「さぁ、私にもそこまではわからないわよ。今のあんたが自意識を失うのか、それとも、ただこの世界の白銀の記憶を吸収した形になるのか」
「……」
それはもしかしたら今の俺が意識を保てる時間は少ないということかもしれない……
──それはあの世界で勇敢に戦ったみんなの記憶を忘れることと同義に他ならない。
「まぁでも、私は後者の確率が高いと思うわ。現に今のあんたは記憶だけじゃなくて肉体まで向こうのを引き継いでるんでしょ? 今のあんたは記憶、人格、肉体の全てを上書きしている状態にある。要は今のあんたの因果の方がこの世界の白銀のものより強いってことよ。それに社の存在も無視できないわ。話を聞く限りあの子は存在自体が向こうからやってきたようなものよ。干渉する力が向こうのほうが強いってこと」
「だから融合しても今の俺がこの世界の俺を吸収する形になると?」
「そういうこと。まぁでも白銀、一つ教えてあげる。物事を左右させるには人の意思が関わってくるわ。意思を強く保てばあんたが消えて無くなるなんてことは起きないはずよ」
人の意思の力というものは凄い。俺が因果導体になったのだって元はと言えば純夏の『タケルちゃんに会いたい』という意思によるものである。だからこそこの言葉には信憑性がある。
「分かりました。ありがとうございます」
「そうだ白銀。ちょっと敬礼やって見せてよ」
「敬礼ですか? まぁいいですよ」
そう言われて俺は敬礼のポーズをとった。
パシャッ
「ちょッ」
「んー、様になってるわねぇ」
夕呼先生はスマホで俺の敬礼を撮影した。あんな一瞬で撮れるとは、よほどスマホとやらのカメラは優秀なんだな……
──後にこの写真が校内の女子中心に出回ったとか出回ってないとか……
時間は昼休み。
結局あの後、向こうの世界の歴史云々を永遠と聞いてきた夕呼先生のせいで、俺が教室に戻ってきた頃には既に昼休みの時間だった。
「タケルちゃん! どこに行ってたの?」
「あーいや、夕呼先生に呼ばれてそっからずーっと……」
「にしても長すぎない?」
「いや、俺も最初は1時間くらいで済まそうと思ってたんけどな? メインの話が終わったと思ったらそこから恋愛原子核がどうたらとか言い出して」
半分は嘘だが一応そう言っておく。
「恋愛原子核?」
「あーなんか……原子が電子を吸い寄せるみたいに、異性を惹きつける力がどうとか」
「あー……なるほど・・・香月先生上手い例え方するね」
純夏はそう聞くと納得したらしい。しないでくれ……
「もう昼か……ってヤバッ!」
そのとき俺はあることを思い出した。
「純夏! 今日って弁当持ってきてるか?」
「えっ!? う、うん、タケルちゃんの弁当も作ってきたよ!」
で、冥夜と悠陽は……いない。
そのとき外から音が聞こえてきた。
『な、なんだありゃ!?』
『何?あのコンテナ……』
クラス中、いや学校中が騒然とする中、校庭へと降り立ったヘリ。
あのマークは……間違いない──御剣のヘリだ。
「タケル」
「武様」
「……」
この後俺は純夏の弁当か御剣家コック達の料理のどちらかを迫られることになったのだが、俺は京塚のおばちゃんの山盛りで鍛えられた胃袋でどちらも食べるという選択をとった。
そしてこの後……
「武さん……アーンです……」
「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」
霞のアーンによってまたしてもあらぬ疑いをかけられた俺は、本日三度目の電離層突破を果たしたのであった。