俺たちは今、遅刻の危機に陥っている。
「武、体にいい栄養ドリンクが出来たんだが飲んでみてくれないか?」
昨晩みちるからそう言われて渡されたある飲み物。
「みちるさん、これとても美味しいですわ。おかわりはあります?」
「あぁ、あるぞ」
横では祷子さんも美味しそうに飲んでいた為、武はなんの疑いもなくそれを口にした。
「ゴクッ……」
「どうだ?」
「……」
バタンッ
「まぁ、美味しすぎて失神してしまったようですわ」
「そうか、嬉しいぞ武。気に入ってくれたか」
俺はそれを口にした瞬間気絶した。祷子さんはああ言ったが本当は逆だ。そのあまりのマズさに失神したのだ。
───そう! あの味はあの世界で二人に勧められたゲロマズ栄養ドリンクだ。そしてそれを美味しいと言って飲んでいたのもあの二人!
そのまま寝込んだ武は、無事目が覚めた時には翌朝の遅刻ギリギリなのであった。
「タケル! 急げ!」
「分かってる!」
遅刻ギリギリのために急いで正面玄関をかける一行。
「あ、危ない!」
「きゃっ!」
「おっと!」
ドンッ!
急いで走っていた為、曲がり角で人とぶつかってしまった。咄嗟に相手の腕を掴んで支える。
「すいません、大丈夫で………ッ!?」
が、顔を見て思わず驚いた。
「え、えぇ……その、あなたこそ大丈夫?」
その人物はあの世界で夕呼先生の秘書兼オペレーターを務めていたピアティフ中尉だった。なぜこんなところに!?
「あ、あーっと俺は大丈夫です。怪我はないですか?」
「えぇ……大丈夫よ」
「タケルちゃん!」
「タケル、大丈夫か!」
「そちらもお怪我はありませんか?」
「……っ!?」
追いついた純夏達が慌てて駆け寄ってきた。そして霞は見知った人物の登場に驚愕していた。
「ごめんなさいね、急いでたものだから……えっと、君…名前は?」
「え? あぁ、白銀武です」
「そう……白銀君ね。ありがとう。それじゃあ、私急いでるから。みんなも早く自分の教室に入りなさい?」
「失礼しました」
ビアティフ先生(?)はそう言うとその場から立ち去って行った。
「綺麗な方でしたね」
「何さ、タケルちゃんデレデレしちゃって」
「いや、別にデレデレはしてねぇだろ……」
「……」
いや、しかしピアティフ中尉がいるとはな……これも再構成の影響なのか?
「タケルちゃん、何ムッとしてるの?」
「ん? あぁいや、少し考え事を……」
そのとき夕呼先生が向こうからやってきた。
「あら白銀。毎朝女に囲まれてウハウハなのは結構だけど、遅刻ギリギリとはいただけないわね? それに外国人の女教師にまで手を出すなんて?」
「は? 何言ってるんですか。俺がいつあの先生に手を出したっていうんですか」
「あら、私は別にさっきすれ違った
「うぐッ……」
自ら墓穴を掘る武。
「でもそうねぇ~さっきすれ違ったピアティフの顔、乙女の顔になってたわよ?」
「いや、今さっき角でぶつかっただけなんですからそんなことないですって」
そう武が言った瞬間の周りの反応は五者三様だった。
「「.......はぁぁ」」
「........(ジィー)」
「「?」」
純夏と夕呼先生は武の鈍感さにため息をつき、霞はジト目で武を見つめていた。冥夜と悠陽はよく分かっていない。
「ん? ま、いいや。このままだと本当に遅刻するんで。それじゃ失礼します」
夕呼先生に別れを告げると俺たちは教室へと向かった。
「おっす!」
「『おっす!』じゃないわよ。最近朝早く来るようになったと思ったらまた遅刻?」
「いや、悪かったって。ほんとなら間に合ってたんだけど、今さっき廊下で外国人の先生とぶつかってな? それで遅れたんだ」
「外国人?……それでも遅刻は遅刻よ」
「……まぁ余裕もって登校すればそんなことにならなかったもんな。確かに悪かった、ごめん」
「……」
「……いや、なんの沈黙だ?」
「いや……白銀君がやけに素直だったから……」
「割と真顔で失礼なこと言ってるぞ、委員長?」
「う〜ん……な〜んか最近のタケルちゃん変なんだよねぇ……妙に素直というか……」
相変わらず俺の評価が低いな。というかやっぱり変なのか? これでも頑張って昔を思い出してそれっぽく振る舞ってるんだけどなぁ。
まぁここは少しふざけて挽回といこう!
「ハッハッハ! まぁ俺も日々漢を磨いているのだよ!」
「……タケルちゃんだね」
「ええ……白銀君ね」
「どないせーちゅうねん」
腹立つなお前ら! 好き放題言いやがって!
「そういえば武様。先ほどは随分と物思いにふけておられたようですが……もしや先ほどのピアティフ先生という女性教諭のことを考えておられるのですか?」
「ん? まぁ考えたっちゃ考えたけど。てかやっぱり教員だよな? なぁ純夏、あんな人いたっけ?」
「えっ? うーん……確かに見たことないね」
なんとなくごまかされた気がした純夏だったが、自分も見たことはないと答える。
武自身も元の世界では勿論、こっちに来てからもさっきまで一度も見かけたことはない。
「そういえば──月詠から聞いたのだが、この学校には交換留学制度なるものがあるようでな。」
「それって……確か霞もその制度で来たんだっけ?」
突如として冥夜が口にしたのは交換留学制度の話。そういえば霞もその制度でやってきたのだと昨晩話していたのを思いだす。
「……そうです」
「え? でもでも、先生を留学させるんですか?」
「うおっ! 急に出てくるな! びっくりするだろたま!」
何処からともなく現れたたまも会話に参戦してきた───というか気配が全く気付かなかったぞ!?
「ちょっと、珠瀬さんも! 遅刻ギリギリじゃないの! ほら、みんなも座って! もうすぐ先生が来るわよ!」
「あ、まりも先生は少し遅くなるって言ってましたー!」
「ん? なんでそんなこと知ってるんだ?」
「えーっと~、さっきミキが廊下を大ダッシュしてたら~、廊下ですれ違ったんです~」
「なるほど。で冥夜、さっきの話の続きは?」
「ちょ、ちょっと、白銀君?」
「うむ。実はその制度の中には『教職員交換留学制度』なるものがあるようでな。」
「御剣さんまで……」
千鶴の注意はもはや誰にも聞き入れてもらえていなかった。
しかし、『教職員交換留学制度』か……記憶が確かなら、元の世界でもそんなワードは聞いた覚えがないが……
「今までは交換先との双方の理由で実施されていなかったのですが、この度初めて実施される運びとなったと聞き及んでいます」
「……なるほど。どおりで俺たちも聞いたことない訳だ」
まぁ教員を交換なんて生徒の情報のやり取りとか大変で普通はできねぇわな。
「ねえねえ。そういえばたけるさんがぶつかったって外国人の先生ってどんな人だったんですか?」
制度については興味がなくなったのか、武がぶつかった外国人教諭とやらが気になったたま。
「ええ、それはとても綺麗な方でした……ねぇ? 武様?」
ちょっとその細い目の笑顔は怖いです悠陽サン──てかなんで怒ってるんだ?
「もしや武様はあのようなお方が好みなのですか?」
「は? いや別に好みってわけじゃ……」
まぁピアティフ中尉は文句なしには美人だとは思うが、別に見た目でベタ惚れするっていうのとはちょっと違うような気がするが……
「転校初日に、自分は大和撫子のような女性が好きだとおっしゃっていたのは嘘なのですか?」
「だから別に好きとかそういうんじゃなくてだな……」
「手を掴まれたとき、その熱い眼差しを向けておられたではありませんか」
「「「「……!?」」」」
「こんなにもお慕い申し上げておりますのに……私では物足りないというのですか?……ぅぅ」
悠陽の怒涛の押し問答にいつしか周りから白い目を向けられた武は何も言い返すことができなくなってしまった。
「ところで先生が遅くなったのってどうしてなのかな?」
するとこちらに美琴の声が聞こえ、後ろからは柏木もやって来た。
──ありがたい! 助け舟だ!
「そういえば、球技大会の種目決めの職員会議が紛糾してるって聞いたよ?」
「あら、柏木さんも? そういえばラクロス部も毎年この時期は球技大会の準備で忙しくなるのよね……それが今年はまだ何も言われてなくて」
成績学年一位の委員長とバスケで推薦をもらっている柏木の二人は早いうちから進路が決まっていたため、今も部活を引退せずに続けている。
しかし球技大会か……懐かしいな。あのときはまりもちゃんの有明を賭けた一大決戦だったんだよなぁ。委員長と彩峰の間で一悶着あったり、尊人が女装して参加したり──
「………タケルちゃん?」
「───ん、どうした?」
「どうしたの?……そんなしんみりとしちゃて」
やべっ、顔に出てたか!
「ん、いやいや別に。というよりなんでそんなに揉めてるんだ?」
俺はポーカーフェイス(自認)でごまかして柏木に質問した。
「噂によると香月先生が一枚噛んでるらしいよ?」
ここ来ても夕呼先生か……全くあの人は……
そのとき教室の扉が開いた。
「ごめんね〜みんな〜、さっ席について〜」
ようやく終わったのか?
「きりーつ、礼、着せーき」
「さて、いきなりですが、皆さん今日は嬉しいお知らせがあります」
ん? もしかしてさっきの交換留学制度で来たかもしれないピアティフ先生のことか?
「なんと剛田君が白陵柊に戻って来ました」
……えっ、剛田ってあの剛田か!?
「剛田城ニ! この度再びこの白陵柊に戻って参りましたぁ!!」
『はぁあああああああ!?』
まさかの展開に唖然とする一同。
「な、なんでまたこの時期に転校を?」
委員長が皆の気持ちを代弁して問いかける。
「野球の強豪校に呼ばれたは良いが、今は3年の秋! 俺の夏は既におわっていたんだああぁぁ………」
そりゃそうだろうが。というか本気で甲子園目指して転校したのかよ………
──やっぱりアホだな、こいつ。
「しかぁし! 再びここへ戻ってきたからには絶対に茜さんを幸せにしてみせる! 待っていてください茜さん!」
そういえば元の世界の剛田は涼宮の追っかけみたいなことやってたっけ?───茜サンよ、お気の毒さまだ……
「そして武! 我が
「……は?」
ラ、ライバルだぁ? てか茜を賭けてってなんだ?
今の武は実感がないが、この世界の武と茜は純夏よりやや遅れて小学校以来の幼馴染であり、茜が剛田に言い寄られた際「武に勝ったら」と咄嗟に言った為、武と剛田による水泳対決が香月夕呼プロデュースの元開催されたのである。武としては茜云々はどうでも良かったのだが、剛田に負けるのだけは恥だと水月の徹底指導(茜は夕呼に干渉を禁じられた)の元、見事勝利をおさめた───ということがあった。
「あの者は随分と騒がしいな」
「それよりも武様、何か勝負を持ちかけられたようですが?」
「いや知らん」
ともかく今の武はそんな過去の事情は知らないためまともに勝負を受ける気などない。
そのとき面白そうな話のネタは逃さない、あの人物が教室へとやってきた。
「あんた達! その話、私に預からせてちょうだい!」
「おかあさん!」
「ゆ、香月先生!?」
「あんた達には、今度の球技大会で勝負をしてもらうわ!」
球技大会で勝負だと? でも球技大会ってクラス対抗だから、同じクラスの剛田とは勝負なんてできないんじゃ……
「というわけで剛田。あんたは今日からD組よ」
「な、何馬鹿なこと言ってるのよ夕呼! そんな勝手なことできるわけないじゃない!」
まりもちゃんが咎めるが夕呼先生の前で常識は通用しない。
「こんな面白いこと私が逃す筈ないじゃない」
そう来たかぁ……おそらくあの手この手で言いくるめて認めさせるんだろうな。相変わらずこっちの先生は完全に個人的興味に頭のキレが全振りしている。
「それにまりも、あんたの年末の運命もこの球技大会にかかってるのよ?」
ズドーンッ!
まりもちゃんの頭に本日も16tのおもりが落下した。
「さて、それじゃあ撃沈したまりもに変わって今朝のHRで予定されてた球技大会の概要説明を行うわ。ピアティフ」
「はい」
そう言われるとピアティフ先生が資料を持って教壇に立った。この世界でも夕呼先生の秘書みたいなことやらされてるのかな?
「皆さん初めまして、教職員交換留学制度でポーランドからやってきました。イリーナ・ピアティフと言います。今後ともよろしくお願いします」
『おおぉぉぉおおおお!!』
金髪美人教師の登場に男子生徒から歓喜の声が上がる。
「なッ、なんなのこの騒ぎはッ!!」
「す……すごいなあ、男子……」
「なんか……怖いよ〜……」
「……」
反対に女性陣の男子の熱気に困惑気味である。
そんな中で、ピアティフは武の姿を見かけると視線をとめた。
「あら、君は……」
「あっ、どうも」
「そう……君、このクラスだったのね……それとあらためて、さっきの件はありがとうね」
『なにぃぃいい〜ッ!? またしても白銀の知り合いぃぃいい〜ッ!? しかもなんか脈ありぃ〜ッ!?』
「うぅ……なんでこんな美人ばっかり……」
男子達はすでにピアティフが武の毒牙(?)にかかっていることに嘆き、純夏は武の相変わらずの女性人気を嘆くのだった。
「それでは早速球技大会の要項について説明させていただきます。今年の競技種目は例年とは異なり一種類のみとなります」
一種目だけ? そりゃまた思い切ったことをしたなぁ。もしかして会議が揉めたってのもそれが理由か?
「そして今年の球技大会の種目はそう……バルジャーノンよ!」
『…………は?』
まさしく「は?」である。そもそも「球技」はどこに行ったのか。夕呼の発表にクラス一同口をあんぐりと開けて困惑していた。もちろんそれは俺も変わらず。
バルジャーノンだと? というかそもそもアーケードゲームを学校でやるってなんだそりゃ?
「ちょ、ちょっと待ってください! 球技大会なんですよね?」
委員長が慌てて質問する。すると夕呼先生はニヤリとした表情を浮かべて答えた。
「榊、バルジャーノンはやったことある?」
「いえ、その……白銀君たちから聞いたことはありますが、そういったものには手を出したことがないので……」
「そうねぇ……じゃあ白銀。あんたバルジャーノンよくやってたでしょ? バルジャーノンはどういうゲーム?」
「え? えーっと……簡潔に言うとロボットを操作して相手のロボットと戦うゲームです」
「そうね。じゃあそのロボットは何を使って戦う?」
「えーっと、剣とかの近接装備とライフルとかの遠距離………いや、まさか!?」
自分で説明する中でまさかとは思ったが………夕呼先生ならありえる!
「そ。銃は当然
そ、そんな無茶苦茶な!?
流石にクラス一同呆れ返っている。
「い、いやでもバルジャーノンなんて知らない人からしたらいきなりやれと言われても無理ですよ?」
「そんなのいつもの球技だって同じじゃないの。いい白銀? あれこれ理由を付けて尻込みする奴は一生結果を出せないのよ?」
向こうの世界でも夕呼先生に言われた言葉だ……
───でも今のこの状況で言われても何も心に響かねぇ! というかこれでなんの結果がでるんだよ!
「と、とりあえず説明に戻ります」
ピアティフ先生も困惑気味だよ。ありゃ夕呼先生に無茶振りされてるな。ご苦労様です………
「まずチームについてですが、1チーム9機編成、そこにオペレーター1名となります。変則的な数ですがこれは1クラス基本40人の為です。1クラス4チーム作って頂き、最終的にどこかのチームが優勝すればそのクラスの優勝となります」
ん? バルジャーノンにそんな人数の複数戦なんてあったっけ?
「フィールドは『ユーコン基地ブルーフラッグ演習場』。制限時間は10分で、タイムアップの際は残存機体の多いチームが勝利です。ですが、決勝戦は時間制限なしでどちらかが全滅するまで続きます。また、使用可能な武装はライフル、短刀、長刀、無誘導弾のみ。追加装甲の使用は認めますが支援砲撃やミサイル等の使用は禁止です。これら用語の詳しい説明は後日配布する資料等でご確認ください」
ユーコン基地? そんなフィールドはバルジャーノンにはなかったぞ? というかユーコン基地って確か向こうの世界ではプロミネンス計画の本拠地で………それに武装も俺の知ってるバルジャーノンと違う、というかまるで戦術機だ………どういうことだ?
「以上で説明を終わります」
「それじゃあ当日を楽しみにしてるわ」
そう言い残すと夕呼先生はピアティフを引き連れて去っていった。
「いや〜なんだか言葉が出ないねぇ……」
普段滅多なことで動揺しない美琴すら唖然としている。
「どこの学校に球技大会でバルジャーノンやろうなんて言い出す人がいるんだ?」
「それよりもタケル。先ほど神宮寺教諭の年末がかかっていると仰っていたのだがあれはどういった意味なのだ?」
ん、冥夜はそっちが気になるのか?
そもそもの球技大会すら知らない冥夜は異常性がわかっていないのか、そんなことよりも先のまりもちゃんの反応が気になったようだ。
「あぁ、夕呼先生とまりもちゃんは実はここの卒業生でな? 所謂腐れ縁ってやつなんだけど、こういう行事がある度に二人して競い合ってるんだよ」
「……でも一度も勝ったことがない」
ズドーンッ!
彩峰の胸に刺さる一言で、再起しかけていたまりもの頭に再びおもりが落ちた。
「……つまり此度の対決は、お二人の教諭の進退を賭けた代理戦争というわけですね?」
「その例えは大袈裟だけど……まぁ言い換えればそういうことだな」
いや、まりもちゃんの運命を考えればあながち大袈裟ではないのか?
「しかしその、年末の運命とやらは一体?」
「お願いだから負けないで〜〜……」
するとダウンから復帰したまりもちゃんが泣きそうな様子でみんなに懇願してきた。
「今回だけは……今回だけは……夕呼のクラスにだけは勝ってね〜〜……」
「センセー大丈夫ですかー?」
「有明は……有明はもうイヤなのよ〜〜……」
「……有明? タケルちゃん知ってる?」
「……何も聞かないでやってやれ。まりもちゃんの尊厳に関わる……」
有明と聞いて、あの魔女っ子コスプレを思い出す。夕呼先生あんた悪魔だぜ………
「はぁ……?」
「正月だけは……一人寂しくてもいいから安静に過ごしたいのよ〜〜……」
惨めだ……惨めすぎるよまりもちゃん……
「だ、大丈夫ですよまりもちゃん! なんとかなりますって!」
「え? 白銀君もしかしてバルジャーノン強いの?」
「え? あぁまぁこれでも町内ではランキングトップでしたし……自信はありますよ」
さっきの話を聞いて引っかかるところはあるが、これでも元の世界では尊人とよくランキングで肩を並べたものだ。そのおかげか常連の店ではちょっとした有名人だった。
「ほんとに!? うぅぅ……頼もしいわ〜白銀君〜……」
まりもにとって見てもいない武の腕前に対する自信など普通ならすぐに信用できるものではないのだが、今のまりもにそのような余裕はなかった。
「あの、まりもちゃん。球技大会がバルジャーノンになった理由……まあ多分夕呼先生の屁理屈ですけど、一応上を納得させるくらいの説得力はあったと思うんですよ……一体何があったらこうなるんですか?」
純粋に疑問に思ったため問うと、まりもは肩を落としながら答えた。
「その屁理屈……全部嘘! 口から出まかせなのよ〜〜! すこし前にやり出してから夕呼ったらすっかりハマっちゃって………それにこの前面白い話を聞いたとかなんとかでさらに意気込んで推してきたのよ〜〜……最初はそれなりに結構まともな理由だったのよ? それなのに納得しかかってたところで口を滑らせてからはもうメチャクチャ……弱みちらつかせては脅したりでもう………」
夕呼先生の嫌な顔が鮮明に浮かんでくる。
話しているうちにまりもちゃんはうなだれ、クラスのみんなは夕呼の傍若無人っぷりに呆れていた。
「と、とりあえずチームを決めましょう」
なんとも言えない空気感を切り替えようと委員長が教壇に立ってチーム決めの指揮を取り出した。
「え、えっとじゃあまず俺は言い出しっぺだし決定だな。あとは……」
「ならボクも出るよ。タケルとはよくタッグも組むからね」
この世界の美琴もバルジャーノンはやり込んでるみたいだな。決定。
「タケルが行くなら私も出よう」
「勿論私も参戦しますわ」
よし、冥夜と悠陽も決定だな。元の世界の冥夜は筋も良かったからきっと悠陽もすぐに上達するだろう。
「はいはーい! 私も出る!」
「純夏、テメーはダメだ」
「なんでさー!」
「お前はいっつもゲーセンに着いて来たときにやるって言うからやらせても全っ然上達しねぇじゃねぇか!」
「うぅぅ………それでもやるって言ったらやるの!」
はぁ……ったく純夏のやつは……
「……あの、純夏さんが出るなら私、やってみたいです」
「ん? 霞も出たいのか?」
そうか……俺と同じく向こうの世界の記憶がある霞には思い出を一杯作って欲しい。約束したもんな……
「そうか……よしじゃあ純夏、特別措置として参加を認めよう」
「何さ! 霞ちゃんばっかり優しくしちゃって! やらしぃ〜」
「うるさい」
スパァン!
「イッターい! うぅ……何するかー!」
「今は静かにしてくれ純夏」
「ぐぬぬ……」
まぁとりあえずこれで6人か。
───あっ、今のはTQアームズのビニールスリッパの音だということを説明しておこう。
「あのー、ミキも参加していいですかー?」
「おったまもか? 勿論大歓迎だ」
たまの狙撃技術は極東一だ。心強い。
「じゃあ私も出てみようかな?」
───伏兵柏木。他の女子達が自分と同様本心では武と同じチームになりたいと思っていることを把握。自分はそれらしき素振りは見せぬようちょうど良いタイミングを見計らってしっかり枠を得る───
「あとはそうだな………彩峰はどうだ?」
ここまで揃ったなら向こうの世界の207組には出て欲しいよな。
「………分かった。白銀が言うなら」
「よっしゃあ! これであと一人だ!」
白銀が言うならとさりげなく仕掛けた彩峰だったが、武には掠りもしなかった………
「じゃあ最後の一人は……」
「もちろん委員長だ」
「私?」
「そりゃいつものメンツで一人だけいないのは無しだろ?」
「あ………そ、そうね」
千鶴は「いつものメンバー」と自分はある程度意識されているのだと内心嬉しく感じたがやはり武は気づかない。
さてさて、となると残りは………
「じゃあ最後はオペレーターだな」
「え? でももう既に10人決まって……」
「いやいや1チーム10人なんてルールには書いてねぇぞ? 9
「あっ………」
夕呼先生らしい言い回しだな。でもあの世界で夕呼先生の右腕をやってたからか、これくらいの言葉の綾は分かる。おそらくこのルールブックを見てほとんどの人は1チーム9人だと思うだろう。ただし複座型でも1機としかカウントされない。
ちなみに現実の戦術機もそうだが、複座型操縦は二人の息が合えばそれは強力な戦力になる。片方は操縦に、もう片方は攻撃に専念できる為一人で操縦する機体よりも反応速度が段違いなのだ。
「というわけで俺たちのチームは純夏と霞に複座で参加して貰う。純夏に全部やらせるとまともに戦えないからな」
「ひどいよ〜タケルちゃん」
「……はい」
「霞ちゃんまで………」
ハハ、純夏の奴、霞にまで言われてやんの。
「で肝心のオペレーターですけど………まりもちゃんにお願いしていいですか?」
「えっ? 私?」
「そりゃ夕呼先生との対決なんですから本人が出なきゃダメでしょ?」
「でも私オペレーターなんてできないわよ?」
「別にオペレーターってたってレーダー見てどこに敵が居るかとか戦況見て報告するだけで、特別なものは何一ついらないですから」
「そ、そう?」
「それにまりもちゃん自身が指示したチームで夕呼先生のチーム倒したほうが形綺麗でいいでしょう?」
「わ、分かったわ白銀君………夕呼〜〜! 今度という今度は見てなさいよ〜〜!」
ちょっと夕呼先生っぽい誘導でまりもちゃんをオペレーターに勧誘することに成功する。もしかしたら俺も向こうの世界の夕呼先生と付き合いが長すぎてで良くないところで影響を受けたかもしれない。
それしても俺の知ってるバルジャーノンと随分違うよな………これは一度確認したほうがいいかもしれないな。
その後他3チームも難なく決まったところでHRはお開きとなった。
───そしてその廊下では本来B組の副担任として紹介されるはずだったウォーケンが一人取り残されていたのであった………
「失礼します」
「あらいらっしゃい。もしかして球技大会の偵察?」
スマホで事前に連絡を入れていた俺は、昼休みの弁当のいざこざからの避難も兼ねて夕呼先生の元を訪ねた。
「いや、そんなことじゃなくてもっと根本的な………この世界のバルジャーノンについて教えて欲しいんです」
「ん? もしかしてあんたの言う元の世界にはバルジャーノンはなかったの? いやでも朝の話からして知ってはいるわよね?」
「はい、バルジャーノンってゲーム自体はありました。でも今朝の説明を聞いてて少し違和感が………具体的に言うと元の世界のバルジャーノンは複座モードと最大でも2人協力のコンピュータ相手のバトルロイヤルモードはありましたけど、10人なんて数のチーム戦モードはありませんでした。それに武器もそうですけど、短刀とか長刀とかなんて言い方はしません。ビームサーベルとかビームライフルが基本でした」
「ふーん、なるほどね……でもあんたは知ってると思うわよ?………ただし、"向こうの世界"で、だけどね?」
「え!?」
「あんたが前話してくれた向こうの世界の話。BETAという地球外生命体と戦術機と呼ばれる兵器に乗って戦ってたって言ってたわよね?………まさしくそれがこの世界のバルジャーノンよ」
「なッ!?」
あの世界そっくりの設定がバルジャーノンに!?
「スマホにバルジャーノンって書かれたアプリが入ってるでしょ? 開いてみなさい」
「え? ああはい………えっとこれかな───ッ!?」
「その顔だとやっぱり知ってるみたいね」
「戦術機………」
どうやらこのアプリは元の世界でいうライセンスカードのような役割を持つもののようだが、何より武はそこに映っていた機体に驚いた。
「これは撃震で………こっちは不知火か………でさらにこっちは武御雷!───帝国製のだけじゃないな、Su-27とかラファールとかもあるのか………」
「あんたの話を前に聞いたとき、やけにバルジャーノンに似てると思ったのよ。はじめはゲームのし過ぎで頭がおかしくなったのかと思ったけど───性格があまりにも変わってたのとその筋肉と、何より因果律量子論ってワードですぐに疑いはなくなったけどね」
「そのもしかして、球技大会にバルジャーノンを押したきっかけの面白い話って………」
「まりもから聞いたの? そうよ、あんたの話よ」
「んがッ!」
何ということだ。今回の一連の事件のきっかけを俺は作ってしまったというのか!
「それにしてもそうか………ヤツらはこの世界のバルジャーノンに……」
「この世界は向こうの鑑が再構成した世界。私達はそんなこと知らずに過去の記憶を持って生きてるけどね? きっとそのときに向こうの世界の認識をバルジャーノンという媒体に写し込んだのよ」
「なるほど………」
向こうの世界の記憶はお世辞にも楽しいものではない。色々と複雑な感情が湧いてくる。
「………やっぱり辛い?」
察したのか、夕呼先生にしては珍しく心配する声で聞かれた。
「……前は言わなかったんですけど───」
武は苦い思いでお思い出したかのように
「向こうの世界ではバルジャーノンでは当たり前の先行入力とかコンボとかの概念がなくて……でもそれがすごい戦術機でも有効だってことになって、それを広めた俺は周りから持ち上げられて───
今思うと天狗になってたんですよ。それで基地で演習してたときに突然ヤツらが現れて………結果的に天才って言われてた俺だけが唯一、皆の中で撃墜されたんですよ………」
「……」
「当時の俺にとっては挫折というかショックでした。それで無惨な姿になった乗機の前で落ち込んでた俺を励ましに来てくれたのがまりもちゃんだったんですよ」
「………向こう世界でもまりもは優しかったのね……」
「向こうでもまりもちゃんはまりもちゃんでした………それで俺は恥ずかしかったんでずっと背を向けて話を聞いてたんですけど……まりもちゃんの言葉で勇気を貰って感謝を言おうと振り返ったら───」
「まさか……」
話の流れと武の様子から夕呼は嫌な結末を悟った。
「その時まりもちゃんはBETAに頭から喰われてました……」
「───ッ!」
「当時の横浜基地は後方の基地だからと緩んだ空気があってみんな気が抜けてたですよ。それで人為的なミスで撃ち漏らしたBETAが潜んでたんです………今思えばあのときまで俺はあの世界のこと全く理解できてなかったんでしょうね。何しろ戦争中なのに身近な人が死ぬって経験をしてませんでしたから」
ループ時の記憶は消えていたため、俺にとって大切な人の死というのはあれがはじめてだった。
「そのあとは向こうの世界のみちるさんが率いる部隊に入って───でもそこからは本当に地獄でしたよ。作戦の度に仲間が死んで……最初はみちるさんと柏木。次に水月さんと遙さん。そして最後は純夏達B組のあいつらまで………茜、宗像さん、風間さんは怪我で後方送りになったんで生きてはいました。けど結局その、まりもちゃんが鍛え上げてみちるさんが率いてきたあの部隊は事実上俺と霞以外全滅しました………」
あの後残った俺の知らない負傷組含むヴァルキリーズのみんながどうなったかは知らない。でもヴァルキリーズという中隊を維持できなくなってしまったことは間違いない。
「俺にとってあの世界のBETAとの戦いってのはそういうものです………
でも大丈夫ですよ。こうして俺は戻ってきたし、あいつらも生きてる。BETAだってこっちじゃゲームの中に出てくる一敵キャラクターですし、そこら辺の分別くらいはつきますよ」
「そう………」
「それにほら? 戦術機は好きですから。やっぱりほら、男のロマンだし?」
「……そこまで割り切ってるなら問題なさそうね」
「まぁこれでも向こう先生なら甘いって言われますけどね」
「そうなの?」
「いや……でもそうか………」
今の俺の顔を見たら向こうの夕呼先生はきっと甘いと言うに違いない。でも目の前の夕呼先生はやはり違う。
「───この世界じゃ夕呼先生も普通に生きてられるんだ……」
「ッ!?」
いつも険しい顔の下に感情を殺し切れていなかったあの先生を知っている。だからこそこうしていたずらという余暇に勤しんでいる夕呼先生を見れるのはなんだかんだで嬉しかった。
「向こうの世界の先生は人類生存を賭けた一大計画の責任者でしたから。それにその為なら自らの手を黒く染めることも厭わない。でも裏では親友の、部下の死に心を痛めて……かといって表では必死に自分を押し殺して生きていた人でしたし……」
「………」
………先ほどまで真剣な顔でこっちを見ていた夕呼先生の視線が急に合わなくなり、視線も合わなくなった。
「あのー………夕呼先生?」
「………白銀、もう帰りなさい」
「え?」
「いいから早く帰る!」
「え、えっ、ちょっ、待っ───」
そう言って袖を引っ張られ俺はそのまま準備室の外へと放り出され、扉を閉められてしまった。
「あの顔は反則でしょ………」
武を追いだした後の夕呼は一人愚痴っていた。
「まったく……やり辛いったらありゃしないわ………」
その頃夕呼は先ほど武から向けられた、見たこともない慈愛に満ちた表情に不覚にも赤面し、必死に熱を冷ましているのであった。
ということで球技大会はバルジャーノンです!()無理矢理過ぎないか?と思われるかもですがマブラヴは夕呼先生と因果律量子論の二言で大抵片付けられるのがまた便利なとこでして......とまぁ原作通りサバゲーやってもね?ということで大きく出ました。ただサバゲー路線も案になかったわけではなく.......それに剛田の扱いとかもあったのでそこを加味して。ただやっぱり戦術機の戦闘を書きたかったというメタい部分は否めないです。
茜はまだ出てきてませんがこの世界では第二の幼馴染ポジションになってます(別に作者は茜推しではないです)。ピアティフはAF原作では実はロシアから来たスパイという設定がありましたが、オルタの戦友が一人はぶられるもどうかと思い今作はその設定は無しにする予定です。ウォーケンは知りません()