「ふぅ……今日も終わったか………」
武にとっては数年振りとなる学校生活。ここ数日で慣れては来たのだが、やはりブランクは大きい。
国連軍という組織にいた都合上、英語はまりもちゃんが驚くくらいほぼ完璧。数学や理科は必要に駆られて実践レベルで学んでいたため高校レベルなら対して問題はない。
ただ社会に関しては致命的で、向こうの世界の地理歴史が頭に染み付いてしまったのかサッパリ分からない。
「しかし、タケルは流石だな。ここ数日を見てもそなたの見識の広さには感心したぞ」
「んなことねぇよ。そんなこと言ったら霞なんてもっと凄いだろ? なんてったって小テストで社会以外は全部満点なんだから」
ちなみに、霞の精神も向こうの世界出身であるがゆえ社会はあまり分からないそう。ただ、向こうの世界であの歳でプログラムだの物理学だのを人並み以上にこなしていた頭脳は相当なもので、すでに海外の大学を出ている冥夜と悠陽も感心していた。
「……たくさん勉強しました」
「にしてもタケルちゃんおかしいよ! あんなにいい点数ばっかり! ついこの前までせいぜい中の上で、良くても上の下くらいの成績だったじゃない!」
純夏は武の成績が突然飛躍的に向上したため何か裏があるのではないかと疑っている。
「ん? そうなのかタケル?」
上の下でもまぁまぁ良くないか?と思ったのは心の中だけだったが。まぁ白陵柊は成績が良ければそのままエスカレーターで白陵大に進めるからやらないに越したことはない。元の世界でもやるときはやっていた。
「武様も努力されたのですね?」
「まぁそういうことだ。今この中で一番ドベなのはお前だぞ純夏?」
「うぅ〜ッ!」
そのとき、いつも通り5人で帰ろうと下駄箱に向かったところで声がかけられた。
「ちょっと武!」
ん? この声は……
「なんだ? って、す……茜か……」
「武ってば、最近全然音沙汰がないからどうしたのかと思ったら……」
声の主は涼宮茜であった。
───そういえば向こうの世界の同期じゃ一人残してきたことになるのか? いや、A分隊に一人怪我で引いた生き残りがいたっけ?……
向こうの世界に残してた茜に対して申し訳なさが募った武だったが、それよりも目の前の茜が自分を名前で呼んできたことに一瞬困惑した。
───確か夕呼先生も剛田も言ってたけどこの世界の涼宮とは結構古くからの知り合いなんだったよな? 前にメールの履歴を見たときも名前で呼んでたし……
「お、おう。で、どうした?」
「どうした?──じゃないわよ! ここ最近全然連絡くれないし……それに、また女の子が増えてるし(ゴニョゴニョ)……」
「えっ? なんて?」
最後はよく聞き取れなかったが……まぁ、接し方の距離感は問題はないようだ。
「い、いやそれよりも──また剛田が私のところに来たんだけど! 少し前に転校したんじゃなかったの!?」
「なんだかよく分かんないけど戻ってきたんだよね……」
「もう! 純夏も他人事みたいに……」
こっちの茜は純夏とも仲良いんだな。
「と、とりあえず、球技大会には絶対勝ってよ!? 私の運命がかかってるんだから!」
「お、おう」
そう言うと茜は水泳部があると言って走り去って行った。
「茜ちゃんも大変そうだね……」
「剛田のやつも、あそこまで言われてなんで諦めないかね……」
そういえば茜は球技大会には出ないのか? 前は委員長vs茜というライバル対決で盛り上がったりしたんだが───まさか!? 代わりに俺vs剛田をやれと?
「そういえば、御剣さんはさっき香月先生に呼ばれてだけど何かあったの?」
「ん? ああ、球技大会のことで御剣の力を貸して欲しいと言われてな。無論、私達も参加するからには全力で楽しみたい。出来ることには手を貸そうと快く快諾したまでだ」
「まぁやるからにはバルジャーノンの媒体も用意しなきゃだしな」
というか、今思えば御剣財閥の協力なしではこんな案絶対無理だよな? あの人それ前提で意見押し通してたよな絶対……
「そうそう、タケルちゃん『明日から訓練だ!』って言ってたけど......」
「おう。御剣御殿の空き部屋にちょうどいい場所があるってさっき悠陽が教えてくれたからな。そこに俺達の人数分の媒体を置いてさっそく練習だ」
「真那さんには既に話を通していますから、明日からでもすぐに始められます」
「ということだ」
俺は昼休みに夕呼先生に強制的に追い出されたあと、悠陽にチームの人数分のバルジャーノンの媒体を用意して欲しいと頼み込んだ。
「元ランカーの実力を見せてやろうぞ皆の衆」
さてと……見せてもらおうか、この世界のバルジャーノンとやらを!
「という訳で諸君。今日は朝早くからよく集まってくれた。私は貴様らを心より歓迎する!」
「何……これ?」
「……バカ?」
「あはは、タケル〜全然似合ってないよ〜」
「白銀君気合いばっちりだねー」
「たけるさん鬼教官みたいです〜」
「タケルちゃん、ふざけてないでちゃんとやってよ〜」
「うむ、軍隊方式の指導法か」
「武様の指導方法とやらも気になりますわね」
「………」
「頼もしいわ〜〜白銀君〜〜」
休日朝早くより武達B組Aチームのメンバー+まりもちゃんは御剣御殿へと集合していた。
「口を慎めぃ! 貴様らは今はまだひよっこも同然! 上官に対して口答えする権利など基、戦場ではただのお荷物だ! 今からそんな貴様らに軍隊の何たるかを叩き込んでやる! まずはこの屋敷のまわりを.....=ドスッ!─ ひでぶっ!」
「マジメニヤッテタケルチャン?」
「はい……すびばせんでした……」
どうやらこの世界ではまりもちゃん直伝の
「ててて……えーっとじゃあ気を取り直して……まずはみんなに使用する機体を選んでもらう。といってもやったことがないやつはアカウントを持ってないだろうからまずはそこからだな」
この中でアカウントを持っているのは武と美琴、それから弟達との付き合いでたまに遊んでいた柏木と、実は隠れて結構やっていた彩峰だ。その他のメンバーはまだ持っていない。
ちなみにアプリとやらに馴染みのなかった俺は、使い方を教えてもらうために夕呼先生のもとを訪れたのだが、何やらいろいろ変なところを押されて「10万くらい課金しといたわ」などと言われ、あとになって課金の意味を知った俺は自分の部屋の壁をたたきつけた……
───このお金は後日冥夜に相談しておこう……多分悠陽じゃダメな気がする……
「たけるさん、登録できましたー。この『ガチャ』っていうのを押せばいいんですか?」
「そうそう」
アナウント登録が終わると、最初に使う機体を手に入れるために一回無料で戦術機を手に入れるためのガチャを回すことができる。
「えっとー……『不知火』っていうのが当たりました!」
たまが当てたのは言わずと知れた日本帝国の名機、不知火だった。
「おっ、不知火は日本帝国軍の機体だな。汎用性に富んでいて扱いやすい機体だ。」
どうやらバルジャーノンに出てくる戦術機は向こうの世界にあった機体は軒並み揃っており、その設定も向こうの史実に沿っているようだった。それに性能もほぼそのままで、例えば第一世代機と第三世代機の防御重視と機動性重視というコンセプトの違いなども細かく反映されている。
「そういえば……か、ハルーと美琴と彩峰はどんな機体なんだ?」
「ボクはラプターだよ。一番レアだから当たったときは思わず飛び跳ねちゃったよー」
「……私は不知火・弐型phase2。不知火以上の機動性と小回りのきき具合がヨシ」
「私は別にそんなにやってないからねー。普通の不知火だよ。」
美琴の隠密スキルにラプターのステルスは相性抜群だな。それに不知火・弐型の機動力は彩峰の格闘能力と相性が良い。どちらもレアな機体みたいだから相当やり込んでるみたいだな。
ちなみにこの世界の俺の愛用機は黒の武御雷C型のようだ。
───まぁ俺自身
「武様、何やら『武御雷』という機体が当たったようなのですが……」
ハルーとそんな話をしていると今度は悠陽が声をかけてきた。
「どれどれ………おぉ……さすがだな……」
悠陽が引き当てたのは武御雷。
──そして色は紫であった。
「帝国斯衛軍専用機の武御雷。近接格闘戦では無類の強さを誇るまさに名前の通り武神の如き機体だ。紫色の機体はその中でもトップの政威大将軍に与えられる専用機。悠陽にピッタリだな」
「どうやら良い機体が当たったようですね」
しかし悠陽のところに紫の武御雷がまわってくるとは……やはりこれも因果なのか?
「タケル、私のはどうだ? 同じ武御雷と書かれているのだが……」
「んっと、どれどれ……これはR型……ってことは悠陽の機体と性能は同じだな。………でも色が……ん? 国連カラー?」
機体の紹介文を見ると、どうやらこの機体はR型に国連軍カラーの塗装を施した機体らしい。
俺のいた時点で国連軍に武御雷は供与されていなかったからここは向こうとは違うな。でも強いて言うなら、向こうの冥夜は国連軍衛士だったのと紫の武御雷はすでに悠陽がいるからってことなのかな?
「悠陽の機体の色違いみたいなもんだ。姉妹揃って高性能機体とは運が良いな」
「うむ。御剣の当主たるものには運も求められるのだ」
なるほどな。そういえば00ユニットの適正には『最良の未来を選び取る力』が必要なんだったよな? 御剣家当主代々はその力も強かったのかもしれない。
「ねぇねぇタケルちゃん! この機体は?」
「んーどれどれ……F-5はハズレだな……」
───あの世界でおそらく最もその力が高かったであろう純夏はこの世界ではダメダメのようだ。
「……su-37です」
「おっソ連軍の機体だな。2.5世代なのか3世代なのかあやふやな点はあるけど性能は申し分なし。モーターブレードがイカすナイスなやつだ」
どうやら霞はsu-37を引き当てたようだ。ロシア出身の霞に当てがうにはぴったりな機体かも知れないな。
「じゃあ霞と純夏はその機体で複座だな」
その後一通りみんなのアカウント登録が終わった。ちなみに他のみんなは全員不知火が出たらしい。一応登録した国籍の機体が出やすくはなっているらしいが、第三世代機の中では一、二に出やすいとはいえ高性能機体が一発で出る確率は決して高くはない。揃いも揃ってそれを引き当てるとは………これも最良の未来を選び取った結果なのだろうか?
「それじゃあ次は配置決めなんだが………」
「9人編成ってのは特殊だね。基本は小隊4人か中隊12人が基本なんだよ」
この世界のバルジャーノンの中隊モードも1部隊12名なのは変わらないらしい。
「ああ。美琴が言った通り普通はそうなんだ。だから今回の場合中隊での編成が元にはなるけど、どこか足りない分役回りが増える。ただまぁこれはどこのチームもそうだから気にしなくていい」
最悪は俺と他経験者陣で補えば良いからな。
「問題はポジションだ。大きく分けて前衛、中衛、後衛の3つ。その中でも前衛は
「もう訳わかんなくなってきたよ〜」
カタカナの連続で純夏の頭ではここらあたりで理解の限界が来てしまったようだ。まぁここら辺を詳しく覚える必要はないだろう。
しかしポジションの設定まであるとは、本当にこの世界のバルジャーノンは向こうのシミュレータと大差ないな。
「まぁ別に一個一個名前を覚えてもらう必要はないな。要するに通常であれば4人ずつ前中後と分けるんだけど、今回はそうはできない」
「つまりどこかの数を削らないといけない?」
「その通り。で、ルールを思い出してほしいんだが、一試合は10分しかない。となれば当然素早く相手を落とさなきゃいけない。」
「うーん.……やっぱり3:3:3のオーソドックスな編成が良いのかなー?」
「……思い切って前後のみの5:4?」
「私はそこまで詳しくないから、3人にお任せするよ」
「まぁとりあえず、各々の適正を見ないことには分からないからな。というわけで、一回チュートリアルモードで適正を見ていこう」
こうして、各自はチュートリアルモードで適正を確かめるため媒体へと乗り込んだ。
───おお! 本当に本物の戦術機のコックピットそっくりだ!
媒体内部、網膜投影ではなく専用ゴーグルである点を除けば、そこは向こうの世界の戦術機のコックピットそのものだった。
「よし、じゃあ各自指示に沿って試してくれ。経験者組は適当に何かやっててくれて構わない」
VCでそう言い終えると、自由に動作確認が行えるフリーモードを選択した。
「見え方もそっくりだな……本当によく出来てる……」
一通り周りを見回した後、早速機体を動かす。
「うーん、流石にゲームだから揺れたりはしないよな。でもおかけで本物なら高G負荷のかかる機動も難なく行える……それに先行入力もキャンセルも……まぁこの世界じゃあるのが当たり前だもんな。」
本物との違いを確かめていく。結果としては揺れ以外は向こうのものと大差なかった。XM3の機能だってデフォルトで搭載済みだ。
「これなら問題なさそうだな……っとそうだ! みんなそろそろおわったかな?───おーい、みんなどんな感じだ?」
『ミキは今終わりましたー』
『私も終わったわよ』
『これは中々癖になりそうだな』
『このような娯楽があったとは今まで知りませんでしたわ』
『……純夏さんお疲れ様です』
『やっぱり難しいね〜バルジャーノンって』
どうやら一通りチュートリアルは終わったようだ。
「よし、じゃあ結果を見てポジション決めをしようか」
媒体を降り、スコアボードに映し出されたチュートリアル評価リストを一通り目に通す。
「えーっと……冥夜と悠陽は近接戦闘と機動の評価が高いな。委員長はどれも基準より少し上のオールラウンダー。たまは機動の評価は低いけど逆に狙撃の評価が飛び抜けてる。霞&純夏ペアは機動と機動射撃の評価が高いと……」
冥夜は刀、悠陽も薙刀の流派を習得しているため、二人とも近接格闘戦でその特性が顕著に出ている。委員長は突筆した点はないけど、なんでもそつなくこなせるって感じだな。で、たまは相変わらずの狙撃能力だ。霞と純夏ペアはどうなることかと思ったが、純夏の奇天烈な機動に霞が上手いこと合わせて射撃を行っているらしく、高機動時の射撃の評価が高い。
やはりみんなの評価は向こうの世界と似ている。唯一不明瞭だった霞&純夏ペアは他にはない特性で、これなら強襲掃討で機動射撃戦をやらせれば光るかもしれない。
「そういえば、他3人は普段どんなポジションなんだ?」
「……普段は前衛」
「ボクは中衛、後衛だね」
「私がやるときは弟達がメインだから、基本後衛で援護射撃しかしてないよ」
向こうの世界のみんながそれぞれ得意としてたポジションか。それならたった今思いついた案でいけそうだな。
「じゃあ一応俺の案なんだが……まず俺、彩峰、悠陽、冥夜が前衛。美琴、霞&純夏、委員長が中衛。ハルー、たまが後衛だ。美琴と彩峰はどうだ?」
「4:3:2かー。やや攻め寄りのバランス型だね。いいんじゃないかな?」
「……悪くないと思う」
兼ね好評のようだ。
「じゃあ問題なさそうだからポジションはこれでいこう。次は基本戦術を決めるんだが……戦術機の基本は2機連携、エレメントだ。ただ今回は奇数だから余りが出る。4:3:2だから後衛は必然的にたまとハルーだ。で、中衛は奇数になるんだが……美琴が丁度ラプターを持ってるから、単独斥候も兼ねて、今回美琴はエレメント無しで行く。頼めるか?」
「大役だねー。でも問題ないよ」
「ねぇタケルちゃん、らぷたーって何?」
「あぁ、ラプターはステルス、つまりレーダーに映らないっていう特殊能力がある機体だ。」
「なるほど……米軍の最新鋭ステルス戦闘機がモデルというわけか。戦術機の中には実在の戦闘機がモデルとなった機体も存在するのだな?」
「なにそれー、ズルすぎない?」
まぁ現に、12.5事件のときの不知火とのキルレシオは7:1だからな。ほんと、対人戦でステルスは反則だよなぁ。でもルール違反ではないから、使えるなら使わない他ない。
よし。となると残りは前衛だな。
「じゃあ、残りの前衛なんだが──」
「それでしたら私が武様と組むべきですわ。将来の妻たる私が、伴侶の隣に立たない訳にはいきません」
「「「「ッ!?」」」」
「!……いえ姉上、ここは私が! タケルと絶対運命で結ばれている私のほうこそが相応しい」
「だ、ダメだよそんなの! 絶対にダメー!」
武の相方の座を賭けて姉妹の睨み合いが勃発してしまう。そしてそれに待ったをかける純夏。
──これ以上掻き乱されても面倒だ。ここは人生経験を活かして大人な対応をせねば!
「ストップ! 残念だが今回は二人じゃなく、俺は彩峰と組む」
「な、何故だ!?」
「私の何がいけないと言うのですか?」
「理由はちゃんとある。まず機体性能の差だ。冥夜と悠陽の武御雷R型は、ゲーム中でも最上位機の機体だ。だから、俺の武御雷C型や、彩峰の不知火・弍型とは連携を組みにくい。それに、経験者同士は経験者同士で組んだほうが動きやすい。それに二人とも近接装備メインで連携組むならお互いのクセとかも知ってるだろ?」
「ムッ……確かにそうだな……それに姉上と組むのであれば確かに動きが把握しやすい……」
「そういうことだ」
よかった……この手の説得にはかつては苦労したんだが、今回は直ぐに──
「しかし武様? 武様のことですからきっと今回の埋め合わせがございますのでしょう?」
「……え?」
「そうですわ。こんなにも寂しい思いをさせられたのですから、せめて寝所の方を共に……」
「あ、姉上!? で、でしたら当然私にも権利が!」
「冥夜は初日にたっぷりと堪能したではありませんか。その反面、私はまだ一度も武様の側で眠った経験がないのですよ?」
「ぬッ……」
「ダメダメダメダメー! ぜーったいにダメー!」
あぁもう、ちくしょう! みんなで集まると結局こうなる運命なのかッ!
どうやらこの世界は武に安泰を恵んではくれないらしい。
結局、今度何かプレゼントを渡すという妥協案で折れた悠陽。武は一度大きくため息を吐いた。
───というか、一応この場にはまりもちゃんがいるのだが……自分のクラスの生徒の不純異性交遊スレスレの問題に関して何も言わないのだろうか? さっきからみんなの端っこでのほほんとしているまりもちゃんを見て少し悲しくなる。
「はぁ……っと、それじゃあチュートリアルもこなしたことだし、早速実戦形式で慣れてもらおう。今から2つのチームに分けて試合をするけど、俺と美琴と彩峰はまだ実力差がありすぎるから一旦見学だ。Aチームが悠陽、霞&純夏、ハルー。Bチームが冥夜、委員長、たまだ。今回は3人だから2機連携は無視して貰って構わない」
そう告げると、6人は媒体へと乗り込む。
「美琴、Aチームのオペレーター任せてもいいか?」
「オッケー、任せてよ」
「じゃあまりもちゃん。俺がBチームのオペレーターをやるんで、横でどんな感じか見といてもらっていいですか?」
「ええ、分かったわ」
「Bチーム準備完了だ」
『Aチームも準備完了だよ。それじゃあはじめるね」
美琴がスタートキーを押して試合が開始した。
ちなみに、本来公開マッチではオペレーターは機械音声が自動で行なってくれるのだが、成績が反映されないプライベートルールではこのようにオペレーターもプレイヤーが行うこともできるらしい。今回の球技大会もそれを採用している。
「よし、じゃあ今回はたまの狙撃を活かしてみよう」
向こうの世界の207Bの模擬戦でやられた方法を試してみるか。
「まずは索敵からだ。冥夜と委員長はそれぞれビルの影を盾にしながらお互い背後を取られないように。たまはマップにあるD-1地点の大通りを見通せる位置に狙撃体制だ」
『分かりました〜』
さてさて、どう出るかな?
『?……あれは姉上の機体だな」
「おっ、早速発見したか。そしたら、今は攻撃したい衝動は抑えて一度後退するんだ。受け身に徹して、さっき言ったたまの狙撃ポイントの大通りまで誘導だ」
『了解した』
悠陽機は薙刀を構えて冥夜機へと向かってきた。冥夜機はそれを長刀で捌きながら後退していく。薙刀型の兵装は向こうの世界では見たことはないが……ここは本物との相違点かな?
『あれは鑑さん達の機体ね。こっちに向かってくるわ』
「委員長は確か追加装甲を装備してたな。向こうの戦闘スタイルはちょうど射撃みたいだから、それで防ぎながら冥夜と同じように誘導してくれ」
『分かったわ』
3機中2機はすでに見つけてこちらに誘導中。残る柏木機だが、おそらくたまと違ってどっしり構えてるわけじゃなさそうだ。となると……
『ッ!射撃!? 姉上からの攻撃ではないな! ともすれば姉上の後ろにいるのは……』
「当たりだ。悠陽機の後ろから柏木機が接近してる」
ハルーはたまと同じポジションではあるが定点射撃の腕はたまのほうが上だったはず。ともすれば同じ条件では不利だから必然的にたまの苦手な近距離戦を仕掛けにくるはず。
「悪いがそれは読めてたぜ───冥夜。停滞戦は諦めて全速後退だ。そのままD-2エリアまで移動してくれ」
『流石は姉上ッ!──しかし一度引かせてもらいますぞ』
冥夜はなんとか二人の追撃を引き剥がした。
「よし、悠陽機と柏木機はD-1エリアまで入ってきたな。委員長、そっちはどうだ?」
そのとき委員長の機体からアラートが鳴った。
「左手腕機能停止!? 肩を撃たれたのか委員長?」
『左肩部を撃たれて盾が使えなくなったわ! それより鑑さんの動きが予測し辛くてッ!」
そう言われて委員長のガンカメラを確認すると、フラフラと不規則な、逆に言えば並のプレイヤーなら予測困難な出鱈目な動きをする機体が映っていた。
そういえば、元の世界のバルジャーノンでも純夏に操縦やらせたら訳わかんない入力をよくやってたな………
ただ、あいつはあの動きと同時に攻撃ができなっかたから下手くそで済んでたんだ。でも今はその部分を霞が補ってるから、あの動きと射撃の力が組み合わさって思わぬ効力を発揮している………そんな偶然があるのか!?
『えっ!?』
そのとき委員長から驚愕の声が漏れる。
「んなアホな……」
管制モニターを確認すると榊機の撃墜判定と霞&純夏機の自爆判定が出ていた。
時は委員長が肩に被弾判定を受けた頃まで遡る
「いけいけ〜!」
「……!──肩に命中しました」
「凄〜い! 凄いよ霞ちゃん!」
「……榊さんは追加装甲が使えなくなったみたいです。このままなら倒せます」
「いよ〜し! じゃあここで決めちゃうよ〜....」
純夏はそのまま機体の推力を全開にして榊機に突貫する。
「喰らえッ! どりるみるきぃチェーンソーッ!……って、あ、あれ? モーターブレードってどうやって出すの!? あっ! あわわわわわ!!」
そのまま機体はア○パンチ体勢のまま全速力で榊機と衝突。突き出した拳は榊機のコックピットブロックを貫くも、そのまま両機体は向かいのビルに激突した。
「……純夏さん……無茶しすぎです……」
「ご、ごめんね~霞ちゃん……アハハハハ……」
「やはり純夏は筋金入りのバカだったか……えーっと、じゃあ冥夜。今から仕上げだ。もう一回悠陽機と柏木機を誘導して大通りに誘い込んでくれ」
『了解だ』
冥夜機は再び悠陽機と柏木機に牽制を仕掛けつつ大通りへと誘い込んでいく。
「たま、そろそろ来るぞ。2機が一直線上に並んだら合図するから、冥夜はそのまま急上昇して回避だ。そこに狙撃を叩き込む」
『了解しましたー』
すると、言った側から冥夜が誘った2機が大通りへと入ってきた。そして一直線上に並ぶ。
「よし、今だ!」
俺の合図と同時に冥夜は機体を上昇させ、そこにたまの弾丸が撃ち込まれた。
───だがほんの僅か、冥夜機の動きに合わせて同じく上へと追った悠陽機が偶然狙撃を回避した。
そのまま弾丸は柏木機のみに命中する。
『しまっッ!』
たまの狙撃で事が済むと油断していた冥夜は、下から迫ってくる悠陽機に対して僅かに反応が遅れた。悠陽はそのまま薙刀を突き出して冥夜機の機関部を狙う。だが負けじと冥夜は済んでのところで長刀を突き出した。
結局その攻防で冥夜と悠陽は相打ちとなり、たまが残ったBチームの勝利に終わった。
「約1名を除いてだが……はじめてとは思えない、実に良い試合を見せてくれた」
「いやー、まさかあんな操縦をするとは思わなかったよ〜」
「……鑑は一周まわって天才?」
「彩峰。一周まわってもそれはバカのままだぞ?」
「そんなに言わなくてもいいじゃ〜ん!」
「それくらいありえないってことだ。ある意味褒め言葉だぞ純夏?」
「ふんぬ〜ッ!」
まぁ本当に霞&純夏ペアは予想外の良い動きを見せてくれた。純夏の無茶がなくなれば、さぞ強力な戦力になるだろう。
「まぁ一応それぞれアドバイスをしておくと……悠陽と冥夜はもう少し銃を使うことを意識だな。今回はお互い長刀と薙刀だったけど、相手が銃を持ってたら近づく前にやられちまう。委員長は防戦一方になってたからああいうときでも牽制射撃は必要だ。たまは狙いが正直すぎるから、偏差撃ちとかも試してみろ?」
「ふむ、しかしこのバルジャーノンというのは奥が深いな。武がハマっているというのも分かる」
「そうだろ? これこそがバルジャーノンの魅力なんだよ」
どうやら冥夜はすっかりハマってしまったようだ。そういえば向こうの世界で冥夜にゲームガイを渡したときは寝不足になるまで没頭してたよなぁ。今まで触れる機会がなかっただけで、案外冥夜はゲーム好きの才能があるのかもしれない。
「よし、じゃあとりあえず一回休憩しよう。丁度昼だしな」
月詠さんの美味しいお昼でも食べて、ひとまず休息といきましょうかね。
「白銀君……オペレーターってあんなに大変なの?」
昼食のために御剣御殿内の宴卓の間へと向かおうとしたときにまりもちゃんが声をかけてきた。
「まぁ今回ははじめてでアドバイスも兼ねてたんで、あそこまで事細かに指示して貰う必要はないですよ。基本的にはレーダーを見て相手がどこにいるとか、味方がばらけてたら注意するとかをしてもらえれば。実際やってると味方の位置とか見えないときがあるんで」
「そう、なら少しは安心かしら……それしても白銀君、最近少し変わったわね?」
「そ、そうですか?」
あちゃ〜。まりもちゃんにも変だと思われてるなこれは……
「少し前までの白銀君ってヤンチャで……でもなんだか最近優しくなった気がするのよ。前から根は優しいってことは分かってたんだけどね? 今はこう……表にそれがあらわれてるって言うのかしら?」
ほんとまりもちゃんはそういうところよく見てるよなぁ………このいうところは主観時間で歳を重ねてても敵わないなと思う。
「それに今日だってよくみんなのことを見て的確にアドバイスしてたでしょ? あれは本当に人を見てないとできないことなのよ」
「まぁバルジャーノンは得意ですから、ある程度見ればそれぞれの癖みたいなのは分かるんですよ。それに人を見る力ならまりもちゃんにはまだまだ敵いませんよ」
「ッ!?……そ、そうかしら。そう言って貰えると嬉しいわ……」
まりもは武が語ったときに一瞬見せた哀愁漂う表情に胸がドキッとした。
──だ、ダメよ! 相手は歳下で自分の教え子なのよ!? いやでも最近の白銀君は少し歳上に見えるような……はっ!? わ、私ったら今何を考えて!……
まりもも白銀菌()に毒されつつあったのだが、本人が自覚するのはもう少し先のお話である。
最近書いてて気づいたんですけど、自分関西出身で、気づいたらセリフが関西弁になってるときがあるんですよね笑。特に武の心の中のところなんかはだんだん口調が乱れてきまして........見直すとアレ?ってなるんですよ笑。まぁまた変なところがあれば指摘してくださると幸いです。
さて次回は、本来なら10月22日の霞の誕生日プレゼントを買いに行くお話です。今現在、作品内の経過日数は3、4日程という設定なんですが、人の誕生日を忘れるとはこれは武ちゃんも中々失礼()......まぁ本当は当日かその次の日にやりたかったんですけど作者本人が忘れてました笑。というわけで少し遅いですがそういうことになります。