「そのとき織田信長は、最強と言われた武田騎馬隊に対し鉄砲という新兵器を用い………」
只今はウォーケン先生の社会の授業のお時間。
ピアティフ中尉が交換留学教師としてこの世界に存在したことから、もしかしたら他にも知っている外国人の知り合いがいるかも知れないとは思ったのだが、その予想は的中した。
なんと学園長まであのラダビノット基地司令に変わっており、他にも米軍では顔馴染みだったウォーケン少佐や、フィンランド出身だと話していた米軍の志願兵のイルマ少尉もやって来ていたのだ。
中でもウォーケン先生は我がB組の副担任に着任。早々から日本好きを拗らせた挨拶を披露し……──男子生徒からはなんでピアティフ先生やイルマ先生ではないのかと非難轟々であった……
そんなウォーケン先生だが、もはや大和魂だの日本男児だの大和撫子だのと、授業の範疇を通り越して熱く語っている始末だ。クラスの大半はもはや聞き流しており、俺もそのうちの一人である。今は全く他のことを考えていた。
──なんか忘れてる気がするんだよなぁ………
何かここ数日の重要なことを忘れている気がする。何かめでたいイベントが……
───ッ!?そうだ! 霞の誕生日だ!
霞の誕生日は10月22日。もう既に数日が経過している。球技大会だのなんだので忙してすっかり忘れちまってた……
向こうの世界では人の誕生日にプレゼントを上げたりする余裕などなかった。よし、帰りに隣町で何か買って行こう!
「そして彼はこう述べたのだ。『地球は青かった』と──ん?チャイムが鳴ったようだ。今日はここまでとする」
いつの間にか日本から離れるどころか、宇宙まで話が飛躍していた。
まぁ、確かに凄乃皇に乗って宇宙見た地球は壮観だったな……
おっと、そんな物思いに更けている場合ではない。そうと決まれば早速橘町へ出発だ!
「タケルちゃん一緒に──」
「ちょっと急用があるから先に帰っててくれ!」
純夏達にそう告げると一目散に教室から飛び出した。
「ちょ、ちょっと! 白銀君!? 帰りのHRは………って、いない!?」
武はあまりに急いでいたため、帰りのHRをすっぽかした。千鶴は慌てて呼び止めようとしたが、廊下を覗いたときにはすでに姿は見当たらなかった。
「所持金は3000円か……TQアームズにでも寄るか」
3000円という心許ない所持金を手に橘町へとやってきた武。ちなみに、この世界の武の小遣いの大半はバルジャーノンに注ぎ込まれている。
「大きいうさぎの人形は金額が足りないな………というか既に持ってるんだったな。となるとスマホに付けるストラップとか? いや、ダサいとか言われそうだな……」
街中でジャラジャラとストラップをつけている人を見かけたが、正直あれは使いずらいしダサいと思う。
いざ買おうと思うと、こういうのって中々決まらないんだよな。
「ん? またバルジャーノンのグッズでも買いに来たのか?」
「いや、今回は違って───って誰だ?」
唐突な質問に反射で答えた俺は、後ろを振り返った。
「───ゲッ!」
「ゲッ!──とは失礼な奴だな」
そこにいたのは、からかいの天敵でもあった───宗像美冴だった。
「これはこれは、宗像さんではありませんか。それじゃあ俺はここで……」
できればこの人と一対一での対話は控えたいところ。ここは一度撤退して───
ガシィッ
「そんなに急がなくてもいいじゃないか。わざわざ苗字呼びになるところ、何かやましいことでもしていたんじゃないか、武?」
肩を掴まれた俺は脱出を阻まれた。
またしてもこっちじゃ親しい仲か………
「違いますよ……ただ誕生日プレゼントを買いに来ていただけですよ」
「誕生日プレゼント? 確かお前の周辺に近々誕生日のやつは………」
ちなみに美冴の誕生日は11月7日である。
「そういえば、美冴さんもそろそろ誕生日か………でも残念ながら今回は別ですよ。つい最近転校してきた子がいるんで、その子のです」
「そうか、危うくサプライズが台無しかと思ったが………確か祷子が言っていた転校生3人のうちの誰かか?」
霞たちの情報は祷子さんから伝わっているらしい。
「ええ。なんでも、ロシアから飛び級進学で来た若干10歳と少しの秀才なんですよ。ただ誕生日自体は今月の22日だったんで……」
「まさか忘れていたのか?………レディ相手に薄情なやつだな?」
「初日からドタバタしててそれどころじゃなかったんですよ!………ただまぁ、当日にやってあげられなかったのは申し訳なかったんで何を買ってあげたらいいのかなぁと」
霞との思い出の品なら、あやとりだのお手玉だのといっぱいあるのだが、どれも作ろうと思えば作れてしまうのでわざわざ買うものでもない。
「それにしても、お前は女の好みというものが解かっていないな。TQアームズで済ませようなどと………」
気持ちよければ何でもいいなんて言ってた、アンタにだけには女心がどうこうとは言われたくなかったけどな!
「本なんてどうだ? 丁度とっておきのやつもあるだろう?」
美冴にそう提案され、本屋へとやってきた二人。
「確かこの辺に………おっ、あったぞ」
「なになに………『ほんとうのたからもの 作:むらかみはるか』………絵本か」
美冴が手渡したのは一冊の絵本だった。
「おいおい、涼宮先輩の記念すべき第一作だぞ? まさか忘れたんじゃないだろうな?」
涼宮先輩ってことは遥さんの!? 作者名は………確かに"はるか"って書いてある。なるほど、ペンネームか! この世界では絵本作家をやってるのか………
いやしかし、ここで知らないなんて言ったらマズイよな。適当に誤魔化しておかないと。
「ハハ、忘れるわけないじゃないですか………でもそうだな、これなら問題なさそうだ」
あどけない雰囲気の霞に、心温まる絵本というのは実に映える。うん、これならきっと喜ぶぞ。
「なんだ、さっきからニヤニヤと………まさか、お前はロ○コンだったのか?」
「誰がロ○コンだッ!」
………いや、でも向こうの世界の記憶の中じゃ、結ばれた女性の外見は様々だったよな…………もしかして俺って節操なし?
おっと、いかんいかん。この人の言葉にいちいち反応していては埒があかない。
「………まぁいいや。俺は用も済んだんで帰りますけど、美冴さんはここで?」
「私の用は既に終わっている。帰りにたまたまお前を見かただけだからな。でもそうか………噂の転校生や御殿とやらを見てみるのもいいかもしれないな」
特に明日に大きな予定は無いため、美冴は武の家に着いてくることにした。
「…………」
「……どうです?」
「話に聞くのと、実際に目にしてみるのとでは違うな……」
「まぁ、こんなもの想像しろって言われても無理ですからね」
美冴はコンクリート平原を目の前にして目を点にしていた。
「ただいま帰りましたー」
「おかえりなさい武君。………あら? 美冴さんじゃない」
「やぁ祷子。こんな夜分に済まないな」
玄関から出迎えてくれたのは祷子さんだった。そしてその後ろから冥夜と悠陽もやってきた。
「タケル、そなたはいままでどこで何をしていたのだ?」
「HRも忘れてしまうほど、何か急がれていたのですか?」
冥夜と悠陽は武の横にいる女性を見て懐疑的な目を向けた。美冴はそれを見て察するとニヤリとした表情を浮かべた。
「しかし………武も中々変わった趣向を持っていたな? 色々と付き合わされて苦労したよ」
「「「!?」」」
3人の周りの空気にヒビが入る
「武君? 美冴さんと何をしていたのかしら?」
「タケル? 何をしておったのだ?」
「武様? お伺いしてもよろしいですか?」
美冴はその様子を見てしてやったりといった表情を武に向けた。
──この人は鬼か! ったく…………しかしこの白銀武、同じ失敗は繰り返さぬ男! もう、その手は通用せん!
「オッホン! 何か誤解を生んでるようだが、俺は霞の誕生日プレゼントを買ってきてたんだ。美冴さんとはそのときたまたま会っただけだ」
俺は袋から絵本を取り出した。
「社の誕生日?……そういえば聞いておらんかったな」
「それが霞の誕生日ってほんとは22日でさ。その日以降ドタバタしてて全然時間が取れてなかったんだよ」
「なんと!? ではまだ、社は私たちの誰にも誕生日を祝われていないのか?」
「わたくし達も何かしてあげるべきですね………真那さん」
悠陽は真那を呼びつけると何か告げた。その後真那は3馬鹿を呼び出して何やら準備を始めた。
「じゃあ、俺は霞達を呼んでくる」
よし、何とか誤魔化せた。
自分の部屋に入ると窓を開けて、純夏の部屋の窓を突いた。
「………白銀さんですか?」
窓が開かれると、霞が現れた。
「ん? 霞だけか? まぁ丁度良いや。ちょっと渡したい物があってな………ジャジャーン!」
「!」
「誕生日プレゼントだ。本当は当日に渡したかったんだけどな……遅れて悪かった」
「……いえ、とても嬉しいです」
よかった。喜んでくれたみたいだ。
「この本、実は遥さんが書いた本なんだ。こっちじゃ絵本作家をやってるみたいでさ」
「……はやく読んでみたいです」
「実は今からちょっとした誕生日会をしようってなってさ? 今から俺の家に来てくれるか?」
「……分かりました。なら、純夏さんたちも呼んできます」
「オッケー………ん? 純夏さん"たち"?」
「……今、下に涼宮さん達姉妹のお二人もいます」
「そうなのか? まぁいいや。じゃあその二人も呼んできてくれ」
「はぁ……もう剛田のやつったら、私の家の前でずっと待ってたんだよ?」
どうやら涼宮姉妹は──遥さんは元々純夏の母さんに用があったらしく、茜は帰宅したところ家の前で剛田が待ち構えていた為、純夏の家に避難してきたそうだ。
───しかしよ剛田。もはやそれはストーカーというのではないか?
「それにしても、武君の家に来るのなんて久しぶりだねぇ」
「お姉ちゃん、大学に入ってからはあんまり来てなかったもんね。もう半年くらい?」
こっちの世界で遥さんとは初めて会うが、やはりおっとりとした雰囲気の人だな。
「───それにしても武君、ここにいる女の子達とはどういう関係なの?」
──ゾクリッ
な、なんだ今の………まるでメデューサにでも睨まれたかのような………この前の祷子さんの比じゃなかったぞ!?
遥の顔はニッコリとしたものだったが、目は薄目で笑っていなかった。
そういえば、向こうの伊隅大尉が言ってた。遥さんは怒らせると怖い、と。連絡先のあだ名の由来はこういうことだったのか!
───『般若』とはそういう…………
「い、居候だったり、親から頼まれてだったりで……別にやましいことがあるわけじゃないですよ?」
この人を怒らせないようにしようと武は思った。
「皆さん、会の準備が整いましたので居間のほうまでお越しください」
月詠さんから準備完了の声がかかった。
「じゃあ行こっか! 霞ちゃん!」
「……はい!」
『ハッピーバースデー!』
「……ありがとうございます」
「急なことでしたので、そこまで大きなものは作れませんでしたが、御剣のパティシエ達を動員して作ったケーキでございます」
月詠さんはそう言っているが、それでも俺たち庶民からすれば十分大きなケーキだ。
「おぉ! 美味い!」
「全く……主役は社であろう? タケルが先に食べてどうするのだ」
「……私も既に食べているので大丈夫です」
「そういうことらしいから問題なしだ」
ケーキなんて何年振りだろうか。それも御剣の一級品だからフォークが止まらない。
「武君は私の絵本をプレゼントしたんだ? 社さん、また感想を聞かせてね?」
「……はい」
「そういえばさぁ…………タケルちゃんって霞ちゃんと昔会ったみたいな感じだけど一体どういう関係なの?」
純夏の発言で一瞬場がシンッとなった
「そういえば、私もそれが気になっていた」
「確かに気になりますわ」
武に想いを寄せる女性陣からすれば、霞という存在は決して無視できない存在である。
「えーっとそれはだな……」
しまったな。本当のことは言えないし……かといってバレない嘘も付けないし……初日のアレはまずかったか…………
どう答えようかと悩んでいたときに口を開いたのは霞だった。
「……ヒミツです」
「「「「えっ?」」」」
「……ヒミツです。そうですよね、武さん?」
「……えっ? あ、あぁそうだな。ヒミツだ」
「な、何それー!? やっぱり気になるー!」
「おい純夏、引っ付くなって! っておい! 茜まで……」
霞は女性陣から問い詰められる武を見ながら、誰にも聞こえない声でつぶやいた。
「………こちらの皆さんはとても楽しそうに暮らしています。私は皆さんの笑顔が見れて、とても幸せです」
なんとか宗像さんと遙さんを登場させて、とりあえずオルタの全メインキャラは出せました。この二人もヒロインとして登場していくことになるんですが、都合上宗像さんのほうはキャラが原作とかなり変わる可能性はあります笑(じゃないと書きづらいんです(汗))
今回、展開考えるのに色々迷ったので、読んでて若干ヤケクソすぎるところは否めないんですが、そこは多めに見てくださいorz