元過労暗殺者、平和だが平和じゃない世界へとやってきた 作:シャオロウェをすこれ
過労暗殺者、砂漠へ転送す
シ協会。『都市』に存在するフィクサー協会の一つで、主に暗殺を主業としている協会である。『都市』の中でもかなり力を持っている協会で、確固とした理念も持っている協会だ。
しかしそんなシ協会の特異な点はどこかと問えば、それはフィクサー同士が深く強い絆で結ばれている所であろう。
『都市』は同じ場所で暮らしていたフィクサー仲間がある日突然敵に、などのいつ背中を刺されるか分からない世界だというのに、このケースは中々珍しいといえる。だけどいる分には心地よかった。
さて、そんなシ協会だが、かなり力を持っている協会ということで、いくつかの支部を持っている。その中でも主に、南部シ協会は有名『であった』。なぜ過去形なのか?それは今から説明しよう。
まずこれの原因は、南部シ協会支部長であるセルマの暴走にある。
自分の利益、正確に言えば特級の色付きフィクサーである青い残響のために自身の指揮下である南部シ協会に多大な負担を強いていた。
その暴走ぶりは誰が見ても分かるもので、通常ならば一週間に一回処理するものを毎日のように処理し、それが積み重なった結果私の所属である南部2課は大多数が死亡あるいは行動不能、南部3課に至っては全滅の有様だった。協力事務所も同じだった。
もはや南部シ協会は崩壊していた。クソみたいなセルマの指示、襲い来る極限の疲弊、死にゆく仲間、それに伴い下がり続けるモチベーション、終わりなき戦い...何もかもが私たちを蝕んでいった。それにとどめを刺したのが、『図書館』での戦いだった。
『図書館』での戦いが、この腐りきった現状を打破する一手になると信じて臨んだ戦い。結果は悲惨だった。次々と倒れ、本にされていく仲間たち。
よく話す仲だったテンマも、セルマの愚痴を言い合っていたヴァレンティンも、頼りだったユジンさんも全員本になって...耐えがたい光景だった。
今まで苦楽...楽の部分があったかは怪しいが、少なくとも長い時間を共にしてきた仲間たちが死体すら残らず消えていくのは、とても心に来た。
気づけばこっちは自分一人だけになっていて、図書館側の...司書?共は全員立っていやがった。あれだけの激闘を繰り広げたにもかかわらず...だ。
そして出血や火傷でボロボロになり、自分も死を覚悟した瞬間...気づいたら見知らぬ土地に立っていた。
辺り一面、生活感のない町と砂に囲まれた土地。図書館で死ぬ...いや本になったはずの私は、なぜだか知らないが再び地に足を付けることが出来ている。
一体どういう事だろうか?ここは本になった後に訪れる場所という事なのだろうか。ならば部長にテンマもいるのか?だったら探さなければ、いやその前に...自分の状態の確認か。
腰に吊り下げていた刀は先ほどの戦闘で刃こぼれこそあれど無事、身体は火傷と裂傷が酷いが出血は止まっているみたいだしまだ動ける。
服も血まみれだがシ協会標準の黒色と合わさってあまり目立ちはしない。どのような人物がいるかは不明だが、少しくらいなら誤魔化せるだろう。
よし、これなら大丈夫だ。周囲の探索をして、まずは状況の把握に努めないといけない。ここが『都市』ならばこんな街並みはおそらく巣の中だろうが、にしては人の生きている感覚というものが無さすぎる。
非現実的だが、図書館という例がある以上、どこかに転移したという可能性も捨てきれないな。まずは人を探すべきか...しっかり話が通じるやつを。
どこか落ち着ける場所に行って、一度気配を探ってみるか。それでいなかったらここを離れてみよう。ちょうどそこに手ごろな場所があるし、ここにしよう。
...風が吹く音、砂が吹き飛ぶ音の中に、二つ、自然とは違う音が聞こえる。一つは荒く弱い足取りでこちらに向かってくる足音。呼吸の感覚からして、かなり衰弱しているようだ。
二つ目はなにやら違和感のある音を奏でながらこちらに向かってくる音。自転車だろうか?こちらも呼吸周期からして、人間が乗っているようだ。おそらくこのままいけば1は2に合流するだろうし、1の方に向かうべきか。
「っ...」
...早いところ治療が必要か。こんなときK社の特異点があればなと思うが、セルマのクソ野郎のせいで部長でさえ受けられなかったものに贅沢言うもんじゃないだろう。
それにないものはない、今は食いしばる時だな。
「み、みずぅ...私まだ一番くじ当ててないのにぃ...」
そして来て見たものは、道の真ん中に突っ伏して動かない女性だった。腕には見たことのない腕章をしており、どこかの組織所属だということが分かる...が、なんだろうか、今すぐにでも気絶しそうな雰囲気をしている。
だが弱っているということは比較的素直に情報を吐いてくれる可能性は高い。話しかけてみるか。
「すみません、そこの人。」
「うぇ?いったいな...ちょ、どうしたのその傷!?」
女性はこちらの方を見るととても驚愕して目を見開いていた。そんなに驚くことか?ちょっと火傷と傷があるくらいだ。都市じゃ当たり前だろうに。まぁ痛いのは変わりないが....
「気にしないでください。それよりも、ここがどこか知りませんか?」
「えっ、えぇ?あっ、ここはアビドス...なはずだけど...」
「...アビドス?」
アビドス...聞き覚えのない場所だ。都市にそんな場所はないはず。ということはやはり、都市ではないどこかに転移したと考えるのが妥当か?まだ知りたいことは山ほどある、もう少し聞くとしよう。
「頭、巣、フィクサー協会...これらに聞き覚えは?」
「いや、知らない...協会?巣?鳥の巣のことを言ってるの?」
この言葉を聞いた瞬間から、私の予想が的中したことが確定した。信じられないが、どうやら別世界?に来てしまったようだ。まぁ、図書館の非現実的なことを考えれば、まだ納得できるか...
「いや...分かりました。ありがとう。それでは。」
「ま、待って!」
「なんです?」
「その傷でどこに行くつもりなの!?全身ボロボロじゃん!」
...あぁ、そうか。一般人からしたらそう見えるか?ここ二週間はこれが普通だったからな、それに都市じゃ当たり前のことだ。この世界では違うのか。
あと確かに行くところがないな。見た所ここは一面砂漠だ。どこから出れば人がいそうな都市にたどり着けるか分からない以上...そうだな。
「ふ~む...なら私を雇ってくれませんか。」
「へ?雇う?」
「えぇ。護衛としてなんてどうでしょうか。なにぶん私はここのこともなにも分からないうえお金も何もないので。」
女性はしばらく困惑した顔をすると、口を開き、
「護衛になってくれるんだよね?」
「もちろん。この手の届く限り守ることを誓います。」
「じゃあ、お願い。私は連邦捜査部シャーレ、その先生。多分知ってると思うんだけど...」
「シャーレ...?先生?」
「えっ」
「えっ」
「じゃあ、連邦生徒会は...?」
「いや、知らない。」
「...一から説明する必要がありそうだね....あ、ところでさ。」
「?」
「あの、食料か、水とか持ってない?じ、実は遭難してて...もう喉と腹がくっつきそうなんだよね。」
「....ちょっと待っててください。」
先生の問いかけに対し、なんとか応えようとポケットや服の裏を探ってみる。正直持ってないとは思ったが、探っているうちに何かが手に当たった。
手に取ってみれば、不味いでおなじみの固形食糧が一つだけ入っていた。水分持ってかれるが、それでいいなら差し出そうか。
「パサパサで不味くてボロボロですが、一応...栄養だけは摂れます。」
「!それでいい、それでいいよ!ちょうだい!」
先生は私の手からそれを縋るように奪うと、ボリボリと一気に食べてしまった。あの不味いでお馴染みのを一気か?と思って顔を見てみると、案の定渋い顔をしていた。
「こ...これ、本当に美味しくないんだね。」
「栄養摂取だけを目的に作られましたから。逆によく一気に食べれましたね。」
ある意味感心していると、近くからまた違和感のある音がしてきた。2番目の奴か、敵か?念のため刀を構えておこう。
「えちょ、何してるの?」
「人の気配がします。私の後ろに下がって。敵だったら迷わず殺しますから、安心して下さい。」
「こ、殺す!?」
「何か?」
「殺すのは絶対にダメ。やるにしても気絶までだよ。」
....この世界では殺しは常識ではないらしい。随分甘いものだ、その甘さが命取りになるかもしれないというのに...まぁそれが依頼主からの要望なら受けるだけだ。
「分かりました。もうすぐ来ます。」
自分の気配を消して、奇襲の構えを取る。音を感じ取りながら、神経を研ぎ澄ませる。
出てくる、もう少し、もう少し...今と待っていてて、出てきたのは...
少女だった。自転車に乗って、背中には見たことのない銃を担いでいる。銀髪に猫の耳のようなものが生えていて、可愛らしい見た目をしている。
しかしそれとは裏腹に背中にはロジックアトリエが作っているような銃を背負っている。ただ私が知っている銃とは違う見た目をしていて、それにどこか小さい。
「...」
「...」
しばらくの沈黙が間を貫く。目線から察するに、おそらくお互いに敵対する気はないようだ。しかし何といえばいいか迷っているうちに、先に相手が口を開いた。
「えっと、こんなところでどうしたの?」
...どうしたと聞かれても、こっちはいきなりここに来て先生と出会った....あ、そうだな。
「いや、連邦生徒会から派遣されてきたのですが、道に迷ってしまいまして。私は問題ないのですが、先生が脱水と空腹で体調があまりよろしくなく...なにかその類のものを持ってはいないでしょうか?」
「...連邦生徒会?もしかして、その後ろに倒れてるのが先生?」
そういって銀髪の彼女は後ろに目を向ける。そして視認したのち、自身の鞄からなにかを取り出した。
見てみれば、それはスポーツドリンクだった。なるほど、確かにそれだったら今の弱っている先生には最適だろうな。
「これを、先生に。」
「分かった。」
差し出されたドリンクの入ったコップを受け取り、先生の元へと向かう。先生はすっかり燃え尽きた様子だったが、私の手に抱えられたものを見ると表情を一変させて飛んできた。
まるで餌を目の前に差し出された犬みたいで可愛いな...まぁ、正体は大の大人なんだが...
「!?そ、それ、水!?」
「ええ、先生のための飲み物です。どうぞ。」
そして先生はそれを飲んだ後、いくらか生気の戻った顔をしてあたりを見回すと、私の後ろにいた銀髪の彼女に気づいたのか質問をしてきた。
「これをくれたのはあそこの?」
「ええ、そうです。」
そういって先生はおぼつかない足取りで彼女の方へと向かう。急に立ち上がったらよろけそうなものだが...肩でも持たないとな。
「いきなり立ち上がるとバランス崩しますよ。肩貸します。」
「ありがとう...うんしょっと...」
「えっと、ありがとうね。私はシャーレの先生なんだけど...名前を教えてもらってもいいかな。」
「砂狼シロコ。こっちには私たちの学校くらいしかないけど、もしかしてアビドスに行くの?」
「!そうそう、アビドス高等学校が目的地なの。」
「ならついてきて。ここからは近いから。」
先生は歩こうとして足を動かそうとするが、次の瞬間肩にかかっていた力がガクッと抜ける。どうしたんだ?
「大丈夫ですか?」
「あっ、歩こうとしたら力が抜けちゃって...えっと、シロコちゃん、でいいかな?」
「ん、どうしたの?」
「あの...その自転車に乗せていってもらえないかな。足がもう死にそうで....」
...本気で言っているのか、この人...それ一人乗りだぞ。
「えっと、これ一人乗りなんだけど...」
「なら背負ってほしいです...」
あぁほら、案の定シロコ?さんがすごい目でこっち見てる。違う違う、私は同類じゃない...
「まぁ、二人乗りよりはいいか。」
しかしどうやらその提案を受けてくれたようで、背負う態勢になって腰を下げている。
普通は受けないけど...彼女の優しさに救われたようだ。
「あ、そういえば名前聞いてなかったね。名前は?」
私、名乗っていなかったか。まぁいい、今言えばいいだけのお話だ。
「シグレ、だ。上の苗字はない。」
「苗字がない..まぁ分かった、シグレ、だね?シグレはどうするの?流石に三人は無理だと思うけど...」
「私は走って追いつく。」
「...無理はしないでね、そんなボロボロなんだし。」
そういって先生はシロコさんに抱えられて自転車へとライドした。その姿じゃ何を言われても説得力がないな...
あたり一面砂漠だが、その高校とやらはどこにあるのか。とりあえず、ついていくことにしよう。
残念ながらシロコ間接キスイベはスキップされました。流石にまともな随伴者が一人いれば時間も余裕もあるので....ナオキです。
シグレ以外の図書館世界からの来訪者....キヴォトスに来てほしい?
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青封筒で来てほしい(都市疾病以下)
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紫封筒で来てほしい(都市悪夢以上)
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お断り