元過労暗殺者、平和だが平和じゃない世界へとやってきた   作:シャオロウェをすこれ

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 今回全然休暇じゃねぇ!


幕間 過労暗殺者は休暇を過ごす(4)

「はぁ~......」

 

 なんか色々と疲れた。もうすっかり夜中になり、都市だったらまさに今の時間は午前3時くらいの裏路地の夜の時間だ。

 

あの後何があったのかというと、まずとりあえずリン行政官......いや、リンとアオイを家に招き入れたのだが、当初はそれはもう空気が最悪だった。狭いから二人を隣にして座らせることしかできなかったのだが、お互いバチバチの雰囲気で......どうすればいいかもわからず、なんとか場を和ませようとしても睨み合うばかりでどうしようもなかった。

 

 お互い見舞いに来たと言っていたが、正直それが霞むくらい胃が痛くなってきそうで......どうしたものかと頭を悩ませた。そして思いついた。『酒で解決できないかな?』と。

 

だから急いで昨日のあの店に行って買ってきた。また今度は違うチキンと、かなりの量の酒を持ってきて。そしてその結果......

 

『リンせんぱいぃぃぃぃ!どぼじてわたしゅにはたよってくれないんでしゅかぁぁ!?わたしのほうがながくりんしゃんぱいと付き合ってるのに!しゃんしぇいよりながくいりゅのに!』

 

『アオイ......』

 

『だいいちおかしいじゃないでしゅか!かいちょうがいなくなってからというものしごとしゃえんしゃいにつきっきりで!わたしだってせんぱいとはなしたかった!いっしょにわらいたかった!』

 

 うん、アオイが盛大に酔った。そしてリンもしばらくして目が据わり始めて、今度は始まったときとはまた別の不味い雰囲気になってきていた。不味いなこれ、どうしようかなと思っているうちに、段々と二人がおかしくなってきていた。それに気づかずボーっと考えていると、いつのまにか二人が私の肩に寄りかかっていた。

 

『あの~......どうしました?』

 

『あおい......もうシグレを二人で独占しないかしら?』

 

『しぇんぱい、わひゃしもさんしぇいですぅ......このまま三人でしごとからにげてくらしましょう......』

 

『あ、すみませんさようなら!』

 

 その後も私の足や腕に引っ付いて止まろうとしないリンやアオイをどうにかして布団の中にぶち込んで寝かせたのち、今は少し外の空気を吸いに適当に散歩しているというところだ。あ、リンやアオイと呼び捨てしている理由はそう呼んでくれと頼まれたからだ......流石にこういう場でないと呼び捨てで呼ぶことはしないが。それ以外でやると色々立場的に不味いだろうし。

 

 さて、大分奥の方まで来てしまったが......時間も時間だし、そろそろ帰ろうかな。今夜はほぼ徹夜状態になってしまったが、楽しいし悪くなかった___________あ?

 

「この匂い......」

 

 ............まさかここに来て、この匂いをもう一度嗅ぐことになろうとは思わなかったな。あの忌々しい匂いを......吸えば健康を大幅に害し、対価として快楽感をもたらすもの。種類は様々だが、この鼻にひりつく辛いは......感覚麻痺の煙だ。

 

「......ひと悶着ありそうだな。」

 

 刀を抜いて、戦闘準備を整える。この匂いがするということは、どのみち碌でもないことがこの奥の裏路地で起きているということは間違いない。やれやれ、もうこういう機会はないと思っていたんだがな。まぁいい、何が起こっていようが斬り伏せるだけだ。行くか。

 

 


 

「っ......ぅ......ぁ......」

 

「お~この嬢さん声をもあげれんくなっぺ!ええ感じになっとるんやないか?」

 

「あんまり痛がらせすぎると血が溜まって不味ぅなっちょるからなぁ.......あっ!こいつつまみ食いしちょるぞ!」

 

「へへ~こんなにも肉付きのいい娘さんの肉体なんか喰いたくなって当然じゃろうが!今までの栄養不足の奴らが嘘みたいにうめぇんだべ!」

 

 目の前で私の肉が抉られ、貪られていく。得体のしれない者たちに。

なんで、なんでこんなことになっているんだろう。私はただ、ちょっと外に出て息抜きに来ただけなのに。なのにどうしてこんなことに。

 

「あ?こいさんなにか喋りてみて......どうする?煙弱めてみるか?」

 

「どうせこんな場所じゃ、誰も気づかれんばさい。喋らせてみませか?」

 

 私を封じていた煙のようなものが、少しだけ弱められる。でも、それが弱くなったところで、私には何もできない。防衛室長として携行していた拳銃は捨てられてしまったし、今の私にできる抵抗は、ただただみすぼらしく中身のないがらんどうな虚勢を張ることだけ。

 

「はぁ......はぁ......ぼ、防衛室長であるこの私にこのようなことをして......ヴァルキューレが黙っていませんよ.......!」

 

「あ~?わざわざ口動かしてまで喋りたかったことがそれかえ?あんさんの立場がどうであれ、ここじゃそんなもの無意味だと知らんのか?」

 

 そんなこと分かっている。FOX小隊も、RABBIT小隊も、ヴァルキューレも、こんな辺鄙な場所ではだれにも助けに来ないことなんて、誰の目から見ても明らかだ。

こんなときに、超人(連邦生徒会長)ならどうしたのだろうか。きっと何か策を見つけ出して、こんなことあっという間に解決して、またあの時見たいに光を見せてくれるのだろう。私には出来なかった。超人という仮面を張り付けても、ただの他より実力の劣る出来損ないでしかなかったのだろう。

 

「まぁ~えぇわ。どないせえとあんさんは楽に逝けるから安心せぇ。ほなまた煙強めよか?」

 

 また感覚が鈍くなっていく。このまま誰にも知られず、こんなところで一生を終えるのだろうか。

 

..................いやだ。まだ死にたくない。死にたくない、死にたくない、死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!!!

 

だれか、本物の超人、いや、彼女はいない、彼女は来ない、なら誰か、誰か.............私の傍にいてくれた人、そうだ、シグレ、どうか私を助けて、助けてください.......!

 

「そいじゃ、また始めよか。」

 

 私の肉片がついた刃がこちらに向けられる。これから起こる、あの肉を削られる感覚が来るんだろうなという現実に目を背けたくて、目を瞑る。結局、助けは来ないのだろう。私は死んでいくしかないんだ。

 

 

「............え?」

 

 でも、いつまで経ってもその時は来なかった。意を決して目を開けてみると、そこには私にとって吉報のような、けど驚きの光景が広がっていた。

私に刃を近づけていた、あの恐ろしい仮面が......それの胴体から離れ、首から地面に落ちていた。そして上を見上げてみれば、私が助けを求めた、あの人が立っていた。

 

「まずは一人......クソ共が、お前らもここに来てたのか。そのふざけた面ごと叩き斬ってやる。」

 

「お~これはセルマさんとこの......わしらは食事中やったんだがな、勘弁してくれんけね?」

 

 

 

「...........シグレ?」

 

「防衛室長。遅れて申し訳ありませんでした。ただいまより処理を開始しますので......そこでお待ちください。」

 


 

 間に合ってよかった。やはりこの煙の正体は都市悪夢級に登録されている笑う顔どもだった。しかも標的にされているのは防衛室長。不知火室長にはかなり痛めつけられた傷があるので、こいつらに目を付けられてからかなり時間が経ってしまっているが......死んでいないだけまだいいだろう。

 

 こいつらは個々の実力はそこまでじゃないが長時間戦闘してると煙が体を犯してこちらの動きが悪くなる......短期決戦の必要性がある。もう既に一部感覚が麻痺しているのが何となく分かるし、本当に早期決着をつけないとな......!

 

「お前から片づける......!」

 

 手前で煙管を吹いている笑う顔の一人に、飛剣の構えを以て接近する。最初の一撃はいなされるが、本命はこれから持っていく極剣だ。気持ちの悪い胴体を十文字に斬り裂いて、煙を巻き散らかせながら一人仕留める。

右から肉卸し用の包丁を持った笑う顔が接近してきているが、躱してまた一撃を入れ込む。致命傷には至っていないようだが、とりあえずはこれで十分だ。

 

「へへ~あんさん中々面倒じゃの~?だけど食ったら美味い肉が取れそうやな。」

 

「お前らの肉になる気はこれっぽちもないよ。」

 

「そやか?そりゃあ残念や......」

 

 血を溢している笑う顔を置いて、今度はまた複数でこちらに攻撃を仕掛けてくる。まずは一番距離の近い右の敵から始末するか.......!

 

「あんさんは煙に慣れていなさそうやからな、吹かされたらどやろな?」

 

「ケホッ、小癪な......!」

 

 口から白い煙が吐き出される。吸わないように呼吸を止めようとするが、二人が襲い掛かろうとしてくるので結果的にそちらへの対応へ集中せざるを得ず、思いっきり煙を吸い込んでしまった。そして吸い込んだ瞬間、身体が鈍くなっていくのがすぐわかった。

 

「チッ......!」

 

 とりあえず掛かってきた二人を胴体から真っ二つにして、飛び掛かってきたやつも腹を蹴って対処する。後ろから来ている笑う顔も鉄山靠で体当たりしたのち吹き飛ばして、煙を払いつつも対処していく。不知火防衛室長が死んでしまったらこの任務は失敗だ、最悪私の命に代えてでも守る。

 

「ワンさん、ミさんも持ってかれてしまったし不味いんじゃ?」

 

「なぁ~に問題ねぇ!全員肉にしてチヂミでも食うべ!煙の軌跡でも辿ってれ!」

 

 そういって巨大な煙管を使って殴りかかってくるリーダー格らしき笑う顔が襲撃してくる。鉄壁の構えを取って攻撃を防ぎ、少し怯んだすきに拳を叩き込むが......クソッ、効いている気配がないな。流石に火力が足りないか。

とりあえず、周囲の取り巻きを............!?

 

「グウッ!?」

 

「へへ、隠し刃の存在までは気づかへんかったみたいやな?」

 

 いなせたと思ったが、どこに隠し持っていたのか細い刃がこちらの左肩へ突き刺さる。しかも毒のようなものが塗られていたようで、左半身から力が抜ける。だがそれと代償に片腕で刀を操り、右から逆袈裟に斬り上げてとりあえずの対処をする。でもこれ持つか分からなくなってきたな......

 

「不知火防衛室長、立てますか?立てたら今すぐこの場から逃げて、応援を呼んでください。」

 

「え...........?」

 

「あなたが重傷を負っているのは分かりますが......こいつらだけはどうしても今この場で対処しなければならないんです。頼みます。」

 

「.........分かりました。」

 

 不知火防衛室長は所々抉れている足を引きずって、路地の外へと出ていった。さて、ここから応援が到着するまで時間を稼がないとな。

 

「あ~、あの美味い嬢ちゃんがいっちまった!どないせっか!?」

 

「行かれると困るんだべさ~、追いに行くべ!」

 

「行かせるわけにはいかないな!」

 

 向かおうとする笑う顔を、片腕だが刀で防いで対処する。しかし片腕という影響は大きく、先ほどまで問題なかったのが少し押され始めている。クソッ、刀を使うのは不利だな......徒手空拳で対処した方がいいか?

迫りくる敵をどうにか防いでいるが、やはり左の力が入らない影響で段々と傷が蓄積して行っている。チッ、押されるのがこうも早いとはな......!流石に一人じゃきついか......

 

「お~、おまんさんきつくなってるみたいじゃな?やっぱさっきの隠し刃に塗っといた毒が効いとるんかね?」

 

「馬鹿を言え、まだ余裕さ。」

 

 腕だけじゃない。足に刀、身体にそこらにある障害物まで、全てのものを駆使してこっちは戦っている。だが正直多勢に無勢でどんどんとジリ貧になって来ているというのが実情だ。ユジン部長なら、こういうとき何と言っただろうか。どう対処すれば、私一人でこいつらを止められる?

 

「うっ!?」

 

「ははは、そんな苦しい声上げんといてや。味が不味くなってしまうやろ。」

 

 ......ダメだ。ここで折れてちゃ、ユジン部長に、テンマに、ヴァレンティン、ひいてはシ協会の同僚たちに顔向けできない。思い出せ、図書館での戦いを。身体が痺れるような感覚を押し付けられても、必死に戦ってきたじゃないか。極限状態に追い詰められても、必死に抗ってきたはずだ。

懸命の死闘、終わりなき戦い......あの感覚を、もう一度!

 

「フンッ!」

 

「おっ!?しまっ......」

 

 この際感覚が分からないなど放っておけ。ただひたすらに、目の前の困難をどう対処するかだけを考えるんだ。刀を相手に押し付けて、斬って斬って刺して、脅威を排除しろ......!私に必要なのは、敵を目の前にして尻込みするような、そんな弱い気持ちじゃない。もっと、もっと強く......

 

「押し寄せるような鼓動を......!」

 

 心臓が早く波打つ。それと同時に、抜けていた力が戻っていくように感じる。むしろ、一番最初の万全の状態より力がみなぎっているようにも思う。そうだ、これが私に必要だったんだ......!

 

「う~ん、こりゃまいったな......動きが変わってきちょる。」

 

「よそ見している暇があるなら、戦いに向き合わないと......!」

 

 先ほどまでのリーダー格の笑う顔の前に立ち塞がる取り巻きを一閃し、再び前へ前へと突き進んでいく。

 

煙をふかしてくる相手には、その煙ごと引き裂いて体を両断し。

煙管で殴りかかってくる相手には、それを弾いてから顔を破壊し。

煙で攪乱させようとしてくる敵に対しては、炎をつけ燃やして焼き尽くして。

再び隠し刃で攻撃してきた相手は、それを掴んでへし折ってから逆に刺し返し。

 

 それを何回か繰り返してきて、とうとう残り一人というところまでたどり着いた。あと一人で終わる......!よくもここまでやってくれやがって......!

 

「この、ちょこまかと......やられた......。」

 

「最後だ。」

 

 殺剣の構えで、構えていた煙管ごと相手の頭骨を砕き、少なくともここにいた笑う顔たちは全員始末した。よし、これで大丈夫......と安堵したのも束の間。

 

「ゴボッ.....!?」

 

 口から血が溢れ出てきた。体に無理を強いた反動だろうか、再び力が入らなくなってくる。後ろから何か聞こえるが、これはあの野郎どもの声じゃない......不知火防衛室長が呼んでくれた応援だろう。ふぅ......なんとか、危機を克服できた......かな。

 

『シグレ......?しっかりして!シグレ!』

『すぐ医療班を呼んで!シグレが......シグレがぁ!』

 

 

 


 

幻想体E.G.Oが追加されました

 

・熱望する心臓

 

HPが50%以下になった際、自身に掛かっている全ての状態異常を解除し、永続的に速度が1-3上昇し、パワー3を得る。その幕でいかなる手段でもダメージを与えられなかった場合(カウンター含む)、自身のHPの35%(最大30)を失い、混乱状態になる。

 

 

1 終わりなき戦い

 

使用時 体力が50%以下ならこのページの全ダイスの威力+2

 

防御8-11 マッチ勝利時 体力5回復

打撃6-10 的中時 この幕の間パワー1を得る

斬撃7-11 的中時 脆弱2を付与

斬撃反撃5-9

 

0 懸命の死闘

 

使用時 自身に4ダメージ このページの全ダイスの威力+1 光を2回復 自身のHPが50%以下なら、このページの自傷効果の影響を受けない。

 

斬撃4-8 的中時 ページを1枚引く

斬撃3-9 的中時 パワー1を得る

 

 

 

 

 





 幻想体E.G.Oはパッシブスキルとは別枠判定です。ダメージを1でも与えないとやばい自傷するけど基本的にそんなことはないのでつおいです。

 それとアンケートでの協力ありがとうございました。これにてリンバスキヴォトスとセルマアカヤア....を書けたので締めます、ありがとうございました。

何か見たい話はありますか?

  • 剣楔アリス
  • W社ウタハ
  • ディエーチ協会ウイ
  • リクエスト......?
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