『狐ノ余命入リ』   作:レイノート

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ファンパレで新情報が明かされていくに連れて、解釈の幅が広がるので非常に楽しく書いています。
第1話をどうぞ。


第1話「九尾の狐」

 

 

 

「というわけで君、死刑ね」

 

 

「…………は?」

 

 

意識が戻った時に、最初に目に飛び込んできた光景はそこらかしこに大量に貼られた御札に、包帯で目隠しをしている黒づくめの衣服に身を包んだ男。

そして硬い木製の椅子に座らされ、頑丈な縄で縛られた自分自身。

目の前の男から唐突に告げられた死刑宣告。

いくら意識が戻ったばかりとはいえ、理解が追いつかなさすぎる。

 

 

 

「あの……すいません、貴方は一体何者なんですか?」

 

 

 

頭に浮かんだ疑問を男にぶつける。

目隠しをしているのはいいとして、何故自分がこのような状態で拘束されているのかも知りたい。

 

 

 

「あぁ~ごめんごめん、いきなりでついていけてないよね

 

僕は五条悟、呪術師さ」

 

 

 

呪術師?

聞いたことが無い単語に困惑する。

何かの隠語か?それともそういう宗教の類か?

俺の様子を見てか、五条と名乗った男は笑い混じりで声を掛ける。

 

 

 

 

「呪術師って言うのは、呪いを用いて呪霊……あっお化けみたいなやつね?

 

それを祓う者達の総称さ

 

後呪詛師って言う自己の目的の為だけに呪いを悪用する奴もいるけど、それはまたの機会に話すよ」

 

 

 

悪霊を払う……陰陽師とかそういうのは聞いたことがある。

急にオカルトみが増してきたが、あながち嘘をついているようには見えなかった。

現に俺はあの化け物達が小さい時から見えている。

自分が知らないだけで、この人のような呪術師が裏で片付けているだけだ。

 

 

 

「おおよそはわかりました

 

でもなんで俺が死刑になるんですか?」

 

 

 

純粋な疑問。

生まれてこの方、罪になるような事はしていない。

これでも常識はわきまえている方だ。

 

 

 

「君が悪いと言うよりもねぇ……君に取り憑いているモノが原因なんだよね~」

 

 

 

俺の肩に右手をぽんと乗せて、あっけらかんと語る。

俺に取り憑いているモノ……まさかあの触手の化け物か?

でもあの身の毛がよだつ気味の悪いオーラを感じない。

 

 

 

「五条さん、呪術師って言いましたよね

 

その取り憑いてるモノを祓う事はできないんですか?」

 

 

 

俺がそう言うと先程まで笑顔だった五条さんは、途端に真剣な表情になる。

 

 

 

「確かに僕なら祓えるよ

 

でもねぇ、それをすると君は死ぬことになるんだよ」

 

 

 

どういう事なんだ。

祓えば死ぬ。

訳が分からないどころの話では無い。

 

 

 

『それは私が説明致しますわ~』

 

 

 

突如脳内に響く女性の声。

この厳かな雰囲気をぶち壊す緩い声色。

当たりを見回しても、俺と五条さんしかこの場にはいない。

ふと頭上を見上げた時、その声の主であろうモノがそこにいた。

 

 

 

「あっ、漸く気がついていただきましたか?

 

どーも皆大好き!いつもニコニコ笑顔が素敵な獣耳美女のご登場で~す☆」

 

 

 

 

胸元をはだけさせた着物を纏った、やけにハイテンションな獣耳の美女がいた。しかも中に浮いている。

空から落ちてくる系のヒロインでは断じてないだろう。

 

 

 

 

「コイツが君に取り憑いてる呪霊だよ、玉藻の前……聞いた事ない?」

 

 

 

 

『玉藻の前』

 

 

 

平安時代後期に鳥羽上皇の寵愛を受けた傾国の美女。

しかしその正体は白面金毛九尾の狐であり、同じ平安の時代を生きた両面宿儺と並ぶ呪詛師でもある。

多くの陰陽師や武士を鏖殺に呪殺、あらゆる悪行の限りを尽くす。

最終的には安倍晴明という高名な陰陽師によって退治されたという。

そんなビッグネームに取り憑かれているとは思いもしなかった。

 

 

 

「あれ?私ってそんなに有名なんですか?

 

これはまさかモテ期ってやつですね!?」

 

 

 

違うそうじゃない。

悪名が伝承として広まっているだけにすぎない。

というかどうしたらモテ期と勘違いできるのか不思議だ。

 

 

 

「そういうのいらないからさっさと説明しろ」

 

 

 

冷えた口調で玉藻の前を窘める五条さん。

彼女も流石にシラケたのか、それ以上悪ふざけをやめて説明に入った。

 

 

 

「死にかけの貴方が殺生石に触れた際に封印が解けてしまいまして、何か近くにムカつく態度の呪霊がいたので祓いましたの~

 

まあ十分の一程の火力の一撃で死ぬ程脆い存在でしたけどね」

 

 

「違う、聞きたいのは何故彼に取り憑いたのかだ」

 

 

 

百歩譲って存在が気に入らなかった呪霊を始末したのはいい。

だが邪悪な存在と言っても過言では無い玉藻の前が、俺を生かすメリットなどは一切無いはずだ。

 

 

 

「え?好きになったからに決まってるじゃないですか?」

 

 

 

あっけらかんと答える玉藻。

その答えに俺と五条さんは固まる。

好意を持った……俺に対して?

 

 

 

「顔も確かに好みですけど……何より清き健全な魂の持ち主なんてどストライクですので、私の魂と貴方の魂を融合させる事で貴方の命を救いましたの♪

 

これからも一緒に添い遂げるつもりなのでよろしくお願い致します、旦那様(マスター)?」

 

 

 

つまりは好きになった俺に死なれると困るから自分の魂を俺の魂と融合させる事で助けた。

そしてなし崩し的に取り憑かれる形になってしまったという。

…………まるで意味がわからんぞ!

 

 

 

「ぷっはっはっはっ!かの玉藻の前が人間に恋をするか!

 

こりゃ傑作だよ!」

 

 

 

部屋中に響き渡る声量で大笑いする五条さん。

どこでツボに入ったかは分からないが、少なくとも玉藻が好意的に俺を助けてくれたというのはわかった。

だがしかし、俺はまだ別の問題が残っている。

 

 

 

「でも五条さん、俺って死刑なんですよね」

 

 

「あぁ……確かに君は死刑にする予定だったんだけど、僕が却下しといたよ」

 

 

 

どういう事だ。

先程死刑と告げられたはず。

 

 

 

「さっきの嘘だから~

 

玉藻の前が何故君を生かしたのか聞きたかっただけだしね」

 

 

 

合理的虚偽と言うべきだろうか。

いや、単に面倒くさくて言わなかっただけだろう。

たった数分しか会話していないが、この人は基本的に重要な事は口に出さないことを理解した。

 

 

 

「さっさとこんな辛気臭い場所から出してくださいません?

 

大事な尻尾を汚されたくないので」

 

 

 

「ハイハイ、続きは別の場所で話そうか」

 

 

 

そういうと五条さんは人差し指をこちらに向けて、どういう原理か分からないが縄を解いてくれた。

あれが呪術なのか。

本当にオカルトじみた力だ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「って言うわけで、僕の権力で君の死刑を却下したって訳なんだ」

 

 

「成程……だいたい分かりました」

 

 

 

 

何処かの日本建築の一室を借りて、五条さんの話を聞いていた。

呪術を扱うこの世界において、あの人はかなりの発言力と権力を持っている方らしく、鶴の一声……もとい殆ど脅しで言う事を聞かせたらしい。

後は単純に玉藻の前程の存在を祓った場合に、何が起きるか分からないという理由もある。

 

 

 

「死刑が無くなったのは大変ありがたいんですが……

 

俺の処遇ってどうなるんですか?」

 

 

 

玉藻の前という何を起こすか分からない厄災を抱えたまま、普通の生活が出来るわけが無い。

その厄災は中に浮いたまま、俺の頭上で寝ていて正直迷惑だ。

当然、何かしらの制限の中で生活するものと思っている。

 

 

 

「君の処遇は、呪術高専で保護をすると言う形になる」

 

 

「呪術高専?」

 

 

 

また聞いた事のない単語が出てくる。

 

 

 

「呪術高専……正式名称は東京都立呪術高等専門学校

 

呪術を学ぶ為の学校さ」

 

 

 

呪術を学ぶ学校なんてあるなんて思いもしなかった。

てっきりこういうのは一子相伝の秘術を脈々と受け継がれたみたいなものかと思い込んでいたが、そういう訳では無いらしい。

 

 

 

「あの五条さん……助けていただいた身でおこがましいのですが、一つお願いがあるんです」

 

 

「何だい?」

 

 

 

脳内に溢れだす負の記憶。

自分自身が死にかけて、目の前で幸せだった人達の命が奪われた光景が過ぎる。

一人だけ生き残ってしまった事に対する後悔。

思い出せば思い出す程、心の奥が苦しくなる。

あの時もっと早く声をかけていれば、死なずに済んだかもしれない。

見て見ぬふりを続けた己に対する罪だと思う。

 

だからこそ……俺は……

 

 

 

「俺を呪術師にしてくれませんか?」

 

 

 

覚悟を決める。

もう二度と、あんな光景を誰かに見させる訳にはいかない。

これが俺が出来る唯一の贖罪。

 

 

 

「あっいいよ~元々そのつもりだったし

 

寧ろ君から言い出してくれて助かったよ」

 

 

 

あっさりと了承してくれた。

流石に驚いたが、直ぐに冷静さを取り戻す。

 

 

 

「あら~なら私が手取り足取り、呪術の真髄を教えてさし」

 

 

「だが断る」

 

 

 

丁寧に断りを入れる。

一応助けてくれたとはいえ、流石に怖い。

玉藻はいじけてそっぽを向く。

 

 

 

「何はともあれ、ようこそ……呪術の世界へ

 

安倍晴明(あべのはるあき)君」

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

 

俺は飛び込む。

果てしない呪いの世界へ。

 

 

 

 

 


 

 

[少し時を遡ること数時間前]

 

 

 

 

「久しぶりの外の空気はやっぱり美味しいですね~」

 

 

 

突然封印が解けた玉藻の前は、久しぶりの外の空気を堪能していた。

ふと足元に目をやると、そこには自分好みのイケメンが血だらけで倒れ、その元凶であろう赤い触手を纏った呪霊が佇んでいる。

 

 

 

「あら~こんなにも清き魂の持ち主は久しぶりですね……って言うか好み!

 

ん……あっそういう事ですのね……」

 

 

 

何かを察した玉藻の前は、そっと目を閉じてイケメンの体に手を当てる。

 

 

 

「運命というのは面白いものですね……全く……恋程愛しい呪いはありません事よ……」

 

 

 

その時見せた玉藻の前の顔は……恋する乙女の顔であった。

 

 

 

『◻︎□◻︎□□□□!!』

 

 

 

彼に致命傷を与えた触手の呪霊は、その触手を玉藻の前に振るう。

この呪霊は理解していなかった。

自分が喧嘩を売った相手が……呪いの王と肩を並べる存在とは知らず。

 

 

 

「下郎が……邪魔をするな……

 

愚かしくも挑んだ事を後悔しろ……□呪・〇〇〇」

 

 

 

玉藻の前が右指をパッチンとさせる。

その瞬間、触手の呪霊は悲鳴をあげる暇もなく存在が消滅した。

 

 

 

「10分の1程度の火力ですと言うのに……いまの呪霊は随分と脆いのだな」

 

 

 

呪霊を祓った玉藻の前は再び彼に近づき、胸に手を当てる。

 

 

 

 

 

[to be continued]

 

 

 

 

 




皆さん、東堂の黒閃のシーンをどう思いましたか?
私は親兄弟とみましたが、全員で爆笑しました。
今回は玉藻の前の登場と主人公の覚悟を決めるシーンでした。
良ければ次話も読んでくれると嬉しいです。
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