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「転校生を紹介しやす!」
東京都立呪術高等専門学校、通称呪術高専の教室の一角で呪術師兼教師の五条悟はハイテンションで喋る。
既に席に座ってる三名の生徒は、特に興味無さそうな顔で話をきいていた。
「つーか転校生なんてどうでもいいっすよ」
「そうそう……ここに来るなんてどうせろくでもない人なんですから」
「……右に同じ」
生徒達に軽くあしらわれ、ショックを受ける五条。
直ぐに気持ちを切り替えて、転校生に入るよう様に促す。
『ガラッ』
扉を開けて、転校生が入ってくる。
件の人物が教室に脚を一歩踏み入れた瞬間……
『ドン!!』
教室内に溢れる背筋を凍らせるような悪寒を感じさせる呪力の奔流。
先程までだらけていた生徒達の意識を覚醒させるには、充分な起爆剤だった。
「どうも、安倍」
晴明が自己紹介をしようと喋り始めたと同時、彼の右横に何かが通り過ぎて黒板に大きなクレーターを作る。
突然の事で体が硬直し、ゆっくりと右横に顔を向けた。
「てめぇ……舐めてんのか?
呪われてる奴が来る場所じゃねぇんだぞ」
三名の生徒の内の一人、秤金次は牽制と脅しを兼ねた右拳の一撃を晴明の顔面スレスレに撃ち込んだ。
後ろにあった黒板は亀裂が木の根のように拡がり、彼の力の強さを表していた。
「随分なご挨拶だね」
晴明は内心驚きつつも、平静を保った表情で秤に返事をする。
殺されかけた事で少し肝が座ったのもあるだろうが、流石に間近で殴られるとは思いもしなかったであろう。
一方の秤はその態度が気に食わなかったのであろうか、彼の胸ぐらを掴む。
「そのへらへらした態度が余計に腹立つんだよ!」
秤が右腕を振り上げ、再び晴明に向けて拳を放つ。
今度は外すつもりはなく、顔面を捉えている。
がその拳は彼に届くこと無く止まった。
「随分とお行儀の悪い殿方がいたものですね~
平安の貴族達並に沸点が低くなくて?」
全力を込めたその一撃は華奢な見た目をした獣耳美女が秤と晴明の間に入り、指一本で受け止めていた。
突然現れた人物に驚いたのもそうだが、呪力も込めた渾身の一撃をいとも容易く受け止められた秤が一番驚いている。
「(なんだこの女!?いつの間に現れやがった!
いやそれよりもなんで指一本で受け止められてんだ!???)」
「(なんて思ってるんでしょうね……
はぁ……今の術師は随分とレベルが下がりましたね……)」
今の玉藻の前は一尾という最も弱い状態。
力を分散された上で封印されてしまい、解放された現在では本来使える術式も軒並み使用不可など、大幅な弱体化を受けている。
そんな状態でありながら、秤の一撃を抑えた際もそこまでの呪力を出していない。
学生というまだまだ発展途上の時期であるとはいえ、呪術全盛期である平安の世を生きた玉藻の前にとって現代の呪術師は取るに足らない存在でしかないのだ。
「はいそこまで、互いに一歩引こうか」
一触即発の空気を五条が間に入り、仲裁に入る。
「玉藻、出てこない約束のはずだが」
「あらごめんなさい、ご主人様のピンチと思いまして」
晴明が注意をすると玉藻の前は再び姿を消す。
その光景を唖然とした顔で見る秤を除いた二人、星綺羅羅と鬼札御影。
「はーい皆注目!
こちらが玉藻の前に取り憑かれてる安倍晴明で~す
仲良くやってね!」
普通ならばごく自然の会話に聞こえる自己紹介。
五条の口から落とされた特大な爆弾発言も相まって、生徒達は再び固まる。
「玉藻の前って……」
「嘘でしょ……」
「右に同じ……」
各々から出る驚嘆な呟き。
それもそのはず、呪いの王と並び恐れられる玉藻の前が今こうして目の前に現れた。
加えて転校生である晴明に取り憑いてるという事実が、より一層彼等の警戒心を高める。
「自己紹介出来る感じじゃないし、僕が紹介しよう」
『秤金次』
喧嘩っぱやいが実力は確か。
術式は結構特殊だけど、ノッてる時はマジでやばい。
『星綺羅羅』
男か女かは本人に聞いてくれ。
綺羅羅も特殊な術式だから今度見せてもらうといい。
『鬼札御影』
パーカー被ってる呪符使い。
結構物静かだけど、よろしくね。
「(もうちょっとマシな紹介をしてあげられなかったのか?)」
余りにも雑すぎる紹介に、晴明は心の中で突っ込んでしまう。
本人の代弁とは言え、流石に酷い。
「一年も4人になったし、これからもっと賑やかになるね」
と五条は言うが、明らかに秤ら3人は歓迎してる感じではない。
晴明もそれを感じ取ってか、秤の方に歩み寄り右手を差し出す。
「さっきは玉藻がすまない
安倍晴明……改めてよろしく頼む」
「けっ!」
しかし秤は差し出された手を弾く。
「俺はお前なんかと仲良しこよしをするつもりはねぇ」
第一印象は最悪と言える。
先程の先制攻撃の件を謝る事はせず、晴明を頑なに拒否をした。
「そうか、気分を害して済まない」
自身が原因では無いとは言え、天災を引き連れている事は自覚している晴明。
その場にいた全員に向けて謝罪する。
また何か言いそうになる秤の口元を、鬼札が御札で抑える。
これ以上は何もするなと言う警告であろう。
秤はそのまま無言で席へと戻る。
「ごめん……貴方は悪くないのは分かってる……」
それだけ言うと鬼札と星も自身の席へと戻る。
「さて、今日の実戦訓練だけど二人一組でやってもらう
綺羅羅と御影ペア、そして金次と晴明のペアだ」
整備されたグラウンドに立つ二人。
晴明と秤はポジションにつき、軽い準備体操していた。
「(初めての実戦……正直不安だが、やるしかない)」
つい先日までは呪いとも縁がない一般人だった。
覚悟を決めて、この危険な世界に飛び込んだのは紛れもない晴明自身。
この程度の障害を乗り越えずして、呪術師には到底なれないだろう。
「一言言っておくが、俺はてめぇが術師になりたてだからといって手加減するつもりはねぇ」
「無論だ、全力でやらなきゃ意味が無い」
秤は皮肉のつもりで言ったが、言われた晴明は意に返さずやる気を見せる。
思った反応が返って来ないのもあって舌打ちしたのは内緒。
「それでは両者位置について」
審判を務める五条。
この時ばかりは茶々を入れずに、真面目にやっている。
「よーい」
高まる二人の緊張。
秤は呼吸を整え、余裕綽々な態度で構えを取る。
晴明は緊張する自身に喝を入れて、ボクシングスタイルの構えを取る。
「スタート!!」
開始の合図と同時、10m程離れた両者の距離を秤は一瞬で詰めて晴明の眼前にまで迫っていた。
余りにも早すぎるスピード。
晴明が気づいた頃には既に……
「オラァ!」
「ぐぅっ!?」
秤の拳は隙だらけの腹に突き刺さっていた。
そして伝わる衝撃と痛み。
晴明は大きく吹き飛ばされ、地面を転げ回る。
「何だよ……たった一発でKOか?」
秤にとって今の一撃は呪力を少し込めただけの右ストレート。
同レベルの呪術師ならば、受け止めるか回避出来る程度の威力。
晴明と秤のレベルの違いが顕著に表らわれている。
「(くっ……早すぎる
全力で来いと言った手前、流石にキツイとは言えない)」
あの触手の呪霊の一撃を喰らった時とは違い、咄嗟に両手を腹に下げてガードをした。
それでも威力は相殺できず、大きく吹き飛ばされた。
痛みで全身が痛むが何とか立ち上がる晴明。
「何だよ、ふらふらじゃねぇか!」
秤はそんなの関係ないと言わんばかりに再び距離を詰めて、今度は両手を使ってのラッシュを仕掛ける。
またしても攻め込まれた晴明は、全身に力を込めて耐える姿勢を取った。
しかし秤が繰り出すラッシュに防戦一方どころか、防御が崩されそのまま無防備の状態で殴られる。
容赦も微塵もない拳の雨。
最早訓練とは言えるものでは無い。
「はぁ……はぁ……」
何とかラッシュを耐えきったが、もう既に虫の息。
立っているのがやっとだと誰がどう見ても明らかだ。
「なぁ、ここを辞めちまえよ
呪術師として任務に出たらこんなボコボコにされるどころじゃすまねぇぞ」
秤の言うことは確かだ。
呪術師は常に死と隣り合わせ。
人の命など簡単に奪われてしまう世界だ。
「…………断る」
晴明ははっきりと言い返す。
たった数分しか経って無い内に虫の息になってる男がいう言葉ではない。
それは他でもない晴明自身がよくわかっている。
「確かに俺はまだ半端者だ…………お前らからしたら敬遠したい存在なのかもしれない
でも…………一人は嫌なんだ」
ポツリポツリと漏れる心の奥底にしまい込んでいた本音。
どれだけ表面を取り繕っても、自身の感情を押し殺しても、求めてやまいないものがある。
「いつも一人ぼっちだった……平気なつもりで毎日を過ごしていても…………心は乾いたままな事に気づいた
誰にも必要とされず、流されて生きるのが嫌になった」
孤独。
一人でなんでも出来る様に見えるがそうでは無い。
誰かに頼るということもせず、また頼られるということもなかった為にそうせざるを得なかっただけだ。
故に晴明は愛されたかったのだ。
「誰かに必要とされたい……誰かと笑いあって一緒に過ごしたい……
そんなちっぽけな理由でも…………生き……たいと、思って……る……」
悲壮な眼で秤を見ながら本音を叫ぶ。
余りの迫力にその場にいた五条以外の全員が震えた。
「……だから…辞め……な……い…………」
だが晴明に限界が訪れる。
糸が切れた人形のように、ゆっくりと地面に倒れ込む。
既に意識はなく、啖呵を切った直後に気絶したようだ。
「(なんなんだアイツ……)」
一瞬だが戦慄させられた秤。
感じ取った晴明の魂の叫びは、彼を混乱させるには充分なものであった。
「訓練はここまでだ、僕は晴明を保健室まで連れていく
後は自主練しててくれ」
五条は倒れた晴明を肩に担ぐと保健室の方へと歩く。
「てっきり晴明に手を貸すと思ったけど、どうして出てこなかったんだい?」
誰もいない虚空に喋りかけると姿を消していた玉藻の前が五条の頭上に再び姿を現す。
「手を貸そうとは思いましたよ
ですが簡単に貸してしまってはご主人様の為にはなりませんし、寧ろ邪魔をするなと彼なら言うでしょうね」
玉藻の前は晴明にゾッコンだ。
だが甘やかしすぎるつもりは無いスタンス。
「あっそう、まぁ手を出してくれなくて良かったよ
金次達にとっていい起爆剤になってくれた」
彼らはまだまだ発展途上。
晴明が負けるとわかっている前提で訓練を課した。
全員の成長を促す結果となり、五条も笑顔で喜んでいる。
「あら~性格悪い貴方でも感謝の言葉を述べるなんて……
明日は大雨でもふるんですかね~?」
軽い煽り口撃をすると玉藻の前は再び姿を消す。
かくいう玉藻の前も晴明のボロボロな姿に興奮したのは内緒である。
[to be continued]
秤の情報が少ないから、スピンオフで書いて欲しいと思ってます。
晴明くんは乙骨達の一年せんぱいとなります。
次回も読んでみてください。