白鳥歌野の懸命な呼びかけと勇者のパワーによる力押しで、巨人の闇の中にあった藤森みなとはついにその正気を取り戻した。
四体に分裂した進化型バーテックスと向かい合うように、イエローカラーの瞳に変化した巨人、そして勇者の歌野が対峙する。
「さあ、反撃のターンよ!」
『よっしゃ!』
構えをとる巨人に向けて、バーテックスは列をなして突っ込んできた。
巨人の肩に乗る歌野は、中にいるみなとの意識に向けて作戦を伝える。
「敵の本体は、一番奥の奴よ! 前の三体はスローしちゃって!」
『放り投げろってことね。オッケー!』
図らずもこれまでの畑作業で
「ラストの一体は、動かないようにホールドしてちょうだい」
『シュアッ』
歌野の指示に従って、巨人は最後に迫った進化体を、ガッチリと抱えるようにして拘束する。
そして、少女は必殺の威力を持った鞭──藤蔓を振るって、リーダー格となる進化体の心臓部を、一撃のもとに破壊したのだった。
「お疲れ様、みなと君」
「お疲れー」
本体であるバーテックスが活動を停止したことで、そこから分裂した残る三体の怪物も、そろって枯れ木がボロボロになるように崩れ去った。
戦いが終わり変身が解けたみなとの元へ、歌野が駆け寄ってくる。
「歌野……ごめん!」
少年はいきなり叫ぶように言うと、歌野に対して深々と頭を下げた。
みなとの突然の行為に、少女はあたふたと聞き返す。
「え!? ホワイ!? どうしたの!?」
「巨人になれば暴れてるだけでなんとかなるなんて言ったけど、きっとどうにもならなかった。お前がいてくれなかったら、多分、俺死んでた」
みなとは、自分の間違いに気づいたんだと歌野に語る。
「世界がこんなことになって、俺はもう死んでもしょうがないかって諦めてた。でも……俺が死んだら、歌野も水都も、他の皆も死んじゃうかもしれないんだよな」
「…………」
「今になって急にだけど、気がついた。俺だけが死ぬならいいけど、他の皆は無関係なんだって。巻き込めないよな、そんなの」
「みなと君……」
「巨人が暴走したのも、俺が流されるままに変身したからだと思う。でも、次からはそうならない」
少年はそこで、やっと頭を上げる。
「俺、もっと真面目に戦うよ。歌野にも負担をかけない様にする。皆には、生きていて欲しいから」
「……そうね。ぜひ、そうして」
みなとの言葉に賛成しつつ、歌野は一つの注文を付けた。
「でも、皆のことだけじゃないわ。みなと君にも生きていて欲しいから、本気でバトルしても、けっして無理はしないで。オッケー?」
「……ああ、オッケーだ」
ほほ笑みを交わし合う二人は、これで真に、共に戦うパートナーになれたと思うのだった。
そうして
「スゴイよ、うたのんも、お兄ちゃんも! 二人はやっぱり、本物のヒーローだね」
水都は自分のことのように喜んで、三人はささやかな記念のパーティーを開いた。
戦いや畑での作業等、力仕事に加われない彼女は、日頃の料理当番を任されている。
そんな彼女が腕によりをかけて作りだした
「やっぱりか! やっぱりコイツか!!」
みなとは、ツッコミを入れるが如く言い放つ。
いくら信州名物とはいえ、ここ数日……どころか数週間、あるいはもっとか。
食卓には朝昼晩の毎食ごとに、必ずこの麺料理が顔を見せていた。
歌野も水都も根っからの蕎麦好きで何日続こうが気にしていなかったが、そこまででもない彼はさすがにウンザリした顔を隠せない。
「もう蕎麦はコリゴリだよ~!」
少年の抗議にも似た叫びは、夜の闇に吸い込まれるように、むなしくも消えていった。
◇ ◆ ◇ ◆
藤森みなとが白鳥歌野と協力して、初めてバーテックスに勝利を収めた日から半年近くが経過した。
この間にも星屑や進化体がたびたび襲来しては、巨人と勇者がこれらを打ち倒す日々が続いていた。
もちろんそれは、二人の力だけによって成された事ではない。
藤森水都が受ける神託によって、敵の襲来位置やタイミングが察知できた事も大きく
「そういえば」
ある時、みなとが言った。
「巨人の名前、結局どうする?」
「ウルトラ・マンがダメなら、いっそそのままビッグマンにでもしちゃう?」
「名前の迫力は無くなってるね」
水都は苦笑を浮かべながら、暗に「その名前はいくら何でも変だろう」ということを伝えた。
以前と変わらず、これぞというネーミングはすぐには浮かばない。
「これ、ヒントになると思うんだけど」
みなとが、アイディアの種になればと発言する。
「変身する時っていつも心の中で、『
「トリガー?」
「そう。なんて言うか、闇の力を解き放つために……『世界を闇に包み込む引き金を引く』ような感じ」
「闇の引き金……」
歌野は顎に手を当て、思案顔を浮かべる。
やがて、パッと表情を明るくし
「いいネーミングが思いついたわ!」
と言った。
兄妹は歌野の考えた名前に耳を傾ける。
「『トリガーダーク』っていうのはどう?」
「……
「いいんじゃないかな。私はカッコいいと思うよ」
「そうだな。確かに、いい名前だ」
名前を付けられた本人も納得したことで、ついに闇の巨人は「トリガーダーク」という個人を現す名称を与えられる事となった。
心なしか、みなとも自分の持つ力に具外的な名前が付いたおかげで、より強く巨人──トリガーダークと結びついた様な感じを覚えた。
この分なら、恐らくもう意識を失って暴走するようなハメにはならないだろう。
安心感を覚えたみなとはその余裕でトリガーダークとしての力を存分に振るい、今日もバーテックスとの戦いに身を投じる。
そんな戦いの間を
全ては歌野の
そしてついに彼らの努力は実を結び、広大な荒れ地を畑となる土壌へと生まれ変わらせることが出来た。
「トリガーダークの力を上手いこと利用できれば、もっと楽に耕せたかもしれないけどな」
畑を見渡しながら、みなとはつぶやくように言うが、歌野はそれに異を唱える。
「私たちだけの力で達成できたことに意義があると思うわ。何事も楽をしてはノーグッドよ」
「それにあんなおっきい体だと、畑の土だけを柔らかくするって正確な動きは難しかったと思うよ?」
水都の言うように、おそらく巨人のサイズでは、そこまでの精密で繊細な動作は厳しいものがあっただろう。
「やっぱ戦いにしか使えんか~」
「それだけで、私は十分に助かってるわ」
少年の横に並んで畑を見つめながら、歌野は感謝の言葉を口にする。
「寝込んでる人たちもうたのんだけじゃなく、お兄ちゃんが変身して戦ってる姿を見て、少しずつだけど元気づけられていってるみたいだよ」
水都が言うのは、バーテックスの襲撃から生き延びたものの、怪物の姿を見て恐怖を覚えてしまった人々のことだ。
皆生きる気力を無くしてうなだれるばかりだったが、中にはトリガーダークという大いなる力が味方してくれることを知り、少なからず前向きになれた者もいるようだった。
「闇が由来の力ってのが、ちょっと心配ではあるけどな」
妹のフォローを聞いて嬉しく思いつつ、みなとはそんな不安を吐露する。
「ライトサイドでもダークサイドでも、パワーはパワーよ」
「それを使うのがお兄ちゃんなら、きっと大丈夫だと思う」
少年の
それは単に楽観的な訳ではなく、それを扱うのが藤森みなとという人間なら、きっと正しく使いこなしてくれるだろうという信頼の表れでもある。
耕し終えた畑には、三人で少しずつ野菜の種を
大根やきゅうり、人参に玉ねぎなど、代金は皆を守ることで許してもらおうと思いつつ、倒壊しすでに潰れてしまったホームセンターの跡から拝借したものだ。
土には栄養となる肥料を混ぜて、あとは成長を待つのみ。
「結界の中には土地神様の力がいきわたってるから、地面の中にもそれがあって、野菜の成長も普通よりずっと早くなるはずだよ」
とは巫女である水都の言葉。
彼女が言ったように、それほど日を置かずして、地面からは急速なスピードで芽が出てきたのだ。
三人は喜んだ。
これで歌野の言う自給自足によって、食糧が不足することは無くなる。
……が
「これはダメね」
しおれた作物の残骸を見ながら、歌野は残念そうに言った。
確かに蒔いた種から芽は出たものの、その先に野菜の身が実ることは無かったのだ。
「土地神様の力は、ちゃんと大地にも伝わってる。なのになんで……」
「多分、俺たちのやり方の何かが悪かったんだろうな」
肩を落とす水都に、兄は事実だけを伝えた。
「みーちゃんもみなと君も、そんなメランコリックにならないで」
「めらん……なに?」
「憂鬱って意味じゃないか?」
すっかり消沈したムードが漂う中で、白鳥歌野だけは、まだ諦めていなかった。
彼女は普段通りの笑みを浮かべ、兄妹を励ます。
「一度でダメなら二度、三度……何度だってトライすればいいじゃない!」
「うたのん……そう、だよね」
「他に手はないしなぁ」
歌野の明るさに感化され、水都もみなとも、うつむいていた顔を上げる。
「そうそう。どんな時も忘れちゃダメなの。スマイル、スマイル!」
ニッコリと
◇ ◆ ◇ ◆
失敗に終わった作物を、どうすれば実らせることが出来るのか?
みなとの提案によって三人は、農業に関する本を読むことで、知識の面からの補強を行っていた。
やみくもに実作業にかかり続けるよりは、経験者の歌野でも知らないことに気づけるかもしれないという望みをかけてのことだ。
そんな勉強の最中に、水都へ敵の襲来を告げる神託が降りた。
「二人とも、気を付けて。今回は、なんか……いつもと違うの」
戦いの場へ向かおうとする兄と歌野を呼び止める水都。
その表情には大きな不安が色濃く浮かんでいる。
「違うって、どういうこと?」
「神託は
一拍の間を置いて言葉を続ける。
「これから来るのは、バーテックスじゃないかもしれない」
「星屑じゃなくて、進化体が攻めてくるってことか?」
みなとの言葉に水都は首を横に振る。
「星屑とも進化体とも違う、もっと
巫女の予言を不気味に思いつつ、歌野とみなとは前戦へと向かった。
見上げる空からは、いつも通りに白い星の屑が舞い降りてくる。
がこの時、星屑は普段とは違う行動を見せた。
いつもなら群れを成して、御柱を破壊しに結界の方へ侵攻してくるのだが、星屑はそのまま潜るように地面の底へと沈んでいくではないか。
「何やってんだ、アイツら……?」
「分からないわ。でも、なんだか不吉なフィーリングがする」
空から降った星屑のすべては地底へと消えた。
事態を見守る二人の前で、やがて
『GSHYAAAAAA!!』
大地を割り裂いて、地の底から這い出てきたモノ。
ビル程もある巨体に太い尻尾、頭部に生えた特異な形状の角はヘラジカを思わせる。
それはまさに……
「「か、怪獣!?」」
歌野とみなとの声が重なった。
そう。
星屑が目覚めさせたのは、この
かつて人類の前に初めて姿を見せた、超古代の怪獣──『デスドラゴ』と呼ばれる種であった。
デスドラゴは星屑と同じ行動原理を持っているのか、諏訪を守る結界の方へと足を向ける。
怪獣の歩みを止めようとする勇者の少女を、みなとはとっさに制止した。
「大きさの差がエグ過ぎる。いくらお前が勇者でもキツいだろ」
「じゃあどうするっていうの?」
「まずは俺が先に出て、あの怪獣の力を削る。前に戦った増える進化体の時みたいに、
そう言って少年は、変身アイテムである「エンシェントスパークレンス」を取り出した。
余談であるが、トリガーダークに変わるために使う古代の石器に、この名を付けたのも白鳥歌野だ。
『変身する時に、体の中で闇の力がスパークする感じがする』
とみなとが言っていたことと、
少年はエンシェントスパークレンスを高く
「未来を染める漆黒の闇……トリガーダーク!!」
石器から紫色のイナヅマが
『シュワッ』
一度最後まで組み終わったプロットを、大幅に修正しつつ本編も書き進めているため、投稿するのに時間がかかってしまいました。
今後も間が空いてしまうかもしれませんがご了承ください。