闇の引き金   作:ほろろぎ

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第五話 少女の勇気と、見えてきた希望。

 超古代に人類の前に初めて姿を現した怪獣──「破壊暴竜デスドラゴ」が、今再びこの世界に出現した。

 対するは、「トリガーダーク」という名を与えられた闇の巨人。

 

 二つの巨体はぶつかり合う。

 片や人類を滅ぼすために。

 片や人々を守るために。

 

 巨大生物同士の取っ組み合いを、離れた位置から白鳥歌野は辛抱強く見守っていた。

 

 彼女もまた、人を守る勇者という役目に選ばれた存在である。

 が、トリガーダークに変わる前の藤森みなとが言っていたように、怪獣と歌野ではサイズの差が開きすぎている。

 迂闊(うかつ)にこの戦いに加わっても、それは逆に巨人の動きを制限することになるかもしれない。

 

『ウワーッ!』

 

 歌野の前で巨人が吹っ飛ばされた。

 デスドラゴの豪腕によって、トリガーダークは地面に叩きつけられる。

 

 やはり、みなと一人では分が悪いようだ。

 歌野は今こそその時だと参戦しようとするが、

 

「待って、うたのん!」

「みーちゃん!? なんでここに!?」

 

 直前で藤森美都に呼び止められ、たたらを踏んで(とど)まった。

 ここまで走って来たのだろう、美都は肩で息をしながら急を告げる。

 

「さ……さっき、土地神様から神託があって……。結界の外から、避難してくる人がいるの……!」

「なんですって!?」

 

 あそこに、と美都が指さす方に視線を向ける歌野。

 確かにデスドラゴのいる足元、その付近の道を数十人の集団が大慌てで走って来るのが見えた。

 

「なんてこと……」

 

 歌野は焦った。

 このままでは怪獣に踏みつぶされてしまう。

 それでなくても、巨人との戦いに巻き込まれればひとたまりもない。

 

 避難民に気づいたのはトリガーダークも同じだった。

 

『シュワッ』

 

 巨人はすぐさま起き上がると、デスドラゴに組み付いて行動を(はば)む。

 怪獣が暴れまわって、その被害が避難者に向かないように。

 そのままトリガーダークは歌野に顔を向け、なにかを訴えているようだった。

 

「……分かったわ、みなと君。今のうちに皆を避難させろってことね」

 

 視線の意図を悟った歌野は迅速に行動を開始する。

 デスドラゴの相手をトリガーダークに任せ、全速力で外からの避難者の元へと飛んでいった。

 

「白い化け物の次は怪獣……一体この世界はどうなっちまったんだ……!?」

 

 デスドラゴを目の当たりにして逃げ惑う人々の前に、勇者白鳥歌野は降り立つ。

 

「皆さん! あと少し進めば、怪物から逃れるための結界がある場所へ着きます! 私が先導しますから、ついて来てください!」

 

 突然現れた歌野に目を白黒せる避難者たちだが、少女の有無を言わせぬ口調に、みな黙って従う。

 歌野は避難者を誘導しながら、懸命に怪獣の足止めに徹する巨人に視線を送る。

 

「みなと君、もうちょっと耐えてて」

 

 トリガーダークはデスドラゴを全力で押さえつけていた。

 鋭い爪で引っかかれても、強靭(きょうじん)(あご)で噛みつかれても、一歩も下がらず立ちふさがる。

 

 そんな巨人を鬱陶しく思ったのかデスドラゴは、その身に秘められた力を開放する。

 ヘラジカの様な複雑な角が、バリバリと音を立てながら帯電を始めた。

 

『GSHYAAAAAA!!』

『グワーッ!?』

 

 怪獣は角から青白いイナヅマ状のエネルギーを放射し、トリガーダークを攻撃する。

 電撃を浴びた巨人は、体から火花を散らす。

 ついには苦悶の声を上げ膝をついた。

 

「お兄ちゃん!」

 

 遠くで戦いの行方を見守っていた妹の水都の、悲痛な叫びが響く。

 怪獣は構わず、トリガーダークに電撃を浴びせ続けた。

 

『グアアア……!!』

 

 イナヅマに撃たれ、体が(しび)れ動かせない。

 このままでは一方的になぶられるだけだ。

 

「モンスター、そこまでよ!」

 

 そこに、避難者を安全な場所まで誘導し終えた歌野が帰って来た。

 少女は高速で巨人と怪獣の間に割って入り、鞭を振るってデスドラゴの顔に一撃当てて(ひる)ませる事に成功した。

 

 体の自由を取り戻したトリガーダークと歌野、デスドラゴとの戦いは続く。

 

 親友が兄を助けに参戦してくれたことに安堵を覚えつつ、藤森美都は離れた場所からそのまま、戦いの行方を見守っていた。

 歌野が加わったことでトリガーダークの側に余裕が生まれていることが、水都にも感じ取れた。

 このままなら、やがて二人は勝ちを収めることが出来るだろう。

 

 そんなことを水都が考えていた時、神託とは似て異なる予感めいた感覚が、新たに彼女に(くだ)された。

 

「ぇ……? まだ、逃げ遅れた人が取り残されてる……?」

 

 感じる気配を追って、水都は視線を戦いの場へ巡らせる。

 果たして()()は彼女の視界に入った。

 

 戦う巨人と怪獣の足元、崩れた建物の影に──、一人の子供がうずくまっているではないか。

 

「た、大変だ……!」

 

 水都はすぐに歌野に知らせようと思った。

 が、歌野もみなとも怪獣を相手にするのにかかりっきりで、とてもではないが呼び寄せられる状況にはない。

 しかしすぐにでも子供の元に向かわなければ、小さな命の保証はないだろう。

 

「どうしよう……どうしょう……」

 

 水都は焦りを覚える。

 この場合、どうするべきだろうか?

 少女はその答えに、内心ではもう気づいていた。

 

「……ッ!」

 

 水都はありったけの勇気を振り絞って、子供の元へ駆け出した。

 兄も歌野も助けが望めないなら、自分で何とかするしかないではないか。

 

 少女は運動不足な我が身を恨めしく思いながら、必死に足を動かして逃げ遅れた子供の元へと到着する。

 怪獣の迫力に腰を抜かして歩けない子供をどうにか立たせると、美都は横でフラつくその子の体を支えながら、すぐさま引き返し始める。

 

「だ、大丈夫だよ! あそこで戦ってるのは、私のお兄ちゃんと友達だから」

 

 懸命に子供を励ましながら走り続ける。

 一方戦いを続ける歌野たちの方では、彼女の持つ藤蔓がちょうど、デスドラゴの角の片方を破壊した所だった。

 

『やったぞ! これでもう電撃攻撃は……』

 

 撃てないはずだ、とみなとは思った。

 しかし現実はそう容易(たやす)くはない。

 

 正確な狙いはつけられなくなったものの、怪獣の放つ放電の威力は変わらなかった。

 狙えないならと、デスドラゴはトリガーダークと歌野がいる付近へ、所かまわずイナヅマを撃ちまくる。

 そしてそれは、まだ戦場から離れきっていない藤森水都らのいる場所も巻き込んでいく。

 

「き、きゃぁああああ!?」

「みーちゃんッ」

 

 歌野の視界に、イナヅマによって引き起こされた爆発に飲まれる、水都と子供の姿が映った。

 

「そ、そんな……」

『ウソだろ……美都……!?』

 

 巨人の視界を通して、みなとにも妹の姿が炎の中に消えていったのが見える。

 

『……アァアアアアアアアアアアア!!』

 

 トリガーダークの瞳が強く輝く。

 怒りに飲まれた巨人の両腕に、闇のスパークが(ひらめ)きはじめる。

 

 

 

 

 

 ──この世界には、「ゼペリ」と呼ばれる粒子がある。

 言葉の由来が失われるほどの昔からあるこの粒子(イオン)は、触れた物質に過剰なエネルギーを付与し、破壊してしまうという効果を持っていた。

 

 トリガーダークは両腕をLの形に組む。

 そこから巨人は、(ダーク)に反転したゼペリ・イオンを怪獣に向けて放射した。

 

 強烈な熱を(とも)なった破壊の光──「ダークゼペリオン光線」が、デスドラゴの体に命中する。

 怪獣は最期の咆哮を上げるも、その音すら飲み込んでデスドラゴの巨体は爆発、四散したのだった。

 

 

 

 

 

「みーちゃん!」

「水都!」

 

 戦いを終えた歌野とみなとは、急ぎ水都と子供がいた場所へ向かった。

 炎に巻かれたかに見えた二人だったが、そこには……

 

「ぁ……お兄ちゃん、うたのん……」

 

 怪獣の攻撃に巻き込まれたにもかかわらず、未だ健在の姿があった。

 しかも二人の周りには、諏訪を守るために張られている結界の様なバリアが展開されているではないか。

 

 バリアはやがて消え、やはりそこには怪我一つない水都らの姿が。

 歌野は親友の無事を喜び、たまらず抱擁する。

 みなとも黙って嬉し涙を一筋流していた。

 

「良かったわ、みーちゃんが無事で! ……それにしても、さっきのバリアは何だったのかしら?」

「多分、土地神様が守ってくれたんだと思うよ」

 

 水都はそう言い、心の中で土地神に深い感謝をささげた。

 

「逃げ遅れた子供を助けに来たのは勇敢だけど、もう危ないことはするなよ?」

 

 彼女の勇気を誇らしく思いつつも、兄であるみなとはそう注意する。

 家族が危険な目に合うことほど心臓に悪いものはない。

 

 戦いを終えて結界の中に戻った三人を出迎えたのは、彼女たちが助けた避難民からの感謝の言葉だった。

 

「なにがなんだかわからないけど、君たちのおかげで助かったよ!」

「なにかお礼をしたいんだが、こんな状況じゃ大したことも……」

「いえいえ、そんなお礼だなんて」

 

 助けてくれた恩を返したいという避難者の言葉を、歌野は当然のことをしたまでと断ろうとした。

 そこで、みなとが横から一つの案を持ちかける。

 

「お礼なら、俺たち今野菜を育てようとしてるんで、それを手伝ってください」

「野菜を……?」

 

 話しのスジが見えないと疑問符を浮かべる避難民たちに、歌野たちは事の説明を(ほどこ)す。

 

「ああ、そんな事でいいなら喜んで協力させてもらうよ。ただ私たちも畑なんて触ったこともないから、なにをどうすればいいのか、さっぱり分からないんだが……」

「そこら辺は私たちに任せてください! こう見えて農業については一家言ありますから」

 

 胸を張って自信満々に宣言する歌野。

 みなとと水都も、本で読んで知識の量も増え、彼女のサポートを十分にこなせるだろう。

 

 こうして三人は、新たに諏訪に加わった人々の助けを借りて、今一度野菜作りに着手するのだった。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 それから、あれよあれよという間に時は流れた。

 今は二〇十八年。季節は夏。

 

 相変わらず、白鳥歌野は畑作業にかかりっきりだった。

 しかし今はもう一人ではない。

 藤森兄妹に加え、外から諏訪へと非難してきた人々の協力もある。

 

 それだけではない。

 バーテックスから諏訪を守り懸命に再起を呼びかけ続けた歌野の声に応えるように、一度は心折れた諏訪の住民も再び立ち上がって、今は彼女らの力となってくれていたのだ。

 

「皆さん、そろそろ休憩にしましょう!」

 

 歌野の声で、畑を耕していた他の人々も手を休める。

 

「いや~、今年も無事に育ってくれたねぇ」

 

 手伝いの村人はそう言って、色とりどりの作物を実らせた畑を、感慨深げに見つめる。

 そう。

 沢山の人たちの協力と歌野らの努力の甲斐あって、ついに彼女らが取り組み続けた自給自足の生活は実を結び、今や安定の軌道に乗ったのだ。

 

「はい、うたのん。お疲れ様」

「ありがと。やっぱり、みーちゃんの作る麦茶は最高ね!」

 

 歌野は、水都から手渡された冷たい麦茶を一息に飲み干して、そう言った。

 隣でその様を微笑(ほほえ)まし気に見ながら、水都は独り言のようにつぶやく。

 

「……すごいね、うたのんは」

「ホワイ、なにが?」

「畑のこと。うたのんが皆を励まし続けたおかげで、こうして今も生きていられる」

「そんなオーバーな……」

「全然オーバーじゃないよ。私とお兄ちゃんだけだったら、絶対こうはなってなかったもん」

 

 畑だけではない。

 皆が今もこうして明るく過ごせるのは、白鳥歌野という存在による所が限りなく大きい。

 それは水都も兄のみなとも、他の人らも認めるところだ。

 

「おぉーい!」

 

 休憩中の少女らの元へ、藤森みなとが帰って来た。

 少年は他の大人たちとともに、山へ入って猟を行っていたのだ。

 

「収穫は?」

「これだけあれば、しばらくは大丈夫だろ」

 

 獲ってきたのは、野兎や野鳥など。

 干し肉にすれば日持ちもして、貴重なタンパク質のエネルギー源となる。

 

 猟銃などは無く、主に動物を捕獲するのはみなとの役目である。

 大人たちが獲物を捜索。

 発見ののち追い込んでから、みなとがトリガーダークの力を使い、指先から電撃の様なものを飛ばして獲物を気絶させる、という方法をとっていた。

 

 

 

 

 

 敵の襲来は、デスドラゴを打倒して以来ピタリと止まっていた。

 進化体はおろか星屑さえも姿を見せない。

 不気味なまでの静けさは、逆に三人に忍び寄る不安を感じさせていた。

 

 デスドラゴが現れたあとの勇者通信で、四国の若葉はこう言っていた。

 

『恐らく天の神は、バーテックスより強力な存在である怪獣を使うことに、方針転換したんだろう』

 

 彼女の予想が正しいのかは、まだ分からない。

 それでもみなとら三人は、このまま何事もなく穏やかな日々が過ぎていくことを、強く願った。

 

 

 

 

 

 ──だが、それは叶わぬ望みだったのを、彼らはすぐに思い知ることになる。




 みーちゃん達を守ったバリアは当初、前世の巫女さんの体内に残ったエタニティコアの力を無意識に使ったみーちゃん自身が張った物、というプロットでした。
 書いてる内に、みーちゃんは神託以外の特別な力が無い一般人寄りなキャラであることに意義があるから、そこに特殊な力が使えるようになるってのは違うくね?となり変更しました。
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