闇の引き金   作:ほろろぎ

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第六話 最後の休暇と、光の超人。

 デスドラゴの出現をきっかけに、それ以降も諏訪には、天の神の力によって蘇ったゴルザやメルバなどの超古代怪獣が、幾度も攻め込んできた。

 しばらくのあいだ敵の襲撃が止んでいたのは、天の神がこれら怪獣の調整に手を割いていたためであろう。

 

 闇の巨人──トリガーダークに変身できる藤森みなとと、勇者の力を持つ白鳥歌野。

 そして巫女の藤森美都は協力し、たった三人だけでどうにかこの外敵たちから、諏訪を守り続けてきた。

 

 敵から身を守るための結界の中、諏訪の内のみでの自給自足の生活のため、彼らをはじめとした村民は協力して畑を耕し、その日の(かて)を得る。

 みなと達はその合間にやって来る敵怪獣と戦いを続け、また野菜を育てる日常へと帰っていく。

 

 そんな生活の繰り返しが続き、今は二〇十八年の九月。

 とうとう彼らの日常は、終わりの時を迎えようとしていた。

 

「水都、大丈夫か!?」

 

 釣り糸が切れたみたいに力を失い倒れ込む妹を、藤森みなとはとっさに抱きかかえるようにして支えた。

 少女に今また、土地神による神託が(くだ)されたのだ。

 

 そっと水都の体を床に降ろしつつ、みなとは問う。

 

「神託って、どんなだった?」

「……光が」

 

 水都の顔は病気にでも(かか)ったかのように、酷く青ざめていた。

 

「とても強い光が、世界のすべてを飲み込んで、消し去っていく……」

 

 少女は震える声で、懸命に予知の内容を口にする。

 抽象的なのは、神からのお告げが具体的な言葉ではなく、漠然(ばくぜん)としたイメージで伝えられるためだ。

 

「怖い……怖いよ……」

「みーちゃん、大丈夫よ。大丈夫だから」

 

 真冬に冷水を浴びせられたがごとく、ガタガタと歯を鳴らして(おび)える親友を、歌野は優しく抱きしめながら声をかける。

 妹のこれまでと全く違う姿を見て、みなとは内心にとても大きな不安を覚えた。

 

 

 

 

 

 巨人と勇者のたび重なる抵抗によって、ついにしびれを切らした「天の神による総攻撃」。

 その神託を受けた水都は、以来ふさぎ込むことが増えた。

 部屋に引きこもって、室内からは時たま、彼女のすすり泣くような声が漏れ聞こえることもある。

 それほど、総攻撃のイメージは少女にとって強烈だったのだろう。

 

「死ぬかもしれないってことを、強く意識しちゃったんだろうな……」

 

 兄のみなとは、妹の様変わりに静かに心を痛めていた。

 それは少女の一番の友人である白鳥歌野も同じだった。

 二人はどうにか水都の苦しみを和らげることは出来ないかと考えあぐね、ある時そのタイミングがやってきた。

 

「お兄ちゃん……うたのん……」

 

 久しぶりに水都が部屋から顔を出し、二人の前に姿を見せたのだ。

 泣き()らしたように目は赤く、寝不足なのかクマも出来ている。

 よっぽど思いつめていたのだろう。

 少女の姿を見て歌野とみなとは、久々に顔を見れたという喜びよりも、彼女の様子を不憫(ふびん)に思う気持ちの方が強かった。

 

「ごめんね、心配かけて……」

「まだ万全じゃないだろ。無理するな」

「そうよ」

 

 水都の方でもみなとらへ、これ以上迷惑はかけられないと思ったのだろう。

 が、無理している様が分かりすぎるほどに分かる。

 妹の支えになってやれない自分を不甲斐なく感じつつ、みなとは少女の頭を撫でてやった。

 

「伝えなきゃって思って。総攻撃まで、あともう何日も無いってことを」

「そっか……もう、それほど時間も残されてないのか」

 

 水都の言葉に、みなとは静かに目をつむった。

 そして、沈み切ったこの場の空気を換えるように言う。

 

「ならさ、次の戦いが始まる前に、三人でどっかに遊びにでも行かないか?」

 

 妹の沈んだ気持ちが、少しでも晴れてくれることを願っての提案だった。

 

「どこかって、どこに?」

「このご時世じゃ、ゲームセンターもムービーシアターもやってないわよ?」

 

 歌野の言うように、諏訪の娯楽施設はバーテックスの襲来以降、軒並み閉店状態だ。

 みなとは顎に手を当て考える。

 しばらくして、思いついた場所があった。

 

「諏訪湖を見に行くってのは?」

「あぁ……そういえば、子供の頃に家族で行ったことがあったね」

 

 みなとの提案を聞いて、おぼろげな記憶が水都の脳裏に浮かびあがる。

 

「二人の思い出の場所ってことね。私はどこでもオッケーよ」

 

 そうして翌日。

 三人は、バーテックスによって世界が滅ぼされて以来、初めてともいえる遊びのためだけの外出を始めるのだった。

 

 諏訪湖まではそう距離も離れていない。

 天気も良かったので、三人は散歩がてら、のんびりと歩いて向かうことにした。

 

「……暖かいね」

 

 久しぶりに太陽の光を浴びた水都がつぶやいた。

 この温もりに包まれていると、今までの自分が抱えていた不安が、ウソみたいに無くなっていくようだ。

 

「今日は絶好のお出かけ日和って奴だな」

「これも私たちの日頃の行いがいいおかげね」

 

 なんといっても多数の人命を救い続けているのだ。当然だろう。

 みなとと歌野も、ポカポカとした陽気を身に受けて、心地よい気分を満喫していた。

 

「……それにしても、今まで色んなことがあったわね」

 

 歩きながら、歌野が昔を懐かしむように言う。

 

「俺がトリガーダークに選ばれたのと同じタイミングで、歌野も勇者になったんだよな」

「みーちゃんは巫女さんになるしね」

「二人が戦ってる間に私はなにも出来ないのは、今でも歯がゆいよ」

「お前が待っていてくれるから、俺たちは戦えるんだよ」

 

 みなとの言葉に歌野も深くうなづく。

 

「最初の相手は星屑で、それが進化体になったと思ったら、次は怪獣だもんな」

「昔の地球にあんなのがいたなんて、今でも信じられないよ」

「トゥルース イズ ストレンジャー ザン フィクション、ね」

「……なんだって?」

 

 歌野のお得意の英語の意味がさっぱり分からないみなとが聞き返した。

 

「事実は小説より奇なり、ってことよ」

「日本語より英語の方が馴染みがあるのか……」

「うたのんって、もしかして頭良いのかな……」

「みーちゃん、それはちょっと失礼なコメントよ!?」

 

 三人の間に笑い声が上がる。

 

「ところで二人は、戦いが終わったらしたいことってあるかしら?」

 

 歌野は出し抜けにそう切り出す。

 水都の神託による総攻撃は、相当に苛烈を極めると予想される。

 下手をすれば、誰一人生き残れないかもしれない……。

 

 それでも尚、歌野が戦いのあとの事を話題にするのは、それを(かて)として少しでも生存の可能性を上げたいという一心でのこと。

 

「私には夢があるの」

「知ってるよ、農業王になるんでしょ?」

「いつも言ってるもんな」

「ノンノン。農業王だけじゃ収まらないわよ。その上の農業大王、さらには農業神だって目指して見せるんだから!」

 

 歌野の(かか)げるビジョンがどんなものか兄妹にはピンとこなかったが、それを堂々と口にする少女の顔は、彼らを照らす太陽よりも眩しかった。

 

「二人の夢も聞かせてよ」

 

 歌野は兄妹にも話しを投げかける。

 水都は、おずおずと口を開いた。

 

「私、夢なんて持ったこと無かったけど……今は思うんだ。うたのんの農業にかける情熱を、少しでも手伝えたらって」

「私のサポート……?」

「うん。うたのんが作った野菜を、世界中の人に届けたい。私、配達屋さんになりたいなって」

「それはグッドなアイディアよ! 私とみーちゃんがいれば、ワールドワイドの農業超神にだってなれるわ!!」

 

 水都の夢を聞いて、歌野は思わず少女の肩を抱き叫んだ。

 

「みなと君は? なにかビジョンは無いの?」

「うーん……残念ながら、今の所これっていう夢は」

「そう。焦ることは無いわ。バトルが全部終わって世界が平和になってから、ゆっくり考えればいいもの」

「ま、当面の夢は、トリガーダークの力で皆を守ること、だな」

 

 道中は喋りっぱなしという訳でもなく、沈黙の時も多々あった。

 それでもその静かな時間も、三人にとっては居心地のいい空間に違いない。

 

 弾む話と穏やかな静寂(せいじゃく)の中で、体感としてはあっという間に三人は目的の場所に到着した。

 諏訪湖の周辺は打ち捨てられたゴーストタウンのように(さび)れ、水都たちが過去に家族で来た時の華やかさは微塵(みじん)も残されていない。

 それでも、太陽の陽ざしを受けてきらめく湖面の美しさは、記憶の中のそれと変わらなかった。

 むしろ三人並んで見る今の方が、より綺麗な思い出として彼らの心の中に、長くとどまることだろう。

 

「ここは毎年、夏になると花火が上がるんだよな」

 

 みなとが言う。

 

「私は見たことないわね」

「じゃあ次に花火が上げられる時になったら、うたのんも一緒に見に来ようよ」

「いいわね。三人でまた、ここに来ましょう。必ずね」

「ああ、約束だ」

 

 約束が果たされる事は、無かった。

 

 

 

 

 

 そして、ついに総攻撃の日が来たる。

 

 大規模な戦闘が繰り広げられると見た三人は、諏訪に住む人々に呼びかけて、全ての住人を諏訪大社の本殿へと避難させた。

 社の前では歌野とみなと、水都も揃って敵の襲来を待ち構えている。

 

 直前で水都には、これから来るであろう敵に関する神託が降されていた。

 

「……敵は怪獣より圧倒的に強いって、土地神様が言ってる」

 

 少女は再び恐怖に身を震わせた。

 そんな彼女の肩に、歌野とみなとがそっと手を置く。

 二人の手の平の温もりが、水都の心を落ち着かせた。

 

「二人を信じてるよ。絶対に、私たちを守ってくれるって」

「もちろんよ! ピース オブ マインドで待っててね」

「?」

「安心しろって事だろ。もちろん、絶対に勝つから大丈夫だ」

 

 社殿の中に水都も退避させ、外に残ったのは戦える二人の子供だけ。

 そうしてついに、遥かなる深淵(しんえん)の彼方から、ソレは舞い降りた。

 

 全身に光をまとう、否──光そのものが人の形をとった者。

 天の神が最後に生み出したるは、怪獣ではなく、悪しきを払う聖なる御使い。

 すなわち、光の超人──『天使』。

 

「最期の敵がエンジェルだなんて、神様のジョークはきついわね」

「全然笑えねーけどな」

 

 

 すでに勇者服をまとい終えている歌野は、武器の藤蔓を構える。

 みなとはエンシェントスパークレンスを掲げ、巨人へと変わった。

 

 最後の戦いが幕を開ける。

 

「出し惜しみは無し。真っ向勝負でアタックしましょう!」

『シュワッ!』

 

 巨人と勇者は、天使目がけて地を駆けた。

 天使は身構えるでもなく、悠然(ゆうぜん)と二人の敵対者を迎えた。

 

「はぁああああッ!」

『デアッ!』

 

 歌野の振るう鞭が、天使の視界を潰すため両目を狙って蛇のように迫る。

 トリガーダークは全力を込めた右ストレートを、天使の胸目がけて放った。

 

 ガギィン、という音と共に両者の攻撃は、天使の周りに張られた結界によって防がれてしまう。

 

「これは、土地神様の使うバリアと同じ……!?」

 

 歌野は歯噛みした。

 

『ジュワッ!!』

 

 トリガーダークが、拳や蹴りを交えて連続的な攻撃を仕掛ける。

 力押しで無理矢理にでもバリアを壊してしまおうという魂胆だが、さすがは神の御使い。

 結界は強固で、巨人の渾身(こんしん)のラッシュを受けても、ヒビ一つ入らなかった。

 

 天使が、ゆっくりと手を上げる。

 

『グワーッ!』

 

 かざした手の平から撃ちだされた光線をモロに浴びて、トリガーダークの巨体は大きく吹き飛ばされた。

 たった一発で、闇の巨人が使う必殺の技──ダークゼペリオン光線と同等か、それ以上の威力があった。

 

「みなと君!? ……ガッ!?」

 

 気を取られたスキを突かれ、歌野の体に天使の巨大な拳が叩き込まれる。

 少女は勢いよく大地に叩きつけられた。

 そこに天使は追い打ちをかける。

 衝撃で動けない歌野を、容赦なく踏みつぶしてしまったではないか。

 

『歌野ッ!? くっそぉおおお!!』

 

 トリガーダークは立ち上がると、天使に体当たりを仕掛け少女の上から退()かせた。

 

「か……はっ……」

 

 土地神の加護があるとはいえ、勇者服だけでは天使の攻撃は防ぎきれなかった様である。

 なんとか息はあったが、ビル一棟が丸ごと体の上に落下したような衝撃を受けたのだ。

 少女の怪我は明らかな重傷だった。

 

『ヘアッ!!』

 

 トリガーダークは腕をL字に構え、密着した状態で天使に向けてダークゼペリオン光線を撃つ。

 やはり光線はバリアに(さえぎ)られ、敵の体には触れることさえ出来なかった。

 

 光の超人が、両腕を天に掲げる。

 そこから放たれた超高熱の電撃が、トリガーダークの体を貫き、全身を焼き焦がす。

 

 膝をついた巨人を、天使はゴミでも跳ね除けるように蹴り飛ばした。

 ほんのわずかな時間しか経っていないにもかかわらず、みなとも歌野も神の使徒相手に、完膚なきまでに叩きのめされてしまった。

 

『シュワッハッハッハッ』

 

 天使は仮面の様な顔を大きくゆがめて、人類の(はかな)い抵抗を嘲笑(あざわら)う。

 

 光で構築された天使の体が、さらなる輝きを持って周囲を照らし始めた。

 それは太陽のごとき高熱の炎となって、辺りにあるものを手当たり次第に燃やしだす。

 花も木々も、山々の自然もコンクリート造りの人工的な街並みも。

 一切合切の区別なく、天使は諏訪の地のなにもかもを焼き払っていく。

 

 審判の火。

 

 炎は諏訪を守る御柱にも引火する。

 超常の力をもった炎は木製の柱など瞬時に燃やし尽くして、ついにこれまで三人の子供たちが必死に守り続けた結界は……消滅した。




デスドラゴ以外の怪獣と戦う話もプロットにはあったんですが
バトルがそんなにあっても、それは読者の求めるものじゃないだろう
と思い直し、プロット修正時に全てカットしました。
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