闇の引き金   作:ほろろぎ

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最終話 光と、闇と。

 天の神の最終兵器である、光の御使い──「天使」が、諏訪の地に舞い降りた。

 「明日を切り開く、希望の闇」であるトリガーダークの対極にある超人、「未来を閉ざす、絶望の光」。

 

 天使によって(とも)された火は、この世界から人という邪悪を(はら)うためにもたらされる「審判の炎」。

 それは諏訪のなにもかも、ことごとくを焼き尽くす。

 わずかに生き残った人々が暮らす家屋も、みんなが協力して育ててきた畑の作物も、すべてが灰へと変わっていく。

 

「きゃぁああああ!?」

「うわぁああああああ!?」

 

 諏訪の住民を庇護する御柱も焼け落ち、彼らを外敵から守っていた結界も消えた。

 土地神は持てる力を動員して、人々が避難した諏訪大社の周りをバリアで(おお)う。

 

 最後の抵抗。

 それは(はかな)足掻(あが)きでしかなかった。

 

 社殿の中に、結界でも防ぎきれない高熱が襲い掛かる。

 熱風が建物の中を駆け巡り、喉が焼かれ息をするのも困難な苦しみに、避難者たちは見舞われた。

 

 八つあるという地獄の一つ、焦熱地獄の再現だった。

 

「も、もうダメだぁ……」

「俺たちは、ここで死ぬのか……」

 

 みな熱に焼かれながら、自らの最期を悟った。

 やはり、人が神の意思に逆らうなど不可能だったのだ、と。

 

「諦めちゃダメだよッ」

 

 絶望の中で気を失いつつあった者たちの意識を、藤森美都の声が引き戻す。

 

「私たちが諦めたら、外で必死に戦ってるうたのんやお兄ちゃんは、なんのためにこれまで頑張って来たの……!?」

 

 少女もまた炎に焼かれる苦しみを受けながら、それでも尚叫んだ。

 意識が朦朧(もうろう)とする中で、美都は死の恐怖に震える手を、必死で握りしめる。

 強く強く握りこまれた手の平からは、自らの爪が刺さり血が(こぼ)れた。

 

「……私、許さない」

 

 水都の目が吊り上がる。

 普段のどこかオドオドとした彼女からは考えられないほどに、その表情が歪む。

 

「この世界を、みんなを、私を……うたのんとお兄ちゃんを苦しめる天の神を……絶対に許さない……ッ」

 

 怒り。

 藤森美都の中に、これまでの人生で初めて、「神」という他者に対する「憎悪」の感情が湧きおこっていた。

 

「お、俺も憎い……神が憎いぞ……ッ」

「恨んでやる……呪ってやるぞ、神め……!」

 

 少女の怒りの感情が伝播(でんぱ)したように、他の人々からも天の神に対する負の思念があふれ始める。

 

 それは、外の炎の中で戦っていた歌野とみなとにも伝わっていく。

 

「……私だって、心底ベリーアングリーよ……!」

『俺も、トリガーダークの魂も……神を、絶対に許さないッ!!』

 

 傷つき果てた肉体を奮起(ふんき)させ立ち上がった二人を見て、天使のゴーグルの様な瞳に動揺が走った。

 歌野の体が真黒の闇に包まれ、トリガーダークの体に吸収されたのだ。

 それに続くように、社殿の中にいた水都たち生き残りの人々の肉体もまた、全てが暗黒の瘴気(しょうき)へと変わり巨人の体へ吸い込まれる。

 

『シュワァァ……』

 

 闇の巨人の肉体が、さらなる暗黒の闇に染まった。

 人の持つ恨み、憎しみなどの全ての負の感情を飲み込んで一つとなったこれこそが……()()()顕現(けんげん)

 名を、『トリガーダークトゥルース』。

 

『ハッ!』

 

 天使は、トリガーダークトゥルースに向けて直接、浄化の炎を噴射した。

 しかし炎は、真の闇で構成された巨人の肉体──暗黒の虚空へと飲み込まれていった。

 

『!?』

『デャアァァッ!』

 

 ダークトゥルースは一足で天使の眼前に移動、その顔面を殴り抜く。

 神の張る結界は、人の怨嗟(えんさ)の力の前に、難なく砕け散った。

 

 天使の顔はバリアごと破壊され、その原型をとどめていない。

 しかし首から下の肉体はまだ健在で、活動も停止していなかった。

 

『ゼアッ!!』

 

 手足を振り回して抵抗ともいえない抵抗を示す天使の体を、闇の巨人は無造作につかみ、引きちぎった。

 手を、足を、骨を、内蔵を。

 再生不可能なまでに五体をバラバラに解体されたとあっては、さしもの天の神の御使いとはいえ、その生命を止めざるを得なかった。

 

『シュワッ!!』

 

 トリガーダークトゥルースは、地面にぶちまけられた天使の残骸を、闇の波動で跡形もなく消し飛ばした。

 余波で、天使の燈した死の炎もかき消される。

 

 こうして、天の神による一連の諏訪への攻撃は、ひとまずの終結を迎えたのだった。

 

 

 

 

 

 戦いを終えて、ダークトゥルースから人々の体は無事分離された。

 歌野も水都も、みなとも元通りの人間の形を取り戻している。

 

 皆は焼け落ちた社殿の前で、呆然と立ち尽くしていた。

 不可能と思われた敵の進行を乗り越えられたこともだったが、なによりも──すべてが灰と化し消え去ったあとの諏訪の無残な景色が、彼らの目の前に広がっていたから。

 

「……完全勝利とは、いかなかったな」

 

 みなとは、そう力なくつぶやいた。

 隣に並ぶ歌野も、寂しげな顔を浮かべている。

 

「でも、みんな生きてるよ」

 

 二人を励ますように、水都が言った。

 それは元気を(よそお)っている訳でもなく、ただの事実だ。

 だがとても大きく、大切な事実だ。

 

「そうね。誰も欠けることなく生き延びれた。これって、とってもインポッシブルな出来事よね」

「……だな。ま、俺にすれば、良くやれた方か」

 

 歌野とみなとの顔に、わずかな笑みが生まれる。

 

「にしても、あのトリガーダークの力は、恐ろしいものがあったな」

 

 みなとは、エンシェントスパークレンスを見つめながらこぼす。

 それほど人の抱える憎しみの情は深く、強いということだろう。

 

「前にも言ったけど、ライトでもダークでも、パワーはパワーよ」

「今回もちゃんと扱えたんだし、お兄ちゃんならこれから先も大丈夫だよ」

 

 少女らの言葉に、みなとは強くうなづく。

 

「ああ。この力は手放さない。まだ、みんなを守るのに必要だからな」

 

 これまで地上を照らしていた太陽が、雲に隠れた。

 静かな陰の世界が訪れる。

 

「俺はこれから先もずっと……世界を守る希望の闇であり続ける!」

 

 

 

 

 

 しばらくして、水都に新たな神託が降った。

 天の神は渾身(こんしん)の計画を打ち砕かれた。

 そのため、かなりの期間で次の侵攻は停滞するだろう、と。

 

 生き残った諏訪の市民には、とらなければいけない道がある。

 それは

 

「みなさん、これより全員で、四国へ移動します!」

 

 リーダーとして、歌野がそう提示した。

 

 諏訪はもはや、人が住める地ではなくなった。

 ここまで徹底的に破壊しつくされては、どうやっても再復興は不可能だろう。

 

 ならば、まだ多数の生存者がいる四国へ避難するしかない。

 車などの移動手段がないため、徒歩での大移動になる。

 長い長い道のりになるだろう。

 

 それでも、生き残った人たちの中で不満を見せるものはなかった。

 新天地へ向けて、一同は歩み出す。

 

「できれば、諏訪で骨を埋めたかったけどね……」

 

 道中で、歌野は残念そうに漏らした。

 

「きっと新しい場所でも、そこが居心地のいい居場所になるさ。生きていれば、な」

 

 みなとは前を向いて、そう言った。

 もう後ろは振り返らない。

 守らなければならない人たちが、沢山いるのだから。

 

「きっと、乃木さんもビックリするでしょうね」

「いい手土産があるんだ。向こうも喜んで受け入れてくれるだろ」

 

 白鳥歌野という新たな勇者。

 藤森美都という二人目の巫女。

 トリガーダークという巨大戦力。

 そして、天使との戦いで得た戦闘データから開発されることになる、()()()()()()()()()

 

 これらの支援があれば、きっとこれから先に四国で起こるバーテックスとの戦いも、問題なく乗り越えていけることだろう。

 

 数か月の間歩き続け、諏訪の住民はやっとのことで四国へとたどり着いた。

 彼らを迎え入れた大社の職員は、驚きと共に来訪者の顔を見回した。

 

 長く苦しい戦いで傷つき、悲しみを味わってきただろう人々の顔は──それまでの苦労を欠片(かけら)も感じさせない、明日への希望に満ちた極上の笑み(スマイル)を浮かべていたのだから。




プロット見直してストーリー1/3くらい削った上に最終回はプロットとは全く別物となり、当初の想定とは大分違う感じで進みましたが……とりあえず完結はできたからよかった。(小並感)

当初はうたのんがヒロインになる予定でしたが、プロット修正と共にその展開はボツになってしまいました。

なんかちょっと不気味な感じで終わっちゃいましたが、ハッピーエンドにしたつもりです……
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