レジェンド・オブ・シンフォギア 通りすがりの奇跡の破壊者 作:サルミアッキ
あの日、想い出が消えぬ炎となって茫漠の脳裏に焼き付いた。その
『それが神の奇跡でないのなら、人の身に過ぎた悪魔の智慧だ!』
オレの父親は誇り高き錬金術師だった。村に蔓延する疫病を救うため、深山に踏み入り、仙草と呼ばれる『アルニム』を煎じ、錬成した薬で数多くの人間を救ってきた。いつも他者を慈しみ、錬金術師の責務を全うせんと、人と人が分かり合い、世界をより良いものにしようと尽力していた。
『裁きを!断罪の炎で、イザークの穢れを清めよ!』
———その報いがコレか?恩を受けたはずの村人は醜聞に踊らされ、錬金術師としての研鑽をただの奇跡と罵った。否、そればかりか父は資格無き奇跡に道理無しと、神の御業を騙る悪魔などという戯言によって刎頸され、異端審問による冤罪の煤となった。
『
『パパ!?いやだよ!パパ!パパ…!パパァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!!!!!!!!!』
火に焼かれていく姿に手を伸ばすが、父親の親友である男に引きずられて村を出た。逃げ出したのだ。
夜の丘に立ち、村の中心から立ち昇る黒煙を、涙も枯れ果てた瞳で見ていた。
『パパ……、なんで……』
『(……イザーク。守るよ、僕は。君との約束を)』
奇跡とは、蔓延る病魔に似た害悪だ。そうしてお前たちは病原を振り撒く。故に過去のオレは奇跡を殺すと誓った。オレの想い出の何もかも壊れてしまえばよかった。パパを誹ったこの世界を破壊するとしてもかまわなかった。だが……。
心の奥底では、オレ自身の内にいる何かが声高に叫び、道へ踏み出さんとするその脚を押しとどめているかのようだった。
オレは半ば強制的に所属させられた錬金術師協会で、死した父親の親友である『アダム・ヴァイスハウプト』の下、捨て鉢になりながらも研鑽を続けた。錬金術の研究だけが、愛しいパパとかつての私……今の『オレ』を繋ぐ糸だと思えたからだ。
『聞いたんだよ僕は、イザークに。天秤に掛けてもかねと、君と、そのイザーク自身の安全とを』
『……、それが、なんだ』
『答えたんだよ、そうしたら。秤にかけてはいけないものがあると、この世には、ね』
オレは、口を噤む。——パパが何を考えているのか。アダムが何を伝えたいのか、理解したくないからなのか、黙々と宝石を削り続けた。
パパが処刑されてからたった数年、世間は目に見えて異端審問の激化の一途をたどっていた。歴史の表舞台から追い遣られる錬金術師たち。無論オレにとっても例外ではない。
その日のオレは、不覚を取った。命の危機にさらされるほどの失態だった。よもやこれまでか、これで終わるのか———パパから託された命題も解くことができぬまま死ぬのだと、恐怖に身を強張らせた。
その時だった。
差し向けられた異端審問官らが、……奇跡を背負うと称する俗な権力者らの子飼い共が、蹴散らされる。オレの視界に、目に眩いマゼンタの鎧が映り込む。
『……大丈夫か』
『お前、は……?』
その姿は誰しもが心の中に宿す、普遍的な
その騎士を見ると、オレであって今のオレでない想い出が何かを訴えかける。
『がっ…ッ頭が……』
並行世界から記憶が流れ込むような、異世界から命が流転するような———いいや、正しくそれが事実なのだろう。
『いや、そんな……!これは……———!?』
そして、気付く。まるで鎖されていた真っ暗な部屋に、光が差し込んできたかのように、目の前の“戦士”を認識する。
『貴方は………
振り返った“騎士”の緑の瞳が、鏡のようにオレの姿を映す。
『———ふん。成る程、“大体分かった”。俺が
その“英雄”の手には、彼が使うライダーカードとは異なるカードが収まっていた。
『こいつをやるよ、小さい錬金術師。これは別世界のライダーが使う錬金術の道具だ。どう使うかは、お前に任せる。せいぜい頑張れ、元気でな』
そう言って、何の気紛れにかこの世界を通りすがった“彼”は、再び遠くの世界へと旅立った。ぶっきらぼうにも言葉尻を上げ、露悪的に振舞いながらも手を振って、銀のオーロラの向こうへ消えていった。
その日、久方ぶりの夢を見た。というのも、近頃は辺獄のような悪夢ばかりで、目を瞑っても眠れやしなかった。錬金術を発動させることで睡眠をせずとも生命活動に支障を出さぬようにしていたが、その夜だけは何かが違った。
———ここは?
かつて、オレという要素が表出する前……私だった時、パパと一緒に住んでいたこじんまりした家だった。オレの体躯は既に成長し、あの頃よりも一回り大きくなっていたはずなのに、どうしてだろう———酷く空っぽで広く感じた。
『キャロル、世界を識るんだ』
その時、背後から懐かしく、優しい声がかけられる。
———パパ!?
あの頃のままの姿で、パパが立っていた。
『いつか人と人が分かり合うこと———言葉では言い尽くせないその言葉こそ、僕たちに与えられた命題なんだ』
背も伸びたオレの頭に、パパは優しく手を伸ばす。男手一つでオレを育ててくれた、あの日と同じ暖かい手だった。
———パパをあんな目に合わせた人間を許せって言うのか…。そんな、そんなこと…。
『人間一人一人が、心の奥底に残ったその欠片を失わなければ……いつか、真実のそれを、取り戻すことができるかもしれない』
———パパ…。
『賢いキャロルには分かるよね、そしてその為にどうすればいいのかも』
———そうだ。『オレ』になる前、思い出す前の私は、パパに褒められるのがうれしくて、もっとパパの役に立ちたいと思って…。
その智慧で、パパだけじゃない……他の誰かを、もっともっと多くの人達を幸せにしていきたかったんだ。
パパはいつでも、誰かのために、誰かの幸せを願って錬金術を使っていた。最期の瞬間であっても、変わらなかった。力を使わず、分かり合えないことへの悲しみも見せず、それでも人は分かり合えるはずと、そう信じて——。
『———キャロル、大きくなったな』
その言葉で、夢から覚めた。長い長い……真っ暗な悪夢から。そうだ、オレは……。
「———オレは世界を識り、想い出を紡ぐ」
オレが手に握っていた、『黄金のカード』が優しく暖かく輝いた。
「その想いはやがて、世界を変える。オレはパパが手を伸ばしたその奇跡を肯定し……人間の自由を蝕む偽りの奇跡を、破壊する」
———長い、長い刻が過ぎ去った。国が滅び、街ができ、やがて人は空にさえ手を伸ばした。人々の暮らしは、時代を経るごとに遥かに豊かになった。
だが、此処にはまだ、奇跡を謀り世界を蝕む悪意が潜んでいる。
日本。西に沈む夕日が街を赤く染めている。人通りの少ない並木道を、一人足早に歩く影がある。長い金髪と紫色のコートを風に揺らして、
「……っ!」
彼女は弾かれたように振り返る。それと同時だった。
「そこか…」
歌声と音楽が響き渡っていたコンサート会場から、鼓膜を突き破るかのような爆発が轟いた。
「の、ノイズだァァァァァァ‼」
「死にたくない!死にたくない!死にたぐッ……あぁぁあッッッ‼」
縦に伸びたオレンジの体躯の不可思議なナニカ……ノイズと称されたソレが、片端から人間を襲う。そのノイズに触れられた女子供が、体の形を変えて塵と化す。逃げ遅れた人間たちは次々とその化け物に灰にされていく……。
だが、その怪物に突如として巨大な槍と剣が突き刺さった。
「っ、くッ……」
「はぁ……はぁ、がハッ!?」
「!だ、大丈夫、奏!?」
少し前まで、ステージ上で音楽を紡いでいた歌姫たちは、今や戦姫となって奇妙な怪物と戦っていた。だが、その体に疲労の色が見え始める。
「クソ、時限式じゃ、この辺りが限界かよ……!」
意識を失いかけ、口から血を流した彼女の名は『天羽奏』。目の前に蔓延る怪物、ノイズに家族を奪われ、復讐のために戦い続けてきた少女……だった。
そう、“だった”。確かに始まりはただの報復だった。そのためにノイズに対抗するための身に余る力……FG式回天特機装束『シンフォギア』を無理な薬剤投与で使うことにも躊躇わなかった。
「奏…!奏‼」
「心配すんな翼……ちょっと昼寝、してただけだ……よ、っと」
だが、彼女はもう独りではなかった。傍には彼女を慕う友がいる。今や復讐を願う少女ではなく、自分のような人間を一人でも多くしないため、その槍を振るう戦士となった。
だが、幾ら二人で支え合おうと、気力がまだあろうと、体がシンフォギアを維持できていない。罅割れた槍……ガングニールの身は武器の形を成しているのが奇跡であった。
「それでもッ、余り無茶は……、!?」
「な、マジかよ……‼逃げ遅れたのか…!?」
二人の戦姫の目の前には、へたり込む茶髪の少女に襲い掛からんとするノイズがいた。
「ぐ、おぁああああああっっ‼」
悲鳴を上げる体に鞭打ち、天羽奏はそのノイズをガングニールで一閃する。少女に触れようとしていたノイズは、消え去った。
だが、しかし。
「——————え?あっ……」
「ッ、しまった‼ギアが‼」
少女の胸から、鮮やかな赤が噴き出した。血だ。砕けたガングニールの槍の破片と共に、飛沫となって瓦礫の間に墜ちていく。貫かれた胸は、絶えず赤く染まっていく。
「おい、しっかりしろ!死ぬな!目を開けてくれ‼」
ぴくり、とその少女の瞼が動く。意識が戻りつつあるのが、抱き抱えた腕からも伝わってきた。
「
少女がうっすらと開いた眼に、光が燈る。
「———……」
それを見て、奏は悲痛な表情を緩めた。安堵、感謝、決意……様々な思いが胸を強襲する。未だ生きることを諦めていないこの子に、自分がしてやれる最後のことを思いついた。
(ここ、までか……)
ゆっくりと槍を杖替わりにして、血塗れの体を引きずって立ち上がる。
「奏…?」
「わりぃ、翼。一度、心を空っぽにして歌いたかったんだよなぁ……」
その水面のように凪いだ静かな言葉。今際の際に紡がれる遺言に、奏の片翼たる『風鳴翼』はさっと顔色を青くした。
「まって奏!それはダメ!歌ってはダメ‼」
絹を切り裂くような叫びと共に、彼女は死を受け入れんとした奏に手を伸ばした。—————その時だった。
「——うぇっ、何だこりゃ!?眩し……!?」
「な、これは……?」
強烈な光が二人の背後から放たれた。あまりの輝きに、直視しなかった戦姫らでさえ目が眩む。そして驚くべきことに、ノイズらはその光を浴びると体表が塵になっていく。
続けて『誰か』が、規則正しいリズムを刻む足音を立てて、怪物が跋扈する戦場を歩いてくるのが二人の耳に届いていた。
「誰か、そこにいるんですか……!?」
「くそッ、さっきの光で目がぼやけやがる…、てかオイ!そこの人!誰だか知らないが早く逃げろ!分かるだろ、ここは危険だ…命を無駄にすんな!」
翼と奏の間を通り抜けた何者かが立ち止まるのが分かった。そして、恐らく振り返ったのだろう、布が擦れる音がした。
「———ほぉ。先ほど“絶唱”をシンフォギアで唱えんとした娘とは思えぬ、良い台詞だな」
その言動に二人は驚く。何故秘匿されているシンフォギアの絶唱のことを知っているのか、いいやそもそも光でノイズにのみダメージを与えるのはどういうことか、様々な疑問が生じるも、二人の頭に手が置かれた。
「だが自分が死んでしまっては全くの無意味だ。安心しろ。オレはそこまで軟ではない。寧ろ、代わりにあのノイズどもはオレがやろう」
まるで子供を諭す母親のような、年上の女性の優しい声音だった。
「オレの力は、ただの一人で七十億の絶唱を凌駕する」
二人は『そんな馬鹿な……』と思ったが、何故かその軽口を聞くと言いようもなく安心してしまう。光で目がぼやけているというのに、眼前に立つ薄ぼんやりとした人影に、何故か言いようもない頼り甲斐を感じてしまっていた。
「今日は特別に見せてやる。伝説の叡智、ラピス・フィロソフィカスの輝きを」
その女性と思しき人物は、紫の外套の中から黄金に輝くナニカを掲げ、腰に押し当てると、バックルとなったソレはベルトを展開し腰に固定される。
【レジェンドライバー!】
「あなたは一体……」
「何者なんだ……?」
ノイズの前に立ちふさがった女性が、にやりと笑顔を浮かべた気がした。
「———
右手に持った黄金のカードが、夕日に赤く輝いた。そのカードを彼女はバックル……『レジェンドライバー』の右側のカードリーダー部に挿入する。
【CHEMYRIDE!】
背後の虚空から時計の文字盤と城門が融合したかのような、黄金の扉が表れた。それに合わせて右手を掲げると、その人差し指に付けた父親の形見である指輪が光る。
「変身」
彼女はその言葉と共に、ベルトの両サイドのハンドルを引き延ばす。するとバックルは90度回転して変形、解放された門型の装飾の奥に、金獅子を伴う黄金の戦士の姿が表れた。
【LE-LE-LE LEGEND!】
彼女の背後にある門も連動して開かれる。赤、青、緑、黄色の宝石が雨あられのように降り注ぎ、周囲を黄金のクレストが浮遊し、一つの形を錬成しだす。
そこには、黄金の戦士が立っていた。
「派手に祝え!世界を識り、万象を紐解き、黙示を完遂せし黄金の錬金術師。イエスマイマスター!キャロル・マールス・ディーンハイム!その字名こそ、仮面ライダーレジェンド!」
「わぁ、金ピカで眩しいんだゾ!」
「意外とノリノリですわね、レイアもマスターも…」
「ン我がマスタァ~……とかガリィたちも言ったほうが良いです?」
その黄金のライダーの誕生を、アリーナの屋根に立ち、派手なポーズをとる四人組は各々の万感を込めて見つめていた……。
♪
闇の中で、異世界が映る揺らめくオーロラを見てその人物は呟いた。
「キャロル・マールス・ディーンハイム、その七十億の絶唱を上回る錬金術の力。伝説の力を、ボクの手に…」
【バールクス!】
続かない可能性しかない……。