レジェンド・オブ・シンフォギア 通りすがりの奇跡の破壊者 作:サルミアッキ
短くて済まぬ。そして、本編とは全く関係ない伏線ぶっこむのもごめんなさいでした。
キャロルのバースデー2043
太陽が未だ昇らない、街が寝静まった刻限。朝の霧が家々を覆う早朝に、灯りに揺れる人影があった。
「……あふ」
眠気混じりの気の抜けた声。『鳳桜寫眞館』の自室で、妙に早く目が覚めてしまったキャロルは一冊の本を開いていた。そのアルバムには、数多くの写真が丁寧にファイリングされている。
ぺらり、ぺらりと、想い出を遡るようにページを捲っていたキャロルは指を止めた。
「……そうか。
アルバムから取り出された、やや黄ばみがある一枚の写真。そこには、在りし日のオートレース場での風景が切り取られていた。
「お前には世話になったな、この寫眞館を譲ってくれたのもお前だった……」
今や時代遅れとなってしまった古いインスタントカメラを指で触れる。頬杖をついていた体を横にして、ぐでりと机に頭をつけた。
瞼が徐々に重くなっていく。目線の先の写真の中では、キャロルの隣でパイプを吸う一人の壮年の男性が立っていた。
(そうか、もう……半世紀近くも、前のことだったか—————)
■
とてとてとてと、小さな歩幅で奏でられる小さな足音。アンティーク調の室内に、幼い声が元気に響く。
「おまたせしましたー」
「きゃろるさーん、おしぼりどーぞー」
「ああ、ありがとう。……全く、子供の成長は早いな。『カズエ』と『ヒナコ』がもう小学生になるのか……」
「—————ほら、できたぞ。冷めないうちに飲んでくれ」
キャロルはオートレース場の横に併設された喫茶店で、淹れたてのブラックコーヒーを口に含んだ。
「……ふ。相変わらずお前の淹れたコーヒーは美味いな」
「そりゃどうも。ところで、キャロル。あんた、今日誕生日だったよな」
コーヒーカップを拭きつつ呟く喫茶店のマスターである男性。彼は足元をウロチョロ動く娘たちを顎でしゃくって奥へと下がらせると、キャロルの顔を覗き込む。
「あぁ。だが、それがなんだ?」
「飲み終わったら、ちょっとガレージに来てくれ」
「……ふむ。分かった」
キャロルは出されたチョコレートケーキをゆっくり味わいながら、コーヒーカップに残った最後の一口を静かに飲んだ。
「—————で、何の用だ?こんなところに呼び出して」
“赤い『R』というアルファベットと、正面から見た白いバイクが組み合わさった”マークが描かれたガレージの奥。曇りガラスから差し込む木漏れ日が、アスファルトの地面を濡らしている。
「—————キャロル。あんたはおれと出会ってから何十年も人知れず人間の愛と自由のために戦ってきてくれた。おれの娘たちを護ってくれたことも、一度や二度じゃない。だが、おれがあんたにしてやれることは、ほとんどないだろう」
その男から紡がれる言葉を受けても、キャロルはそっぽを向いていた。聞いているのか、何を思っているのかすら伺い知れない。だが、それでも男は話を続けた。今までの感謝をキャロルへ伝えるために。
「聞いた話だと、最近じゃ西洋化生どもを率いたタウロス双生児のサンクチュアリ作戦を防いだそうじゃないか」
「あれは草薙忍軍の“緒川國電”が…、それと戦略的対外政策管理局の“風鳴二矢”が主に対処していた。オレは大したことはしていない」
そう言いながらもその事件に関わった人間ならば、キャロルがどれほどの貢献をしたか知っている。手に持っていたレジェンドライバーを所在なく弄り回す彼女の横顔に、男は様々な思いを偲ばずにはいられない。
「……一つ聞かせてくれ。あんたは一体いつまで、そんな過酷な戦いの旅を続けるんだ?」
ようやくキャロルが振り返った。その顔は、男の心配など寄せ付けない程、涼やかに研ぎ澄まされたものだった。
「フン。過酷と思ったことはないが、そうだな……。生きている限りだろうな。戦いの先にオレが求めた世界の真理があると識っているから、オレは旅を続けていられる」
事も無げに言ったその壮絶な決意。そして己が願いを求める渇望。託された様々な想い出を糧に、彼女は旅を止めることはないのだと、男は改めて理解した。
「—————ならせめて、その長く険しい旅路を進むお前の足になれるよう、おれがあんたにこれを贈ろう」
男は、ガレージの奥にひっそりと隠されていた、ブルーシートで覆われている何かに近づいた。その手がシートを剥ぎ、置かれていたものの姿を露にする。
「これは……」
それは、ゴールドとブラックのボディを持つ、大型の自動二輪車だった。そのバイクのヘッドパーツや背面部は、『黄金のプレートが縦に突き刺さった』かのようなデザインになっている。そのマシンの外見に、キャロルは動揺を隠せなかった。
「おれが時間の合間を見つけてこつこつ作った、あんた専用のライダーマシンだ。名付けて、『マシンレジェンダー』」
かつてのキャロルを救った仮面の騎士が跨り駆けていた次元転送機—————『マシンディケイダー』を思わせる上品且つ豪華な黒と金色のバイクは、今か今かと主の到来を静かに待っているようだった。
「ハァ……相変わらずのおやっさん気質だな。オレがその想いを無碍にできないのを識っているだろう、お前」
「あぁ、そうだな。改めて。誕生日、おめでとう」
「……—————。まぁ、そうだな。感謝する。ところで、その……だな。少し走ってみても良いか?」
ほんのりと頬を桃色に染めたキャロルの、おずおずとした申し出に、男は笑顔でガレージのシャッターを持ち上げた。
■
「……—————ん、む。寝てしまっていたか。しかし……、懐かしい夢を見たな」
日は既に東の空から昇っていた。窓ガラスの向こうには、雲一つない青空が広がっている。澄み渡った景色に、かつて走ったあのレース場の風を感じた。キャロルは凝り固まった肩を鳴らして大きく一つ伸びをすると、あくびをしながら立ち上がる。
窓を大きく開けて、朝のひんやりとした空気を体に浴びるキャロル。そしてかつての出来事を想い出し、彼女の口は心象を示すメロディを静かに口ずさんでいた。
キャロルは遥かな空を見上げる。青空の向こうでは、天の光であるすべての星が、カメラのフラッシュのように瞬き輝いているのを識っている。彼女の瞳には遠い未来に、ユグドラシルにて分かたれた九つの世界が重なり合うのが見えていた。
「—————ん?」
「あ、ごめんくださーいッ!キャロルさーんッ‼お誕生日おめでとーございまーっすッッ‼」
「響ってば、朝からご迷惑でしょ……」
騒々しさに顔を顰めて、寫眞館入り口に立っていた二人を見下ろすキャロル。その人物たちを見て一つ大袈裟にため息を吐くと、彼女は無慈悲にぴしゃりと窓を閉めた。
「ちょ、キャロルさぁん…?な、なんでぇ…」
「もう……。当たり前じゃない?」
今日もまた煩い一日になりそうだと思いながら、キャロルは豊かな金髪を乱雑に整えて玄関のドアを開けに行く。
だがその前に、机の上に出しっぱなしだった色褪せた写真を手に取った。
「—————全く。お前の孫娘は今年で高校生になるというのに、騒がし過ぎて困ったものだな。ま、少し空元気なところが傍から見れば心配ではあるが、……せめてお前に受けた恩ぐらいは孫のあいつに返してやる。ありがたく思えよ、『トウベエ』」
キャロルは優しい笑みで自分とかつての友人……『
■
時を同じくして、ここは異空間に存在する浮城。マーブル状のオーロラがそこかしこの風景を歪ませている。
「さて、今日はいよいよマスターの誕生日だ。各員に振り分けたサプライズパーティーの進捗状況を一先ずワタシに報告をしてくれ」
「こちらは料理や飾りつけの準備は完了しました。そちらはどうです?」
「買い出しと薪をバラバラにするの、頑張ったゾ!でもその他の仕事、あたしに手伝いができないの歯がゆいゾ」
「ま、あんたの場合、手伝いは愚かその手でできる事戦闘以外じゃほぼないでしょーけどね?あ、ガリィちゃんもミカのお目付け頑張りましたー」
四色の衣に身を包んだ人形たちが、大広間にて主たるキャロルのため頭を寄せ合って会話をしていた。それを聞き、うむ、と満足げに頷く黄色の服を着たディーラー風の人形は、部屋の隅でカチャカチャと音を鳴らしてスパナを動かす少女に目を向けた。
「……それで、マスターに御贈りするバイクの修繕はどうなっている?」
「はい、これで……よし。最終調整も終わりです。あとはキャロルが持っている『レジェンドライバー』のエネルギーと反応すればレジェンダータンク内のクラインの壺が再起動し、『マシンレジェンダー』の真の力が解き放たれることになるでしょう」
キャロルに似た少女は、幾つもの激戦を仮面ライダーの相棒として潜り抜けたバイクを見て、最後にひと言付け加えた。
「ユグドラシルによって分かたれた『九つの世界』……そして表と裏の世界。オーロラが揺らめく数多の世界を巡り物語を繋ぐ旅。未だ途中のその旅の中で、キャロルは仮面と鎧を纏って戦ってきた……そして、これからも戦い続ける」
彼女は玉座の間の中央部—————『巨大な黒いディケイドライバー』のファインダー部から投影されている、それぞれの並行世界の情報の奔流に目を向ける。
「ボクにはキャロルのように戦える力は未だありません。でも、だからこそ。これが今のボクにできる精一杯の戦いです」
そして、ふわりと咲くような笑顔が花開く。
「だから、今日ばかりは皆で祝わせてくださいね—————キャロル」
マシンレジェンダー
仮面ライダーレジェンドの使用するバイク。立花響の祖父が生前経営していたレーシングクラブで開発した改造バイクに、キャロルがさらに錬金術で各部機能を精錬した次元移送機。車体は黒、各部装飾が黄金。ベース車はHONDAの『DN-01』(グラファイトブラック)。
[マシンスペック]
■全長:2320㎜
■全幅:835㎜
■全高:1155㎜
■最大時速:350㎞
■最大出力:147kw/9900rpm