レジェンド・オブ・シンフォギア 通りすがりの奇跡の破壊者   作:サルミアッキ

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 サブタイェ……。


NEW HERO, NEW LEGEND

「あビッキー、ヒナ!こっちこっち!」

「お待たせー!創世ちゃん、弓美ちゃん、詩織ちゃん!」

「ほら響。走らないの、食事は逃げたりしないよ」

 

 今日からリディアン音楽院の食堂は中華フェア。炒飯、かに玉、天津飯など、様々な料理が生徒たちのトレイの前に並んでいる。

 慌ただしく窓際の座席に座った『立花響』と、綺麗な所作で腰を下ろす彼女の親友『小日向未来』。二人はこの学園で仲良くなった『安藤創世』『板場弓美』『寺島詩織』と共にリディアンのランチに舌鼓を打っていた。

 

「あーおいしー、幾らでも食べられちゃうね!」

「うわぁ…ビッキー凄い量食べるんだね…」

「丼に山盛りの白飯なんて、アニメでしか見たことないわよ」

「ナイスです立花さん。ちなみに今回はご飯のおかわりが自由だそうですよ」

「えッホント!?未来、ちょっともらって来るねッ!」

「うん、行ってらっしゃい。慌てないようにね?走っちゃダメだよ?」

 

 未来の言いつけを守り、機敏な動きでスピーディに歩く響。今日の響が選んだおかずは青椒肉絲と麻婆豆腐。この二つだけで白米を大盛三杯は食べられると目算したが意外や意外、予想外。箸が進んで止まらず、更に二杯は追加できる程美味しかった。そんなわけで、白飯を求める食欲に今や歯止めが効いていない。どよどよと寄せられる好奇の視線も何のその、響はご満悦な様子でカウンターから大盛丼を受け取って帰ろうとした。

 その時だった。

 

「……ッ、あなたは」

「お、どうした翼——————、……」

「へ?」

 

 響は振り返って、そして金縛りにあったように身を強張らせる。そこに立っていたのは、彼女が憧れてやまない二人組だった。

 

(ねぇ、風鳴翼よ……)

(天羽奏もいるわ……)

(流石芸能人よねぇ。纏うオーラが違うわ、オーラが)

(それにしても、ツヴァイウィングの二人の前にいる子って……誰?)

 

 周囲からそんな言葉が聴こえてくる。それも当然だった、目の前にいるのは、今や日本中を席巻してやまないリディアン音楽院が誇る二人組のアイドル、『風鳴翼』と『天羽奏』だったのだから。

 

「わ、わたしの顔を見てどうして驚いてらっしゃるのでしょーか……」

「—————頬に米粒が付いているぞ、立花響」

「へっ?」

 

 後ろからかけられた“聞き慣れた声”に、響は顔を伏せ頬に手を当てる。むにっと弾力のあるご飯粒が指にくっついた。その瞬間、茹蛸のように赤く染まる響の顔。

 

「~~~ッッ。こ、これはぁ、お見苦しい所をぉ……」

「……いや、気にしないでいいって、な?」

「え、えぇ……それじゃあ。食事は落ち着いてとりなさいね?」

 

 恥ずかしさで泣きそうになっている響を憐れに思ったのか、はたまた別の思惑でもあったのか……二人は懐かしさを感じる視線を向けて立花響の傍から離れていった。

 

「……ぜ、絶対翼さんたちにそそっかしい子だって思われたァァァァァァァァァァァァァァァッッッ‼」

「……何を言っている。事実だろう」

「うぅぅぅぅ……そこは慰めてくださいよキャロルさぁぁぁん…」

「オレがそんな奴に見えるか?」

「もう、そんな言い方は酷いですよ、キャロル先生」

 

 項垂れたままの響の首根っこを引っ掴み、食堂の隅にいる三人娘たちの下へ連れ戻す、金髪の美人教師のキャロル。その隣にはリブが縦に入ったセーターを着たグラマーな女教師のアンナまでいた。

 

「あ、キャロル先生、ご無沙汰しております」

「お前も元気そうだな、小日向未来」

「私もこちら座ってもいいですか?皆さん」

「アンナ先生も———はい、どうぞ」

 

 未来の言葉を受けてアンナは三人娘の隣に腰を下ろした。彼女の選んだメニューは水餃子とシナチクとチャーシューの炒め物。どうにも吞兵衛のおつまみにも思えるチョイスだった。

 

「ところで、今響さんが会話をしてらっしゃったお二人は、どなたですか?お知り合いなんでしょうか?」

 

 その言葉に響が反応し、麻婆豆腐を掬っていたレンゲを取り落とす。

 

「……えぇぇッ‼アンナ先生、ツヴァイウィングのこと知らないんですか!?」

「え、えぇ……リディアンの先生に採用されて日本に来るまで、ずっとアメリカにいたものですから……」

「え?それなのにそんなに日本語お上手なんですか?」

「そちらの方が驚きですわね……」

「アニメみたいな人ってこんなにゴロゴロいるもんなの?」

 

 三人娘のツッコミがアンナに突き刺さる中で、キャロルは箸で器用に豚骨醤油ラーメンを啜り、上品に煮卵を頬張った。

 

「アンナ先生は知らなかったか。あっちの赤い髪が天羽奏。で向こうの青髪の高校生が風鳴翼。二人組のボーカルユニットだ、たしか代表曲は『逆光のフリューゲル』や『ORBITAL BEAT』。発表されて二年が経つ今もなおオリコン上位に位置している名曲らしいな」

「へー。キャロル先生詳しいですね……、“そこまで”聞いてないんですけれど」

 

 アンナ・サンダースは若干の含みがある物言いをする。幸い、そのことを指摘する生徒たちはいなかったが、キャロルは内心気まずそうに話題を変えた。

 

「—————あぁ、このバ……元気溌剌娘に、あとオレの知り合いもツヴァイウィングのファンでな。耳に胼胝ができるくらい聞かされた…。たしか、新曲のCDが今日発売だったか?」

「はい、そうなんです!初回特典が豪華なんですよ、キャロル先生!そうだ、放課後、未来も一緒に買いに行こうよ!」

「はいはい、分かったよ響」

 

 その時だった。

 

「「!」」

 

 食堂の片隅で会話をしていた天羽奏と風鳴翼、そしてキャロル・マールス・ディーンハイムとアンナ・サンダースの纏う空気が剣呑としたものとなる。

 

「—————失礼、席を外す」

「……わたしもです。皆さんはゆっくりしていてくださいね」

「?はーい」

 

 廊下へと移動した二人の教師の目の前を、風鳴翼と天羽奏が小走りに進んでいった。しかしアンナやキャロルは素知らぬ顔。二人は懐からエルフナインから受け取った機材を取り出した。その懐中時計型の通信デバイス、『ファイズフォンX』に通知が入っている。

 

「—————またもノイズの出現か」

「……私が行きましょうか、キャロル先生?」

「申し出はありがたい。だがお前が手練れとは言え、ギアの現状はリペアしただけだ。調整がまだ足りていない、そんな状態でお前を戦場に送り込むことなどできん」

 

 キャロルは胸ポケットから『薔薇のレリーフが刻まれた錠前』を取り出した。

 

「幸い、今のオレには移動手段なぞ幾らでもある。お前は、そうだな……ツヴァイウィングの曲でも聞いてみたらどうだ」

「—————。……ふふっ、そうですね」

 

 

 

 

 

 

 

「っったく!ほんっとに多いな‼」

「えぇ。それに、このノイズたち……随分と統制が取れているわね」

「じゃあなんだ?こいつら、もの考えることできたのかよ……」

 

 ノイズが発生した現場に到着したシンフォギア装者の二人。現場の指揮を取り仕切っていた特異災害対策機動部一課の戦車を足場にして、次々にクロールノイズを屠っていく風鳴翼。一方の天羽奏はガングニールを槍投げの要領で飛ばし、翼の背後にいたフライトノイズを複数体、その無双の槍で貫き射抜く。

 翼が刀型の武装を振り抜きつつ駆けだした。地面に突き刺さったガングニールのアームドギアを抜き、徒手空拳でヒューマノイドノイズを撃破している本来の持ち主へ投擲する。

 

「おぉナイスピッチングッ!」

「ありがとう奏。それでも、この量は……」

 

 背中合わせに立ち、二人は互いに互いのことを守る姿勢となった。

 

「—————手こずっているな、シンフォギア装者。手助けは必要か?」

「「!?」」

 

 奏と翼が勢いよく振り返った。

 —————封鎖されていたはずの罅割れた道路に、一つの影がある。肉食獣を思わせる黒紫色のマスクを付けた金髪の人物が、薔薇を模した改造バイクに跨り二人の装者の戦いを眺めていた。

 

「誰だ、あいつ…?」

「仮面の、バイク乗り(ライダー)……?」

「———嗚呼、やはり良いな。その名前は。レイアも言っていたが、オレの字名(あざな)として使わせてもらうとしよう」

 

 その人物は、懐から黄金に輝く大型のバックルを取り出した。その光景に既視感を覚えた翼は声を上げる。

 

「その声、その束帯、まさか…ッ!」

 

 それが答えだった。伸縮性のベルトが展開され、女性の腰にバックル…否、『レジェンドライバー』がホールドされると、右手に出現させた黄金のカードを彼女は手慣れた仕草でドライバーに差し入れた。

 

【CHEMYRIDE】

 

 背面に展開された黄金のゲートが出現し、黄金錬成の準備が始まった。

 

「変身」

 

 顔を仮面で覆った人物の肉体が、ラピス・フィロソフィカスの輝きで覆われていく。体が鎧で覆われると、紅、碧、蒼、橙の宝石が右腰と左肩に煌いた。

 

【LE-LE-LE LEGEND】

 

 それは、ここではない並行世界を渡る“世界の破壊者”によく似た外見の黄金の戦士。

 

「未確認仮定特機装束一号…」

「——————ああ、もしや特異災害対策機動部二課がオレに付けた仮称か。そういえば肩書だけで、ライダーとしての名はお前たちに名乗っていなかったな」

 

 優雅に足を振り上げて地面に立つ。そして、戦士は恭しく腕を広げてその身体に陽光を受けて耀かせる。

 

「オレは、『仮面ライダーレジェンド』。通りすがりの、奇跡の破壊者だ」

 

 彼女は言うと金色の腕を掲げて、良く響くフィンガースナップを一つ。すると、レジェンドの背後に四つの複雑な紋様が組み合わさって、赤、青、緑、黄色の術式が宙に浮かんだ。その展開された四色の魔法陣は、どこか化学式にも音楽記号にも見える。それが徐々に、煌々と光り輝き出す。

 

「ッ!うわぁッ!」

 

 閃光の後に鼓膜を引き裂く轟音。一瞬にして、爆散する地面と空間、そしてノイズ。強大な魔力によって打ち出された四大元素(アリストテレス)が次元を貫き、雑音たちを次々に調律して消し飛ばす。

 ……しかし、それでも減ったのは十分の一にも満たない数。レジェンドは鬱陶し気に首を振って、ベルトにセットされているカードホルダーから、一枚のカードを取り出した。

 

「全く、数が多いうえ、どうにもちょこまかと動きよる」

 

【CHEMYRIDE】

 

 ベルトを操作し、そのカードに写し取られた力を物理法則下に再構築する。レジェンドの体が、錬成されたハニカム構造のプロテクターパーツで覆われていく。

 

【GO-GO-GO GORGEOUS KABUTO】

 

 深い赤のヒヒイロカネの鎧に目立つ空色のコンパウンドアイ。マスク部に付いた一本角が稼働し競り上がる。

 

「姿が…変わった?」

「そりゃ、赤いカブトムシか…?」

 

 黄金のパーツを左肩から右腰に襷掛けのように装備した『太陽の神』が降臨した。

 

【CHANGE BEETLE】

 

「—————クロックアップ」

 

 その言葉を口にした時、目に見える世界のスピードが変化する。空を舞うノイズだった塵が、流れる風が、そして二人の戦姫の動きが停止した。

 タキオン粒子を用いて埒外法則の別時間に移行する仮面ライダー『カブト』にケミーライドしたレジェンド。彼女は手に持った斧銃兼用武器『カブトクナイガン』を用いて一方的にノイズたちを撃ち抜いて灰へと還す。

 

【GORGEOUS ATTACKRIDE】

 

 レジェンドカブトの前には、10mはあろうかという体躯のギガノイズ。カブトの存在する時間に追い付けないとはいえ、その巨体は威圧感を放ち続けている。向かい合ってみれば蟻と巨人のようだった。

 ただし、巨人は巨人でも木偶の棒でしかないようであるが。

 

「……終わりだ」

 

 一歩、二歩、三歩。勿体ぶって近づくレジェンドカブトの脚に、稲妻状のエネルギーが集う。

 

【KA-KA-KA KABUTO】

 

「はぁッ‼」

 

 巨大なノイズのどでっ腹に、あらゆるものを崩壊へと導く回し蹴りが炸裂する。叩き込まれたタキオンのエネルギーは、そのギガノイズの体内を駆け巡るだけでなく、周囲の小さなノイズたちまで巻き込んで広がっていく。

 

「…クロックオーバー」

 

 再びレジェンドカブトは埒外時間を超えるための言葉を口にした。そして世界は再び動きを取り戻す。

 

「っ!」

「急になんだぁ!?」

 

 爆散するノイズ。巻き起こる衝撃波。身構えていたシンフォギア装者たちは、爆発の余波を体に浴びた。

 仮面ライダーレジェンドとしての姿に戻った彼女が、いつの間にか二人の目の前に立っていた。

 

「あんたがやったのか…」

 

 槍の装者の問いに黄金のライダーは無言を貫いたまま、停車させていた薔薇のバイク『ローズアタッカー』に乗り込んだ。走り去ろうとする彼女に慌てて声をかける。二年前、ノイズを殲滅した後どこかへ消えてしまった彼女に、天羽奏は言いたいことが……伝えたいことがあった。

 

「———あの時は、ありがとうな。あたしたちのこと助けてくれて」

「……気にするな。あの時は、目の前で雑音が鬱陶しかったからな」

 

 そんなことを言い捨てて、バイクのペダルを踏むレジェンド。その行動は、もう既にこの場には用がないことを如実に示していた。

 

「私からも感謝を。そして不躾ですが、聞かせて頂きたい。貴女は何のために戦っているのですか?ノイズの脅威から人々を守る目的が同じならば、我々と貴女は協力し合うことができるはずです」

 

 風鳴翼の言葉に、レジェンドの青い目がきらりと光る。

 

「ノイズから人を守る、か……。お前たちの組織は、本当にそのためにシンフォギアを作り上げたのか?」

「……どういうこった?」

 

 レジェンドは答えない。ローズアタッカーのハンドルを切ると、そのまま黄金のライダーは走り出す。やがてバイクがトップスピードに到達すると、車両の前方の空間が歪みだし、ジッパー型の空間の断裂が発生した。

 シンフォギア装者らが声を上げる間もなく、その仮面ライダーは戦場の跡地から別の世界へと渡っていった。

 

『—————回線、復活しました!』

『奏、翼、無事か!現状はどうなっている!』

 

 呆気にとられるだけしかできない二人の耳に、ようやく本部からの通信が届いたが、翼も奏もしばらく黙りこくったままだった。

 

 

 

 

 戦いの様子を報告した二人は、介入してきた謎の存在……二課で名付けられた『未確認』のことを司令官である男『風鳴弦十郎』に話していた。話の内容を頭の中で整理した彼は、一つ頷くと通信機越しにだが重々しく口を開く。

 

『そうか……それならば以後、未確認仮定特機装束一号を“仮面ライダーレジェンド”と呼称。以降は遭遇時に接触し、二課に招けるか—————若しくは協力関係が築けるか再度対話を試みる』

「あぁ。それなんだがよ、旦那……何かアイツ、こっちのことを怪しんでるみたいだった。もしかしたら……」

『……待って奏ちゃん。またノイズの反応よ!今度は工業地帯の周辺に満遍なく出現したわ!連戦で悪いけど、向かってくれる!?』

 

 言いかけていた疑問に、横から割り込んできた言葉が重なり消える。二人の装者はハッと顔を合わせると、互いに頷き阿吽の呼吸で駆けだした。

 

「あぁ、分かった了子さん!翼、行くぞ!」

「えぇ、乗って!」

 

 エンジンを唸らせパワーを引き出し、高速で回転するバイクのタイヤ。赤と青、比翼連理の両翼が新たな戦場へと駆けていく。

 そのバイクの叫びが徐々に遠ざかり排気ガスが残るだけとなったその場所に、風景から滲み出るように二人の人影が現れた。

 

「……、全く。マスターも人使いが……いや人形使いが荒いですねぇ。こういうジャミングはわたしじゃなくてファラちゃんの担当でしょうが」

「でもでも、ファラとレイアもマスターの指示で戻ってくるゾ!皆一緒は久しぶりだゾ、楽しみだゾー!」

 

 

 

 

 

 

 アメリカ合衆国ニューメキシコ州、ロスアラモス。

 

「What’s the hell!?」

「You….You…bastard!…Oh!?」

 

 豪邸内から吹き飛んでいく黒服の男たち。黄色のシャツに黒いベストとズボンを着た女が、連射される銃弾の雨をやすやすと避けながら下手人たちへと迫ってくる。

 

「地味なやつらだ」

 

 襲撃者であるその女性の手元から放たれる銀と金のコインが邸宅の廊下を舞い、防弾ガラスや鉄板入りの金庫などを容易く崩す。

 

「Oh, my Goddess!?」

「No!Nooo!」

「H-Help!?」

「———!?」

「———!」

「…!」

 

 ……やがて、そのマフィアの邸宅から悲鳴と破壊音が途絶えると、軋んだ音を立てて大きなドアが開く。その女性は手で首元のリボンを整え、堂々と正面の玄関から立ち去ろうとしていた。彼女がふと立ち止まると、その視線の先にヴィンテージのスポーツカーが映り込む。

 

「———派手で良い車だな、ワタシに相応しい。気に入った」

 

 

 

 

 

 

 

 ……道路沿いにあるカフェテラスで、緑を基調とした服装の女性がティーブレイクを楽しんでいた。電子音楽が普及した時世であるにも関わらず、CDプレイヤーを用いて日本のアーティスト『ツヴァイウィング』のシングルを何度も繰り返し聞いている。穏やかな風を受けて揺れる、緑のメッシュが入った、巻かれた長い髪。髪の間から手元の書籍『武士道』の文字列を眺める瞳が、太陽の光を受けて碧玉の如く輝いた。

 

「お待たせしました。こちらガトーショコラです」

「えぇ、ありがとうございますわ…あら?」

 

 頼んでいたケーキがテーブルに届けられるとほぼ同時、獰猛に唸るエンジンを吹かして一台の車がテラス席の前にやってきた。

 ティーカップに口を付けながら、女性はやってきた派手なクラシックカーを一瞥すると、読んでいた本を閉じる。一方で、オープンカーのドアを開いて優雅に下りた人物はそのまま軽快な足取りで机の間を縫うようにして進み、アフタヌーンティー中の女の向かい合う形で椅子に座った。

 

「……レイア。貴女は本当に派手好きですわね。どうしたんです、それ」

「あぁファラ、あの車か。マフィアの屋敷で一目見て気に入ってな。車の持ち主共は警察の前に捨て置いて来た」

 

 その言葉にふふっ、と小さく笑みをこぼし合う二人。

 

「それはそれは……。しかし、こちらに来たのはそれが理由ですか?」

「いいや、“これ”だ。どうやら地味に面倒なことになっているらしい」

 

 レイアと呼ばれた人物が、肩に止まらせていた赤い鳥型ガジェットに手を差し伸べた。するとタカ型ロボットは身や翼を折り畳み、CDの形状へと変化する。

 

「……」

 

 ファラと呼ばれた女性は音楽プレイヤーに受け取ったそのCDを入れた。そしてイヤホンを耳に押し込むと、内包されていた音声情報が再生される。数十秒だけのメッセージを聞き届けると、彼女は飲んでいたダージリンティーをソーサーに置いた。

 

「アンナから聞き出したF.I.S.の秘匿施設……『白い孤児院』についての調査は未だ不十分ですが、緊急招集ならば保留ですわね」

「あぁ。ワタシたちもマスターの下……至急日本、東京へ向かうとしよう」

 

 レイアは強奪した豪華な車にファラと共に乗り込むと、前方に出現した『銀色のオーロラ』の中へとアクセルペダルを踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事初回限定盤のツヴァイウィングのアルバムを買えた響はご満悦だった。手に入れたCDに頬擦りする響を見て、未来も優しい笑顔を向ける。

 だが、ふと思う。街がどうにも—————静かすぎる。

 

「ッ!」

 

 CDショップから出た大通り、その道の傍らに何かが落ちていた。響は落とし物だろうかとそれを手に取った。その何か(・・)を見て未来はハッと口元を覆う。

 それは、ボロボロの炭がこびり付いたチョーカーだった。周りには腕時計やスマートフォンなどの日常生活で人間が身に着けるものが、灰混じりに……もしくは塵になりかけの状態で無造作にアスファルトの上に散乱している。

 

「これって……もしかして」

「—————響!」

 

 頭の中に浮かんだ答えを言わんとする響の背後から、空間から染みが広がるかのように、何体もの怪物が現れた。

 

「ッッ逃げるよ、響‼」

「う、うんッ‼」

 

 響はノイズに触れられて炭となった人間たちへ心の中で謝りながら、踵を返して親友と共に避難先(シェルター)に向かって走り出す。

 —————その時だった。

 

「きゃぁああああああああああああああッッッ‼」

「……ッ女の子!?迷子で逸れちゃったのッ!?」

 

 響たちの目の前にいた泣く少女。考えるよりも先に、響の体は動いていた。ノイズからの攻撃を、己が身を挺して庇い、道路脇へと転がり動く。先ほどまで少女の頭があった場所に、ノイズの腕が突き刺さっていた。

 

「ッ、おねえ、ちゃん……?」

「大丈夫だからね?お姉ちゃんたちがお母さんに逢わせてみせる、だから一緒に行こう?」

 

 泣きじゃくる少女の顔が落ち着きを取り戻し、それでも心細そうに響と未来の顔を見上げている。

 

「—————う、ん。わかった」

 

 不安げな顔に浮かんだ涙を拭って、響は少女に手を差し伸べた。

 

「よし、走るよ。疲れちゃったら言ってね?わたしがあなたをおぶってあげる」

「響!早くッッ‼」

 

 未来の彼女の身を案じる言葉が届くと同時、響は強靭な足腰を用いてトップスピードで走り出した。

 

 —————聞こえていた。いつだって耳の奥を揺らしていた。命を燃やす、最後の歌が。

 

 ノイズに追われ、走り続けて辿り着いた町はずれの工場。夕日に照らされた人気のないそこは、パイプが不規則に工場内部に入り込み、薄気味悪い内臓が引きずり出された光景のようだった。

 三人が息も絶え絶えに隠れているのは建物の頂上。呼吸するだけで喉が罅割れてしまいそうな苦しさがあった。どれ程走っていたのだろう。もうすぐ太陽は西の空に沈もうとしていた。

 

「お姉ちゃんたち、わたしたち……ここで、死んじゃうの……?」

「…ッッ」

 

 —————誰も支えてくれないとしても。誰も傍にいないのだとしても。誰もが理不尽を見て見ぬふりをし、正義や信頼を謳わないのだとしても。

 

 小さな女の子が、響と未来に不安を零す。ノイズという死の恐怖に怯え、何かに縋ろうと手を伸ばしていた。気丈に振舞おうとする未来の顔色も悪い。今にも絶望に挫けてしまいそうな、叫び出したいような気持ちだというのが分かってしまう。

 

「……響?」

「いいや。大丈夫、そんなことにはならないし、させないよ」

 

 —————それでも自分は、頑張ろうと思った。戦おうと思った。最期の最期まで、この手に握り掴んだ尊いものだけは……、明日という未来を望んだ『生きる』という言葉、それだけは……—————。

 

「へいき、へっちゃら……。だから、生きることを—————」

「響ッ‼」

「えッ……、ッッ!」

 

 はっとした。突然のことだった。咄嗟に響は腕を上げて、顔を覆う。そこに迫るノイズ(・・・)の刃が……肉体に触れた。

 

「響⁉い、いやぁぁぁッッ‼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——————え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——————風の音が聴こえる。それは、命を運ぶ燃えるような歌声。

 

『—————我は、響かせ揺り動かすもの……秘密の言葉刻みしもの』

 

 気付けば響は、倒壊したコンサートホールに座り込んでいた。胸にはトネリコの枝で創られた古ぼけた長槍が突き刺さり、瓦礫に身体を縫い付けている。不思議なことに、絶え間なく血が流れているのに、痛みは全く感じなかった。

 

 ——————。

 

 口から溢れるのは声ではなく血潮。ゆっくりと頭を擡げ、乾いた風で髪を揺らす。

 

 夕暮れに、灰と塵が舞っている。……その光景を、憶えている。多くの人が涙し、生きたいと願ったことを知っている。

 

『お前に守りたいものがあるならば……力を与えよう』

 

 目の前に、文字が集う。それはやがて、一つのカタチを創り上げる。

 

『もし、お前が力を得れば……多くのものを守れるだろう』

 

 目の前のヒトガタが、白い腕を伸ばす。赤い円が浮かび上がる銀色の眼が、憐憫を以って細められた。

 

 ——————わたし、は……。

 

 耳の奥で流れる、風の音がうるさい。ごうごう、ごうごうと、哭いて喚いて叫んでいる。

 

 —————わたしは、守りたい。みんなの……大事なこと(生きること)を守りたい。

 

『ならば……器を開くため……—————浄罪の洗礼を受けよ』

 

 響の足元が揺れ動く。アリーナの罅割れた地面が突き破り、突如として“血脈が浮き出た白い樹木”が天へと屹立する。

 銀河へと広がった梢の葉から、何かが幹へと流れ込んでくる。それ(・・)は幹から大地へ染み込み、やがて響の足元へと到達した。

 

 —————う、ぐ……?

 

 胸から流れていた血が、それ(・・)を灰に塗れた大地から吸い上げる。世界が、()()()()に書き換えられる。

 

『見るが良い……お前の胸にある力を……それを振るう者の運命を』

 

 突然少女の瞼が見開かれる。その眼球は銀に染まり、赤の丸い縁取りが浮かび上がった。

 

 —————がッ……、アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!?

 

 流れる。流される。流れ込んでくる。

 

『矮小なる人の身に耐え凌げるか?その、人が積層に紡ぎし死を凌駕する痛みを』

 

 世界樹に吊り下げられた屍。終焉齎す大神に噛み千切られる激痛。十字架に磔けられ、救うはずだった衆愚に罵られた救世主。それを見て心が引き裂かれた聖母の絶叫が響き渡る。血が流れる詠を奏で、少女の体は消え去った……。

 

『繋がることを鎖され、手を携えることも無き刃をお前は、—————受け止められるか?』

 

 —————ギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!?

 

 あらゆる言葉。あらゆる色彩。あらゆる感覚。この世でありふれた苦痛と、この世で起こる無限の地獄。繋がり合えず、繋がりを持てず、繋がりを自ずから絶たざるを得ず。

 今、少女が繋がり合っているのは—————感じているのは世界であった。一にして全、全にして一である永遠と刹那を何度も、何度も何度も繰り返し、少女の心は軋みを上げる。

 少女は流されていく。ココではない世界へ。何処かでもないソコへ。世界樹に列なる並行世界や、無限の蛇が這いずり回った別世界、異なる歴史の紡がれる異世界に。それぞれの世界で、幾億の歴史で、それぞれの輝きが灯され、そして言葉となって消えていく。

 愛が失われていくのを見た。憎しみに囚われ死するのを見た。見る、見た、見ていた。愛が欲しいと叫ぶ声が聴こえた。憎しみに惑う声が聴こえた。聴く、聴こえた、聴こえていた。今の自分では、手を伸ばせど届かない。

 太陽は沈み、陽だまりは消える。言葉でさえ誰かを容易く傷つける。繋ぐ掌で、明日への希望を握り潰す。生きることを諦観させる全てがあった。

 

 

 

 ——————それでも。

 

 

『……!』

 

 

 

 

 頑張ってみます!守りたいもの(生きること)を守れるなら、わたし…。

 

 何回死んだってかまいません!へいき、へっちゃらです!

 

 

 

 

 少女は自身の両の脚で立っていた。彼女は再び歩き出す前に振り返り、そして健やかに微笑んだ。胸に宿り繋がったものに対して、無言のまま親指を立てた真の満足(サムズアップ)を感謝の笑顔と共に伝えて駆けていく。

 

『……』

 

 世界樹の下、神殺しの槍だけが残る。そのそばで“白い髪に白い肌”の『人間離れした銀の女』は感慨深く言葉を紡ぐ。

 その胸に宿ったものの名は……——————。

 

 

 

 

 

 愕然の面持ちで風鳴弦十郎は映像に目を釘付けた。オペレーターの『アウフヴァッヘン波形を計測!』という言葉と共に、巨大な液晶画面に出現した文字を見て、彼は驚きのあまり叫びを上げる。

 新たに生まれし英雄が胸に刻む、新たな伝説を切り拓くものの名は……——————。

 

 

 

「ガングニールだとォッッッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

「……変わったッ!?」

 

 ノイズに触れ、そして()()()()()()を打ち砕いた右腕には、機械的なアーマーパーツが服を破いて表出している。

 

「っ!やぁッ‼」

 

 続けざまに、目の前の親友へと迫るノイズ。響は蹴りを入れんとすると、その意思に呼応し脚部がバトルブーツへと変化した。

 

「ぜぃッ!でりゃぁッッ!」

 

 響が攻撃を加える度に、肉体が変化しアーマースーツに覆われていく。的確にノイズの脚部を破壊し行動を阻害、また攻撃手段を奪っていく響。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ‼」

 

 裂帛の叫びと共に響はギガノイズに掌底を叩きつけ、その怪物の巨躯を吹き飛ばす。

 

「響…?」

「お姉ちゃん、カッコイイ!」

 

 ヘッドフォン型のパーツが耳に装着され、最後の肉体変化が終了すると、響の姿は白と黄色の鎧を纏った姿へと“変身”していた。

 

「………」

 

 二人の声がどこか遠くに聞こえる。ノイズを退けたその拳を、響は何を思ったか静かな眼差しで見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

「派手だな。これは……祝わねばなるまい」

「お?レイアのあのカッコイイ口上か?ミカあれ大好きだゾ!」

「えぇ~?無駄にポーズ決める上、あんなこと人目を憚ることなく言って恥ずかしくないんですかねぇ?」

「あなた達ねぇ……」

 

 工場に張り巡らされたパイプの上に立つ五つの人影。

 

「—————立花響、やはり体内にあった天羽奏のガングニールが融合していたか」

 

 配下の自動人形(オートスコアラー)たる『終末の四騎士(ナイトクォーターズ)』を引き連れ、新たな伝説の幕開けを見届けたキャロル・マールス・ディーンハイム。

 しかし、その瞳は何を見たのか。疑念の色が浮かんでいた。

 

「だが、……本当にアレは『()()()()()()』なのか?」




 キャロルさんが付けていた仮面は、XDのスター●ムコラボのキャロルちゃんのヤツを改造した感じ。
 それと覚悟完了済みドンビッキーの中で声をかけてきた存在は……多分、月見うどんが好き。

??????「ユグドラシルめ…遺憾である」ずるずるずー。
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