レジェンド・オブ・シンフォギア 通りすがりの奇跡の破壊者   作:サルミアッキ

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 ドンビッキー、最初で最後(になるはず)のフルボッコ回。


空っぽな我

「—————で、そのお子さんは無事親御さんに会えたんですか?」

「……問題ない。親子ともども立花響と小日向未来と接触した想い出はガリィに“凍結”させ、別の記憶を上書いておいた。今の時点であの二人を二課と接触させるのは、極力避けたいのでな」

 

 アンナがキャロルお手製プリンを匙で掬いながら聞いてくる。だが、キャロル当人は難しい顔をして手元に広げた資料と睨めっこを繰り返していた。

 工場で起きた立花響のシンフォギアの覚醒を何とか二課の監視を妨害し、親子との会合までお膳立てし、無事日常へと帰したキャロル。その後二課が現場についても、残っていたのは記憶の差し替えを完了させた母と子供のみ。

 これでしばらくは問題ないだろう……などと楽観視することはできない。立花響の性格を知るものとして、彼女がまた厄介ごとに首を突っ込むのは、想像するに容易いことだった。

 

「キャロル、入りますよ。例の聖遺物のアウフヴァッヘン波形を『音撃の譜面』にしたものができまし—————それって、立花響さんのレントゲンですか?」

「あぁエルフナイン。どうにもヤツの危うさに拍車がかかった。念のために調べようと思ってな…」

 

 今の立花響の状況は非常に危うい。その力もそうだが、精神の在り方も同様だった。再び二年前と同じになっては、元も子もない。

 

(立花響……)

 

 この二年で、明るく振舞えるようになった少女の顔を思い浮かべるキャロル。

 

(あのツヴァイウィングのライブの事故により、体内にSG-r03ガングニールの破片が混入、九日九夜の間昏睡状態に陥る。ガングニールの大半は手術によって摘出されたが、ファラが病院から盗み出したレントゲン写真を見る限り、心臓付近には除去できなかった破片が未だ残り続けている……)

 

 光源に翳していた写真を投げ捨て、キャロルは忌々し気に舌打ちを一つ。苛立ちを隠すことなく、乱暴な有様で珈琲を喉に流し込んだ。

 

(シンフォギアの外装を構築しノイズを撃破できたのはこれが原因とみて良いだろう。だが、ヤツがガングニールを展開した際、起動に不可欠な聖詠を唱えずにギアが発現していた。『ファウストローブ』でもあるまいし、これは一体どういうことだ?)

 

 エルフナインからそっと差し出されたアップルパイを手掴みで口に運び、ざくざく嚙み砕き咀嚼する。指に付いた砂糖を舌先で舐めとり、そのまま口元を抑え考え込むキャロル。

 

(命題を解くには、まずガングニールの特性の再分析だ。神話などから考察すれば、その槍は北欧の大神オーディンのもの。オーディンは、様々な神性と同一視される。その中の一つはメルクリウス、錬金術の秘奥を司るヘルメスであるというのが錬金術師たちの共通認識だが……)

 

 ふと、天啓とも言うべき閃きが、彼女の脳内で瞬いた。

 

(いや、この場合の解く鍵はガングニールそのものの逸話か。ガングニールは投げれば敵を寸分たがわず貫き、また手元へと戻ってくると言うのが通説の解釈だ。その柄は北欧神話において、原初の人間アスクの素材にもなった樹トネリコ—————一説ではトネリコの中でも偉大なる世界樹ユグドラシルから創られたとも。その穂先の刃は、林檎の樹に突き刺さっていた剣……後の竜殺しの剣グラムを砕き、秘密の意を持つ言葉『ルーン』が宿る場所でもある。神秘の言葉『ルーン』は、オーディンがユグドラシルにガングニールで体を突き刺し縫い付けて()()()()、接続し……—————)

 

ユグドラシルは、大いなるトネリコ……人間のプリマ・マテリア

 

原初の人間……アスクとエムブラ—————聖書におけるアダムと、イヴ

 

オーディン—————、錬金術師である神人ヘルメス・トリスメギストス……聖書における、エノクなりしメタトロン

 

林檎の樹、竜殺し……竜は、蛇—————禁断の果実、知恵の実

 

ルーン、秘密の言葉……アカシックレコード

 

 

「……—————統一、言語?」

 

 思わず零れる、震える声。

 

「キャロル?」

「どうか、しましたか……?」

 

 青ざめた顔をしたキャロルに、二人は小首をかしげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一面の銀世界に、世界樹が聳える。そして、足元には人の骸が幾つもあった。潰れたもの、落下し礫となったもの、塵になったもの、血だらけのもの、臓物が零れ出たもの。

 響は声にならない叫びを聞きながら、一歩、また一歩とその場から遠ざかろうとした。先にある……未来にある助けられるものを探し求めるために、一歩を踏み出そうとした。

 

『—————空虚である。我が授けし偽りの力で、何を成す』

 

 …………内包する世界が、現実に反転した。

 

「—————ッ」

「響、大丈夫?」

「……うん。大丈夫だよ。へいき、へっちゃら!」

 

 過去の幻影を霧散させ、心の涙を優しい笑顔の仮面で隠す響。

 

「それにしても不思議だよね。響の格好が変わったと思ったらノイズを倒せちゃうし、ビルをピョンピョン飛び越えるくらいできちゃうし」

「ん……そうだね。わたしも何が何だか……でもあの子をお母さんに会わせられてよかったぁ~、助けられてほっとしたよぉ~!」

 

 工場にまで娘を探しに来た母親と偶然(・・)出会えた二人は、そのまま女の子を引き渡して、リディアン音楽院の寮まで帰ってきていた。

 

「でも、本当に何なんだろう……響のそれって」

「んー……わかんない。でも、胸のあたりから力が溢れてきた感覚はあったんだ」

 

 響は徐に服を脱ぐ。(はだ)けさせた胸元にあったのは奇妙な傷。それは、音楽記号のフォルテによく似た形をしていた。

 あの日、受けた聖痕(スティグマ)。数多くの人の死が奏でる歌が、今も胸の中で渦巻き響いている。

 

「!」

 

 —————どくん。

 

「どうしたの?」

「あ。大丈夫大丈夫、急に耳鳴りがしただけ、だから—————ッ雑音?人の、悲鳴……ノイズッ!」

 

 響は一瞬銀色に変化していた目を窓の外に向けた。鋭くなった肌感覚が、世界の全ての事象を感じ取る。慌てて立ち上がり、彼女はベランダの窓ガラスを開け放った。

 

「え、響?」

「未来はここで待ってて?大丈夫、わたしは絶対帰ってくるから」

 

 そう言い残すと、響は足に力を込めて跳び去った。一跳びで、数百メートルの高さへと至った彼女。一瞬にしてビルさえ超えて、月に人影を躍らせる。

 

「……—————」

 

 月が綺麗に輝いた。だが、小日向未来の心は暗雲が立ち込め出していた。

 

 

 

 

 

 

 未だ冷え込む春の夜。光の届かない高架橋下にポツンと停まる、出汁の匂いが香るおでんの屋台。暖簾の奥には談笑する四人の人影がある。風変りな格好の四人の女性たちだが、頑固一徹と言った風貌の屋台の店主は、黙々と足りなくなったおでんのタネを出汁に漬け入れるだけ。詮索することの無い居心地の良い空間に、お得意様である彼女らはついつい長居をしてしまっていた。

 

「しっかし良いんですかねぇ?我々マスターの命令で自由行動してますが……モゴッ、“超進化”の兆しなんてまだ見えて来てないんですケド」

 

 店主が一度、席を外した時のこと。がんもどきと蒟蒻を頬張った“ギザ歯に青いドレスの少女”『ガリィ・トゥーマーン』が日本酒を愉しむ二人組に視線を向ける。

 

「マスターの手ずから改造していただいた我ら最新のオートスコアラーは、記録した人の感情を学習することで自己進化による能力発現機能が備わっている。だが、人のどのような感情と共感・同調するかは個体差だ。ならばどのような地味な行動も無意味ではあるまい」

 

 切り分けた卵と昆布を食べながら、“片目を髪で隠した黄色いシャツの男装の麗人”『レイア・ダラーヒム』は隣の人物へ酌をする。

 

「そうですわよガリィちゃん。絵を見たり、音楽を聴いたり、こういった具合に料理を味わうことで感情が極まることだってあるかもしれないでしょう?何より今までの躯体では感じられなかった外部刺激がここまで鮮やかであるとは、想い出以上に稼働できる力になりますわ」

 

 手元の猪口に日本酒を注がれた“深緑のロングスカートを着た巻き髪の女性”『ファラ・スユーフ』も、隣の麗人の言葉に同調した。

 

「人間ってズルいゾ、どこもかしこも喜びばっかりだゾ……ガリィ!あたしもっとおでん食べたいんだゾ!」

 

 手元が見えないだぶだぶの萌え袖を振って、“ボリュームのある赤い髪の少女”『ミカ・ジャウカーン』は隣の少女におでんを強請っている。

 

「あーはいはい、ったく……ほらアーン」

「ぞなもしッ!?」

 

 ぱかーっ、と開けられた口に箸を突っ込むガリィ。丸ごと放り込まれた湯気立つおでんにミカは悶絶する。

 

「あらー、ミカちゃんには早かったですかねぇ?……辛子塗りたくった100度超え大根」

「「性根が腐っている……」」

「あたしはお笑い芸人じゃないゾ……へふへふ。でも美味しいゾ!」

 

 顔を汗まみれにしながら、喉を鳴らして味の染みた大根を胃袋に収めた時だった。町中のスピーカーがどこもかしこも鳴り響く。

 

「あららぁ?うるさいですねぇ」

「—————ノイズか。夜中に派手なことだ」

「およ?暴れていいんだゾ?」

「そうですわね。でも、まずは……」

 

 四人は立ち上がり、店主の前に万札を置いた。

 

「「「「ごちそうさまでした」」」だゾ!」

「……またのお越しを」

 

 

 

 

 

 

 数百メートル上空から加速して落下する私服のままの響。コンクリートの道路に傷一つ付けずに静穏に着地すると、目の前ではノイズの出現が始まっていた。

 

 

「早く助けないと……うぁ!?」

 

 響の目の前に、剣の切っ先が現れた。振り払われた刃を避けると、襲いかかってきた剣士の姿が露になる。

 

「だ、誰……?」

「通りすがりの錬金術師だ。ノイズの代わりに、オレが相手をしてやる」

 

 彼女の目の前に立っていたのは……黒い身体に黄金の外皮、赤い瞳に双角を持つ“竜の如き戦士”だった。その人物は赤い剣を肩に担いで立花響へ向かい合う。

 

「何を言ってるんですか……ッ?こんなにノイズがいるのに、なにより人間同士で戦うなんてッ!」

「ん?あぁ、戦う理由が必要か?ならば……」

 

 言うや否や、慌ただしく避難する人間たちに向かって片手をかざす。そしてその腕を横薙ぎに振ると、銀色のオーロラが人々を飲み込み—————消し去った。

 響の顔が驚きに染まり、悲しみと怒りで歪む。

 

「……街の人達を、どこにやったんですか!?」

「それを識る必要があるのか。今、この場で」

 

 黄金の戦士の剣に炎が燈る。一瞬で距離を詰めてきたその戦士が、大きく振りかぶってその刃を突き立てようとした。

 

「……ッくぅ!」

 

 焔の剣を受け止めた響の両腕が変わり、肌が白い機械鎧装に置き換わる。圧倒的な膂力で繰り出される剣戟に響は何とか踏ん張ると、脚部は黒いバトルブーツに肉体変化した。踏みしめられ、陥没するアスファルト。下水管が破裂し、噴き出した水が雨の如く夜空に舞う。

 

「成る程、それが融合症例の力か。面白い、ちょっと遊ぼうか」

「な、何で……ッ?」

「……そうすれば、オレとお前が抱いた疑念が解けるやもしれん」

 

 お互いに距離を取る、どこか太陽を思わせる光を纏う戦士たち。

 

「お前も気付いているだろう—————お前の中に、埒外のナニカがあることを」

「ッ!」

 

 仮面の戦士は手に持った剣を放り投げると、黄金のエネルギーを纏った拳を握りしめ、一直線に立花響の胸へと突き出した。

 

「フンッ‼」

「うぐぅ……ッッ!?」

 

 肺の中から空気が押し出され、一瞬止まる呼吸。宙を舞った響の身体が、黒々とした道路の上へと落ちる。

 だが、彼女は転がりながらも即座に立ち上がると、勇猛果敢に駆け出した。

 

「……ッ!ふぅッ、ハッ、どりゃあッ‼」

「……おっと」

 

 響の黄色の鋭い突きが乱れ咲く。一撃でも食らった人間であれば、昏倒は必至だろう。だが、それをそよ風でも吹いているかのように難なく避ける黄金の戦士。

 

「見切られてる……ッ!」

「……ハッ‼」

「う、ああああッッッ‼」

 

 逆に隙を突かれた響に、カウンターパンチが炸裂した。

 

「力を得たばかりというのに、なかなかやるな。だが、オレには及ばない」

 

 受けた攻撃に肉体が怯み、迎撃の準備が整わない響。だが、無情にも仮面の騎士はベルトを操作し、さらなる追撃を繰り出そうとしていた。

 

【GORGEOUS ATTACKRIDE! A-A-A AGITO!】

 

「ハァァァ……ッッ!」

 

 大地に浮かび上がる角持つ顎の紋様。その黄金の波動は足に束ねられ、戦士の頭部の双角を変形させた。そして六本の角が冠のように開き、神をも穿つ力が解放される。

 高く飛び上がり、その戦士は足を突き出した。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッ‼」

「う、アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッ!?」

 

 響の体は吹き飛び、アスファルトを抉り穿ってようやく止まる。だが、攻撃を加えた戦士は怪訝な声で響に問いを投げかけた。

 

「どうした、何を躊躇った。戦う気が無いのか?それとも『人が生きることを守りたい』と願う、お前の思いはそんなものか」

 

 何故か響の願いを知っていたその戦士は、続けて矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。

 

「『へいき、へっちゃら』だとか言っていた時の威勢はどうした?こんなところでへこたれるとは、甘いな。もっと骨のある奴だと思っていたが」

 

 響の心に、土足でずかずかと入り込んでくる戦士の言葉。

 

「あなたに、何が、分かるっていうんですか……ッ!」

「人と繋がりたいと願うお前が『他者への拒み(それ)』を口にするのか、重症だな—————お前のことなら、誰よりも識っているつもりだが?」

「知ってませんッ!この力は、人を傷つけるためのものじゃない、人を守ること……そのために……ッ!」

「人を守る、か。違うな。お前は未だ何を守るか、核となるものが定まっていないんだろう」

 

 未だ地面に這い蹲るままの響。その近くまで歩み寄ると戦士はしゃがみ、赤い目を響に向けた。見透かした言葉が、響の心を波立たせる。

 

「お前が倒すのはノイズだけか?それなら人間同士での争い合いを、素知らぬ顔で見て見ぬふりをするのか?だったら身の丈に合わない信念を—————、戦う意思を今すぐに捨てろ。そうすれば、力の意味を背負わない……綺麗事だけの正義の味方でいられるぞ」

 

 嘲笑うように、戦士は響の言葉を糺していく。響の脳裏に映るのは、かつてのアリーナでの惨劇—————人が人を蹴落とし合い、押しのけ合う醜い場面。

 

「何を……ッ、言って……!」

「—————お前は識っているはずだ。幾ら悲観したところで、この世はお前が望む綺麗事では罷り通らない。力を持てば、そして暴力に惑えば、人間同士で争うことも当たり前。そうだろう?」

 

 その時、二人の耳に足音が届く。誰かが駆けてくる。息を切らして、誰かを心配するように、足早に近づいてくる者がいた。

 その隙を、戦士は見逃さない。

 

【CHEMYRIDE! GO-GO-GO GORGEOUS! FAIZ!】

 

 黄金の肉体を覆う赤いサイバーライン。闇夜を切り裂き、黄色の丸い目が啓く。

 

【COMPLETE.】

 

機械的な外装を纏った戦士は、φのマークと共に出現したオフロードバイクを人型に変形させて、道の角から現れた少女を拘束させた。

 

「えッ……い、いやッ……離して!」

 

 ロボットバイクに腕を掴まれる少女を見て、響の血相が変わる。

 

「み、未来‼なんでここに……!?」

「だって—————響が心配だったの!」

「……どうした。こんな事態になっても、まだ人間と戦うことを迷うのか?だが……迷っているうちにお前の大事な人が死んだらどうする。人と戦うことと、迷いが原因で人が死ぬこと。お前はどちらを選ぶ?」

 

 響は救世主の伝説を持つ仮面の戦士に向き直った。歯を食いしばり、犬歯を剥き出して、今にも飛び掛からんとする激情が見て取れる。

 

「—————ッ、こんなことをして……何になるっていうんです!」

「—————お前、どうも勘違いしているな。逆だ、何にもならん。今のままでは、お前は何すらも守れない」

 

 小日向未来の表情が曇る。その懸念は、彼女も感じていたことだった。今の響は、他人を助けられる力を得たことによる焦りと力のあまりの大きさに圧し潰されそうになっている……少なくとも彼女の目にはそう映っていた。

 

「わたしが……守れない?人を……ッ?」

「そうだ。お前一人が他人と繋げる腕はたった二本しかない。誰かと手を繋げば、他の誰かは助けられない。それは当然のことだろう?」

 

 銀色の装甲が付いた指先が、響の細い喉元を握りしめる。片腕一本で空中に浮く響の体。

 

「ガッ……う、あッ!」

「この娘をお前は巻き込んだ。本意か不本意かは知らんがな……それでも、お前は人を守ると吐いた。ならば、どんなことが起ころうと戦い続ける覚悟はあるか」

 

 響は必死に指を突き立て、黒いアーマーの腕を引きはがそうとする。だが、φの文字の仮面の戦士は微動だにしない。

 

「わた、しは……!わたし……、はッ」

「響……」

 

 響の悶絶の声だけが聞こえる静謐。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■』

 

 —————だが、その静けさを雑音が遮った。咄嗟にロボット型バイク……オートバジンを操作し、小日向未来の身に向かって来る怪物を破壊する仮面の戦士。

 

「……ッ、また、ノイズ?」

「ちっ、“説教”の邪魔だな……」

 

 ぼそりと誰ともなく呟いたその言葉。そして自分を守ったロボットの挙動—————それが小日向未来には誰かと重なって見えた。

 

(あれ?……もしかして)

 

 その人影を想い出の中で辿ろうとしたが、目の前の戦士の左腕に付いたリストウォッチの音声が未来の思考を分断する。

 

【START UP.】

 

 身体の真紅のラインが銀に変色し、胸部パーツが解放されたのと同時。一瞬にしてその仮面の戦士は時間の彼方へ消え去った。

 

「……ぇ?」

 

【THREE. TWO. ONE.】

 

 空中に放り出される響。そして、周囲にいたノイズの頭上に赤い円錐型のエネルギーが発生すると、ノイズたちが爆散し消えていく。少なくとも響たち三人を取り囲んでいた数十体ものノイズは塵へと帰っていた。

 

【TIME OUT. REFORMATION.】

 

 残像を残して二人の前に再度出現した戦士。彼女はベルトからカードを引き抜くと、鬼が描かれたカードを新たに取り出し目の前に翳す。

 

「何、が……ッ」

「驚くには、まだ早い」

 

【CHEMYRIDE! GO-GO-GO GORGEOUS! HIBIKI!】

 

「『ヒビキ』には『ヒビキ』の力だ」

 

 機械のアーマーが紫の焔で覆われていく。やがて、その体躯が筋肉質なものへと変化すると、戦士は腕を振るって身体から噴き出る紫炎を消し飛ばす。

 そこには、—————鬼がいた。赤い隈取に、双角を天に向かって生やす雄々しく猛き戦士だった。だが響や未来には、人とは異なるその姿を悍ましくは見えなかった。

 

「受けてみろ。無垢にして苛烈、魔を退ける清めの音を」

 

 金色をした襷掛けの装飾を揺らして、その鬼は赤い和太鼓バチを両手に出現させる。

 

【GORGEOUS ATTACKRIDE! HI-HI-HI HIBIKI!】

 

「うぇ……ッ?」

 

 ベルトから音声が鳴ると響の身体に鼓の形をしたエネルギーが出現し、紫電を放ちながら彼女を拘束する。そして、周囲のフォニックゲインの高まりに合わせて荘厳なる音撃が始まった。

 

「う、く……!?」

 

 鍛え抜かれた一挙手一投足に、さらなる力が籠る。音撃鼓を通じて、響の体の奥へと奏でられた和音が響き染み渡る。

 響は感じ取っていた。自分の中にあった、御しきれず持て余していた力が、徐々に消えていくような、否……封じられていくような、そんな違和感を。

 

(—————何でこの音楽は、わたしにこうも何かを訴えかけてくるの?)

 

 その音撃の譜面は、仮面の戦士が保有する“ある聖遺物”の波形から作曲したもの—————小日向未来の耳には、その愛の音律が形となって届いていた。思わず歌を口ずさみそうになる程に、その音は彼女の心に染み入っていた。

 

「ハァッッ‼」

「うわァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!?がっ!」

 

 紫電を体から迸らせ、響は仰け反って倒れてしまう。体を覆っていた白と黄色の鎧は体内へと吸収され、体を覆うものはもとの洋服姿に戻っていた。

 

「響!」

 

 慌てて彼女に駆け寄る未来。意識が途絶えてもなお、立花響は掴む宛もなく手を目の前に伸ばしていた。譫言として紡がれる、彼女の言葉。

 

「わたしが、守る……みんなを守るんだ……この力で—————」

「……立花響」

 

 静かな、説くような声だった。鬼を思わせる姿の戦士はすでになく、黄金と四色の宝石が煌く光輝の騎士がそこにいた。

 

「お前はその力を—————シンフォギアを手にしたから、人間を守ろうと思ったのか?」

 

 朦朧とした響の耳に、伝説の戦士の言葉は酷く残響した。

 

「順番が逆だろう。お前は初めから『人を助ける』ことを、心の中の譲れないものとして持っていた。そこに偶然、シンフォギアという力を纏って戦う資格を得た。違うか?」

「—————」

 

 仮面ライダーレジェンドは問いかける。立花響にとって、心の根底にある大事なことを。

 

「だが一方的な力では、お前は何も助けられない。お前が手を掴む意味を、理由を忘れるな」

 

 言葉が耳に届くと、響は張り詰めた糸が切れるかのように意識を失った。彼女に抱き着き支える未来。

 

「響……響!」

「……ん?」

 

 気絶した響と彼女を抱く未来、そして仮面ライダーレジェンドの間に、世界を分断する銀のオーロラが発生した。その奥から人影が近づいてくるのが見える。

 

「なッ……!お前たちは……!」

 

 オーロラカーテンの影響か、再び空間から湧き出すノイズたち。だが時空の歪みが、さらなる異物を呼んだ結果……この世界にいるはずのない特殊な怪物さえも引き寄せた。

 

「なぁんか、変な場所に来ちまったな……、ここも“へーこーせかい”ってヤツか?」

「でも()、ここにもいたよ。ノイズが沢山。なんだろう、あの“灰色のノイズ”」

「ははっ心配性だな、クリス(・・・)は。だけど、オレとお前がいるんだぜ?」

「—————うん。そうだね。やるべきことは、分かってる」

 

 色とりどりの怪物に交じる、“灰色の体を持ったノイズ”たち。それらの軍勢に臆することなく、『青髪を肩口で切り揃えたボーイッシュな少女』と『緩く長い癖毛の銀髪をした垂れ眼の少女』は、シンフォギアの聖詠を口にした。

 

『Imyuteus amenohabakiri tron』

『Killter Ichaival tron』

 

 青と赤の光が柱となって立ち昇る。

 

「—————チッ、『ミストルティン』とも繋がったか。おい小日向未来。さっさとそこに倒れているのを連れて失せろ。顔を合わせると色々と面倒だ」

「は、はい……—————あの」

 

 目の前で起きた光の柱から二人の少女を庇うように、仮面ライダーレジェンドは立っている。その背中を、ようやく未来は思い出した。二年前から見続けていた……響を助けてくれた人の背中だった。

 

「キャロルさん、ですか?」

「……—————」

 

 未来の問いに、黄金の戦士は答えない。振り返ることすらしてくれない。ただ彼女らを逃がすため、二人の後ろに次元を跨ぐオーロラカーテンを生み出しただけ。

 

「だって、口ではああいいながら、ずっとわたしのこと気にかけてくれてましたよね?響だって、怪我らしい怪我はしてませんし……」

「……そのオーロラを潜って逃げろ」

「—————はい」

 

 響に肩を貸して、未来はその場を去っていく。この場で自分ができることは、それだけしかなかった。その現実が、未来には無性に悔しく……また、辛かった。

 

 

 

「教えて、くれないんですね……」

 




 レジェンド、安定の破壊者ムーヴ(ジオウバージョン)。そしてオートスコアラーは戦姫完食シンフォギアネタ。

 一方の二課。今作、かなり後手に回ってるな……。

OTONA「なんだとォッッ!?」
奏「ガングニールって、おい……またかよッ!?」
黒幕「イチイバル、ですって……そんな馬鹿な!?」
防人「何故、アメノハバキリが二振りもッ……!?」

(※まぁ、実際はアナザーつばクリの装備にはアウフヴァッヘン波形無効化ステルスの機能があるんだけど)
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