レジェンド・オブ・シンフォギア 通りすがりの奇跡の破壊者   作:サルミアッキ

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 捏ね繰り回して投稿|д゚)


罪を背負い、勇み、介く

「しゃあ!いっくぞー!」

「うん……やろう!」

 

 群れるノイズに突き進んでいく二人のシンフォギア装者。

 

「並行世界間の歪みがオーロラカーテンとなって発生したのか…。クソッ、こちらの世界で忙しいというのに…ッ!『レーベンガー』だったかの襲撃が百年前にあったが、あれを錬金術師協会総出で秘密裏に破壊した時以来だな……!」

 

 レジェンドは頭を振ると、周囲の様子を見渡した。大量に発生したノイズたちと、縦横無尽に駆け回る戦姫に、街の景観は崩れ出していた。

 

「……一先ず、今は河岸を変えるとする」

 

 レジェンドが横薙ぎに腕を振り、周囲一帯をオーロラカーテンで覆いつくす。すると、二人の装者の目に映る世界が、変わった。

 

「おぉ?なんだこりゃ?」

「場所が変わった……、あの全身装備の人の力?どんな聖遺物を使ったの?」

「残念だったな。生憎と、これは自前の力だ」

 

 三人が立っていたのは岩肌がむき出しの採石場。夜だったはずの空は太陽が昇っており、雲一つない晴天だった。

 

「さてどれ程の腕か見せてもらおうか、並行世界のシンフォギア装者殿?」

「……あなた、偉そうね」

「はっ、舐めんなっての!」

 

 売り言葉に買い言葉。弾かれたように駆けだした青と赤の二人は、アームドギアや体術を用いて次々にノイズを屠っていく。

 

「分解せよ、四大元素(アルカヘスト)

 

 敵に向かって手をかざすレジェンド。火焔と竜巻が混じり合い、火柱が幾本も立ち昇る。カラフルなノイズも、灰色のノイズも塵に還っていく。

 

「ふん。……あの別世界の装者二人も中々だな。阿吽の呼吸というやつか。む?」

 

 翼とクリスと呼ばれる二人組のコンビネーションを賞賛していたレジェンドに、青白い炎が叩きつけられる。彼女は反射的に展開した黄金のバリアで防ぐと、その下手人と視線が合った。

 そこにいたのは、病的にまで白い灰色の体の怪人たちだった。魚や動物、植物などを思わせる体躯の化け物……それを仮面ライダーとして戦うキャロルは、どこか遠くの想い出の中で知っていた。

 

「何?—————『()()()()()()』、だと?どの世界から紛れ込んだ?」

 

 植物の特性を持つオルフェノク……『オクラオルフェノク』がネットを投擲し、軟体動物の特徴を有するオルフェノク……『オクトパスオルフェノク』は腕から触手を放出した。即座に避けたため、その攻撃がレジェンドにあたることは無かったが、高圧水流を思わせる触手はライダーの背後にあった岩を砕き粉微塵にする。

 

「中々の力だな。だがちょうどいい。試したい新兵器の出番だ」

 

【3・8・2・1】

 

 レジェンドはどこからか取り出した携帯端末……『ファイズフォンX』のキーを順番に押した。すると周囲の空間に歪みが生じ、オーロラカーテンの向こうから、何かがエンジンを吹かし向かって来る。

 

【Jet Sliger. Come Closer.】

 

 トラックやセダンを思わせる巨大なサイズの二輪車が、その姿を露にした。その白銀に光る車体を見て、翼と呼ばれた少女は目を輝かせる。

 

「何だあのバイク!でっけぇ、てかカッコイイ‼」

「そ、そうかな……?」

 

【3・8・4・6】

 

 巨大バイク『ジェットスライガー』に乗り込んだレジェンドが、再び取り出した携帯端末に指令コードを打ち込むと、後部に搭載された『ルクシオンジェネレーター』の稼働が開始される。

 

「うそ、飛んだ?」

「うおぉ……欲しいな、あーゆうの」

 

 動力部が唸りを上げると、鈍重な車体が宙を舞った。ホバリングが生み出す風圧に、オルフェノクたちは身を強張らせる。

 

「もう一つ、おまけだ」

 

【3・8・1・4】

 

 片腕でハンドルやタッチパネル式ディスプレイを操作しながら、空いたもう一方の手で、ファイズフォンXで攻撃指令を入力するレジェンド。そのコードを受けて、ジェットスライガーのカウル部が変形していく。

 

「……ッ翼、避けて!」

「うわッ!?」

 

 バイクから展開されたランチャーから、追尾式フォトンミサイルが乱れ撃たれた(フルバースト)。32発の巨大追尾弾が数多くのオルフェノクたち目掛けて襲い掛かる。

 

「じゃあな」

 

 目も眩む爆発が、採掘場に幾つも立ち昇る。そして、青い炎や灰となって散る怪人たち。瞬く間にオルフェノクたちはバイクの放った一撃にて掃討された。

 

「—————ま、こんな所だ」

 

 レジェンドは土煙と灰が漂う大地へ着地した。

 

「……っ、ぶはぁ!死ぬかと思った!?」

「銃火器の取り回しは周りをよく見てしてください…!」

 

 レジェンドに対して不満たらたらな並行世界からやってきた二人組は、目や鼻を擦りながらもそのアームドギアから手を離すことはしなかった。

 

「なぁあんた、もしかしてあれだ、錬金術師……ってやつだろ」

 

 戦闘の様子を見ていたらしい、青い髪の装者が剣呑な調子で口を開く。

 

「そうだとしたら、何が言いたい?」

「オレたちの世界で、錬金術師を名乗る連中がテロ組織やら非正規軍に『アルカ・ノイズ』ってのを売り出してな。こっちは迷惑してるんだ。だから少しでも解決のための手がかりが欲しいんだよ」

 

 『アルカ・ノイズ』という単語に反応し、仮面の下で思わず眉をしかめるキャロル。

 

「—————それで?お前らは『アルカ・ノイズ』とやらの手がかりを見つけてどうするつもりだ?」

「決まってる。人が死んでるんだ……、んなもん作ったヤツらは締め上げて、罪を償ってもらう」

 

 ぎりり、と握りしめられる手。数多くの人間が塵となったのだろう。目の前の二人から悲しみと義憤が伝わってくる。

 

「—————オレとしては協力してやることも吝かではないが、お前たちも見たところ裏の組織に属する人間だろう?そう易々と首を縦に振るわけにはいかんな」

「へぇ、じゃあどうすれば言うこと聞いてくれるわけ?」

 

 天羽々斬のシンフォギア装者の言葉に無言を貫き、レジェンドは一枚のカードをベルトに装填した。

 

【CHEMYRIDE! GO-GO-GO GORGEOUS! BUILD!】

 

 赤と青の管がレジェンドの前後へ伸びていき、形成された二色のボディパーツが黄金の装甲を挟み込む。

 

【鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イェーイ!】

 

「ならば力を示せ。弱い者の言葉に、護れるものは何もない」

 

【フルボトルバスター!】

 

 赤い兎と青い戦車の複眼が、濛々と噴き出す蒸気の奥で輝いた。

 

「へっ、上等!」

「……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところ変わって、平穏な夜の普通の街中。周囲の民家では無辜の市民が寝床に就こうかという刻限だった。リディアン音楽院の寮の前に、サングラスと帽子を付けた二人組が立っている。

 

「……よし、いくぞ」

「ええ」

 

 二人は頷くと、意を決して寮の中へ一歩足を踏み入れた……—————。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「—————…………ん」

 

 立花響は閉じていた目をゆっくりと開けた。

 

「……ぅ、ぁ」

「響ッ‼」

「あ、れ?み、く……?」

「~~ッッ、よかったぁ……心配、したんだよ?」

 

 ベッドの上から覗き込むルームメイトの顔。彼女の安堵の表情から涙が零れる。

 

「そっか……。わたし、負けちゃったんだ……」

 

 響は包帯を巻かれた腕を、絆創膏が貼られた額に乗せて呟いた。酷く冷たい腕が、熱の籠った頭に心地が良かった。

 

「ねぇ……。あんなことがあったけどさ、響はどうするの?」

「—————えぇっと?」

「今日は運よく大きな怪我をしなかったけど、またこんなことを続けたりすれば、次はどうなるか分からないでしょ……」

「あはは、そうだねー……でも大丈夫、無理はしないから。誰かを助けられる力があるんなら、見て見ぬふりをするのは違うでしょ」

 

 救急箱をタンスの中にしまう未来の様子が変わる。

 

「…………あれ、未来?おーい……」

「……」

 

 未来の唇の隙間から、吐息と共に言葉が溢れた。

 

「や……」

「え?未来?」

 

 

 

 

 

 

 

「…………イヤだ」

 

 

 

 

 

 

「……み、っ?」

「—————何で響なのッ⁉他の誰かだっていいじゃない!なんで響がそんなことをしなくちゃいけないのッ!?」

 

 未来が感情を爆発させた。響の肩を引っ掴み、彼女の胸に顔を押し当て叫びをあげる。

 

「ねえ、何でよ……教えてよ」

「—————それは、わたしがそう望んでたこと、だから……」

「望んだ!?響が!?“あんなこと”があったのに!?」

「言ったでしょ。わたしは生きることを諦めないって。だから今を生きる人たちにも手を伸ばし続けるって」

「—————響は、やっぱり響だね。分かってた、そうするって……」

 

 未来は諦めと納得とが綯い交ぜになった顔で、響の手を取り両手で包む。

 

「でもわたし、昔の響が良かった。手の届く範囲の人たちのために一生懸命になる、そんな当たり前の響が……」

「変わってないよ。わたしのすることは変わらない。手の届く場所が、ちょっと大きくなっただけ……」

 

 

 

『お前はその力を—————シンフォギアを手にしたから、人間を護ろうと思ったのか?』

『だが一方的な力では、お前は何も助けられない。お前が手を掴む意味を、理由を忘れるな』

 

 

 

「—————そう、だ。わたしの始まりは、そうだったっけ……」

 

 目の前の霞が晴れていくようだった。力に振り回され焦っていたのが、嘘のようだった。

 その時、来客を知らせる部屋のチャイムが鳴る。

 

「あれ?この時間に来客なんて、誰だろ?」

「……響はそのままでいて。わたしが出るから……はぁーい、どちら様で……。—————っえ?」

 

 玄関に行った未来の声が、素っ頓狂な困惑したものになる。そして、転がるように後ろに下がると尻餅をついた。

 

「—————夜分遅くに失礼します」

「あー、ごめんな?お邪魔だったか?」

 

 未来だけでなく、響も驚きに目を見開いた。眼前の女性たちがゆっくり帽子とサングラスを外し、特徴的な髪型が露になる。

 

「……嘘ぉ!?」

「な、なんでツヴァイウィングのお二人が、わたしたちの部屋に!?」

 

 天羽奏と風鳴翼。誰もが知っているトップアイドルが、二人の目の前に立っていた。

 

「そのことなんだが、一つ質問良いか?立花響ちゃん」

「はっ……はい!?」

 

 推しのアイドルに名前を認知され、さらには自分のベッドの横に腰掛けられたことに、響はアタフタと忙しない。どんなご褒美ですかこれ、今わたしってば見苦しい姿じゃないかな、なんて場違いなことを考えていた。

 

「—————二年前のあたしらのライブの時、なにがあったか憶えているか?」

 

 その言葉に、響の意識は仮面を外したように切り替わる。

 

「……ごめんなさい。その日の記憶は虫食いが多くて、はっきりとしたことは思い出せません」

 

 先ほどの太陽を思わせる元気印な少女はどこにもいない。凪いだ水面のような声が部屋に響いた。

 

「でも、ほんの少しくらいなら憶えています。あの場で……不思議な力を使って、戦っていましたよね?」

 

 ツヴァイウィングの二人も真剣な表情を浮かべていた。

 

「奏さんの質問に答える代わりに、お二人に少し……聞いてほしいことがあります」

「聞いてほしいことだって?」

「はい。……その、ちょっとした懺悔と、もしもの話です」

 

 響の言葉に思わず顔を逸らす未来。一方の奏と翼は顔を見合わせ、頷いた。二人の了承を得た響は一息つくと、昔語りを始める。今の自分が始まったあの日のことを—————。

 

 

 

 

 

 

 

 

「—————そっか、雪菜ちゃんか~!ライブは初めて?」

「うん……お父さんと来たの……」

「そうなんだ~、わたしも本当は友達と一緒に来る予定だったんだけどね?ちょっと都合がつかなくて、一人で見ることになっちゃったんだ……とほほ。わたしって呪われてるよぉ……」

 

 わたしはライブが始まる前、ひとりの女の子の手を引いて歩いていた。ぐすぐすと鼻を啜り、目を擦るその子をわたしは放っておけなかった。

 

「だけど雪菜ちゃんは一緒に来たお父さんと目いっぱい楽しまなきゃね!」

「……うぅ。お父さん……」

「大丈夫!お姉ちゃんがお父さんを一緒に探してあげる。はい、手を握って?」

「……うん。ありがと、お姉ちゃん……。お姉ちゃん、お母さんみたい……」

「そっか~。どんなところが?」

「んー、髪型……」

「あ、あはは……いやぁわたしの場合、髪伸ばしても似合わないから苦肉の策というかなんというか……」

 

 二人、手を繋いで歩く。雪菜ちゃんが怖がらないように、歩幅も併せて目線の高さもなるべく合わせて話をするのを忘れない。

 

「雪菜ちゃんはどこでお父さんがいなくなっちゃったのか、憶えてる?」

「ん、うーんとね、おトイレいってからね、お父さんとツヴァイウィングのグッズ選んでね、買ってもらったの……」

「あ、奏さんが好きなんだ!」

「うん、お父さんと一緒……えへへ」

「そっか、良いお父さんなんだね」

 

 良かった、雪菜ちゃんが笑ってくれた。

 

「うん、自慢のお父さん……お姉ちゃんのお父さんは?」

「ん?……そーだなぁ。わたしに似て、ちょっと抜けてておっちょこちょいだけど—————いざという時は頑張ってくれる、いいお父さんだよ」

 

 ……そうだ。

 

「こういう時にね、お父さんが教えてくれた魔法の言葉があるんだ!特別に雪菜ちゃんに教えてあげるね」

「どんな言葉なの、お姉ちゃん?」

「へいき、へっちゃら—————って言うんだよ」

 

 わたしの言葉に首を傾げ、魔法の言葉を口ずさむ雪菜ちゃん。

 

「へいき、へっちゃら……」

「そうそう、もう一回言ってみよう!」

「へいき、へっちゃら……ふふふっ」

「そうだよぉ、これを唱えていると、なんとかなっちゃうんだよ~!」

 

 その時だった。

 

「—————ッ雪菜!」

「あ、お父さん!」

 

 遠くの方から、背の高い男の人が走って来た。あぁ、もう大丈夫だ。

 

「良かった……、雪菜。無事で、本当に良かった……!お父さん、心配したんだぞ……?」

「よかったね、雪菜ちゃん」

「うん!ありがとうお姉ちゃん!」

「娘がお世話になったようで、ありがとうございます…!」

「いえいえ、とんでもないです。無事に出会えてよかったね、雪菜ちゃん!お父さんもライブ、楽しんでくださいね?」

 

 

 …………だけど。ライブの最中にノイズが現れた。人々は我先に逃げ出した。わたしも人ごみに押し流されて、どこかの場所で棒立ちになっていた。

 

 

「邪魔だどけぇッ!」

「う、わ……ッ!?」

 

(あ—————わたし、死んじゃう?)

 

 乱暴に突き飛ばされ、わたしの体が宙を舞う。崩れたアリーナ席の手すりに指先が触れるも、宙を切る。

 

「っ、大丈夫か!?」

 

 宙ぶらりんになる体を、誰かの右手が支えていた。見上げれば、そこには見知った顔があった。

 

「雪菜ちゃんの……お父さんッ!」

「お礼はあと!今は一先ず安全なところへッ!」

「は、はいッ‼」

 

 ぐいっと引っ張り上げられ、わたしは何とか一命を取り留める。ノイズが来ないうちに、三人一緒に駆けだした。

 —————だが、運命は悪い方向に転がっていく。ピシッと嫌な音が足元で聞こえた。

 

「……きゃあ!?」

「ゆ、雪菜ッ!?」

「雪菜ちゃんッ‼くっ……!」

 

 雪菜ちゃんが立っていたコンクリートの床が崩れるのと、わたしと雪菜ちゃんのお父さんが身を投げ出すのはほぼ同時だった。

 

「大丈夫か雪菜ッ!?待ってろ、今……!」

「待ってて!すぐに引っ張り上げるから……!頑張って……!」

「うん……大丈夫っ!へいき、へっちゃらだもん……っ!」

 

 わたしが教えたおまじないを唱えて、恐怖を必死に笑顔で紛らわす雪菜ちゃんに、胸の奥が熱くなる。絶対にこの子を助けてみせる……そう誓い、自分の全身に力を籠める。崩れかけの床を左手で掴み、引っ張り上げるため顔を後ろに逸らした。

 

 —————振り返った目の前に、化け物(ノイズ)がいた。

 

「う、うわぁッ!?」

 

 化物の腕が髪の毛先を掠る。

 

「っ、え?」

「—————、ぁ」

 

 ノイズが自分の存在と引き換えに、わたしの隣にいた人間を炭に変えていく。

 

「……は、ぁ?」

 

 世界が、酷くゆっくりに見えた。炭となった父親の腕を掴んだままの雪菜ちゃんが、落ちていく。

 

「ぁっ……あ、ぁっ……—————、あっ、あ、あッ……」

 

 藻掻く。藻掻く。藻搔く。空を切る腕で、誰にも届かない手を矢鱈めったらに振り動かす。届くはずのない腕が、握ることのできない手が、酷く滑稽に垂れ下がる。

 

「っっっッッあ、ああ、あっあ……」

 

 雪菜ちゃんが落ちていく。雪菜ちゃんが堕ちていく、雪菜ちゃんが墜ちていく—————。

 

「—————っっっッあ、ぁああぁああぁあぁぁぁ……っ」

 

 …………。

 

—————わたしがノイズをよけた

 

—————だから、しんだ

 

—————ゆきなちゃんのおとうさんがすみになった

 

—————わたしが、てをはなした

 

—————ゆきなちゃんが、おちていった

 

—————じめんに、あかいはながさいた

 

—————とびちったからだがひくひくうごいている

 

—————わたしが、ころした

 

—————なにが、へいきへっちゃら?

 

—————なにが、なんとかなっちゃうんだろう

 

—————わたしのせいだ

 

—————わたしは、ヒトゴロシだ

 

 

 いつの間にかわたしはアリーナの最下階で立ち尽くしていた。獣の唸り唶ぶ声が、自分の耳に届いていた。

 

「———————————————ッッッッッッ!!!!?」

 

 違った。それは、自分の無意味な叫びだった。そんなことも分からないくらいに、目の前に映る風景は虚ろで現実味がなかった。

 

—————ひとをころしておいて、なにをいいつくろうというの?

 

—————わたしは、なにがあろうとゆるされない

 

—————わたしのこれからのことばに、おもみなんてない

 

—————わたしのことばに、だれもみみをかたむけない

 

—————わたしは、だれともつながりあえない

 

 

 どす、と胸が熱くなった。何かが胸を突き刺した。そしてわたしは、奈落の底に落ちていく。世界樹に吊り下げられた死体のように、怨嗟の声が蠢く闇に足を掴まれ堕ちていく……。

 

 

 ……気が付けば自分は、病院のベッドの上で横になっていた。そこからは、ふわふわと現実味の無い毎日だった。だけど、否が応でも絶望が現実に追い縋ってくる。それを振り払うように毎日毎日リハビリをした。

 それは早く良くなりたかったわけでなく、今すぐ辛い現実から走り去りたかっただけだった。見る見るうちに体は元通りになっていく。

 

 いつもの日常に戻った。だけど、次第に日常は壊れていった。どうやら学校内で、ノイズの避難中に死んだ男子生徒がいたらしい。サッカーが得意で彼女もいた人気者だった。そんな彼が死んで、大したとりえもないわたしは生き残っていた。

 

 ひとごろし、と言われた。なんであんたが、とよく知らない女子に泣き叫ばれた。あぁ、きっとこの子が恋人だったんだろう。ませて背伸びした恋だったにしろ、本気の“好き”があったんだろう。

 

 そうだ。そう言われて当たり前。わたしは他人を殺して生き延びた。だから、こんなことになっている。あたりまえだ。謝って済む問題じゃない。死んだ人間は生き返らない。だから、助けてと声を上げるのは間違っている。助けてほしいあの子を殺したのは誰あろう自分だったから。

 

 雪菜ちゃんとそのお父さんの住んでいた家に伺った。わたしのせいで二人は死んだと、雪菜ちゃんのお母さんに正直に話した。

 雪菜ちゃんのお母さんは、わたしに何も言わなかった。その人はわたしが悪いとは言ってくれなかったけれど、わたしの顔を見る度に死んだ二人を想い出してしまうらしい。今にも泣きそうな、辛そうな顔をさせてしまっていた。

 

 墓前に花を備えて何回目かの時だった。思い切って、もう来ない方が良いですかと聞いてみた。

 

 雪菜ちゃんのお母さんはその時も肯定はしてくれなかったけれど……、少し、ほんの少しだけ、ほっとしたみたいに表情が和らいだのが見て取れた。

 

 そっか。謝罪なんて必要なかったんだ。ただ、辛い想いを思い起こさせる原因のわたしに、“一刻も早く消えて欲しかった”だけだったんだ。

 ……罪というものは、償えないんだ。じゃあ贖罪(それ)はただの自分が楽になるための欺瞞でしかないのかな。人の心の痛みに、わたしなんかじゃ寄り添うことができないっていうの?

 

—————わたしは、ほんとうにたすかるべきにんげんだったのかな?

 

 未来はわたしを助けてくれたけれど、もしかしたらわたしの矢面に立って未来まで傷ついてしまうんじゃないかと、怖かった。未来だけでも、わたしを…………。

 

 

 

「………、おい。大丈夫か」

 

 

 …………昏い路に迷ったわたしの前に、冷たくも綺麗な光が差し込んだ。その光の色は、とても澄んだ金色だった。

 

 

 

 

 

 

 秒針が時を刻む音だけが、その部屋の中に充満していた。誰も彼もが口を開かない。響は罪人のように頭を垂れてうつむいたまま。未来は強張った表情と握りしめた手で何かを耐えているようだった。

 

「……—————そんな」

「あなた、だからあの場所でへたり込んで……」

「……あの事件で、沢山の人が亡くなりました。多くの涙と血が流されました、誰もが生きたいと願っていました」

 

 響が感情の籠らない声を胸の中から絞り出す。

 

「その願いをわたしは躙って、そして奏さんたちに助けられて、わたしは生き残りました。そして温かいご飯を食べて、大切な友達と—————未来と一緒に毎日を過ごして生きています」

 

 未来は、キッチンでツヴァイウィングに出したカップとソーサーを丁寧に洗いながら聞き耳を立てる。静かに、静かに、丁寧に。手についた汚れを拭うように、スポンジを一心不乱に動かしていた。

 

「昔は何の気なしに……流されるままにしていた趣味が、人助けでした。その時は、偽善でも何でも、貫き通して人を助けられるならそれで良かったんです。—————でも、わたしが心で追い求めた“善いこと”だけでは、人を助けられませんでした」

 

 響は寂寥の面持ちで顔を擡げる。彼女は自分に正義はないと、あっけらかんと言い切った。

 

「それどころか、半端な覚悟で手を伸ばした結果、より酷いことになりました。護れていないじゃないかと、ずっと心の傷が悲鳴を謳っています」

 

 虚無に乾いた心で、潤いに満ちた願いを夢見る。自分では手の届かない未来に向かって手を伸ばす。

 

「だとしても……—————」

 

 響は自分の手を握る。

 

「お二人は、例えば—————目の前の誰かを護れる力があるなら、どうしますか。迷いなくその手を伸ばすには、自分という存在は必要だと思いますか」

 

 他人の生きたいという願いを、響は眩く思っていた。力として引き寄せられていた。誘蛾灯の光のように。触れれば燃え尽きる太陽のように。

 

「わたしは惨劇を生き残った罪を赦されるために人助けをしてるわけじゃありません。それは自分を肯定するためでもありません。気付いたんです。きっとそれは、ただ—————」

 

 ふわり。柔らかいものが響の素肌に触れた。

 

「ッ?」

「…………。もういいんだよ、だからそれ以上言っちゃダメだ。もしかしたらあたしが思ってることと違うかもしれない、だけど……お前が、お前自身を責めるのは、傷つけるのは止めてくれ……。辛い時は戦わず、逃げ出したっていいんだ。原因を憎んでもいいんだ、それでお前が救われるなら…………」

 

 天羽奏が、泣いていた。泣いて彼女を抱きしめていた。

 

「奏さん……」

 

 響は驚き、そして表情を綻ばせた。

 

 

 

 

「—————優しいんですね。嬉しいです!でも、只の一ファン程度にこんなことしちゃ、ほら週刊誌とかにすっぱ抜かれた時大変ですよ?なのでわたし、弁えてますから!へいき、へっちゃらです!」

「ッ、お前……」

 

 その想いは、届いたのだろうか。どうか届いてほしいと、未来は願わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 天羽々斬のアームドギアとフルボトルバスターの刃が鍔迫り合いを繰り広げ、眩い火花を散らす。

 援護射撃をしようと赤いシンフォギア装者が引き金に指をかけるも、ゴージャスビルドはアームドギアの剣を受け止めながらフルボトルバスターを変形させ、光弾を寸分違わずに銀髪の少女へ命中させた。

 

「ぐ……この人、強いッ!」

「大丈夫か、クリスッ!?」

 

 青いシンフォギア装者はゴージャスビルドに蹴りを叩き込み、銀髪の装者を抱えて距離を取る。

 

「……さぁて、ケリを付けようか」

 

 ゴージャスビルドは手に持った大剣を放り捨てて、レジェンドライバーを操作する。

 

【GORGEOUS ATTACKRIDE!B-B-B BUILD!】

 

「それは、こっちの台詞だってのッ!」

「やすやすやられるつもりは、……ないッ!」

 

 立体的な曲線のグラフが赤と青の装者たちに向かって形成されていく。赤と青の仮面の戦士は、足のバネを使って空高くまで舞い上がった。

 

「……ん?」

 

 迎撃しようとする二人のシンフォギアの前で、迫る仮面ライダーの足が止まる。砲弾のように飛んできていたビルドの体が、灰色の光の壁に阻まれていた。

 

「な、これで終わりかよ……」

「次元の揺らぎが、始まった……もうこの並行世界にはいられないみたいね」

 

 三人は各々構えを解く。世界を分断するオーロラカーテンが揺らめき、交戦していた三人の姿を胡乱なものへと変えていく。

 

「ふん。まあいい、お前たちが人を思い強さを手にした手練れだと言うことは伝わった。そちらの世界を訪れる時があれば、少しばかりは手助けをしてやろう」

 

 仮面ライダーはベルトからカードを引き抜いた。体を覆う二色の装甲が粒子となって消え、金色の髪が風に揺れる。

 

「そうかよ……ま、期待しないで待ってるぜ」

「お手合わせありがとうございます。おかげで良い修練になりました」

 

 オーロラカーテンに二人が消えると、キャロル・マールス・ディーンハイムはその場に背を向け、立ち去った。

 

 

 

 

「—————翼。どう思う?」

「それって……」

「もちろん。あの子のこと、全てさ」

 

 特異災害対策機動二課へ戻る道すがら、重々しい空気が立ち込める中で奏が翼に問いかける。

 

「二年前のライブの時—————あたしのガングニールの破片が突き刺さったことで、多分あの子は何らかの形でギアの適合者となってしまった」

「その結果、昨日の未知のガングニールとして覚醒した……」

 

 二人は立花響と会話をして、その推察が真実であることには気づいていた。

 

「おそらく旦那に言えば、すぐにでも二課に招待されて保護か何かをされるだろ—————それが一番“あの子の安全”にとっては良いことなんだろうけど、さ」

 

 だが、奏も翼も浮かない顔をしている。本当にそれが彼女にとって安全なのか、と疑問を抱く。身体の無事は約束される。しかし、精神(こころ)は—————?

 

「だけどさぁ……。顔を合わせてみて、言葉を交わしてみて。そんなもんどうでも良いって思えるくらい、色んなことが吹っ飛んじまった。なあ翼、あの子に……二課(あたしら)に護らせてくれって……協力してくれって言えるか?」

「—————」

 

 先ほどの少女の瞳には、自分の未来(ゆくすえ)に対する恐怖がまるで無かった。戦いに身を投じて、自分を蔑ろにして、嬉々として人を助けて……そしてあぁよかったと、他者の犠牲となって死ぬことも受け入れるのではないか。そんな人間の形をしただけの絡繰り人形のような、悍ましさがあった。

 

「あたしは無理だ。またあたしのエゴに巻き込むなんてできねぇよ……。あの子の目、本当に迷いが無かった。死んでもいいって透けて見えるんだよ、昔のあたし以上にさぁ……」

「…………」

 

 昔の奏の姿を知っている翼は、何も言わない。それは明確な肯定だった。荒み切っていたあの頃の奏を、翼は見ていられなかった。今や立花響に対して思うこともそうだった。

 

「……幸い、今回の来訪はわたしと奏の独断で来ただけよ。そして、ただの女の子と話をしただけ。はっきりとした確証を得た情報でなければ二課職員の皆の手を煩わせることになるわ」

 

 翼は強くこぶしを握り締めて、唇を噛む。

 

「それに、わたしたちの不手際を拭わせるために、護るべきあの子を戦場に立たせるわけには……」

 

 例え彼女に力があり、覚悟もあり、人を護る意思があるのだとしても、翼から見て常軌を逸した立花響の在り方は、戦場に立ってはいけないのだと言うには十分だった。

 

「……ありがとな、翼」

 

 絞り出すかのような、声だった。

 

「だけれど、シンフォギアシステムの存在は秘匿されるべきもの……。他の国家に知られてしまえば、どちらにせよあの子……立花響の人生はお終いよ。おまけに彼女も、心構えはどうにも“こちら側”。どうあれ自分の意思で戦場に出てくるはず。時間は、あまり残されていないわ……」

「分かってる……ッ!分かってるんだよ、そんなことは……ッ」

 

 

 二人の胸中には、やるせなさと不甲斐なさ、そしてひとりの少女がああなってしまった悲しさが無限に渦を巻いていた。

 

 

 

 

 

『そこまでだッ!もう逃げ場はないぞッ!』

『今度こそ年貢の納め時だぞ、義賊だかなんだか知らないが…』

『正義のために盗み取るッ!わたしは決して捕まらないわッ!』

『ッ!消えた!?』

 

 アンナ・サンダースとエルフナインは暮らす洋館—————『鳳桜寫眞館』のリビングでテレビアニメを鑑賞していた。キャラメルポップコーンを片手に、二本目のコーラへ手を伸ばすアンナだったが、ふと人の気配を感じ振り返る。

 

「……あ、お帰りなさい。キャロルさん」

「いかがでしたか?」

 

 バイクのヘルメットを脱ぐとソファにどっかりと腰を下ろすキャロル。マホガニーの机にレジェンドライバーを置くと、そのままソファに横になる。

 

「……並行世界の装者との戦闘データが取れた。アウフヴァッヘン波形遮断機能を持つギアだったのは儲け物だったな。この機能をグレードアップしつつ『ディー・シュピネの結界』を組み込んだデバイスをお前に作ってやる。希望はあるか?アンナ」

「じゃあ……顔が隠せる仮面型がいいです。この怪盗少女みたいなのをお願いしてもいいですか?」

 

 彼女が指をさしたテレビには、大見得を切る二人の怪盗姉妹が映っていた。

 

「…………成る程。昔取った杵柄というやつか。流石は“時空管理局”に指名手配されただけあるな」

「あぁ。“ベヒモスのアレ”ですか?まぁ、そういうこともありますよねー……」

 

 思わずそっぽを向くアンナ。彼女は胸元から取り出した『一枚のカード』を眺め、溜息をついた。

 

「それと……エルフナイン。交戦した内の一人は、この世界で二年前に二課が紛失したはずの『イチイバル』のシンフォギアを使っていた。並行世界とはいえ、『クリス』という名前さえわかればこちらも先手を取れる可能性は十分にある。…………ま、大体目星はついてはいるがな」

 

 心得た、とばかりに頷いたエルフナインは、弄っていたパソコンの画面をキャロルに見せる。

 

「『二年前』、『行方不明』、『クリス』、『音楽』……このキーワードでヒットした情報があります。—————『雪音クリス』。両親はNPO法人である『シリウス交響楽団』に所属していたヴァイオリニストと声楽家ですが、バルベルデで両名とも死亡しています。二年前日本政府に保護されましたが、再び行方不明になっています。おそらく…………」

 

 

—————今我々が探っている敵の協力者となっているのかと。




 本作の立花響は、原作ビッキーの皮を被ったオエージ。
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