レジェンド・オブ・シンフォギア 通りすがりの奇跡の破壊者 作:サルミアッキ
近頃の街では、口伝えに一つの噂話が流布していた。その都市伝説は——『灰被りの赤ずきん』。ノイズを伴い、夜な夜な街を彷徨う美少女がいるという。その少女に狙われたものは、出会った不運を呪うだけ。
「……そんな噂が流れているとか。夜に出歩かないように注意喚起した方が良いですかね?」
羽織っていた薄手のカーディガンをハンガーにかけて、アンナ・サンダースはキャロルに向き直った。
「根拠のない噂話を流布するのはどうかと思うが。……流星群もあることだし難しいかもしれんぞ。生徒の内何名かは夜間外出の許可をもぎ取っているしな」
「いや、だって“この噂”って…………あれ?もしかしてキャロルさん、流れ星見に行くつもりですか?」
キャロルは忙しなく愛用のインスタントカメラ、ブラウンカラーの『INSTAX mini 90 チェキ ネオクラシック』を弄り回している。
「いいや?ただ、立花響と小日向未来がそんな話をしていたな、と」
「あぁ~……心配なんですね?」
アンナは得心が行ったとばかりに手を打った。
「…………フン、そんな大層な理由ではないが。オレの予想が正しければ、恐らくノイズ騒ぎを起こしている黒幕が、立花響のガングニールに目星を付けだしている頃合いだ。だからあの二人に迂闊な行為をしてもらっては—————」
ぴたり、と二人の会話が止まる。鳳桜寫眞館の入り口に人の気配があった。
「…………おや。噂をすれば、いらっしゃいましたね」
「……丁度良い。一つ軛を打ち込んでおくとするか」
キャロルのアイスブルーの瞳が思案を巡らせるように動き、木製の扉へと向き直る。
「…、お邪魔します」
「良く来たな。今は—————珈琲があるが、飲むか?」
ドアを引いて現れた、後頭部に白いリボンを結んだ大人しげな少女—————『小日向未来』は、緊張の面持ちでキャロルとアンナの様子を伺っている。
「そう緊張するな……と言っても難しいか。理由はどうあれ、オレが立花響を足蹴にしたのは変わらんしな」
ドリッパーにフィルターをかけて湯で湿らせ、手際よく珈琲を注ぎ淹れるキャロル。ものの数分で鳳桜寫眞館内に芳しい良い香りが立ち込めた。
「やっぱり、あの黄金の鎧を付けていたのは……」
「おおむねお前の想像通りだろう、小日向未来。立花響には後で謝罪の果物でも持っていくとして……」
トレイに三人分の珈琲を載せてやって来たキャロルは、懐から金色のバックルを取り出し卓上に置く。それは間違いなく、あの晩に未来たちが出逢った仮面の騎士の使っていたものだった。
「
キャロルは未来にシュガーポッドとミルクピッチャーを勧めながら、自分が挽いた珈琲を口に含んだ。アンナも同じく珈琲を飲みながら、その様子を見つめている。
「……分かりました、約束します。ですから聞かせてください。響の身体に起こった変化。ノイズを倒せた“あれ”は何なんですか?それに、ツヴァイウィングの二人も関与しているみたいでした……。キャロルさんは、知っているんですよね?」
コーヒーカップを受け取った未来は、意を決して口を開いた。
「—————“これ”に触ってみろ」
「え、はい……?」
キャロルのポケットから取り出されたのは、赤い結晶体が垂れ下がるペンダントだった。恐る恐るそれを受け取る未来。するとどうだろう、未来の表情が驚きで揺れる。
「……あの。なんですか、これ……?“胸の奥から歌が聞こえてくる”んですけど」
「!」
弾かれたように顔を上げるアンナ。
「?」
疑問符を頭の上に浮かべる未来からペンダントを強引に奪い取り、キャロルは話を続ける。
「—————、歌は気にするな。これは『シンフォギア』。人類先史文明期の失われた技術を秘めた物品……聖遺物を用いて作られた、歌をパワーソースとするバトルスーツだ。その核が立花響の心臓にある。二年前の、ツヴァイウィングのライブで起きた事故の時からな」
「え……?」
■
—————闇の中を蝙蝠たちが舞う、丸い月が上る夜。物悲しいヴァイオリンの演奏が風に乗り、ビル群の隙間を流れていく。一心不乱に弓を弾き、白魚のような指で弦を押さえつけるのは、赤いフードを被った少女だった。血に染まったかのような赤い頭巾からは、長い銀髪が溢れている。
「…………」
ぴたり、とその人物の演奏が止んだ。ぱち、ぱち、ぱちと拍手をして彼女に近づく影があった。
「……。ンだよ、“フィーネ”」
「なかなか上手だと思ってね。流石ヴァイオリニストの娘、と言ったところかしら」
「はッ、お前のことだ。心にもねぇ世辞を言うためにこっち来たわけじゃねーだろ」
手際よくヴァイオリンを『MASANORI・Y』と刻まれた壊れかけのケースにしまうと、少女はフードの奥で顔を顰める。夜だと言うのにサングラスをかけた、“フィーネ”と呼ばれた黒装束の人物は、豊かなプラチナブロンドの髪を手で梳いて銀髪の少女に向き合った。
「あら、なら話が早い。少し試したいことがあってね」
「あー…、例の『未確認のガングニール』とか言うヤツのことかよ?何がそんなにご執心だ?」
「予想外のことが起きているのよ、興味は尽きないに決まっているでしょう」
「はっ、似非科学者の頭ん中はわっかんねぇな……イレギュラーなんざ無視か、排除しとけばいいだろ。計画に組み込む算段か?『触らぬ神に祟りなし』って、この国の諺だったよな?」
「あなたは本当に遊びが無いわね……ヴァイオリンでもそうでしょう?張り詰めた糸はすぐ切れるわよ」
「余計なお世話だ……ま、文句はねぇよ、こっちはお前に雇われている身の上だからな。で?あたしに何をしろって?」
「……これよ」
フィーネが無造作に宙へ抛った“それ”を少女は片手で受け取った。それを見て一瞬目を丸くすると、彼女は得心が行ったとばかりに軽く頷く。
「—————あぁ。
「ノイズを呼び出すポイントは後々連絡するわ。分かっていると思うけれど、戦いになったら『鎧』の方を使いなさい。良いわね?」
「へいへい。あたしも好き好んで
紅い頭巾の少女は胸元から赤い石柱がついたペンダントを取り出して、忌々し気に吐き捨てた。
「—————それと、今回動くのは貴女だけじゃないわ」
「へぇ?と言うと、
珍しく苦虫を嚙み潰したような声を出す少女の雇い主。
「行きずりで協力関係になったとはいえ“あの組織”の一員よ……手綱は離さないで頂戴」
「あぁ、分かってらぁ。あいつらが好き放題の野放図になるのは癪だしな……んじゃ、行かせてもらうぜ」
ヴァイオリンケースを肩に担ぎ、少女は月下へ身を躍らせた。
■
鳳桜寫眞館の客間は、重々しい空気に包まれていた。キャロルが未来へ、余すことなく立花響が置かれている現状を教え伝えたからだ。
二年前のツヴァイウィングのライブで、シンフォギアを纏った天羽奏に庇われた際に受けた怪我……、政府が秘匿して開発されたシンフォギアの政治的影響力、そして響自身に起こった心境の変化—————。様々な視点から得られた情報によって、未来の顔色は蒼白になっていた。
響が背負っていたものの重さを推し量ることは未来にはできない。それを『へいき、へっちゃら』と言って飛び出していった幼馴染を想い出し、意図せず未来の手に力が籠る。
そんな少女に対し、キャロルは問いを投げかけた。
「—————そんなに許せないか?立花響のことが」
「許せないって言うか……どうしたらいいか分からなくって。もう、頭の中がぐちゃぐちゃで—————」
「成る程な。相手よりも自分が思ってしまったことへの戸惑いか。だが、小日向未来。お前が幼馴染として傍で見て来た立花響が、シンフォギアを得て何か変わったか?あいつは、あいつのままじゃないのか?」
問いかけられた彼女は、ぬるくなった珈琲に唇を付けた。
「—————分かってるんです。わたしは多分、響に謝りたいんです。酷いことを言ったことだけじゃなくて、二年前のあの日にライブに誘ったせいで—————
舌の上を転がる液体のように、苦く脳裏をよぎる影。黒々とした思いが胸を刺す。
「でも、今謝るのは……ただわたしだけの自己満足になっちゃうのかなって」
「だが、見ただろう。立花響はみんなのためと言って、ノイズと戦っていた」
キャロルの言葉に、小日向未来の表情が歪む。
「それが、見ていられないんです……ッ!響は自分で選んだって言っていました。でも、なんで、響が戦わなきゃ—————奏さんや翼さんみたいな、他のシンフォギア装者って人達にまかせちゃダメなんですか!?」
がたん、と机が揺れた。
「それが立花響だから、としか言えないな。困っている人がいたら何も考えずに手を伸ばす—————そんな底抜けのお人よしだろう、あいつは」
「でも…………中学校じゃあんなことがあったのに、今度は人のために戦って、傷ついて帰って来たりしたら……それじゃ響は……」
少女の瞳が涙で潤む。大切な友人で幼馴染が苦難の道を歩こうとするのを、黙ってみていることが辛くて仕方がないと言うふうに。
「……お前、本ッッ当に好きなんだな。立花響のことが」
「ッ、ッッッッッ!?!?!?」
キャロルの爆弾発言に、未来の顔は熟れた果実のように染まる。トマトもかくやという程に真っ赤っか。まさに顔から火が出るという比喩が相応しかった。
「好きな人が遠くに行ってしまうようで嫌なんだろう。ん?」
「そ、そんなこと……その、通り……かもしれません、けど……」
頬を両手で抑えながらしどろもどろになる未来の姿を、首にかけていたインスタントカメラに写し取るキャロル。それを見たアンナは、趣味が悪い……とばかりに大袈裟に肩を竦めていた。
「お前は言ったな。立花響は人のために戦っていると」
キャロルは立ち上がり、鳳桜寫眞館の窓を開ける。庭に植えこまれた果樹の向こうに、数多くの光が見えていた。
「本当は、お前のため—————なのかもな」
「……え?」
「だってそうだろう。この世界が平和なら、お前だって護られていることになる」
窓辺に身体を預けるようにして腰掛け、遠方の様子を眺めるキャロル。
「ノイズを倒し……、お前のところに帰ってくるのもそうだ。それは皆を護るため戦うことで、自分の居場所を見つけたから、だったりしてな」
「……」
小日向未来は答えない。そんな考えなんて思いつかなかった。
「これは“オレに道を示してくれた人”の受け売りだが……『人は誰でも、自分のいるべき世界を探している。そこは偽りのない、日の当たる場所。そこに行くために、人は旅を続ける。そして旅を恐れない』—————あいつもそうだよな、小日向未来」
■
(…………キャロルさんはそう言っていたけど、響…………)
夜空に幾つもの光が線を引いて流れていく。リディアン音楽院の制服を着た五人の少女たちが、遥かな天空を見上げていた。
板場弓美や安藤創世、寺島詩織は用意してあった望遠鏡を覗き込み、感嘆の声を漏らしている。だがその一方で、ベンチに座って、どこかぎこちなく言葉を交わす二人の姿があった。
「わぁ……キレイだね」
「そうだね……響」
数週間前に友人に起きてしまった変化に、未来は未だ距離感を掴めずにいた。仲直りのために意を決して流星群を見ようと声をかけたというのに、それ以上踏み込んでいいのか、未来は二の足を踏んでいる。
「—————、どうしたの?未来」
「いや、ちょっとね……」
「そ、う…なんだ—————、ッ!?皆!その場を動かないでッ!」
ハッとした顔で三人の傍に駆け寄り、周囲を伺う響。上げたその顔には、警戒の色が滲んでいた。未来も慌てて響の隣へと走り出す。
そして、一拍を置いて……周囲の空間から怪物たちが滲み出た。
「の、ノイズ……!?何で!?」
「ッ!」
響が決意を固め、身構える。未来は思わず、拳を握った彼女の手に腕を伸ばそうとした……その時だった。
「Croitzal ronzell gungnir zizzl」
「Imyuteus amenohabakiri tron」
土煙を巻き上げて公園の中へと突っ込んできた二台のバイク。二輪車の運転者たちは口ずさんだ言葉と共に眩い光に包まれると、白を基調とした強化アーマーでその身体を覆い、少女たちを守るためノイズの前へと立ちふさがった。
「大丈夫かッ!?」
「は、はいッ!ありがとうございます!」
「奏さん……翼さん…!」
突然の事態に状況を把握できず、呆気にとられるしかできない三人に変わって、未来と響は即座に動こうとする。だが、夜風に青髪を靡かせて風鳴翼は釘を刺した。
「—————立花響、あなたはそこにいなさい。あなた達はわたしと奏が護る……!」
立花響の足が止まった。所在なく伸ばした腕が、迷ったように垂れ下がる。
「しっかし、二か所あったノイズ発生ポイントの内、なんで急にこっちだけになったんだ…ッ、とぉ!?」
アームドギアのランスを振るいながら、オタマジャクシのようなノイズを斬り捨てた奏だったが、突然の気配にバックステップで後退する。翼の隣に立つと、眼前の戦場に更なる増援が湧き出たところだった。
「あー……こりゃ大量だな。あぁ、嫌でも二年前を思い出しちまう…」
「—————、奏」
「心配すんな。絶唱は使わねぇよ……身体、LiNKERで結構ガタ来てるしな」
悲痛そうな顔で奏の顔を見る翼。話を傍から聞いているだけの響には何のことだかは分からなかったが、天羽奏は身体のどこかに爆弾を抱えているようだと言うことは見て取れた。
響の顔が、歪む。
「…………ッッ」
「え、ちょ…、ビッキー!?」
—————彼女は気が付いた時にはもう、拳を構えてノイズの前へと身を躍らせていた。
「はぁぁぁぁッッッッッッ‼」
思い切り振り抜いた生身の腕は炭化すること無く、真っ直ぐ一直線にノイズの身体を貫いた。
「
「そんな、馬鹿な……ッ!?」
ノイズを撃ち砕いた響は芝生の上に片膝をついて着地する。
「この力で誰かの助けになれると思っていた……だけど、それは思い上がりだ!」
響の口から言葉が漏れる。それは、今まで根底にあり過ぎて、埋もれてしまっていた大切なもの。
「助けるわたしだけが一生懸命でも、何の意味もない!助けてって手を伸ばす誰かも、一生懸命!」
無力な自分だったから分かる。本当に助けてほしい人間は、どんな形であっても望みに向かって手を伸ばす。それは逃避や拒絶という形であるかもしれない。かつてのわたしと同じように。
「わたしの汚れた手にその資格はないかもしれない………!」
自分一人の力では成し遂げられないことは、幾らでも経験してきた。手を払いのけられたことだって、何度でもあった。
「—————“だとしても!”わたしが手を掴む!」
それでも、誰かの願いを護れるのならば。手を伸ばさずに、誰かが死んでいくのを見るくらいならば。
「奏さん!翼さん!わたしも一緒に戦います!」
「な…ッ!?」
彼女は二人の装者の間に歩みを進めた。眼前には地獄の軍団のようにノイズが迫る。慌てて翼はアームドギアを構え、巻き込まれてしまった少女を庇おうとする。
「素人が何を言ってるの!ここは
「素人でも何でもいいです!わたしも皆を……未来や、翼さん奏さんを助けたい!」
その意志の貫かんとする凛とした声に、翼は思わず振り返った。
「そのためになら……—————戦います」
(……ッ!この子、本当に何て真っ直ぐな目をしているの!?)
その響の言葉に、奏の唇から血が流れる。
「…ッッ、人を護るのはお前じゃない、あたしたち
「—————違いますよ、奏さん」
響は奏に寄り添い、抱きしめた。奏が響にそうしたように。そして響は、槍を握りしめた彼女の手を静かに……優しく包み込む。
「ッッッ!?」
「人が人を護るんです」
奏の身体の内から、蝕んでいた何かが抜けていく。
「翼さんも」
紡がれる言葉が、その場にいた人間たちの脳裏に暖かく染み入っていく。
「奏さんも」
響は先達の身体に絡ませていた腕を解く。
「未来も」
そして……—————。
「わたしが出逢い、そしてこれからわたしが出逢う……みんなも」
誰も、何人も、彼女の行いを遮ることができなかった。
「誰だって譲れない大事なものを背負ってる。その大事なものを大事にできる時、人は一生懸命に生きていてよかったって笑顔になれる……」
静謐の舞台に、少女の
「—————だからわたし、戦います!みんなが“生きることを諦めない”でいいように!」
天には星が流れる。燃えて、尽きて……そして。
「みんなの
立花響が、シンフォギアを纏う。胸の傷から光が溢れ、胸の歌を形に変える。
命を燃やす歌が闇夜に響き渡った時、翳りは切り裂かれ、光が齎さられる。
「未来……ごめん。でも、放っておけないんだ」
シンフォギア、ガングニールを身に纏った響は振り返る。驚いたままの三人のクラスメイトらの傍から、一歩……また一歩と響へ近づく未来。
彼女は伏せていた顔を上げて—————精一杯の笑顔を見せた。
「—————うん。待ってる」
「ッ!……良いの?」
「それを言うならわたしもだよ。わたしは響に酷いことをしたし、言った。……今更許してもらおうなんて思わない。けど……わたしも響を支えたい。響が帰ってこれる居場所として、響と一緒に戦いたいんだ」
ツヴァイウィングのライブに響を独り、送り込んでしまった罪悪感。決して消えることの無い罰の衝動。だが、それでも…………“だとしても”。
「大丈夫、もう迷わない。わたしなら“へいき、へっちゃら”だよ。だから響も………………戦ってッ‼」
「……ッ!行ってくるッ‼」
二人は決意した。戦うことを。未来は思い、そして響は拳を振りかぶる—————。
「圧倒的過ぎる……これが、昨日までシンフォギアを知らなかった人間のできる事なの?」
「立花—————響、…………お前」
二人のシンフォギア装者の目の前では、ノイズが瞬く間に消えていく。体幹を崩すことなく、外連味溢れる動きで怪物たちを屠っていく。
「はぁッ!」
回し蹴りにオレンジ色のエネルギーを纏わせて、大きく振りかぶりそのエネルギーごとノイズの群れを薙ぎ払う。
ギガノイズにサマーソルトキックを食らわせ圧し潰すと、手刀にエネルギーブレードを発生させ、鋭いチョップで真っ二つにする。
「せぇいッ!やぁぁッッ!」
だが、奮戦しているというのに、それでもノイズの群れは減る気配が一向にない。
「なら、これで……ブチ抜くッッ‼」
響のバトルシューズが熱を帯び、大地が燃える。それと連動して脚部の装甲が変形し、アンカージャッキが稼働しだした。
(想い出せ……前に戦ったあの
響は意識を集中させる。すると地面に、“
その黄金の紋は響の両足に吸い込まれるように溶けて消える。
「はぁぁぁぁ………」
ガングニールの各部装甲が解放され、太陽のような光が各部スラスターから溢れ出す。そのエネルギー放出を利用して、響は星が瞬く空高く舞い上がった。
「—————食ゥらァえェェェェェェェェェェッッッッッッ‼」
月を背に宙を飛ぶ響は、その身から迸る力を束ねて足を突き出す。自身を
「でえぃやァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッ‼」
逸れは正しく、
響の蹴りを受けて、連鎖的に崩壊していく怪物たち。一際大きいノイズにまでそのエネルギーが波及し、空間そのものに『先ほど響が足に吸収させた紋章』が浮かび上がった。
「ッ!」
—————瞬間、周囲は太陽が爆発したような光と轟音に包まれる。
「きゃッ……!?」
「ッ、翼!」
「—————、響っ」
—————土煙が晴れる。そこには静かに残心する戦姫がいた。
「—————か、勝っちゃったよ、ビッキー……」
「アニメでも中々ないわよ、こんな展開……」
「と、とにかく……ナイスファイトです響さん!」
現状が把握できていないながらも、創世たちは臆せずに響の元へと歩み寄ろうとする。だが、響の表情は硬いままだった。
「—————まだ、終わってない。……誰!?」
響だけでなく、奏と翼も気配を感じて振り返る。
『—————シンフォギア装者、“天羽奏”並びに“風鳴翼”を確認。及び、戦場に介入した少女を対象の未確認のガングニールと識別。正規装者を抹殺後、対象を回収する』
焼け焦げた草むらを踏みしめて、濛々と煙の立ち込める木々の隙間から二つの人影が現れた。
「ちッ……、どーしてこうなるンだよ。折角二箇所にノイズを呼んで戦力を分断する予定だったんだがなァ……」
煙が晴れる。二人組の姿が詳らかになった。一体は、肩からマントが垂れ下がる黄金のロボットと思しき槍兵………そしてもう一人は、桃色をした棘付の鞭を持つ白い鎧を着た少女だった。
「まぁ、手間が省けたし別に良いか……両方潰せば。おら、行くぞ鳩時計」
『……我は
「あぁそーかい。
カッシーンと名乗るロボットに飄々とした軽口を叩く鎧の少女。響は油断なく距離を取り、隙無く構える。
—————その時、響の背後から狼狽の声が聴こえた。
「それは、“ネフシュタンの鎧”…………!?」
「なんで………なんでお前がそれを持ってやがるッ!」
「ハッ、それでペラペラ喋ると思ってんのかよ?随分と頭が緩いな、人気者。のぼせ上がって脳味噌ふやけてんのか、え?」
完全聖遺物である『ネフシュタンの鎧』を装備する少女は、水色のバイザーの奥でシンフォギア装者たちに向かい嘲りの笑みを浮かべていた………。
■
満天の星空に臨む高台で、キャロルは眼下の公園で起こっている出来事を備に観察していた。
(アンナは上手くやったようだな。あとは小日向未来の行動次第だが、恐らくこの分で行けば二課との接触も滞りなく行えるだろう。リスクはあるが、月を穿とうとする奴の行動を懐に入って探りやすくなる。だが、問題はこの世界のテクノロジーではない『カッシーン』が出てきたことだ。間違いない、この事態は………)
突然、周囲の空気が変わった。キャロルは思考を切り替え、振り返る。背後では今まさに、次元の揺らぎであるオーロラカーテンが出現したところだった。
「—————流石はキャロル・マールス・ディーンハイム。我々の動きを予想して先手を打っていたとは……。『
カッシーンの量産型たちを引き連れて、一人の少女がオーロラカーテンを潜り現れる。肩口で切り揃えた外にはねた赤い髪。首元には呪術的な刃にも思える首飾りが付けられている。だが、何よりも特徴的なのはその両腕が『義手』であるということだった。
「……。お前は—————」
赤髪の少女に問いかけるキャロル。だが、少女はニヤリと獰猛に笑うだけ。獣のような嗜虐性を内に秘めながら、彼女は『金と青の懐中時計型デバイス』を懐から取り出した。
少女は義手に持ったライドウォッチを起動させ、腹部に巻いた『白と銀のベルト』の右側へと装填させる。その少女の機械仕掛けの腕には、『懐中時計を掴む六本指の手』が描かれた布切れが巻かれていた。
炎が少女の身体を覆う。背後に浮かび上がった時計の針が回り……時針と分針が天辺で重なった。
『ライダー』の文字の黄色の複眼が、油断なくキャロルを見つめていた。
「……『
キャロルは即座にベルトを起動させ、その身を黄金錬成した力で覆いつくす。ここに、二人の仮面ライダーが相対した。
「ご明察です、ファム・ファタール。『源流』から外れ、支流から混じり合った力を得た者同士……殺し合いましょう」
「ハッ、随分と馴れ馴れしい。何だ、皮肉か。はたまたシンパシーでも感じているのか?—————百年早いな‼」
しれっとヤバイ強さしてるビッキー。そして、敵対勢力ハンドレッド、ついに襲来。原典のハンドレッドがよーわからんので、こっちもこっちで謎な組織でしかねぇ…。