レジェンド・オブ・シンフォギア 通りすがりの奇跡の破壊者 作:サルミアッキ
公園内では、三人のシンフォギア装者と乱入者たちとの戦いが始まっていた。
「ハァァァァッ!」
『我が王の為に!』
カッシーンの背後から伸びたクローアームと響の拳が交錯し、火花が散る。その戦いの背後では、ツヴァイウィングの二人と白い鎧の少女が向かい合っている。
「この戦場に『
「はぁ、戦場?イクサバ……戦場、か。こんな生易しいただの小競り合いの場が?—————は。人を殺したこともねぇお優しい方々が、戦争の何たるか知った口を利くとはな」
白い鎧の少女は気色ばむ翼の言葉を一蹴し、鼻で笑う。そして彼女は、右手に持った杖型のアイテムを天に向かって高く掲げると、周囲に怪物たちが溢れ出す。
「これは、まさか……!」
「その杖、ノイズを呼び出せるのか!」
「ご明察。この『ソロモンの杖』はノイズを呼び出し、操れる。シンプルだがそれ故使い勝手も良くってな。こんな殺すのに楽なもんがありゃ、傭兵稼業も上がったりだ」
けらけらと嗤う白い少女。だが、その声音の奥底にあるどす黒く赤い気配に、思わずたじろぐ二人の装者。
「なにが面白いの……!?」
「この、人殺しが……ッ!」
「ハッ、そうやってお前らは……仰け反り目線の自分の理屈を押し付けてきやがるわけだ。まぁ、こっちも別に許しを請う気もねぇんだが」
「御託はいい!話はベッドで聞かせてもらうッ!」
剣を握る手に力を込めて、翼は地を蹴って飛び掛かった。杖を肩に担いだ鎧の少女は、勿体ぶった態度でゆっくり静かに振り返る。そして……。
「なッ!」
「……おらどうした?もっと殺す覚悟で剣振れよ。サキモリ……ってやつなんだろ?お前。腕一本失う程度じゃあ、人間すぐにゃ死にゃしねぇ。ほら、来いよ」
ネフシュタンの鎧の少女は、稲妻の如き速度の突きをそのまま掌で受け止めていた。彼女の手の甲から貫き通された刃が突き出ている。そして少女は、翼が持つ剣を血が出るのも構わずに握り、奪い取った。
刀が刺さったままの腕を振る。血の飛沫は目晦まし替わりに翼の目へと寸分違わず降りかかる。
「うっ……」
「ンだよ、正義の味方気取りの鈍らが。結局人を傷つけるのが怖いのか?寝言ならテメェがベッドで話すんだな」
思わず目を瞬かせた翼に、音速を超える速度の鞭が迫った。
「翼ぁッ!」
仲良し三人組や小日向未来を庇いながらノイズと戦っていた奏が、身を躍らせて槍と我が身を盾とした。幸いアームドギアに罅が入っただけだが、それでもその鞭が生む衝撃は奏の全身を砕かんと体の中を広がっていく。
「ぐッ……」
「—————あぁ?すっとろいダボがしゃしゃってどーしたぁ?お呼びじゃねぇ、引っ込んでろ薬漬け装者」
「「!」」
白雷を封じ込めた黒いエネルギースフィアが集い、一対の鞭と共に振り下ろされた。そして、一拍措いて轟く爆音。
「んぁ?木っ端微塵……、とはならなかったか」
土煙が晴れ、クレーターが形作られた芝生の周囲には誰もいない。残っていたのは『へのへのもへじ』が書かれた紙が苦無で縫い付けられた丸太のみ。
突如として、弾かれたように振り返ったネフシュタンの鎧の少女。
「ほぉー……忍術ってやつか。実際に見んのは初めてだな」
「緒川さん直伝の『空蝉』だ」
風が木の葉を巻き上げて、二人の人影を露にした。九字を切って風を収めた翼は、傍らで槍を担ぎ直した奏に向かって声を低くし、静かに言う。
「……まさかこの技を使うことになるとは。奏、間違いなく相手は相当なやり手よ」
「あぁ、見りゃわかる……」
「おいおい、買いかぶり過ぎだ。あたしの天辺はこの程度だっての。避けきれずに怪我しちまったしなぁ?」
「……貴女、避けられたはずよ」
「さぁ、どうだろうな?」
貫かれた掌を振って大袈裟に肩を竦める鎧の少女。その余裕を崩さない態度に、高い実力を伺わせる。それも、敵への精神攻撃も得意とするタイプなのだろう。言葉に耳を貸さない方が良いと翼も奏も頷き合った。
—————その時だった。
「おぉりぁああああああッッッ!」
『ぐぅッ……!』
「お。来たな、未確認のガングニール。まさかカッシーンを吹っ飛ばすとは驚きだぜ」
地面を転がってくる機械人形を足で踏みつけて止めると、鎧の少女は気だるげに首を擡げて響をねめつける。
「……しっかし薬漬けのソイツと言い未確認のテメェと言い、無遠慮に横槍入れるのな、
「—————それ、駄洒落か?」
「あ?ンだよ、笑えるだろ。笑えよ」
……季節外れに木枯らしが吹いた。奏は翼に風遁の忍術でも使ったのかと視線を向けた。翼は首を横に振る。答えは否であった。
「あー……ンんッ、滑ったか?」
「ねぇ。どうして、こんなことをするの……?」
「お、理由か?そんなこと聞いて何になるかは知らねぇが……ま、答えは簡単。これがあたしの仕事だからだ」
響が口にした問いかけに、ネフシュタンの少女は平然とした態度であっけらかんと答えた。
「仕事?」
「そーだ。あたしはガキの頃から傭兵でな、戦争の火種で飯炊いて食ってんだよ。今回はまぁ、ちょっとクライアントの趣向が違うがな」
「……止めてって言ったら、戦わないでくれる?」
「ハハハハハ!おいおいおーい、バカかお前?仕事辞めたら生きていけねーよ。平和ボケしたこっちの国でもそーだろが」
こざっぱりした邪悪な嗤いが夜の公園に木霊する。肩を震わせて、長い銀髪を揺らして、ネフシュタンの鎧の人物は響の正義をいとも簡単に否定した。
「他の道とか、無かったの……?」
「無いねぇッッ!」
響の声に被せ、間髪入れずに白い少女は嘲笑う。
「……と言うか、くいっぱぐれが出ない仕事だぜ?世界中、あらゆる場所で人間同士はいがみ合い、争い合って殺し合う。そこであたしら戦争屋の出番ってわけだ」
手で額を押さえ、鎧の少女は裂けたような歪な笑みを顔に浮かべた。ソロモンの杖の先がコツコツ、コツコツと地面を苛立たし気に叩いている。
「大体よぉ、戦争なんてもんは無くならねぇんだよ。あたしは色々と大人ってやつらを見てきたが、やつらは他を理解しようとしない。手を携えない、自分だけが幸せで、特別でありたい。それ以外のものは、有ろうが無かろうがどうでも良い……いいや、むしろ有った方が目障りだ。だから殺す。永遠に消えて欲しいから……そして何より、それが一番簡単だからな」
—————だから、あたしもお前ら大人に倣ってみた。真面目にやるだけバカを見る。
「戦争反対、なんて言葉はお前らが対岸の火事見て言ってるだけ。当事者でもねぇ無力な奴らの戯言だ。大人とかいう年食ったガキが如何な言葉でそれを声高らかに謳おうが、現実はなぁんにも変わらない。だのに世界を平和にしようだの世界を護るだの、分不相応で馬鹿な叶わない夢を見るデケェだけのガキどもが、ゴミみてぇにうじゃうじゃいるもんだ」
—————綺麗事を言いたきゃ勝手に言ってろ。けどな、あたしはぜってぇそんなバカは言わねぇ。言ったところで、死ぬだけだ。
「—————手を、取り合えないの?」
「はぁぁ?……コレ見て分かんねぇか。お前の無理強いで手ェ握ったら、傷が広がって治りづらくなるだろーが。人をさらに追い詰めて、傷つけてまで手を握るのが、それほど良いことなのかねぇ?」
白い髪の少女が、響に向かって掌を向けた。鎧から脈打つ筋が伸び、傷が塞がりだしているものの、彼女の手からは未だに絶え間なく血が流れている。
「わたしだって傍にいない人とも手を繋げるとは思ってない。だけど、それでも……近くにいないとしても、誰かの心の傍にほんの少しでも寄り添いたい……」
「あー……じゃあ、死ねよ、お前。死んだ人間はいつも心の傍にいるってやつだなァ!ハハハハハハハハ!」
響の些細な願いに裏付けられた優しい言葉を、少女はいとも容易く残忍に踏み躙った。
「—————お幸せな連中の言葉はいつ聞いても嗤えるな。心、お情け、願い、希望?だから何だ、それ、頭に突き付けられた銃口を塞いだりできんのか?指がかかった引き金壊すことできんのか、できねぇよなァ!?—————ッて、あー…。はぁー…………想いは巡るたぁ慰めにもならねぇ。死んだら終わりだ、何もかも。そう思わねぇか?」
飄々としていた少女の言葉に、起伏が生まれた。どこか激情に振り回されるように声を張り上げ、溜息をついて落ち着きを取り戻す。また、ソロモンの杖が地面を強く叩き、アスファルトが抉られていく。
「………………。わたしはそういう死地にいた経験がないから、はっきりしたことは言えないし、言っちゃいけないと思う。でも、想いは巡るものであったらいいとは思ってる。過去の想いは全部、今と言う未来に繋がっているなら、きっと……」
チッ、と舌打ちがネフシュタンの少女の口から漏れた。
「……はあぁぁぁぁぁあ、ヤメだ、辞め。お前の言葉ほんっと噓くせぇよ。気に障る、癪に障る、耳に障る。人を救うことで自分を救おうとしてる、御為ごかしがよ」
少女は眼前の人間の醜さに口元を歪ませ、怒りに任せて唾を吐いた。
「お前、あたしと似てると思ったんだがな……勘違いだったか?」
「どういうこと……?」
「—————あたしは血筋なのかはたまた精神の異常なのか、迷惑なことに『人の生き方が音楽として聞こえてくる』共感性みてぇなのを持っててなぁ……。どいつもこいつも手前勝手な音楽を奏でてやがる。音楽を聞きゃあ、そいつが何を考えているかよぉく解かる。んで、お前の胸の内からも音楽が聞こえてんだ。不協和音だらけで必死に取り繕うような、そんな破滅の曲がな。だがよ、なんだそのマトモぶったナリは?」
ちゃり、とネフシュタンの少女が手に握った桃色の棘付き鞭が擦れ合う。
「わ、わたしは取り繕ってなんか……」
「お前の意見なんざどーでもいい。だが、他人を救って自分を救ってるつもりのお前にゃ、あたしは救われるつもりはねぇ。それとも頭の鈍そうなお前には、こう言ったほうが分かりが良いか?—————『勝手にやってろよバァァァァァカ』!」
その罵倒の言葉と共に、衝撃波を伴い迫る鞭。音速を超えた速度で響の腕に叩きつけられたウィップアタックが、アーマーパーツを割り砕く。
「ぐっ…、けど—————捕まえたッ!」
身体に攻撃を受けたタイミングで、響はネフシュタンの少女を引き寄せる為に鞭を腕に絡ませ巻き付けることで固定した。
「—————はっ、嫌だね。んじゃーなっと」
「—————え?」
だが、相手も然るものだった。戦闘技量でいえば、この場にいる者の中で随一であるネフシュタンの少女。幾ら響の格闘センスが抜群だったとはいえ、彼女は経験に裏打ちされた状況判断速度で、アーマーの一部を自切させた。
「力自慢と馬鹿正直に綱引きなんぞ御免被る」
「ぱ、パージした!?っとと……ッ!?」
眼前に迫る白い足。響は姿勢を崩した身体を無理やりに捻り、致命傷をガードしようとした。
「がっ…!」
—————だが、一撃目を避けた後に迫って来た二撃目のボレーキックを、響は喉元に受けた。
首の骨からおかしな音が鳴った。息が吸えない。声も出ない。胸の歌を唄えない……。
「響ぃぃッッ‼」
「立花ァッ‼」
吹き飛ばされた響は土煙を上げて地面を抉り滑り、公園の樹々をなぎ倒す。悲痛な声が上がる中、天羽奏はネフシュタンの少女に向かって槍を投げ放っていた。
「ッソ!外したッ⁉」
「遅ぇよ。あたしを仕留めるんなら、あのバカ女と話している時に斬りかかって来た方がまだ確率はあったぞ?」
ソロモンの杖を使って天羽奏のアームドギアと鍔迫り合いを繰り広げる銀髪の少女。
「奏!」
風鳴翼の助太刀が入ると、ネフシュタンの少女の行動は早かった。鎧に残るもう片方の鞭を器用に使って牽制しつつ、後方宙返りやバックステップを繰り返して距離を取る。
「ほんっと、面倒だ。けどな—————あの連中を護らなくてもいいのかぁ、人気者?」
ソロモンの杖から呼び出された大量のノイズ。それらは全て、小日向未来やリディアンの三人の周囲でじりじりと包囲網を形成していく。弓美の喉から、ひゅっと恐怖に息を呑む音が聴こえてきた。
「なッ……!貴様……ッ‼」
「人質のつもりかよ……!」
「あぁ、使える物は全部使わなきゃ勿体ねぇだろ?」
ニコニコと朗らかに笑うネフシュタンの少女。ツヴァイウィングの二人は、響の救出よりも先にノイズの対処を強いられてしまったことに、臍を嚙む。鎧の少女は二人の戦姫の奮戦を横目で見ながら、足元で倒れている立花響を踏みつけた。
「ゥ、ア゛あ……ッッ—————!」
「それと……そうだな。お前の喉だけは潰しておく。二度とその、耳障りな歌を唄えないようにな」
響の首に、鎧の鋭い爪が押し付けられて血が滲む。白い指の狭間から溢れ、地面に滴り落ちる赤い体液。ぬるりと滑る首筋にかけた指にゆっくりと力を込められ、響の首は骨が軋みを上げていた。
「ぐっ……うぅッッ!」
「響ぃッ‼」
苦悶の表情を浮かべる響や未来を見て、にやにやと粘つくような笑みを零す。—————だが、その笑みは次の瞬間に霧散した。
「が、—————Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl……」
「なッ……マジかよてめッ、正気かッ!?」
響の口から漏れた不思議な唄。それを聞いた瞬間、ネフシュタンの少女は咄嗟に響の首筋を掴んでいた手を放そうとするも、逆に相手がそれを許さない。白い鎧に響の血塗れの手が触れ、悍ましい血痕がこびり付く。
「な、なんであの子が、『
「おい、止めろ‼それを使うなァッッ‼」
戦場で、歌が聞こえていた。命を燃やす、済度の歌が……—————。
「(ッこれで……みんなを護…)—————えっ?」
「ぐぇッ!?」
装者たちの後方でけたたましい爆発が起き、人影が弾き飛ばされてきた。そして蛙が潰れたような変な声を上げて、響の隣からすっ飛んでいく白い鎧の少女。
あまりに突然な終幕に、響は愚か周囲の人間全てが呆気に取られてしまっていた。
「……ふん。こちらもこちらで取り込み中か」
草葉を踏む足音が聞こえてきたことで、真っ先に正気に戻ったのはツヴァイウィングの二人。振り返り、街灯に照らされる黄金の姿に瞠目する。
「あいつは……、確か」
「—————『仮面ライダーレジェンド』?」
頭部に縦に突き刺さったプレートが特徴的な戦士、仮面ライダーレジェンドがそこにいた。
「つつ…、あ゛あ?何なんだよ……」
一体何が起こったのか、地面に倒れ込んだネフシュタンの少女は首を振って、自分の上に乗ったナニカを見遣った。
そのナニカを見て、身体から火花を散らしていたカッシーンが声を上げる。
『う、ぐ……キョウ様……!』
「…って、おいおい大丈夫か、『ザモナス』」
鎧の少女の声掛けに、ゆっくりと立ち上がる肩マントの仮面ライダー。『ザモナス』と呼ばれたその戦士は首をごきりと鳴らして、黄色の複眼をシンフォギア装者たちと仮面ライダーレジェンドへ向けた。
「—————えぇ。全く問題ありません。衝撃は発勁で受け流しましたので」
「ハァ?なんだそりゃ…」
互いに軽口を叩きながらも、ザモナスと鎧の少女は片手に鞭やボウガンを構え、眼前の仮面ライダーと油断なく向かい合っている。
「ハンドレッドの仮面ライダーに加え……ノイズに、カッシーンに、完全聖遺物の『ネフシュタンの鎧』か。これは手数が必要だな……。ならば、少しばかりだが見せてやる」
レジェンドは左手にバイクを模した黒と金のツートンカラーの銃、『レジェンドライドマグナム』を召喚し、仮面ライダーの力が宿るレジェンドライダーケミーカードをベルトのドローホルダーから取り出した。
四枚のカードを順繰りにレジェンドライドマグナムへと読み込ませると、前に立つ敵に銃口を向けて引き金を引く。
「見るがいい。これがオレの錬金術だッ!」
オレンジ、紫、黄色、赤……—————四色の光が撃ち出され、バイクに跨るライダーの幻影へと変わる。そしてその姿が輝き光となって弾けると、夜闇の中に黄金のライダーズクレストと共に四人の仮面ライダーが出現した。
「へぇ、平成ライダー共ですか……少し、厄介ですね」
「ザモナス。これがお前の言ってた『かめんらいだー』…ってヤツか?」
「えぇ。右から、聖書における禁断の果実を巡り戦うオレンジの『アーマードライダー鎧武』、物理法則では倒せない化け物を音楽によって倒す鬼の戦士『仮面ライダー響鬼』、人を灰にする怪人と戦うためのツールであるスライド式携帯電話で変身する『仮面ライダーカイザ』、人の音楽を護るためキバの鎧を纏い戦う『仮面ライダーキバ』……ですね。やれやれ、どれもこれもシンフォギアにかこつけましたか?」
そう呟くと、ザモナスは横薙ぎに腕を振る。すると周囲の景色が捻じ曲がり、オーロラカーテンが作り出された。その奥から、更なる増援として量産型のカッシーンたちが、数十体程現れる。また、ネフシュタンの少女もカッシーンたちの周囲に増援としてノイズを大量に召喚した。
「……やれ」
ザモナスの一言によって、量産型カッシーンとノイズの群れがシンフォギア装者たちと呼び出された仮面ライダーたちに向かい、襲い来る。シンフォギア装者たち、そして仮面ライダーたちは迎え撃つため武器や拳を構えた。
『……』
「へっ?あ、あのー…何故にわたしの肩ポンってしたんです?」
「……ちょっと響?あの“顔にバツ印の人”と知り合いなの?」
「い、いや全然?」
—————響は近くに立っていた仮面ライダーに馴れ馴れしくされ、少し困惑していたが。
「……。オレが錬成したとはいえ、あのカイザのヤツ自我強いな……」
■
風鳴翼は刀を両手に持って振るい、次々にノイズと量産型カッシーンを屠っていた。
「くっ……如何せん、数が多い!」
—————そこに、オレンジ色の斬撃が数多の敵を薙ぎ払う。
「!」
『手を貸すぜ!ここからは、俺たちのステージだッ!』
「!……そうか、ならばこちらも花道に立たずにいられようか!」
風鳴翼の隣に、金色の前立てを付けた果実の武者が並び立つ。戦姫の紡ぐ
『セイハァァァァァァ‼』
「聞くが良い、我ら防人の歌を!」
蒼と橙の一閃が周囲を眩く照らし、悍ましく蔓延る雑音を斬り拓くのだった。
「ふッ…!くっ……」
立花響は、疲労が蓄積されつつある体を何とか動かし、眼前の敵を殴り飛ばしている。だが、目に見えて動きにキレがない。次第にノイズやカッシーンたちに圧され始め、あわや攻撃が激突する……と思われた時だった。
紫色の炎がノイズを焼いて灰にする。響が振り返れば、そこにいたのは一匹の鬼だった。
『大丈夫か、お嬢ちゃん?あどーも、俺、響鬼です』
「あ、ありがとうございます。わたしも響です。よろしくお願いします!」
響と響鬼が、徒手空拳を用いて怪物どもを屠っていく。スピードや手数の多さで攻める響に対して、響鬼は太鼓バチ型の武器である『音撃棒・烈火』に体内の気を纏わせた炎の剣を振るい、広範囲の敵を焼き斬った。
「わぁ、すっごい……」
『けっこー鍛えてます、シュッ。……んじゃ、決めますか』
響鬼は腰帯の中央に付いた鼓を外し、カッシーンやノイズが一箇所に集まった場所へと放り投げた。するとその鼓—————『音撃鼓・火炎鼓』はオーラ状の巨大な紋章と化し、敵を取り囲むように音叉型の柵や複数の太鼓が付いた演奏装置へと変化した。
響鬼は左右の連打から両手での一打を繰り返して紋章に清めの音を送り込む。ノイズは次々に身体を綻ばせ、カッシーンは体からスパークが絶え間なく続いている。
しかし、響たちの死角から、フライトノイズが真っ直ぐ響鬼に向かって飛んできた。響鬼は咄嗟に音撃棒から『鬼棒術・烈火弾』を放つも、フィナーレに至るはずだった音撃の演奏が止まってしまう。
『おっ、っと……やばッ』
「響鬼さん!はぁぁぁぁッッッッッッ‼」
だが、そこにもう一人のヒビキが演奏を引き継いだ。最後の一音を奏で響かせるため、フォニックゲインを纏った片足が巴の紋章に叩き込まれる。
瞬間、爆発が熾る。そして美しい光が辺りを優しく包んで……そして消える。
『おぉ、ありがとなお嬢ちゃん…いや響ちゃんか』
ネフシュタンの少女の前には、ノイズと量産型カッシーンを挟んで、一体の怪物染みた外見の仮面ライダー、その名もキバが立っていた。彼の止まり木を模したベルトから外れ、夜空をフヨフヨと舞う不思議な生き物が、少女の周囲をくるくると回る。
「あぁ?何だ……この蝙蝠もどき」
『おぉ、中身は中々の美少女と見た!きっと十年たてばモジリアーニのねーちゃんみたいになるんだろーな』
「……ッ。おま、喋れんのかよ…」
人間の言葉を話した奇天烈な生物に、鎧の少女はバイザーの奥の瞳を丸くした。
『……キバット、行くよ』
『はいよ、合点承知!』
キバは冷静に不思議な蝙蝠に指示を出し、自分は左腰にマウントしてあった蝙蝠を模した笛を持つ。
キバットと呼ばれた蝙蝠が、その笛を高らかに吹き鳴らす。周囲の闇がより一層黒を増し、天に輝く月が巨大な満月へと変わっていく。
「チィッ…!何だか知らんが、当たったら拙いだろコレ!」
危機感としてヒシヒシと迫るひりついた感覚。肌が針の筵にくるまれたような、そんな雰囲気。吸血鬼の牙が首筋に当たる己が姿を幻視するネフシュタンの少女。それ故、彼女の判断は早かった。
地面を踏み抜くと、回転して宙へ舞うマンホールを片手で掴み、それを月に向かって跳躍したキバとキバットへと放り投げる。
『な、あいったぁ!?』
運よくキバットの額に当たったマンホール。魔皇力の制御がブレ、一瞬だけだがキバとキバットが奏でていた『音楽』に隙ができた。
—————その隙を、ネフシュタンの少女は見逃さなかった。
ネフシュタンの鎧の鞭を器用に動かし、半球型の防壁を展開した白い少女。キバの放ったライダーキック『ダークネスムーンブレイク』はその防御の表層を滑り、カッシーンやノイズの方向へと進行を変えた。
ノイズへと突き刺さる、赤い被膜の翼が生えた足。踏みしめられた地面には、月を冠とする蝙蝠の紋章が、豪奢な装飾を伴い刻まれていた。
『あー……わりィ。逸らされちまった……』
『いや、大丈夫だよキバット。あのロボットたちは倒せたし』
キバの右足が、
「あっぶねェ…ッ、まともに食らってたらヤバかったな……」
(なんでだ……ッ、なんでだよ。何でお前が、戦うんだ……ッ!)
天羽奏は立花響の後ろ姿を見ながら、ノイズやカッシーンに向けてただただ槍を振り回していた。次々に消えていくノイズ、機械の部品を振り撒き停止するカッシーン。視界から敵は消えていくが、奏の心は曇ったまま……ただ闇雲なだけの逃避に近い戦いだった。
奏の頬を掠めて飛ぶ、黄金のエネルギー弾。その攻撃は、奏を襲おうとするノイズを一撃で破裂させる。振り返れば、エックスの文字を模した銃『カイザブレイガン』を構えたライダーがそこにいた。
「—————何すんだよ、アブねぇだろ」
『……邪魔なんだよ。足手纏いは引っ込んでいてくれないかなぁ?』
「なんだとッ!?」
天羽奏の心を逆なでして煽る紫の仮面の戦士、仮面ライダーカイザ。彼は襟元を正しながら、つらつらと厭味ったらしい声で言葉を続けた。
『だってそうだろ、マ…“あの子”が覚悟を決めて戦っているというのに、君ときたら生きる炎を自ら消して燻っているだけ。この場で戦う意思がないなら、消えろ』
「お前ェ…ッ‼」
『図星だからとすぐ声を荒げるのかな、君は。良くないな、そういうのは…』
彼はわざとらしく溜息をつくと、ベルトにセットしていたカイザフォン表面に付いた『ミッションメモリー』をカイザブレイガンに装填し、フォトンブラッドが伝導するソルグラスで形成された刀身を剣呑に構えた。
『ハァッッッ‼』
「なっ…!」
斬りかかられると思った奏は、即座に槍を盾にするため前へと突き出し、防御の姿勢を取った。だが、カイザはその行為を無視して、奏の背後に迫っていた巨大ノイズをぶった斬る。
「—————え?」
『何を呆けている…ギアを持っているんだろう、君は!』
その言葉には、苛立つような怒りと、どこか似た存在への嫌悪があった。
『力を持っている以上、君は人類を脅かす敵を倒さなければならない…!もう立ち止まることはできないはずだ、立ち返る場所なんてないはずだろう!生きているのなら、戦え‼』
嫌味で陰険で憎たらしい、嘘吐きで言葉も通じなさそうな性格の仮面ライダーだったが、彼の口から零れたその言葉たちは、どうしてだろうか、奏の心にも共感を以って響いてきた。
(—————ッ!悔しいが、こいつの言う通りじゃねぇか…ッ!)
今戦っている響のこと、二年前に起きたライブの事件のこと、そして……長野県で起きた、家族が灰になったあの日のことを、奏は思い出していた。
「あたしは、戦う…!シンフォギア装者として…ッ!」
(あたしみたいな、帰る場所を失う人間が生まれないようにするために……!忘れちゃいない、家族が灰になったあの日のことをッ!他人にそんな思いをさせるくらいなら、あたしが背負えばいいことだったッ!)
赤い髪を靡かせて、真っ赤な瞳を揺らしながら……彼女は、父、母、妹と交わした言葉—————そしてシンフォギアによって抱いた夢を思い出す。
『……ふん。君の力はこの程度、という
「舐めんなッ‼」
奏とカイザは駆け出した。カイザはドライバーにセットされたカイザフォンのエンターキーをプッシュした。
光弾が撃ち放たれ、広範囲に渡って黄色の光でできた格子状の檻がカッシーンやノイズを拘束する。
赤と黄色の鎧を纏う二人は、手に持つ獲物をすれ違いざまに振り抜いた。二人の力は闇を切り裂き、光を齎す。
「うぉりゃぁぁァァァァァァァァァァッッ‼」
『でぇいやぁぁァァァァァァァァァァッッ‼』
空中に浮かび上がる『×』の文字。ノイズは灰に、そしてカッシーンは爆炎を上げてスクラップへと還って行く。奏とカイザは武器を降ろすと、互いに互いを見つめ合う。
「おいお前!」
『…何かな?』
「性格悪いな!」
『……そっちこそ、見ていて
「ヤツ?ヤツって誰だよ……つかそんな理由であたしに当たったのか?……フンッ、“良くないな、そういうのは”」
『……ハッ』
奏が告げた意匠返しともとれるその言葉に、カイザは不愉快そうに鼻を鳴らした。
■
シンフォギア装者たちの傍に立っていた仮面ライダーたちは、黄金のホログラムに分解され、消えていった。
キバとの戦闘を避けてザモナスの傍に着地したネフシュタンの少女は、つまらなそうにソロモンの杖を撫でている。
「あーぁ、こりゃ失敗だな。んでどうする、撤退するか?ザモナス」
「量産型といえ、我々のカッシーンの軍団がこうも簡単に……」
シンフォギア装者たちが油断なく間を詰めてきているというのに、どこか余裕を感じさせるザモナスとネフシュタンの二人。そんなザモナスの喉から、くく……と擦れるような笑い声が漏れ出た。
「ふ、ははは。やはり凄まじい技量です。
彼女は横柄で仰々しい身振りで、仮面ライダーレジェンドに向かって手を伸ばす。
「我々の仲間になりませんか?」
「……何?」
「貴女は錬金術によってオーロラカーテンの力を得て、我々と同じ存在となった……“天の星々”を超え、あらゆる並行世界に渡る高次の存在へと。どうです、こんな『
シンフォギア装者たちには、仮面ライダーザモナスの言っていることが何一つ理解はできていなかった。だが、どうしてか……何か重大なことが世界の裏で起きていることを推察するには十分だった。
そして、幾らかの沈黙を守った後……黄金の戦士が口を開いた。
「……分かっていないようだな、『ハンドレッド』。オレは世界から逃げるためにこの力を得たのではない。オレは遍く世界の全てを識るために、この力を求めたんだ」
「ほぉ……ですが、識っただけで何になります?貴女の信じた正義で救えますか、結末が定められたこの世界を—————!」
ばさりと肩のマントを揺らし、ザモナスは天を仰ぎ見た。その声には、どこか悲壮と焦燥、そして拭いきれないほどの怒りがあった。
「正義だと?————そも、オレとて正義なぞというものは識らんし、謳ったこともない。だが、理不尽に虐げられる人間を見ていると……燃える十字架の前に立たされた、かつての自分を想い出す」
仮面ライダーレジェンドが独白と共に、レジェンドライバーへと手をかけた。
「声を上げて泣こうと、助けが来ない苦痛と悲嘆は識っている。愛する者を護れなかった、不甲斐ない自分を許せない弱さを識っている。だから護る、それだけのことだ」
ベルトの中央部が90度回転し、レジェンドライバーに装填されたレジェンドライダーケミーカードに宿る力を解放する。
「識っただけで何になると、お前は言ったな。逆だ。識らなければ世界の真実は愚か、何ができるかすらも見つけられない。だからオレたちは識ろうとする。この世の全てを」
ザモナスとネフシュタンの鎧の少女の前に身を躍らせる一つの影。ハイエンドモデルのカッシーンが、躯体が軋みを上げるのも構わずに立ちふさがった。
レジェンドの前に出現するカードのオーラ。高く飛び上がったレジェンドは、
「ハァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ‼」
『ぐぅぅぅぅッッッ⁉わ—————我らがハンドレッドに、栄光あれェェッッ‼』
赤、青、緑、橙の宝石型オーラが黄金の光と共に散り、巨大なカードの幻影を潜り抜けて着地したレジェンド。その背後で巨大な爆発音が響き渡った。
レジェンドはゆっくりと立ち上がる。振り返れば、カッシーンの骸の背後で揺らぐ銀色のオーロラカーテンがあった。
「ふ、ははははははは!ではまたお会いしましょう奇跡の破壊者……。いいえ、このシンフォギアの物語に生まれた、新たな『世界の破壊者』よ」
ネフシュタンの鎧の水色のバイザーと、仮面ライダーザモナスの『ライダー』と刻まれた黄色の複眼が薄ぼんやりと煌いている。
「じゃあな、シンフォギア装者ども。今度は邪魔立てしないでもらえると助かるねぇ。無駄な戦いはしないに越したことはねぇしなぁ」
「お待ちしておりますよ、仮面ライダーレジェンド。あなたが全てを
そう言って、二人は消えていく。オーロラカーテンも希薄となって、既に残滓さえ残っていない。月の美しさだけが、ボロボロになった静かな公園の中に残り続けていた…………。
■
レジェンドたちが戦っていた公園とは程遠い雑木林。水色と桃色の蝶を模したエネルギー状アームドギアが一人の女性の周りを舞う。
「……まぁ。こんなところですかね」
ノイズだった塵が月下に舞い、妖精の翅が静かに揺らぐ。白銀のシンフォギアを纏った茶髪の女性は、しなやかに跳ねて闇の中へと溶けていった。
ジオウトリニティみたいなダブル攻撃を響鬼とする響。…………これ字面だと判別つくけど、ややこしいな。