『BBチャンネル出張ばーん!inセラフ基地をお送りしていきます!』
集合地点と言われた橋の上、多くの者が集うなか紫髪の女性が大声を上げる。しかし、BBチャンネルと書いてある看板をバックに独特なBGMを何処からともなく垂れ流す女性に周りの者は全員一歩どころか十歩離れた位置で見守っていた。
「………何してるのBB?」
「何をって……なに言っているんですか先輩。BBちゃんと言えばこれ、これと言えば私とも呼べるモノ、BBチャンネル出張版を開いているんですよー」
「そうだな、君と言えばコレが頭に思い浮かぶが……君、自分の立場を分かっているのか?」
「それは勿論。私ことBBちゃんは現在、ここセラフ基地の教官です。つまりは、先輩達の上司に当たるわけですね!職権が疼きますよー」
「職権云々以前にクビになるぞ君………」
あの人教官だったんだ……と会話に着いて来れない周りの者達は思った。
「この人が衛宮様や岸波様が言っていたBB様ですか?想像してた10倍くらいヤベェ方ですね!」
「ちょっとぉ!?誰がヤベェ方ですか!私はヤバくはありません!こう見えても元は超高性能AIなんですからね!」
「超高性能ポンコツAIの間違いでは?」
「先輩ぃッ!?愛する後輩に対して酷くないですか!?いやでも、先輩に言われているという事実を上手く変換したらご褒美になるのでは………?先輩ッ!もっと罵って下さいッ!!」
「10倍で済んだかね佐月君?」
「界王拳では限界があったようです。スーパーサイヤ人レベルは流石に聞いてません」
エミヤとマリ双方から言われているにも関わらず当人は「ざぁーこざぁーこ」「あっ、マズイです!先輩のメスガキASMRは私の許容範囲を超えてますぅぅぅぅ!!」と真顔の白野からの言葉で淑女がしてはいけない表情を晒していた。コイツ本当に教官の立場にいて良い存在なのか?
『キャンサーの群体は現在、第三次防衛ラインまで近付いています。準備は良いですね?』
エミヤ達の非生産的な会話の中、橋の上の最前列で壇上にいた金髪の女性が目の前にいる少女達に向かって現在の状況を説明していた。
「……教官殿。あんな事を言っているが君は向こうに行かなくて良いのか?」
「へっ?ああ、別に良いですよ。寧ろ、こっちにいた方が動く手間がなくて楽です」
「動く手間?」
「はい。アーチャーさん、先輩、それと佐月さん。貴方達三人は私の監督の下で戦っていただきます。
簡単に言っちゃえばこの世界を全く知らない先輩達のサポート的な事を済ませちゃおう的な考えですね」
と先程までのポンコツ加減が抜けたBBがエミヤ達に告げる。その中で一人関係のないマリが手を挙げた。
「はい!BB様御質問があります!」
「はい、なんですかマリさん」
「先程の貴女様のお話の中で衛宮様と岸波様のサポートに回る理由は大体お察し出来ました。ですが、その中に私が加わりやがる意味はございますか?」
「うーん、良い質問と言えばそうですけど、BBちゃんの予測だとマリさんはそれを察せない程バカではないと出ていたんですけどぉ〜」
「ええ、存じております。ですので、この質問は私の確認と岸波様達への情報共有を含めての御質問となっています」
「それならヨシです!さて、先輩、そしてアーチャーさん。貴女達がセラフ基地で過ごす上で必要な事は一通り話しましたよね?その中で部隊の事は覚えてますか?」
「確か、六人一組のチームを作る「ごめん、あまり覚えてない」ーーマスター………」
「それなら先輩の為にもう一度おさらいしておきましょう」
「先輩達が今後所属するセラフ部隊では原則として六人一組のチームを作る事が義務付けられています。まあ、戦いの中で死んじゃう人もいますので、あくまで最初はって言葉が付いちゃいますけど。
このチームは先輩達が個人で作れる物ではありませんので、上層部が勝手に決めたチームでこれからの作戦に挑んでもらう事になってたんですがーー」
「確か君が私達のチームを担当したんだったな」
「そうです!私が先輩やアーチャーさんを何処の馬の骨ともしれない輩と一緒のチームにさせる訳にはいきませんでした。先輩達との相性や戦力バランス、それらを加味した結果ーー」
「見事私が選ばれたってわけですね!」
「その通りです、まあ、マリさんを選んだ理由で一番を占めているのは先輩との相性の良さなんですけどねー。ここが私の勝手知ったるホームグラウンドなら真っ先に排除してるレベルで嫉妬しちゃいます!」
「そんな事を言われても困ります。ね!岸波様!」
「ねーマリー」
BBのその言葉の後に息を合わせたかのように笑い合う二人のその姿に懐から取り出したハンカチを噛み締めるBBの後ろ姿を見ながらエミヤは思案する。
(
「?どうされました衛宮様?私の顔に何かついていやがりますか?」
「いや、何もないさ。ただ、君の可憐さに見惚れていただけだ」
「まあ!お世辞も大概にしやがれプレイボーイ様。咄嗟の言い訳にしては出来てる方ですが、私には通じませんよ?」
「察したのならその言葉は余計じゃないかね!?」
とエミヤが声を荒げる中、パンと軽く手を合わせたBBが三人の注目を集めた。
「さて、無駄話はここまでにしまして。そろそろ私達も行きましょう」
「と言っても目的地はこの基地のすぐ外なので移動も何もあったものじゃありませんけど」とBBが先導して歩いて行くのを衛宮達は顔を見合わせた後、軽く頷き合いあとを追うのであった。
BBの案内の下、歩く事数十分。四人は基地の外へと出ていた。そこは昔は栄えていたのだろう、ビルの根本と言えるべき物がいくつも建て並んではいるものの、モノの見事に倒壊した瓦礫の山がそこらかしこに存在している場所であった。
「……随分と寂れているね」
「寂れている……か。それも間違いではないと思うがこれはーー」
「人の気配が全くしない、ですよね衛宮様」
「ああ、そうだ。生活感が全くと言ってしない。BBこれは……」
彼らの先頭を歩んでいたBBは、辺りを見渡していた衛宮達の声に向き直り話し始める。
「はい、アーチャーさんの想像通りです。これがキャンサーによる被害です」
「これが……か」
「はい。マリさんはご存知かと思いますが、人類はキャンサーに対する有効策が無いまま多くの月日を生きていました」
「その結果がこの荒れ果てた地です」とBBは感情の籠らない瞳で倒壊したビル群を見つめた。
「度重なるキャンサーの襲来、疲弊し絶望する人類。対抗策がない為に一方的な戦闘……いえ、あれは最早戦闘なんて生易しいモノではありませんでしたね……
虚数から出れる場所が決めれたらこんな世界来たくもありませんでした」
いつになく弱気なBBの発言にアーチャーとマリは口を紡ぐ。聖杯戦争を円滑に進める為のサポートAI……つまりは人の健康管理などのサポートをする為に生まれた彼女からすればこの危険な場所にエミヤと白野を連れて来たくはなかったと、月の裏側ですら見せた事のない弱音が月から離れた影響からか自然と漏れていた。
そんな中一人の少女が彼女に近付き手を両の手で握る。
「それでも、来ちゃった事には仕方ないよBB」
「……先輩」
「それに色んな事がありすぎて言えてなかったけど、私BBには感謝してるんだよ?キアラを倒した後、虚数空間で消える運命だった私とアーチャーを救ってくれてこの地で新しい人生を送れるようにしてくれた事に」
「せん……ぱい……」
「それにこの世界はまだ終わってないでしょ?ならまだ歩ける。五体は満足だし、身体の不調も記憶の破損もない。それなら月の聖杯戦争の時よりもずっとか良いスタートを切れてるよ」
笑みを浮かべながらそう語る白野に暗くなっていたBBも釣られて苦笑いを浮かべた。
「なんですかそれ……いえ、でも……はい。そうですね。私とした事が変な空気を作っちゃいましたね!」
「いや、それはいつもだけど?」
「酷いです先輩!?ここは傷心の後輩を元気付ける場面じゃないのですか!?」
「でも、元気出てるよ?」
「本当だ!?」
わーきゃーと騒ぎ立てる二人を遠目にそれをどこか羨ましく見ていたマリはポツリと呟く。
「眩しいなぁ……」
「……君も今日からあの一員になるんだぞ?」
「えっ………聴こえてました……か?」
「こういった時は流すのが主流だろうが、生憎私はプレイボーイなのでね。悩みがあるなら聞くぞ?」
先程マリに言われた言葉のお返しとばかりにニヒルな笑みと共に告げるエミヤにマリも釣られて笑みを浮かべる。
「いえ、遠慮しておきます。母からプレイボーイな男性には心を許すなって言われてやがりますので」
「それは残念だ。さて、BB!そろそろ戦う術を教えてくれないか?教官達の話ならキャンサーとやらはここに近付いているのだろう!」
「えっ、ああはい!そう言えばそうでしたね。では皆さん、軍から支給されたiPaーー電子軍人手帳を手に取って下さい」
「手帳……ああ、説明の時に配られた
そう口にして白野は電子軍人手帳を懐から取り出す。
「そうそれです先輩。アーチャーさんにマリさんも手帳を取り出して下さい」
BBの言葉に二人も手帳をそれぞれ取り出すが、一見して何の変哲もないiPadにしか見えない。
「その手帳の中にあるセラフというアプリを立ち上げて画面に映し出されている文字ーーセラフィムコードを口にして下さい」
「アプリ内の文字?………なぜこの言葉が用意されているのか甚だ疑問だが、これなのだろうな。i am the bone of my sword」
電子軍人手帳を手に彼の彼たる所以の言葉を告げたその時。
『ッ!?』
轟音に一斉に見上げた先、けたたましい音を響かせながら空中に亀裂が走る。白野、エミヤ、マリの三人が注目する中、白野とエミヤには見覚えのある二振りの夫婦剣が空中に現れる。
「なッ!?あれは干将・莫耶!?なぜあんなところから出てくる!?」
「投影したとかじゃないのアーチャー?」
「いや、していない。と言うよりも生まれ変わってから出来なくなっていたくらいだ。なぜ今になって……」
「……衛宮様、憶測ですがあれは貴方が普段使っている武器ではないと思われます。ですよねBB様」
マリの言葉に三人の注目がBBに集まる。注目の的になっているBBは笑顔を浮かべながら答える。
「はい、その通りですよマリさん。ただ、一つ付け加えるとすればあれは紛れもなくアーチャーさんの記憶にある通りの干将・莫耶で、それこそが対キャンサー用決戦兵器ーー通称セラフと呼ばれる物という事です」
エミヤの手元に落ちてきた干将・莫耶を指差しながらBBは告げる。真面目な顔で説明をするBB、己の半身とも呼べる武器を手に取り差異が無いかを確かめるエミヤ、そんなエミヤを興味深げに見つめるマリ。三者三様に真剣な雰囲気を醸し出す中、我らが主人公ーー岸波白野が口を開く。
「干将・莫耶がアーチャーのセラフか……で、BB他は?」
「へっ?………先輩ほかとは?」
「えっ?いや、そのままの意味だけど。アーチャーのセラフが夫婦剣だけって事はないでしょ?」
当たり前のように告げる白野にBBは滝の様な汗を掻く。それもそうだろう、BBの常識としてはセラフは一人につき一つというのが当たり前であるにも関わらず、目の前の敬愛すべき女性は表裏共にエミヤのマスターをしていた為か紅茶の持つ武具は一つではなく古今東西の武器を扱えると……それこそ無限の如き
「あのぅ……先輩?大変申し上げ難いのですが……」
「うん」
「実は……そのぅ………あ……アーチャーさんの装備はそれ一つしかありません」
BBの絞り出すような答えに二、三度眼を瞬かせた白野はアーチャーの手に持つセラフを指差し再度問う。
「あれだけ?」
「あれだけです……」
「魔剣や聖剣は?花楯は?」
「先輩酷な事を言います……今のアーチャーさんにはあの干将・莫耶しか武器がありません!なんなら魔術使いですらないので投影すら出来ませんッ!!」
「良いところないじゃん!!」
「待てマスター!流石に聞き捨てならんぞ!!」
二人の会話に心外だと言わんばかりにエミヤが躍り出る。
「今は違くともこの身は元は人類史に多大な影響を与えた英雄の身、そんな私を良いとこ無しとはーーー」
「魔術は三流、技量も二流、多大なゲリラ戦で鍛えた感と知識、それと多彩な武具が取り柄の元サーヴァントが多彩な武具と魔術を取り上げられたとなったらアーチャーならどう思う?」
エミヤこの言葉に絶句する。彼の視点から聴こえる白野の言葉は謂わば星の聖剣の如き破壊力を誇る一撃であった。
耐えられない。耐える事など出来る筈がない。例え彼が心の
「お待ち下さい岸波様!その様な発言はどうかと思います!」
そんな口ずさんでしまいそうなガラスの少年ハートよろしくなメンタルを持つエミヤに救世主とも呼べる声が掛けられる。
声の主ーーマリは真剣な眼差しで白野を見据える。
「佐月君ッ……!!君という子はなんて良いこーーー」
「例え現在の衛宮様が貧弱でクソ雑魚で戦力外通告一歩手前のどうしようもない足手纏いだとしても!それをどうにかするのがチームなんじゃないんですかッ!!」
「すまない誰かタイムマシーンを持っていないか?1分程前に巻き戻ってこの話題が起きる前からやり直したいのだが?」
味方だと思っていた者からの死角外からの口撃に反論する気が根本から叩き折られたエミヤが虚ろな眼で三人を見る。
現代日本よりオヤジ狩りという言葉があるが、現在の世界情勢でこの言葉が一番似合う場であるのはこの場所だと言うのは多分過言ではないだろう。例えその対象がオヤジではないにしてもだ。
「大丈夫だよアーチャー、もしもの時は私がアーチャーを守るから。だから元気だそ?」
瓦礫を掻き分けタイムマシーンによる一攫千金を狙い始めたアーチャーの肩に手を置きながら白野が発言する。そんな彼女にふと疑問を感じたBBとマリは口を開く。
「あれ?先輩って凛さんから何か武術的な事教えてもらってましたっけ?」
「それ以前に岸波様の足運びが完全に素人のそれなのですが……?」
そんな彼女らの言葉に白野は当然と言わんばかりに胸を張りながら答える。
「ん?経験も知識もないけど?」
「先輩のどこからそんな自信が湧き出てきてたのですかッ!?」
「大丈夫行ける行ける」
「無理ですよ!?って、その前に本当にこの部隊で戦力になるのって私だけなんですか!?流石の佐月マリも足手纏い二人を抱えながらの戦闘はキツいのですが!?」
と、彼女のマイペース振りにBBだけでなくそれまで余裕を保っていたマリまでもが声を荒げる。この女色んな意味で最強じゃないのだろうか。
そんな二人の言葉に流石に危険を感じたのか白野は口を尖らせながら発言する。
「二人がそう言うなら仕方ない。アーチャー、干将・莫耶しかないけどやれるよね?」
「フッ、誰にモノを言っているマスター?形は違うとは言えこの身は君が呼び出し手を取った最強のサーヴァント。その私が己の得物のほぼ全てを奪われたぐらいで化物退治が出来ない訳がない。そうだろ?マスター」
「衛宮様。凄い格好良い事を言ってるところ悪いのですが、貴方が話してるの瓦礫です。大丈夫です?ちゃんと私達認識してます?貴方の視界に何か変なモノ映り込んでません?」
未だ虚な眼で格好を付けるエミヤにそこはかとない不安を感じるマリであったが、彼女の戦士としての感が彼らのやり取りに一つとして疑問を抱かない為に踏み入った事は言えないでいた。
「まあ、彼なら大丈夫ですよマリさん。心は硝子と毎度言ってますが、張り替えるまでの工事時間が尋常じゃないくらい速いですから」
「それなら壊れ難い防弾硝子を用意するべきだと考えますが?」
「弊社の技術力ではそこまでの物を作る事は厳しいとだけ伝えておきます。では、先輩にマリさん。お二人のセラフも展開して頂きますね。流石にこれ以上バカしてる余裕は無さそうですので」
そう言って前を指差すBBの前方に、今まさにこちらを視認したと言わんばかりに4本の足のうち前2本を上に掲げる蜘蛛型のキャンサーの姿があった。
「いや、余裕ないとかのレベルじゃないのだが!?」
「ほう、あれがキャンサーか……よし、行け!アーチャー。break6回で一気に攻めるんだ!」
「そんな適当だったか私への指示は!?」
そんな軽口を叩きながらもキャンサーへと突っ込んでいくエミヤ。勿論白野からの
「さて、あのキャンサーはアーチャーさんがどうにかするとして、先輩、マリさん。お二人とも展開の準備はよろしいですか?」
「うんいつでも行けるよ」「バッチリです」
「それではお二人とも私に続いてセラフィムコードを口にして下さい。わたしの熱を感じていて」
「フランシスコザビッ」
「全滅のご注文承りました」
三者三様に思い思いの言葉を紡ぐ。すると、エミヤの時と同様に彼女達のセラフが各々の下に降り注ぐ。マリには大型のガトリングガン、BBには教鞭、そして我らが岸波白野には靴が舞い降りた。
「………岸波様、BB様。少しご質問よろしいでしょうか」
「うん」
「構いませんよ」
「では……なんですそれ?いえ、BB様のはまだ分かります。武器に見えなくもないです。ですが、岸波様?貴女様のそれはなんですか……?セラフ?セラフで合っているんですよね?」
マリの指差す先、白野が持つ
「これは私の……青春さ」
「どんな青春なんですか……」
懐かしむように呟いた白野に呆れるような視線を向けるマリだが、そんな彼女の肩を叩く者が一人。
「察して上げて下さいマリさん。あの
「そうなんです?」
「うん。この子には何度も救われたんだ」
そう言って白野はポツリポツリと過去を振り返る。
「移動が本当に苦痛なサクラ迷宮の中、この礼装を付けていれば速く走る事が出来たんだ。他の礼装がアーチャーの能力を底上げしたり相手にデバフ掛けたり出来る中、足が速くなる事しか取り柄の無いこの子に私は何度も救われたんだ」
「………うん?」
「速くなった弊害で倒す意味のないenemyに見つかったり礼装を付け替え忘れて戦闘中に付け替えてたり、そのせいで何度アーチャーが倒されかけたか忘れたけど、それでもこの子は確かに私の事を………探索の面倒臭さを助けてくれたんだ」
「いや、その靴のせいで余計に被害増えてません?」
はあ、と白野の話に呆れたマリは溜め息を吐きながら白野の
「ほら岸波様。私も責任を持ちますからその
「!?やだ!この子は私が腹を痛めて育てた大切な子なの!ちゃんと面倒も見るし散歩もするから許してマリーママ!!」
「話を聞く限り腹を痛めてるの衛宮様なのですが……BB様、セラフのガチャってありやがりませんか?」
「やめてマリー!私のセラフを触媒に他のセラフを見繕うとしないで!それが許されるのは違う世界だけだよッ!!」
「あー……残念ですがマリさん。セラフにガチャシステム的な物はありません。一応使い続けていれば少しばかりの変化はあるかもしれませんが一度決められた形状が中々変わる事はないと思われます」
BBの言葉にマリはそれならと諦めがつき、逆に白野はこのアイテムが余程気に入っているのか満面の笑みでガッツポーズを決める。彼女はこのセラフがこれから一生付き合う事になる自身の武器というのを理解しているのだろうか?
と確実に非生産的な会話を繰り広げていた彼女達に近付く影が一つ。
「君達、私が孤軍奮闘しているのを忘れていないか?」
衛宮であった。お得意の
「あっ、お疲れアーチャー。見て見て私のセラフ!思い入れが詰まったモノがやってきたんだ!」
「ああ、確かに
「やめて上げて下さいアーチャーさん。あれでも先輩の唯一無二のセラフなんです……あっ、コラ!マリさん!アーチャーさんに耳打ちしない!!」
己の相棒からもゴミ認定されたセラフを庇うように両手でしっかりと抱き締める白野。そんな談笑する彼女達の様子を好機と見たのか、岩陰にて様子を伺っていたキャンサーが飛び掛かった。
鋭利な刃物の様に研がれた前足が白野の頭を捉えるその直前ーー
[ピギッ!?]
「ふむ、奇襲やこの中で弱い者を狙う程度には知能があるようだな」
「ですが、それまでのようですね。失敗した場合の第二プランもないようですし、なんなら仲間を呼ぶなんて事もしませんね」
白野の頭を刈り取る筈であったキャンサーの前足は黒く体勢を崩した自身の前に転がり落ちる。転がり落ちた前足にはそれぞれ何かに抉られたかのような跡と力ではなく技によって切られたかのような綺麗な切り跡が残されていた。
「うーん、enemyとはまた違った感じだけど思考能力がそこまであるようには見えないのだよねぇ」
「一応、解析班の情報ではキャンサーには思考能力といったモノは存在しないとされていますが、BBちゃん的にはその考察はまったく信用ならないのですよね〜」
そんな彼らのやり取りを当然と言わんばかりの態度で白野とBBも合流を遂げる。
分かっていたのだろう。自分がこの茶髪を狙っていたのも、側から見れば完全な隙が生まれたと錯覚させたのも、団欒の最中、どれだけ笑みを浮かべていたとしてもその指先でお互いに指示を出し合っていたのも全てこの時の為だったのだ。そうして思考することによって、初めてこの個体は恐怖に似た感情を生む事が出来た。この感情を他の同族に伝える事が出来れば、キャンサーの脅威は更に数段上がる事だろう。
「さて、どうするマスター?」
「ん?ああ、決まってるよ。これ以上収穫がないのなら殺すまでだよ。みすみす逃す意味もないしね」
しかしそれは同族に伝えられればの話だ。
「では、さよならキャンサーさん。夢を見れるのかどうかは知りませんが、良い夢を」
直後、ズドンと鈍い音が己の身体から響いたと同時にこの個体はその生命活動の全てが停止した。
「さて、これくらいでよろしいでしょう。私達の目標としてた討伐数はゆうに超えてますし先輩達がこれから寝食を共にするお仲間さんの事も紹介したいですしね」
手に持っていた教鞭を放り投げながらBBは彼らに提案をする。放られた教鞭は放物線を描きながら地面に到達する前に風景に溶ける様にその実態を無くした。
「ほう、そうして消すのかこれは」
「手荷物にならないのは大分と助かりますね」
衛宮とマリもそれに倣うように自分の前に己の得物を放る。放られた双剣とガトリングガンは綺麗な放物線を描きーーーザクッ、ドスンとそれぞれ音を立てながら地面に突き刺さる。
「………なにしてるのですお二人とも?」
「その言葉はこっちが聞きたいくらいなのだが?」
「何で私達のだけ消えやがらないのです?」
もしかして不良品か?と二人が考えていたところ、何かを察したBBが「あー」と呆れた声を上げながら二人に告げる。
「お二人とも、頭の中で消えろって考えていませんでしたね?手から離れただけで消えるならどれだけ不便か考えただけで分からなかったのです?」
「分かるわけないだろう。どこの誰が授かったばかりの武具の返還方法で消えろなどと考えると思って「おっ、消えた消えた。そっかぁ無くなれとか消えろとかって念じると消えるんだねセラフって」「………
考えてますね岸波様……」
彼女は少しアレな存在だ。アレを一般人の枠組みに入れる方が人類に対する侮辱と捉えても良いくらいだ」
「先輩が聞いていないからって好き放題言いますねアーチャーさん。……まあ、その意見には全くと言って否定は出来ませんが」
自身の聞いていないところでそんな事を言われているとも露知らず白野は空間に溶けて消えたセラフを後目に再び現れた自身の靴に異常がないかを確認していた。
「さて、無駄話はやめましてちゃっちゃと帰りましょう。遅過ぎても軍記がどうやらで何言われるか分かったものじゃないですからね」
BBの言葉に異論がない二人は一つ頷くと、「マスター『岸波様行くぞ!」行きますよ!』と一声白野に声を掛け歩き出す。
「んっ?あっ、待ってよ皆!」
その後を白野が追う。そんな彼女達の後ろには小煩い彼女達とは正反対の静けさが残るだけであった。
日が傾き、夜に変わり始めた夕方。キャンサー討伐に出ていた四人はセラフ軍事基地へと帰ってきていた。
【ーー……ー】
「んん?あれは……げっ、皆さん私の後ろに隠れておいて下さい。面倒な人がいます」
何かを見つけたのか、三人の前を歩いていたBBがエミヤ達に小声で声を掛ける。
「え、なになにどうしたのBB?」
しかし、彼女の声を聞かず白野はBBの横から顔を出し前方を確認する
「今から宿舎に行って自分の部屋と装備品を確認しておくように」
白野が覗き込んだ先、今朝見かけた金髪と水色髪の少女の他にロングの金色の髪をした者とフードを被った少女が手塚司令官から何かしらの説明を受けていた。
「BB。面倒なのって手塚司令官さんの方?」
「そうです!そうなのです先輩!あの人に見つかると色々と小言が五月蝿いので彼女達に注目が集まっている間に横を通り抜けましょう!」
さあさあ!とBBは白野の背を押しながらエミヤ達に目線を配る。エミヤとマリも異論はないのか声を出さずコクリと頷きを返すと二人の後を追う。
「それから電子軍人手帳は肌身離さず所持しておきなさい」
「女同士で愛し合っている時も?」
「ええ、完全防水加工がされているので、どれだけ汗に濡れても大丈夫よ」
『完全ガチレズ
手塚司令官と金髪の少女の間に我らが主人公が間男の様に滑り込んだ。
「なんか変なヤツが変なこと言いながら割り込んできたァッ!?」
「うわっ、アンタだれ?」
ツッコミの才能が開花し始めた水色髪が突如飛来した未確認宇宙物質に驚愕の声を上げる。
「先輩ィィィッ!?なんで割り込んでるんですかァッ!!」
「はっ!しまった。つい癖で」
「いや、女の濡場の話聞いて割り込んでくるってどんな癖してんだよ!そして女の濡場なんて言葉を平然と使ってる私もなに言ってんだよ!」
「水色髪君。自暴自棄になるのは少し早い気がするぞ」
「そうですよ水色髪さん。人生はまだ長いんですから、そんなカリカリしていると損しますよ」
「お前らも誰だよ!?って言うか人の名前をなに髪色だけで決めているんだよ!!私には和泉ユキって名前があるわ!」
水色髪の少女ーー和泉ユキがゼェハァと息を荒げながら四人の乱入者を見据える。
「ふむ、私と同じで相当な苦労体質と見た」
「私と同じでツッコミに疲れるタイプですね」
『それはない(です)ハァ?』と和泉の姿にコソコソと小声で話をしていた二人が意見の食い違いに揃って疑問の声を上げる。ちなみにだが、二人の体質はボケ6割ツッコミ3割、残った1割はゴミで出来ているという普通体質であり、ツッコミ9割組みであるシスコン姉が加入するのは数時間先の出来事であるのはここだけの話だ。
「ふッ、私が誰だかって?当ててみるといい和泉ユキって人!当てれたら私達全員の名前を教えようじゃないかッ!!」
「なんでクイズ方式になってるんだよ。普通に教えろよ名前ぐらい……ってか誰が分かるんだよ初対面のヤツの名前なんてーー」
「私分かるわ。貴女、岸波白野さんよね?あっちの人は間桐桜さん、それであっちの二人組が衛宮士郎さんと佐月マリさんであってるわよね?」
「当てられた!?しかも全員!?」
「当てたァッ!?凄いな諜報員!?出会ってから今までで一番諜報員ぽい事してるぞ!?」
当たる筈がないとタカを括っていた白野と金髪ロングの女性のへっぽこさを知っていた和泉が驚愕の声を上げる。彼女達の他にも名前を当てられたエミヤとマリも取っ組み合いの喧嘩を一時中断して金髪ロングの少女をマジマジと観察する。
そんなここに集うほぼ全員の視線を集めて気分が良くなったのか、少女は「ふふん」と鼻を鳴らし種明かしをする。
「これくらい当然よ。だって電子軍人手帳に載ってたんだものみんなの名前」
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少女の言葉にヘッドシェイクをされているBBと手塚を除いた全員が懐にある電子軍人手帳を操作し出す。
「生徒名簿と教官名簿っていう項目に名前と顔写真があるから後はそれと照合すれば簡単に分かるわよ」
「諜報関係ねぇじゃねーか!!」
和泉の鋭いツッコミがその場の全員の総意となって少女を襲う。
「えっ、そうなの?」
「そうだよ!なんでこれが諜報と関係あると思ったんだお前は!てか、この量覚えたの地味に凄いな!?そこを誇れよ!!」
「入隊式の時に時間いっぱいあったから」
「誇れねぇよ!?手塚司令官のありがたい話ぐらいスマホ弄らずに聞いとけよ!こうも話が長いと眠たくなるよなって言っていた私が言えた義理じゃないけど!!」
「分かるよ和泉さん。私も手塚司令官さんの話一つも思い出せないもん」
「マスター、君と和泉君では条件が違うぞ?彼女は眠たくなると言っていただけで寝てはいないだろう。しかし君は鼻提灯まで出して寝ていたではないか」
「本当に寝るなよ!?ここに来て一日目だろ!?どんな感性してるんだよお前!!」
天然とバカの巣窟に和泉がはぁはぁと息を荒げ肩を上下させていると、突如として彼女に縦長い影が覆い被さった。
「なるほど、それなら和泉さんと東城さん並びに岸波さんには今から私と一緒に来てもらうわ。もう一度ありがたいお話をしてあげる」
「い、いやぁ……遠慮しておきたいです………手塚司令官さん、手に持ってる間桐さん大丈夫です?なんか酷く煤けてるように見えるのですが……」
「教育的指導の結果よ」
「は……ハハ、ソウデスカ」
暴力を振るった事を隠さずに告げる手塚に和泉は何も言えなくなり、視線を白野に移す。視線の先にいる白野は表情筋が死んだかのように先程とは打って変わって無表情へと変換していた。
「(怖っ!?なんて表情してんだよアイツ!?)」
「いや、この絶体絶命の状況をどう切り抜けようかって考えてて」
「怒られるだけだろ!?素直に頷いておけよここは!抵抗すんなよ!!って、なに人の思考ナチュラルに読んでるんだよ!?」
「ダメね。ここで動けば殺されるわ間桐さんみたいに……!」
「殺されねぇよ!?死んでもないからなあの人!いや、死んでねぇよな?全く動く気配ないから自信無くなってきたんだが……」
「無駄話はそこまでにしておきなさい。倍にするわよ」
何をとは呼ばれた三人は考えたが声に出したら最後、本当にやりかねないと考え誰も一声すら喋らず前を歩き出した手塚に渋々着いて行くのであった。
「………どうするの?東城さん達連れてかれちゃったけど」
その場に残された四人のうちの一人ーーフードを被った少女が犯罪者の様に連行される三人と煤けた物体Sを見詰めながら誰に言うでもなく呟く
「ふむ……まあ致し方ない犠牲だと思って話を続けようではないか」
「犠牲って、まあ否定は出来ないけどさ。そう言えば、アンタらこの先の予定とかって知ってる?」
金髪の少女ーー茅森ルカがエミヤとマリに訪ねる。
「はい茅森様。私達のこの後の予定は宿舎に行きメンバーの点呼確認。その後は夕食からの就寝となっています」
「そっか、なら多分私達も一緒だな。なら宿舎まで一緒に行かない?私とカレリンだけじゃ道に迷いそうで」
「それは願ってもない提案だな。あやからせて貰おう」
「うし、じゃあそこまでよろしくな。名簿確認したから知ってると思うけど私は茅森ルカ」
「私は可憐」
「こちらこそよろしく頼む、私は衛宮士郎だ」
「私は佐月マリって言います。以前よりこちらにて商店の店員をやっていましたので案内はお任せ下さい。あと、何か困った物があれば是非ウチをご贔屓しやがれ」
「佐月さん、その言葉遣いは多分間違ってると思うなぁ……」
今話捕捉
金髪ロング=東城つかさ、諜報員らしいよ?
フードの少女=朝倉可憐、可愛い
用語解説
タイムマシーン=過去や未来に行き来することが出来る物らしい。つまり科学の力ってスゲー!!
完全ガチレズセッ〇ス=作者よくわかんにゃい、良い子のみんな調べる時は自己責任でね!ふみ太郎さんとの約束だぞ!