「んっ?ああ、君達」
歩き出したエミヤ達の視線の先、薄金色のロングヘアーの女性がヘリポートへと続く道の途中で引き返し彼らに声を掛ける。
「ん、あたしら?」
「そうだ。後方支援ご苦労だった。あと、君達も無断とはいえキャンサーを何体か倒したのだろう?助かったよ」
どこか神聖さを感じさせる微笑みで茅森からマリまでを視界に映しながら女性は感謝の礼を述べる。
その言葉に茅森と可憐は少し頬を緩ませるが、我らが主人公組達は違った意味で顔に驚愕を浮かべる。
『私達の出撃は無断だったの(です)か!?』
「まさか知らなかったのか!?」
「いや、確かに私達の出張るところをバレないように動くのは疑問を抱いたがまさか命令違反をしていたとは……」
「チームに任命されて一日目からやらかすとは誰も思わないですからね……考えましたねBB様」
神聖な笑みが崩れた女性を前にエミヤとマリはBBがなぜあそこまでコソコソと人目に付かない事をしていたのかを思い出す。
「いや、問題を起こす事を前提に考えないでほしいのだが……」
「無理な事を言わないでくれ先輩であろう人よ。彼女を止める事が出来るのは私のマスター1人しかいない」
「その岸波様も若干どころではない天然が入っていますからね。私達の部隊は問題が起こる事前提で考えて頂けると幸いです先輩ぽい人」
「今まで生きてきた中でここまで嬉しくない事前報告を受けたのは初めてだ。あと、私の名前は白河ユイナだ」
女性ーー白河ユイナはエミヤ達の報告に頭が痛くなったのか右手を額に当て溜め息を吐く。
「ユイナ先輩大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ……待て君、今なんて言った?あと名前は?」
「えっ、茅森ルカですけど……えーとユイナ先輩どうされました?」
「ユイナ先輩……ユイナ先輩か……………すまない茅森もう一度言ってくれないか?」
「ユイナセーンパイッ」
「佐月君、君には言っていない」
「え、まあ‥‥別に良いっすけど「先程の言い方BBみたいだな」「嘘ですよね!?私あの傍若無人を絵に描いたような人と一緒の発言しました!?」ユイナ先輩」
「(うっ、なんだこの何とも言えない感覚は……!初めてあった少女にこんな事を言わせて私は何を感じているんだ!!耐えろ白河ユイナ!お前はこんな事で屈する者じゃない筈だッ!!)」
努めて冷静に茅森から発せられた言葉を表面上はにこりと微笑むだけで済ます事が出来た白河は茅森の後ろにいるカレンに視線を移す。勿論、その側で騒ぐバカ二人を視界からは外してだ。
「う、んん、ありがとう茅森、もう大丈夫だ「えー、ルカって呼んで」る、ルカ!?それは……少し違わないか?私達は今日初めて出会ったばかりだ。そんな初対面な相手をいきなり名前でとは………」
「言ってくれなきゃ拗ねる。カレリンも拗ねる」
「私も!?ルカさん、それは少しおかしくない?」
「全然おかしくない!ねぇユイナ先輩、私のことルカって呼んで。それでカレリンのこともカレリンって呼んで!」
「い、いやそれは……」
「(ま、まずい……!!私の人生史上最も難関な壁にぶつかっている気がする……!!)」
壁も何も呼べないとハッキリ言えば済む話を白河は生来の優しさから選べないようだ。と、そんな窮地ですらない状況にも関わらず冷や汗を流す白河の側にスルリと一つの影が飛来する。
「教えてあげましょうか?」
「ッ!?佐月君!?」
音もなく己に近付いたマリに動揺が隠せず今度は違う意味で冷や汗が大量に流れるが、マリはそんな事を気にせず白河に話を続ける。
「私が教えてあげましょうか、この場で最適な言葉を」
「……分かるのか君に」
「はい、信頼して下さい。さあ、私に身をゆだねて、そして言葉を発して」
「あ、ああ」
「では……『茅森すまない。やはり私は初対面の相手をいきなり名前で呼ぶ事は出来ない!』」
「茅森すまない。やはり私は初対面の相手をいきなり名前で呼ぶ事は出来ない!」
『だがカレリン、君だけは違う!君の太陽のような瞳に私は一目惚れをした!付き合ってほしい!愛してるカーレリーン!』
「だがカレリン、君だけは違う!君の太陽のような瞳に私は一目惚れをした!付き合ってほしい!愛してるカーレリーン!って言えるかあアアアアッ!!」
「そ、そんなユイナ先輩……信じてたのに……」
「なにを信じていた!?君はいったい私になにを期待していたんだルカ!?それとカレリン君!違うからな!?先程の愛してるは違うからな!だから意味深に頬を染めないでくれないか!?」
白河の発言により混沌とし始めた前方よりぬるりと間を縫うようにしてエミヤの側まで戻ってきたマリが一言溢す。
「私、恋のキューピットになっちゃいました!」
「トラブルメーカーの間違いだろう?」
修羅場と化していた白河騒動はヘリポートの方より現れた紫ロングな巨乳の女性が「ほら、なにやってんだい隊長!さっさと行くよ!」と発言すると共に白河を引き摺りながら連れ去った事により強制的に中断させられる。その間際に放った「待ってくれ蔵!誤解を!せめて誤解を解かしてくれェッ!!」という白河の言葉と鬼気迫る表情は誰の目から見ても哀れに見えていただろう。
さて、そんな修羅場が終わりを告げたヘリポート前、エミヤ達は白河の事を頭の片隅に追いやり宿舎へと歩みを進めていた。
「…………ルカさん。私、負けないからね」
「えっ、なにに?」
若干一名意識の切り替えどころかマリの悪ふざけによって危ない方面へと舵を切り出し始めた者がいるような気がするが気のせいだろう。
「ところで佐月君。件の宿舎にはまだ着かないのかね?」
後ろでプチ修羅場がゴングを鳴らす中、二人の前を歩くエミヤは隣を歩くマリに訪ねる。
「もうすぐですよ……と、言ってる間に着きましたね。あちらです」
そう言って手首を返すマリの先、広大な土地を余す事なく造られた建物が遠目で見える。
「………宿舎?ホテルの間違いではないのかね?」
「キャンサーとの戦闘と軍としての訓練を強要される事を除けばホテルと変わりはありませんね」
「その二つの有り難みが強過ぎてホテルから宿舎へとランクダウンしたよ。そう美味い話は無いものだね」
「タダほど怖い物など無いって話もありますからね。仕方ありません」
二人して溜め息を吐くが宿舎へと歩く速度は緩めない。口では愚痴を吐いてはいるが、現状自分達が心休まる場所はそこしかないのだから当たり前とも言える。まあ、それらは言い訳でしかない。二人の本音は己達の後ろの二人組にありーー
「…………(ジー」
「なにカレリン、なんか目が怖いよ?私なんかした?」
修羅場と化した後ろの空間に巻き込まれまいと歩く速度を落とせないのが本音だったりするが、これを知るのは当人達のみであろう。
「岸波白野に衛宮士郎、佐月マリ、加えて知らない名前が三つと……私達の部屋はここだな」
修羅場もといブラックホールから終ぞ追い付かれる事なくエミヤとマリは自分達がこれから過ごすであろう部屋へと辿り着いた。
「うん?二人は私達と一緒じゃないの?」
「はい。私達はBB様より事前にチーム名31Z部隊と教えられていますので、茅森様達31A部隊の方達とは違う部屋で過ごす事になります」
「そっか、なら仕方ない。楽しかったよ二人とも明日からもよろしくね」
「おやすみなさい」
「ああ、おやすみだ茅森君、朝倉君」
「おやすみなさいませ朝倉様。それと背中にお気を付け下さいね茅森様」
「なんで?なんで背中?私の背中に何か付いてるの!?」
『(いや付いてるって言うか、着いてるって言うか……)』
先程から不気味なくらいに口数が少ない朝倉が何度か茅森の首に手を回すのを理性で抑えているのがエミヤとマリには見える。恋とは人をここまで狂わす事が出来るのかと再確認する二人であった。
「ではな茅森君。どれだけ醜態な姿になっていようと骨は拾って火葬はしておく」
「葬儀の申し込みなら私にお任せ下さい。格安で御満足頂けるプランをご用意しておきますので」
「なんでなの二人とも!?私の背中にいったい何が張り付いてるの!?」
「大丈夫だよルカさん。死にはしないと思うから。では私達はこれで」
朝倉に手を引かれエミヤ達から遠ざかる茅森。離れていく彼女から「ねぇカレリン。何か雰囲気おかしくない?ねぇ!本当に大丈夫!?」と相当焦っている声が聞こえた気がするが、二人は幻聴だと決め付け割り当てられた部屋の扉を開ける。
「良い子だったのにな……」
「惜しい人を亡くしました……」
「部屋に入ってくるなり何言ってんだお前ら」
エミヤ達が茅森に対して手を合わせ別れを惜しんでいると、先住民であろう長身の金髪の女性に話を振られる。
「いやなに。つい先程出来たであろう友人に対しあの世でもしっかりとな、と念を送っていたところだ」
「おいちょっと待て」
エミヤの発言に頭が痛くなったのか額を抑えながら金髪の女性は言葉を続ける。
「あーその……なんだ。友人なんだよな?」
「ああ、つい先程出来たがね。どちらかと言えば知り合いか?」
「知り合いかと思いますよ?」
「いやそこは別に良いよ。なんで死んでるんだ?」
「いや、死んではいない。多分これから殺されるかもしれないだけだ」
「いや止めろよ!?助けてやれよ!?なんで平然な顔して部屋に入ってきてんだよ!?」
『いや、巻き込まれるのは嫌だなぁと』
「薄情だなお前ら!?」
「お待ち下さいいちごさん」
いちごと呼ばれた金髪の女性の後ろから褐色肌の少女がとてとてと歩きエミヤ達の前に現れる。
「どうもお二人とも、お初にお目にかかります。ヴリティカ・バラクリシュナンと申します」
「これはどうもご丁寧に、私は衛宮士郎と言う」
「佐月マリと申します」
「いや自己紹介してる場合か!?」
「さて、衛宮さん達の会話で大体の事情を察する事が出来ました。31A部隊の誰かを助けるか否かで揉めている形でよろしいでしょうか?」
「ッ!、凄いなほとんど情報が無いにも関わらずそこまでの回答が出てくるのか」
「はい。まあ前提条件がありましたので色んな可能性を潰していけば後は案外簡単に予想を立てれましたので」
「なるほどー。それでヴリティカ様、私達はどのように行動した方がよろしいでしょうか?」
「放置で良いと思いますよ?所詮は
「そうか……それもそうだな」
「ですね。まあ、茅森様ならきっと大丈夫でしょう」
「ですです、きっと大丈夫な筈です」
ハハハと声を上げて笑い合う三人。その中で一人残されたいちごは叫ぶ。
「いや、助けは!?」
「はい?助け?」
「そうだよ!てか、話に割り込んできたお前が何を言ってるんだこの人って顔をしてるんだよッ!!」
「何を言ってるんですこの人?」
「わざわざ口に出さなくても良いんだよ!お前がこの話に割り込んだのはその31Aのヤツを助ける案を出す為じゃなかったのかよ!?」
「いえ、別に。それに私はお待ち下さいいちごさんって言っただけですし」
「そう言えばそうだったな!お前一言も助けるなんて言葉使ってないな!でも話の流れ的にそう思わない普通!?」
「いえ特には。お二人は?」
「私はないな」
「左に同じくです」
「よし分かった悪かった。ここに人としての心を持ってんのが私だけって事が分かっただけでも大きな収穫だったって思っとく!」
ヒステリックに声を荒げるいちごの前で部屋の扉が開く。
「あー酷い目にあった……って、アーチャーにマリーじゃん。先に着いてたんだ」
「んっ?ああ、マスター帰ったのか。どうだったかね手塚司令官の扱きは?」
エミヤの問いに我が物顔でソファに腰掛け、マリから飲み物を受け取った白野はうんと口に含んだ飲料を飲み込んだあと言葉を続けた。
「いやぁあれは凄かったねこれ美味しい。まさかBBがあんな事になるなんてねーマリー、これなんて飲み物?それに和泉さんやつかささんもあんな目に会うなんて凄い美味しいこれ!マリーおかわり!!」
「そうか、君の興味がそのジュースに移っていてもいなくても話の内容が全く分からないという事が分かっただけ良しとしよう」
「いや、良しとすんなよ。何も聞き出せてねぇのと一緒じゃねーか」
「彼女を甘く見るなよいちご君。二言目には眼鏡かフランシスコザビエルと口ずさむ女性だぞ。あそこまで知的に話せているだけ十分にマシなくらいだ」
「それなんて乳児?生まれたてホヤホヤのベイビーかアイツ?」
「否定出来ないのが悲しいところだな」
「ちょっと待てどう言う事だ?いや、やっぱいい!説明しようとすんな頭が痛くなる!だからその手と開きかけた口を閉じろ!」
白野の生い立ちを説明しようとしたエミヤにいちごが待ったを掛ける。ツッコミ9割勢の部隊内常識人枠の彼女にとってツッコミ所の多すぎる白野の生い立ちは毒にしかならないと言うのが本能的に理解出来たのであろう。危機察知能力の高さに思わず脱帽モノの賞賛を与えたい。
「ふむふむ、つまり白野さんは聖杯戦争なる物に敗北した人々の集合体なのですね」
「うん、それで合ってるよ。まあ私もよく分かってないから詳しい事は後から来るBBに聞いた方が良いかも(ズズズ」
まあ、それも他の者がその事に興味を持たなかった場合の話であるが。
マリから追加の飲み物を受け取った白野がヴリティカの問いに答えヴリティカが受け取った回答をノートに書き込む。その間、マリはどこからか取り出した小型の冷蔵庫の設置に勤しんでいた。
「確かにそうですね。それにしても意識の集合体とは………仮に白野さんになる前の人格をAと仮定した場合、今の白野さんが生まれる確率は………」
「だそうだがいちご君」
「あー何も聞こえねぇ。私は何も聞いてねぇ。集合意識なんて単語知らねぇぇ!」
彼女達の声がこれ以上聴こえないようにいちごは両耳を自らの手で塞ぐ。その間にも彼女の前方では白野の生い立ち聖杯戦争編が開催されているがいちごは興味を完全に無くす為に眼すらも閉じる。これ以上の脳へのダメージは彼女の生命に支障を来たす為、生存本能がフルに働いている証拠だ。
「なんで私が……」
「まぁまぁ小笠原さん。この部隊に貴女の力が必要と考えれば………ほら御覧ください小笠原さん彼方の方達が今後から貴女と過ごす皆さんです」
半端混沌と化し始めていた場に新たなトラブルメーカーが一人とツッコミが一人追加される。いちごを除いた全員の視線がそちらを向き次の発言を待つ。ちなみに、いちごは未だ気付いてはいない。
「ふむ……どうも皆さん。今日よりこちらの部隊に任命された小笠原緋雨と申します。以後お見知りおきを」
長い髪を二つに纏めたツインテールを靡かせながら一昔前のツンデレキャラを彷彿とさせる身長130強の少女ーー小笠原緋雨はエミヤ達を見据えてお辞儀をする。その一つ一つの諸作から彼女の生来の真面目さが窺えるが、この場にいるのは魑魅魍魎古今東西のヤンチャ者共を集めた部隊である。真面目さだけで彼女達を纏める事など不可能に近い。
「ふむ……ふむ」
「な………なんですか貴女?」
とてとてと我らがニ番槍ヴリティカが緋雨の上から下、さらには左右と彼女の周りをクルクルと回りながら観察する。緋雨はそんな視線に慣れていないのかどぎまぎしながらもその行為を見ている。
「ふむ………うんなるほど」
何かに納得がいったのかヴリティカは一つ頷くとつま先立ちで緋雨に近寄り頭皮に手を当て一言。
「私の方が大きいですね」
「はアァッ!?負けてませんがッ!!私の方が勝ってますが!?」
ツッコミ…陥落!!享年約200文字!!ヴリティカの挑発とも言える物言いに由緒正しき喧嘩の買い方のような喧嘩腰で応戦する緋雨に側で成り行きを見守っていた四人もほっこりとしながら言葉を溢す。
「やれやれ、この部隊には品行方正な者は私しかいないと見える。仕方ない年長者として全員を引っ張れるよう努力をしよう」
「寝言は寝てから言いやがれ、品行方正という言葉はこの私、佐月マリにこそ相応しいモノです。タマタマ男は黙っていやがれ」
「口が汚いマリーが品行方正とは言えないなぁ。その点私は部下を扱う技量があるしほぼ全ての事を受け入れる器量もある。品行方正の言葉が相応しいのは誰が見ても明らかと言えるよね」
「先輩が品行方正?冗談も少しは考えた方が良いですよ。人々のバイタルチェックから始まり優しい言葉で迷い子のメンタルケアをしていたBBちゃんにこそ品行方正に相応しいと言えるでしょう!」
「今のやり取りでこの部屋にその言葉が相応しいヤツはいねぇって事が分かんねーのかお前らは……」
いつの間にか現実逃避から帰って来ていたいちごがツッコミを入れる。現状、この言葉が相応しい人物は彼女だという事実に誰も気付いておらずエミヤ達に加え緋雨とブリティカまでもが抗議の声を上げた。
「なっ!?何を言うかいちご君!君はこの私が品行方正ではないと言うのかね!?」
「言うよ。言っとくけどお前の行い一つ一つが品行方正とは真逆の位置にいるからな」
「いちご様も私の事を暴虐無人の権化ことBB様と一緒だと言うんですか!?」
「同じ事言わせんなよ。言うよ!見てる限りじゃお前のやってる事と説明で聞いた間桐のやってる事の被害はそう変わんねぇからな!」
「ちょっとマリさん!私を巻き込まないで下さい!」
「なんでアンタは自分が無関係だと思ってんだよ!そもそも事の初めはアンタの無断出撃からだからな!?」
「謝って下さいいちごさん。私とインドとカリーに対して最大級の謝罪を要求します……!」
「先輩に対してその言葉遣いはどう言う事か説明をして頂きますッ!!」
「なんで私がお前らに謝んだよ!あとインドとカレーはどっから来た!?そもそも先輩って言うなら先輩らしい事を一つでもしてから言え!」
「まあまあ落ち着いて皆。あっ、冷蔵庫にパピコあったよ。皆でコレ食べて仲直りしよ?はい!隊長命令!」
「なんでここでそのチョイス!?部屋に七人いるんだから更に溝が深まるだけだろ!?」
白野の言葉にヒートアップしていた五人はそれならばと各々矛を収めパピコを受け取る。
無論、貰えなかったのはいちごのみだ。
「いや私の分は!?」
「ふぇ?ふぃやさふぁひてひははらひらはひほはほ……(えっ?騒いでいたからいらないのかと」
「食いながら喋るな!マナーが悪い。つかお前らもパピコ一つで収まるのならそもそも喧嘩なんかすんなよ……」
「大変ですね……先輩の私からこちらを一つお渡します」
肩を落とすいちごに緋雨は食べ掛けのパピコを差し出す。
「いらねーよ。つか先輩云々言うならそもそもパピコを食うな。あと、お前全然差し出そうとしてる顔してないからな。めっちゃ苦渋に満ちた顔してるからな」
「ハッ!い、い、いえこれは……その……」
「いいよもう。私の事気にしなくて良いからさっさと食え。これから夕食なんだろ?早く食わねーと痛い目みるぞ」
そんないちごの発言を見計らったかのように部屋に備え付けられているスピーカーからの声が響き渡る。
『本日入隊をされた皆様はカフェテリアにお集まり下さい。夕飯の用意が出来ています』
「ほら言わんこっちゃない」
「あれ、もうそんな時間?寄り道してる時間も無さそうだし真っ直ぐ向かおっか」
「寄り道してる時間あったのならしてたのかよ……」
「ご飯はなーにかなっと」
「小笠原、実際問題飯は美味いのか?一応軍事施設なんだろ?」
「楽しみを奪うようで言いたくはありませんでしたがそこは御安心下さい。ここはセラフ部隊員を支える施設です。食事はコンディションに関わる重要な要素でもあります。つまりはーーー」
「凄い……バイキングです!!」
「これは驚いたな……!」
「めちゃくちゃ歓待されてるな私達!?」
教員であるBBと別れ歩く事数分、カフェテリアへと足を運んだ31Z部隊の前に立ち並ぶのは豪勢な器にこれでもかと盛り付けられた料理の数々であった。
「麻婆豆腐は!?麻婆豆腐はどこ!?私の麻婆豆腐ぅゥゥ!!」
「岸波様、麻婆豆腐ならあちらです。ご案内しますね」
「マーボー!!」
周囲の視線を集めながら白野とマリは人混みの中へと消えていった。
「アイツこんな状況でもブレないのな」
「ある意味才能ですよあれ……」
「彼女はあれで通常運転だ。さて小笠原君。何かおすすめはあるかね?」
「そうですね……私のおすすめとしては鰻や餡蜜などですかね」
「カリーは無いのですか?」
「カリーですか?カレーならありますけど……」
「それで良いです!案内をお願いします緋雨さん」
言うな否や緋雨の腕を掴んだヴリティカも人混みの中へと緋雨を連れ消えて行く。
「ちょ、ちょっと待って下さい!私も取りたい料理がーーー」
「なんつー纏まりのない部隊だよ」
「二人一組での行動をしてるだけまだ纏まっているとは言えないか?」
「言えねーよ。纏まってたらそこらの部隊と一緒で六人一組で行動して「蒼井これなんてどうかにゃ?美味そうじゃにゃいか?」マイプリティエンジェールッ!!お姉ちゃんもその輪にいーれーてーー!!」
にゃ語尾の少女の声が聴こえたと同時にエミヤとの会話を打ち切って全力で走り出したいちごは世紀の大怪盗に負けない飛び込みを見せる。当然周囲からの戸惑いは最高潮らしく、飛び込んだ先の部隊ーー31B部隊からは「な、なんですか一体!?」「ひいぃぃ!?へ、変質者ですぅぅ!」「おい、誰だセラフ部隊に変態をこんなに加えたのは?」「バウゥゥゥ!!」「姉さん!?一体どこから現れたにゃ!?」「貴様!すももは余のハレム計画の一人であるぞ!横取りは許さん!!」と悲鳴と怒声が響く。……一人エミヤにとっては馴染み深いとある金髪巨乳男装の変態が紛れ込んでいたが、関わるだけ面倒だと決めたエミヤはその箇所の料理は後回しに目の前にあった見てるだけで食欲がそそられる唐揚げを一つ皿に乗せるのであった。
「結果はっぴょーう!」
31Z部隊が周囲に迷惑を振り撒いた数十分後、再度テーブルへと戻った六人は各々のレパートリーを広げていた。
「なんだよ結果発表って、発表も何もないだろ」
「お黙り下さいいちご3世」
「誰がいちご3世だ。私のどこにルパン要素があるんだ」
白野の言葉に心外だと言わんばかりに声を上げるいちごにその場にいた全員がコイツ、マジかと言った表情を向ける。
「いちご君、言ってはなんだが……先程の君の妹に見せた飛び込みは峰不二子に飛び込む大怪盗そのものであったぞ?」
「顔が変態のそれでしたからね、変質者って言うのもあながち間違いではない言葉でしたよ」
「流石にその神秘は追えません」
「配属されて一日目に不祥事だけは勘弁して下さいね?」
「百合や薔薇その他の恋愛バッチコイな私でも近親相姦はヤバいと思うよ?」
五人の否定的な意見にいちごは「何言ってるんだお前ら?姉妹なんだからあれくらいのスキンシップは当然だろ?」と心底不思議に思っている声量で返した事により五人はこの話題に触れるのを止めた。ちなみにだが、飛び込み選手権スキンシップが当然ならば彼女の頬に大きく付いた紅葉マークはこの世に産まれていない筈なのだが、これ以上は藪蛇になるだろう。
「ま、まあこの話はここまでで、岸波さんの発言をしたくなるのも分かりますし皆さんのお持ちした料理を紹介していきましょうよ」
「ふむ、そう言う事なら一番手は私から行かせてもらおう。私が選んだのはこれらだ」
話の流れを変える緋雨の言葉にエミヤが続き料理の紹介をする。
「唐揚げにスクランブルエッグに海老チリにサラダって、男にしては随分と消極的だな」
「なに、まだ一回目だ。多くを楽しみたいからこその量だよ」
「楽しみたいと言うわりには結構安定に走ってますよね」
「そう言う君は随分と冒険したではないか佐月君。ビーフストロガノフとは中々に凝った物を持ってきたものだ」
「私としては料理を見ただけで名前を当てられるのに困惑してるのですが……これ一応ロシア料理ですよ?」
この中の誰もが分からないであろう物を持ち込む事が出来たと内心息巻いていたマリはエミヤの発言により調子を崩される。
「なに、少し料理には五月蝿くてね。勉強ついでに作った事があるだけだ。まあ、本場にも負けるつもりはないがね」
気分を良くしたのか誰も聞いていないにも関わらず自慢話を始めるエミヤに残りの面々がウゼェと心の中で愚痴る。しかし、ここで否定でもすれば虎の尻尾を踏むと同意義である事は確かである為誰も口には出さずエミヤのウンチクを大人しく聞いていた。
「そ、それでは次は私が紹介します。ああ、エミヤさん。もう説明は不要ですので」
エミヤによるウンチクが終わったタイミングを見計らい緋雨がそう言葉にする。
「小笠原のは寿司か。何か普通だな」
「そう言ういちごさんこそローストビーフに寿司ですよね」
「そうなんだよなぁ。まさか被るとは思わなかった。いや被ったからどうとかは無いのだけどさ」
ハッハッハと笑い合う二人に紹介し終えたエミヤとマリの二人も釣られて笑みを浮かべる。そんな彼女達に残りの天然二人組が声を上げる。
「よし、トリは私とヴリティカだね!」
「緊張してきました…!」
「このまま終われば温かな団欒で終われたのによぉぉ……」
貼り付けていた笑みから一転して項垂れるいちごとは対称的に白野はニコニコと笑顔を浮かべ、ヴリティカに至っては言葉とは裏腹にフンスと鼻息を荒げ気合いまで入れている。緊張とは一体何だったのか?
「もういいだろお前ら。出落ちなんだよ!見た瞬間から分かるんだよ!何を考えてそれを選んだ!!」
『自分の食べたい物』
「そうだったな!聞いた私が馬鹿だった!でも言わせろ!まず白野!その赤いのはなんだ!?」
荒ぶるいちごの指差す先、器にこれでもかと豆腐と赤を凝縮した物体に向けいちごは声を上げる。そんないちごに白野は疑問符を浮かべながら答える。
「麻婆豆腐だけど?」
「私の知ってる麻婆じゃねェッ!?なにその麻婆!?なんで皿全体が赤くなってんの!?香辛料多少加えた程度じゃそんな赤くはなんねーよ!!つか、そんな料理ここには無かった筈だぞッ!!」
「そりゃそうだよ。無理して作ってもらったんだから」
「作ってくれた人のことを考えろお前は!なんで丹精込めて作った料理を取られるんじゃなくて、料理かどうかも怪しい物を作らされて満面の笑みで受け取らされるんだ!!心が弱い奴だとそれだけで折れるぞ!?」
「大丈夫大丈夫。作ってくれたお礼として一口上げたから。食べた人も笑顔で昇天していったよ」
「その激物食わしたのかよ!?てか、お前今昇天
「心配には及びません。私も側で見守っていましたがタンカで運ばれただけでしたので。だから言ったでしょう白野さん、貴女の作られた聖遺物はまだ人類には早い物だと」
「そう言ってるお前も大差ないからなヴリティカぁぁ……」
「どこがです!?私のこのカリーは計算上完璧な数値を表していますよ!」
「量を考えろやテメェッ!!」
自信満々に告げるヴリティカと荒ぶるいちごの前には彼女が発作を起こす程欲していたカリーが鍋一杯に広がっていた。
場に香るカリーの芳醇な匂いに顔を顰めながらいちごは言葉を続ける。
「どこの世界にバイキングでカレーを鍋ごと持ってくるヤツがいるんだ!つか、バイキングじゃなくてもいねーよ鍋ごと持ってくるヤツ!!」
ご尤もである。
「カレーではなくカリーです!それに皆さんカリーは大好きでしょう!?皆さんで食べれるようこの量を持ってきたのです!」
ご尤もではないのである。
そもそもの話この量を一人で片そうと考えず、全員分と言う名目上で鍋ごと持ち出す事自体がおかしな事だとブリティカには気付いてほしいのだが、効果は薄めだろう。
「まあまあ二人とも落ち着きたまえ。持ってきてしまったのは仕方ないだろう。全員で協力してカリーを片付けようではない待てマスター。君の激物を私の皿に取り寄せるんじゃない。それは君が責任を持って食べなさい」
「はい、マリーも上げる」
「ゴミは一人で片付けやがれ」
「いやいや、ゴミじゃないから。神の食物だから」
「それが神の食物と言うなら人類の食生活は今よりもっと「いいから食べなさい」ムグッ!?」
周囲に毒物を撒き散らしていた白野はシビれを切らしたのかマリの口にスプーンをねじ込む。
「………(たらぁ」
激物を捩じ込まれたマリは眼を見開きうっすらと口を広げたまま固まる。スプーンを
取り出した後も開いたままの口から溢れる赤い液体がこの場に百八十度ほど似つかわしく無いほどに謎の背徳感を醸し出していた。
「ちょっとマリさん大丈夫ですか……」
「………(ピカッ!」
「眩しッ!!おい!どうなってんだ!佐月が七色に光だしたぞ!?」
「おお、ゲーミングマリーだ。写真撮ればバズるんじゃないこれ?」
「バズるバスらないの問題じゃないでしょこれ!?一刻も早く佐月さんを医務室にーーって、ヴリティカさん?なにしてるんです!?」
「神秘の追究です。おぉぉナイス腹筋」
「ヴリティカ君?君の手付きが妙にイヤらしく見えるのは私の見間違いかね?君の行っている神秘の追究が変態性の高いモノだと考えてしまうのだが?」
人体から発してはいけない光を発しながら佇むマリの周りで騒ぎ立てる31Zの面々。一名、騒ぎに乗じて私腹を肥やしているがエミヤ以外の誰もが気付かなかったのが、この後に問題を増やすのだが、この時の彼女達は誰一人として知る良しもなかった。
カフェテリア→???→自室
「ハッ!私は今まで何を!?」
「あ、起きた。おはようマリーよく眠れた?」
ビクッと身体を震わし意識が戻るマリに白野は読んでいた紙ベースの本を閉じ眼を向ける。
「よく眠れたと言いますか、岸波様に激物を捩じ込まれた後からの記憶がないのですが……」
「あっ、やっぱり?服を脱がしてる間もお風呂に入ってる時も妙に無抵抗だったからそうじゃないかと思ってたんだよね」
「ちょっと待って下さい。二、三点程聞き逃せない単語が混じっていたのですけど……いえ、大体の予想は立てれますので問題はありませんよ?女同士ですし別段変わった事はない筈……」
「マリーの身体を洗うのを率先してやってたヴリティカの秘部を触る手がヤバかったとしても?」
「その件の下手人はどこにいますか?責任は取らせませんが、死んだ方がマシだと思える拷問を受けさせます」
マリの言葉に白野のこれまで培った経験から導き出された危機管理能力が警報を鳴らす。笑っている眼と顔からは想像が出来ない程のドスの効いた声に当事者ではない白野ですら冷や汗を流す。今の彼女に嘘や冗談を言えば自分ですら拷問を受けされられると彼女は悟る。
「あちらに吊るされてるのが件の下手人でございますマリー様」
「ありがとうございます。ところでマリー様とは?」
「お気にしないで下さいませマリー総督。少し動揺をしてるだけですので」
「いや、少しってレベルではないような……まあ良いです」
普段慣れない敬語を使っている為か最早敬語かタメ語か分からない言語を使い出す白野を一瞥し、マリは天井から吊るされたロープに亀甲縛りの形でぶら下げられているヴリティカに向けて歩を進める。
「おい、そろそろ吐いたらどうだ。なんであんな事をした?」
「ですから先程から言ってるではありませんか。神秘の追究です」
「なんで佐月の恥部に手を突っ込む事が神秘の追究になるんだ?いや、言わんとしてるニュアンスは分かるけどよ、それなら自分のにディ○ドでも何なり突っ込んどけば済む話だろ?」
「ッ!!何たる怠慢!いちごさん!貴女は自分が今!何を言ったのか、その意味を分かっているのですか!?」
「分からねーよ、分かるとしても変態の考えに共感したくねーよアタシ」
そこで言葉を区切り溜め息を吐きながらいちごは隣を親指で指す。
「ほら、お前の行動のせいで純真無垢な小笠原が今尚立ち直れてねぇじゃねーか」
「嘘ですよね……あんなのをあそこに入れるのですか……いや、そんな訳ありません。あんなのを入れるのが普通なんて事ありえません……でも、佐月さん入ってたし……いやでも………」
彼女達から少し離れた場所でぶつぶつと何事かを呟く緋雨。何か衝撃的な光景でも目の当たりにしたのかその眼は光を失っておりとてもではないが正常とは程遠い状態だと言えた。
そんな状態の緋雨を横目で確認したヴリティカはいちごに微笑みを返しながら告げる。
「性の知識を手に入れる事によって人は成長するものですよ」
「テメェのこれは寧ろ成長を阻害してんだよ」
「いえ、阻害ではありません進歩です。私の中の神もそう言っています」
「お前の信仰する神がマーラ神だったとしてもお前を見たら卒倒するだろうな……」
両手を組み祈りを捧げるヴリティカに溜め息を吐くいちご。もしもの話だが、仮にここでマーラ神である愛の女神ことカーマがいたとしても出会って数時間の同性の股を犯す幼女は時速百五十キロど真ん中ストレート9連発レベルの超ド級の大罪であり、根が生真面目な性格の彼女であれば「この信徒はチェンジですッ!!」と激しく要求していたであろうことは想像に難くない。そして、そんな罪な人間どころか罪が人の形をして歩いているヴリティカに神が肩を叩く。
「そうですか、ヴリティカ様の中の神様は何とも慈悲深い方ですね。それはよかったです。ええ本当に…………ですが私が許しますかね」
神は神でも人の命を一撃で刈り取るレベルの鎌を持つ死神だが。
表情は見る者全てを安心させる地母神の如き笑みを浮かべているが、肝心の声量が完全にここに来るまでに1人2人を殺ってきた者のそれなマリがヴリティカが逃げれないように肩を掴む。
「こ、これはこれは……ナマステです、マリさん」
「はいナマステです。ところでヴリティカ様、ナマステと言っておきながら相手の顔を見ないのはどうかと思いますよ?ちゃんと向き合って話し合いましょう」
「いえ、宗教上の問題で私はナマステと返した相手の顔を見る事が出来な痛たたただだダダダッッ!?ちょっとマリさん!?肩に指が食い込んでます!?なんて握力してるのですか!?」
「分かりました。それならヴリティカ様はそのままの体勢で結構ですよ。すぐに終わりますので」
「何がです!?私の命の事を言ってませんか!?分かりました向きます!向き直ります!ですので首筋に当たる何か冷たい物を退かして下さいッ!!」
ヴリティカの発言にチャンスを上げようと考えたのかマリは首筋に当てていた苦無を懐に入れ直す。感触がなくなった為に首筋の危機が去ったのを確認したヴリティカはゆっくりとしかし覚悟を決めた顔でマリに向き直る。ちなみに苦無が少し食い込んでいたのか、首からは少量の血が薄らと滲み出ていた。
「では単刀直入に聞きますヴリティカ様。終わる事のない快楽で廃人と化すか、終わる事のない痛みが快楽へと変わり最終的に廃人と化すか、どちらがお好みですか?」
どうやら首筋の危機は去っても人権の危機は去っていなかったようだ。
「あ、あのぉ……マリさん?もう少し手心と言いますか御慈悲と言いますか……」
「はいぃ?」
「いえ、なんでもありまーーあります!あります!無理を承知で頼みます!どうか減刑の程をッ!!」
マリの威圧に思わず出した言葉を呑み込みそうになるが、人権並びに命の危機に何とか踏み留まったヴリティカは慌てふためきながら身体を上下左右に揺らしマリに訴え掛ける。
「睡姦かました癖に厚かましいヤツだなアイツ」
「面の皮が厚いってレベルじゃないよねアレ」
「(あの二人後で犯す!!)」
離れた位置にて映画感覚でやり取りを見る白野といちごに理不尽レベルの殺意を浮かべるヴリティカ。しかし、罪状1を抱えているにも関わらず追加で罪状のおかわりを要求する彼女に後でなぞ存在する訳もなく………
「あらぁヴリティカ様。私とのお話中に他所事を気にするなんて……殺意を通り越して死体が見えるレベルですよ」
「あ、アハハハ……ま、マリさん。ナイスジョーク」
最早彼女の中では自分が刑期を終え火葬直前の状態にまで追いやられているらしい。とヴリティカは冷や汗を垂らしながら察した。
「今戻ったぞ……む?佐月君は目を覚ましたのか」
「あっ、アーチャーお帰り。どうだった男4人の大浴場?」
「どうもこうもあるか。時間は決められているし、数人では広すぎる浴場だ。悲しい気分になったぞ」
「あらら、それはご愁傷様。次入る時は一緒に入る?手塚司令官さんに許可貰ってこようか?」
「君は私を社会的に殺したいのか?純粋過ぎる意志は時に明確な悪意よりもタチが悪いぞ……」
白野の発言に風呂でとれた筈の疲れが戻ってきたかのような重さを感じるエミヤ。そんな彼女達に一つの弾丸が床を滑り割り込んだ。
「エミヤさんとテルマエですか、成る程。それでいつ行きますか?私も同行しましょう」
「ヴリテ院……!」
「いや、ヴリテ院ではないだろう。と言うよりもヴリティカ君、君は先程まで縛られていなかったかね?」
「
海を泳ぐ魚のように寝転んだまま身体をクネクネと動かす
「………まさか、あの体勢から抜ける関節全てを抜いて脱出するなんて………しかもその原動力がエロスなんて……」
「おい、キャンサーよりまずはアイツを仕留めた方が良いんじゃないか?主にアタシらの貞操の為に」
自身の拷問技術に多少自信があったのか露骨に落ち込むマリの隣で懐に仕舞い込んでいた拳銃を抜くかどうかを本気で考えているいちごの姿がそこにはあった。
「……そんな意見が来ているが、マスター。部隊長として何か罰則でもしておいた方が良いのではないか」
「えー……大丈夫だよねヴリテ院ううん、ヴリちゃん。まだ三分の一キアラぐらいだもんね」
「その謎の単位は分かりかねますが、ご安心下さい。此度のマリさんに対する行いのお陰で大真面目に自らの命の危機に直面致しましたので今後このような事を起こす頻度と許されざる行いは減る筈ですので」
「そこは嘘でもしないと言えば良いものを……」
そこで区切りエミヤはマリへと向き直り言葉を続ける。
「……誠に遺憾だが……佐月君、無理を承知で頼むがヴリティカ君への殺意を収めてくれないだろうか。仮にもこれから寝食を共にする仲間だ。部隊内の不和は出来る限り無くしておきたい」
「………言わんとしてる事は理解出来ますが」
「ヴリティカ君に対する命令権を与えたとしても納得はいかないだろう事は分かっている。だが頼む。この通りだ」
そこで言葉を切りエミヤはマリに対し頭を下げる。今後の円滑化の為に頭を下げる彼の姿にマリは今後と己の貞操を天秤に掛ける。そんな彼女の目線の先にいる件の下手人はいちごと白野の手により頭が埋まるのではないかと思える程の力で地面と熱いキスをかましていた。
無限とも思える数十秒間、彼らの姿に諦めがついたのか「はぁ」と短く溜め息を吐き出しマリは口を開く。
「分かりました。此度の件は気絶していたとは言え、その状態からの反撃の術を見出せていなかった私にも非があります。衛宮様の案+私が提示する条件を飲むのなら水に流しましょう」
「………ふぅ、助かるよ佐月君。君の懐の大きさにこれ以上ない感謝を送りたい」
「いえ、それでは皆さんこちらの紙にサインと拇印を」
「あっ?サイン?拇印?」
エミヤ、白野、いちごの手に何事かが書かれた書類を手渡しながらマリは犬神家の体勢となっているヴリティカの手を器用に動かしながら言葉を続ける。
「はい、今後士郎さん、白野っち、いちごさん、ヴリティカさん、緋雨さんは我が佐月商店の従業員件セラフ部隊員として働いて頂きますのでそれに付随する書類ですよ」
「な、な、なんじゃそりゃぁぁァッ!?なんでアタシ達も巻き込まれてんだ!?悪いのはソイツ一人だろうがッ!!」
「?部隊の責任はチーム全体の責任ですよいちごさん」
「そうだけどそうじゃねぇッ!!つかお前なにちゃっかり小笠原の手を動かしてんだ!帰ってこい小笠原!おい!お前らも何か言ってやれ!このままだとこの件で一番無関係な奴が訳も分からないまま強制労働させられるぞ!」
「ふむ、店員か。昔のバイトを思い出すな」
「言峰さん見たいな峰さんみたいな感じだよね。結構楽しみかも」
「なんでお前らはそんな楽しみにしてんだよ!アタシか!?アタシの反応がおかしいのか!?」
「安心して下さいいちごさん。ちゃんと給料は出ますし、完全週休3日制ですので」
「そこらの企業より好条件だなオイ!そこらの企業が軒並み消えてなかったらの話だけどなッ!!」
周りの好感触な反応に着いて行けないいちごは紙を手に空を仰ぐ。「(まともなのは私だけか……ッ!)」と考えている事だろうが、全くもってその通りです。
「まあ、強制労働云々は嘘ですけどね。皆さんにしていただきたいのは不定期の手助けです。今でも社員としては50を超える規模ではありますが、それでも人手が足りないのは事実ですのでこうして書類を作成しておかないと後々面倒ですので」
白野達から書類を回収しながらそう喋るマリにいちごは顔を正面へと向き直す。
「んだよ、てっきりアタシは馬車馬の如く働かされんのかとーー」
「確かにヴリティカさんに対してはご一考しましたけど、流石にセラフ部隊とバイトの二重苦は彼女では耐えられるモノではないと判断しましたので」
「アンタの懐のデカさに感謝するよほんと」
5人全員から回収した紙を整えるマリの横でいちごは溜め息を吐きながらエミヤの方を向く。そこには何かを感じとったのか頭を植えられ周りの状況が確認出来ないにも関わらず小刻みに震えるヴリティカとそれを傍目で見守るエミヤと白野の姿があった。
「佐月君の言葉で身の危険を感じたのか?」
「いや、頭まで埋まってるこの状態ならそれは無い筈なんだけど……ヴリちゃんだと何か出来ても不思議じゃないよね」
「いや、不思議に思えよ……」
とはいちごも言ってみたものの、先ほどまでのヴリティカの行動を鑑みるに犬神家ファイナルバージョン的な現在の姿勢でも聞こえていた可能性はなくは無いと思えた。
そんな不思議なやり取りを終え、31Zの面々はそれぞれ休息に着くのであった。
今話解説
白河ゆいな=ヘリポートで別れた後、次に茅森達に会った時にどんな顔をして良いのか小1時間悩んだらしい。結論はまだ出ない
茅森ルカ=生存!!
朝倉可憐=ギリギリだった
今回でプロローグは終了となります。次回からは第一章へと突入しますので次回も見ていただけると助かります。
では今回はこれで、出来ればご感想、お気に入り登録の程お願いします。創作の励みになりますので!